26話:お世話になりました!
遅れました
森を一心不乱に逃げ回っていたら帰り道がわからなくなってしまったので、ジェネヴラさんに連れられて森を進んでいく。
「ジェネヴラさんって…綺麗な毛をしてますね」
獣状態で先を歩くジェネヴラさんをよく観察すると、明るい銀色の毛が太陽に反射してキラキラしている。あれ絶対モフモフしてるわ。
《中々見る目があるな。祠に来たりと、お前は他の人間より優れている》
『おっ、俺を誉めてくれてる。いやぁ~誉められたり讃えられると、なろう系になれた気分だよ』
いや、俺はなろう系の主人公だけどね?しかも王道も王道のチート無双系。俺つえー
《もうすぐだ。足の方は平気か?まだ歩けるか?》
「全然平気、です…!俺は(体は)若いです……からね…!」
時折チラッとこちらを見て、俺の具合を確認するジェネヴラさん。なんだかんだ言っても面倒見がいい。こういう人は皆に頼りにされるタイプだね。
《と言う割にはフラフラだぞ?情けない。………お前を待ってやる程、我は暇じゃない》
『あっ…置いてかれるやつ…』
こんな森に?中途半端すぎんよ~…せめて祠まで…
《だから…その…なんだ……我の背に乗れ》
「…いいんですか?なんかこういうのって…ねぇ?」
こういうのって…特別な資格って言うかなんと言うか…。俺みたいな凡才な──んんっ!間違えた!ま、まぁ?俺は天下のなろう系(以下略)
《いいから早く乗れ!我の気が変わらんうちにな!》
「は、はいッ!」
急かされながらジェネヴラさんの背中に股がる。やはりジェネヴラさんの毛はモッフモフ。野生って言い方は良くないかもだけど、自然に生きてる奴がこの毛並みは反則だよ。…少し動物特有の匂いがするが…まぁ実家で犬飼ってたから大して気にはならない。
《落ちぬよう、しかっり掴まっていろ。危ないからな》
「わかりました。──しっかり掴まりました」
どこに掴まればいいかわからない…。なので毛を──ではなく、太股でがっしり挟む。
俺が掴まった事を確認すると、ジェネヴラさんは走り出す。
「うぶぶぶッ!!」
『早い、早すぎる!風圧がヤベェ!』
めっちゃくちゃ早いジェネヴラさん。周りを見る程余裕は無いが、多分新幹線に乗ってる時に見れる窓の景色に近いと思う。
《もうすぐ着くぞ》
「は“い“ぃ“ぃ“ぃ“ぃ“ぃ“ぃ“」
俺は必死になって返事をする。
俺はいつ振り落とさせるかの恐怖に耐えながら、ジェネヴラさんの背中にしがみついた。
───────────
超特急で進むこと10分?20分?体感的には何時間にも感じた。あのね…すっごく怖かった。いやマジな話でね?フルスピードのF-1カーにしがみついてる気分だったんだよ。
………いやF-1カーにしがみついたこと無いけども
《着いたぞ。……どうした?》
「いえ…その、、ウッ…!……何でも……」
超スピードで進んだせいか、俺は激しく酔った。とんでもねぇ吐き気が俺を襲う。
《おい…大丈夫か…?》
「ウッス……すいません」
獣人化したジェネヴラさんに背中を擦られる。ホント…何から何まで申し訳ない限りだ。
擦られてしばらくし後。
「もう平気です。ホントすいませんでした」
《いやなに、気にするな。我も飛ばしすぎたな、すまない》
助けてもらい、村の近くまで送ってもらい、背中を擦ってもらって、更に謝罪。
忍びない限りだ…
「いやホントありがとうございました。ご恩は忘れません。必ずまたお礼に来ますね」
ジェネヴラさんへ深々と頭を下げ、感謝の言葉を述べた。ジェネヴラに手を振られ、俺は村へと向かった。
途中後ろを振り返ると、既にジェネヴラさんはいなかった。
「やっぱ速いな……ありがとうございました」
いなくなった後、再度俺はジェネヴラさんがいた所へ頭を下げる。
「うし、行こっ」
村付近まで送っていただいたので、そこからは徒歩。既に村は見えているので、迷うことはない。
村へ到着し、入り口を何食わぬ顔で通過。特に止められるとかも無く、普通にフリューゲル家へ向かう。
「ただいま戻りましたー…」
「あっお帰りなさい、アキラくん」
洗濯かごを持ったミオさんとばったり玄関で鉢合わせた。反応を見る限り、帰ってきたのは遅くないようだ。…当然か、あのスピードだもんな…
その後自室へと戻り、ショルダーバッグを下ろす。ベッドに倒れ、天井の模様を見る。
「今回は成果があったなー…」
実はダメ元だった水鞠の白虎こと、ジェネヴラさんに会えた。しかも精霊剣・アルクトゥルズも発見。抜けなかったけど。
「さて!休憩おしまいっと」
ベッドから起き上がり、残っていた仕事と言う名のお手伝いを開始する。
「洗濯物の後にお昼かな?なら手伝いに行こっと」
そうと決まれば早速庭へと向かう。
そうすればミオさんは洗濯物の時間があいて、お昼ご飯の準備に入れる。洗濯を干す時間が開けばミオさんの自由時間が増える。俺も居候の罪悪感を感じずにすむ。もっとも、罪悪感とか関係なくお手伝いはするけどね。
庭へと回ると、ミオさんが井戸から水を汲んでいた。ああいう力仕事は俺がやらなきゃな。
「ミオさん、洗濯物は俺がやりますよ!」
「あらアキラくん。フフッ、ありがとう。じゃ任せちゃおうかな」
洗濯物なら干すのも畳むのも、独り暮らしの時にやったから出来る。ただ洗うのは初めてだ。まぁ何でも体験だよな。
「任せてください!でも…料理は無理なので、お願いします…」
そう俺が言うと、ミオさんは少し笑いながら任せてと言って、家へと入っていった。
「おっしゃ!仕事の時間じゃ!」
井戸から水を汲み上げ、それを桶に入れていく。そしてさっきミオさんから渡された魔石を水の入った桶へ入れる。すると、モコモコと泡立っていく。魔石って不思議だな。
「洗浄魔法とかが付与されてんのか?どんな効果の魔法?」
そんな事を呟きながら、俺は洗濯板でゴシゴシと服を洗っていく。それを終えたら物干し竿に服を通して掛ける。
それを何度か繰り返す。
「ふぅ~…終わったー」
30分程で洗濯干しを終わり、腰を伸ばす。かごを持って家へと入ると、まだ料理は完成していない。
『魔法の練習しようかな』
かごを置いて俺は再度外へと出る。木の影に入りながら、魔法を使う。
「[火花]」
パチパチと弾ける火。それを集中して弾けぬように意識する。すると火花はライターのような火へと変化する。
「ここから…飛ばす、ように…!」
上へと上がる火を丸めるように意識する。少しずつではあるものの、火の形はゆっくりと変わっていく。
「ここまでに1分くらいか…」
球体になった火を飛ばしたい。この為にはどうするか…
「魔法書は当てにならないしなぁ…」
自力で到達するしかない。
それは兎も角、意識を集中する。そうしなければ火が消えてしまう。感覚的にそう感じる。
ライター状態だと消えないが、球体すると消えてしまう。いまいち理解が出来ないが、魔法だからで解決する。こんなん考えててもわかるわけねぇしな。
「はぁ…はぁ……くそッ…!限、界…!」
やがて火の維持の限界を迎え、火の玉は消えてしまった。
「はぁ……やっぱ才能無いのかな…」
せめて魔法の才能くらいあったら、何とか異世界を生き抜きつつ、主人公のような冒険が出来たのだが…やはり現実は上手くいかない。
「……いや、ぜってー諦めねぇぞ。絶対魔法を使いこなせるようになってみせる。いやなる!」
そう自分に言い聞かせ、再度魔法の練習を続けた。その後、ミオさんに呼ばれるまでずっと魔法の練習を続けた。
─────────
今日も美味しいご飯をお腹に収め、いつもの魔法書がある部屋で、最後に頭へ詰め込めるだけ詰め込む。
『今日でこの家ともさよならか…ホント楽しかったな』
多分この期間はチュートリアル。
まぁチュートリアルにしては短すぎる期間だ。1週間って……普通1ヶ月とか1年とかじゃねぇの?
そんな事を考えながら、この世界の事や、魔物。それから様々な伝説や事件とかを頭に入れる。後々絶対俺に関わってくる筈だ。絶対。
「アキラおじさん?なにやってるの?」
「ん?ああーまぁ…最後の追い込みをしてるんだよ」
「…?追い込み?」
首を傾けて頭上に?を出すリオ君。まぁ何の追い込みだって話だよな。
「あははっ、まぁ気にしないで」
雑に頭を撫でて誤魔化す。1から説明したら、俺のなろう説明が止まらない。
何だなろう説明って。
「うーむ…どうすれば特殊な主人公になれるのか…」
シロクマ、悪役令嬢、女力士、幼女、プロレスラーに、暗殺者、劣等生、プログラマー、洋食屋、居酒屋、暴虐魔王、スマホ…それからクロちゃん。
特殊な設定の物はまだまだ山のようにある異世界小説、漫画。もはや俺の入る隙が無いくらいになろう、いや、転生、転移業界は荒れている。もうやりたい放題だ。
「やべぇ…個性が無い…」
固有の能力も無い。これは異世界じゃ結構致命的だ。俺にあるのは極真空手に剣道。うーむ…せめて誰にも負けないくらい強ければまた話しは変わるんだが…
「…………はぁ」
この考えを1度やめ、俺はこれからのロードマップ的なのを作る。
この村から早朝出発。今更だが、この村の名前はショウタロウ。最近知ったのだが、恐らくこれは人の名前。この村のエルフを救った英雄から取られた名前らしい。どう考えても日本人だ。
↓
ポルトと言う町で竜車に乗り、リコティ王国へ向かう。歩いて6日。竜車だとどれくらいだろうか…多分竜車の中で雑魚寝するかもしれないな。
↓
リコティ王国に到着したら…どうするか。
ギルドとかはあるのだろうか。てかそれが無いと俺は生きていけない。…いや生きてはいけるけど、そうじゃなくてさ?
↓
そこから俺の覇道が!…って言いたいのだが……まぁ行き当たりばったりになりそうだ。何があるかわからないけど、頑張ってイベント起こす。もう頑張るしかない。
「………ちょっと…なんだろ……思ってたのと違うな。ま、まぁ!何とかなる!うん」
自分にそう言い聞かせた後、俺は必要になりそうな知識をつけたり、筋トレをして時間を使った。
──────────
その後の夜。台所からミオさんの呼ばれる声が聞こえ、ルカ君リオ君と一緒に向かった。
「これは…!」
並べられた料理を見て俺は驚く。1週間ここで居候したが、1番豪華だ。
「フフッ、今日でアキラ君とはお別れだからね。張り切っちゃった!」
どうやら俺の為に作ってくれたらしい。なんだか寂しくなってくるな。
「さぁ、暖かいうちに食べよう、アキラ君」
ルオンさんに言われ、俺は席につく。座るように言われた場所は上座。なんか緊張するな。
「いただきます!───うっま!!」
手を合わせ、料理を口に運ぶ。チキンが熱々でとても美味しい。他にも美味しいそうな物ばかりで迷ってしまう。
「そんなに喜んで貰えるなんて嬉しいわ」
「いやホントに旨くて───って…どうした?ルカ君リオ君」
美味しい料理を前に、結構はっちゃけていると、視界に元気の無いルカ君とリオ君が目に入った。
「いえ…ただ今日がアキラおじさんと食べるご飯がこれで最後だと思うとその…寂しくて…」
「アキラおじさん…ホントに行っちゃうの…?」
「ルカ君…リオ君…」
しょんぼりとしたルカ君と、少し涙目になっているリオ君。
そんな表情されると俺も涙が出てきてしまう…
「ごめんな…どうしても世界を見て回りたいんだ…」
「ほら、アキラ君を困らせるんじゃない」
「そうよ…?折角のアキラ君の門出なの。背中を押してあげましょ?ねっ?」
「はい母さん…」
「うん…」
むぅ…暗い空気になってしまったな。
何か、何か言わなくては、、
「…あっ!でもでも、世界を見てきたら必ず2人に会いに行くよ!お土産たっっっくさん持ってね!」
「ホント…?」
「んっ!約束するよ。…あっそうだっ!」
そう言って俺は2人に小指を出す。俗に言う指切りげんまん。2人は困惑顔をするので、俺は2人の手を取って指を結ぶ。
「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます!指切った!」
「これは…?」
「…?」
「俺の住んでた国にある大事な時にやる約束事!こうすると約束した事を絶対守れるんだ」
「約束…!うんっ!約束!」
「俺達ずっと待ってます!約束ですから!」
なんとか2人に笑顔が戻った。よかったよかった。
「懐かしいのぉ~指切りか」
「っ!!?」
スゥーリさんが突如として出現。指切りをしている俺達を隣で眺めていた。
「ワシが子供の頃にしてもらったのぉ」
「へぇーおじいちゃんもやったことあるんだ」
「遠い昔だかのぉ」
髭を撫でながら、懐かしむように目を閉じるスゥーリさん。昔って…何年、いや何百年前の話だ?
「そうそうアキラ君、君に渡したい物があるんじゃった。ほれ」
そう言ってスゥーリさんは腰巾着から何やら取り出し、それを俺に手渡す。
「これは…石?いや宝石…ですか?」
ビー玉サイズの綺麗な石。透明な宝石の中心が水色に輝く綺麗な宝石だ。しかし何故?
「餞別の代わりのような物じゃ。その石がアキラ君、君を護ってくれる。良ければ大切にしてやってほしいのぉ」
ホッホッホッと笑いながらそう言うスゥーリさん。この宝石はパワーストーンなのかな?大事にしよっと。
「さぁ!食事を続けましょ!」
ミオさんの言葉で、再開する食事。今回はスゥーリさんもいてくれる。フリューゲル家総出のお祝いだ。
俺は皆の笑顔を見ながら、美味しい料理を腹一杯ご馳走になった。
──────────
翌日の早朝。
俺はいつも通りの時間に起床し、手早く支度を済ませる。
「アキラおじさん…」
「あれ、もう起きてたの?」
部屋から出ると、扉の前にはルカ君とリオ君が立っていた。2人とも少し寂しそうな表情をしている。見送りの為に起きてくれていたようだ。
「そう悲しい顔すんなって!な?また絶対会えるから」
「ん…」
泣き出しそうな2人の背中を優しく擦っていると、リビングからルオンさんがやって来た。
「門まで見送らせて貰うよ。さっ、ルカもリオも行くだろう?用意して」
ルオンさんがそう言うと、2人はコクりと頷いて自室へと小走りに向かった。
「大丈夫。アキラ君が気にする事は無いよ。フリューゲルの男は強いからな。ハッハッハッ」
俺の肩に手を乗せてそう言うルオンさん。
そのままリビングに向かい、ルオンさんとミオさんと少し話していると、ルカ君リオ君の着替えが終わったので、早速門まで向かう。
天気は晴れ。今日は良いことがありそうな1日。俺にとって大事に日になる。
ルカ君とリオ君の手を繋ぎならがら門まで向かうと、今日は門番がフールさんのようで、こちらに気付くと手を軽く振ってくれた。
「今日までありがとうございました!こんな身元もわからない奴を家に迎えてくれて本当に嬉しかった…このご恩は一生忘れません!!本当にありがとうございました!」
「元気でなっ!アキラ君!」
「怪我するような事、しちゃダメよ?」
「また…グスッ…会える日、楽しみにじでまず…!」
「バイバイ…アキラおじさん…」
泣き出した2人を優しく抱きしめ、俺も涙が出てきてしまう。どれ程泣きながら抱きしめあっただろうか、お互い落ち着いてきたので、名残惜しいが離れ、涙を拭う。
「では……行ってきます!!」
俺はそう言い、フリューゲル家の皆に手を振って村を出た。村の少し奥でスゥーリさんもこちらを見ていたので、そちらにも手を振った。
「ははっ……やべぇ、また泣きそう…」
目に溜まってきた涙を拭い、俺はミオさんからいただいたショルダーバッグから地図を取り出す。
「この森を抜けたら野原に出るのか。取り敢えずはこの道なりに進めばいいって感じかな」
舗装されてはいない、人が歩いて草が生えなくなった道を進みながら呟く。
「ここから始まる俺の異世界ライフ…!歴史的瞬間だな。───おっ!あれってもしかして酸っぱいリンゴじゃね?懐かしく感じるなぁ」
視界に入ったのは異世界初の飯、酸っぱいリンゴ。懐かしく感じ、久々に食べようかなと低い位置にあるリンゴを取ろうとした時。
「………あー…これ、君の…だった?…謝るからさ…その…ね?」
手を伸ばした先にいたのは、人間の太ももより太い体をもつ灰色の蛇さん。
彼はこちらをじっとガン見。さんざんこういう意志疎通が出来ない奴と対峙したからわかる。
あれ…獲物を見る目だ…
「あははは……」
俺が一歩下がった瞬間、俺がいた場所にビシャッと液体が飛ばされる。なにやらジューっと溶けているような音が…
「んじゃまぁ…───去らば!!!」
俺が見事なダッシュを決めた瞬間、後ろからぼとりと何かが落ちる音が聞こえてくる。
「………うはっ」
チラッと振り返れば案の定、ドデカイい蛇が俺を追い掛けてくる。長さは…多分一般乗用車並みに長い。
「うわぁぁぁぁああ!!やっぱこんなのばっかりじゃねぇかぁぁぁぁぁああ!!!!」
大絶叫しながら、俺は道を走る。蛇さんと仲良く。
こうして俺の異世界生活は正式に幕を開けた。実に俺らしいスタートで、不安要素だらけの異世界生活が。
次からようやく二章です。ダラダラと長くてすいません。
因みに渡された石のイメージは、ロイヤルブルームーンストーンです。




