267話:狩猟の悪魔バルバトス
最近投稿が遅れ気味なのが悔しい。
「………」
広大な原生林に降り注ぐ雨。地面はぬかるみ、動きが制限される。そして雨音で敵の居場所もろくに分からない。
「─────ッ…!」
集中力を高め、バルバトスから発せられる気配と殺意を感知する為、静かにその場に佇む。
ワンテンポ遅れるものの、矢が放たれた場所に向かって素早くレールガンを撃ち抜く。
『ダメだ……当たった気配が無い…!』
完全に気配がこの原生林に溶け込んでいる。俺の体に矢が突き刺さってから1秒も経たずに発砲しているのに当たらない。何故だ?これも何かのスキルによるものなのか?
『姿が捉えられず、遠距離からの狙撃……まるで【このすば】のカズマを相手にしてる気分だ』
──変な事言ってないで何か対処しないの?このままじゃ一方的に撃ち抜かれて死んじゃうぞっ?あーでも急所は外してるんだ、スゴいね。ぼくには何がどっから来てるかちっともワカラナイよ
『俺だって分からねぇよ。僅かな気配だけで判断してんだ。それでも察知しきれない……ベリト、何かバルバトスの弱点は無いか?』
──…!…あっはは、なになに?ぼくの事、頼ってくれるの?いや~まぁぼくって頭いいからねぇー!知っているともさっ!
子供のように嬉しそうな声で弾ませるベリト。彼はそのまま笑っていると、『いいかいっ?』と区切った後にバルバトスの攻撃方法を教えてくれた。
『───成る程、賭けになりそうだが…うん、面白いじゃないか』
──あっはは!アイボウ君ならそう言うってゼッタイ思ってたよっ!ぼくに楽しいショーを見せてよねっ!
───────────────
『何故あの人間は動かない?諦めた……いや、私の攻撃は全て受けて尚反撃の体制に入ろうとしている。魔力を溜めているのか?だがあの人間からは魔力を感じない…不気味な奴だ』
だが面白い。
まさか私の放った矢の場所を特定しようとしているのか?強力な魔法を放とうとしている訳でもない。ならあの人間は私の行動パターンを知ろうとしているのか。
『しかしそれは無駄な事………私の場所は分かるまい…!』
3本の矢を弓に当て、それは放つと3本の矢はそれぞれ別々の方向に進む。だがそれは確実にアキラの元へと向かっていく。
[変則射撃]があるバルバトスを相手に、視界が悪く、隠れる場所の多いこの原生林ではアキラはあまりに不利だった。
「さぁ…この逆境で君はどう動く?」
背中に矢が突き刺さろうと、動く事が無いアキラに向けて小さくそう笑いながら呟いたバルバトス。
だが彼がそう呟いた瞬間に風が変わるのを感じ取ったバルバトスは不思議と身構えた。
「なんだ…?此方が優勢だと言うのにこの胸騒ぎはなんなんだ…?─────ッ!!」
嫌な予感がバルバトスを煽る。虫の知らせだとでも言うのだろうか。
そう思わせる時間も与えずに突如アキラが起こした行動。それは自らの足元に向けての発砲だった。
「自爆…!?いや違う、これは土を利用した煙幕か…!!フッ、フフフッ…!面白い事をする人間だ!」
あの威力を出せる程の銃を自らの足元に撃つなんて馬鹿げている。足が吹き飛んでもおかしくないと言うのに…本当に面白い事をする人間だ。
「土煙に紛れて森に逃げ込んだか、その場に残り、私の行動を見ているのか…どちらにしても無駄な事」
バルバトスの手から造り出された赤く光る1本の矢。それを弓に当て、弦をゆっくりと引いていく。
「私の矢からは逃れられない。───[一撃必射]」
バルバトスの固有スキル[一撃必射]
それは射手が完全集中時にしか発動できないスキルだが、その分威力は絶大。1度視認した事あるモノ目掛けて進み続けるその矢は、対象者の命を奪うまで追跡する。まさに“死の矢“
放たれた赤い矢は、立ち込める砂煙に向けて一直線に進んでいく。その速度は先程まで放っていた矢の速度とは比にもならない。
完全に仕留めた。そう判断したバルバトスだったが、突如砂煙から飛び出した人物によって驚愕する。
「ッ!!自ら矢に当たりに行くと言うのかっ!?」
高速で迫る赤い矢に向かって走るアキラ。まさしく自殺行為に等しいその行為は、バルバトスの動きを数秒停止させるには十分な時間だった。
「見つけたぞ!バルバトスッ!!」
激しい爆発音と共に急接近するアキラ。両手に持つレールガンを同時に発砲する事で、その威力の推進力で急加速。
「ウッ────!!フフッ、やりますね」
「弓使い相手に近接なら負けねぇぞ。そもそも負けるつもりなんか端から無いがな」
レールガンによる推進力によって加速したアキラは、そのままバルバトスを蹴り飛ばす。
「随分と身を削る決断をしたようだが…まだ戦えると言うのかい?」
「へっ…!なんて事ねえよ」
クツクツと喉を鳴らして笑うバルバトスの言う通り、アキラの足からは血が激しく流れている。先程の土煙を出す際による傷だ。
「そうかい…なんて事無い、か。───フフッ、だが詰めが甘いな」
「何?─────ッ!!?」
バルバトスの笑みに不信感を抱いた瞬間、背後から迫る“死“に気が付いたアキラは左へと飛ぶ。だがその速すぎる赤い矢を回避するには遅かった。
「なんだよこの赤い矢は…!これがベリトの言ってた[一撃必射]なのかっ!?」
『ベリト?ほう…成る程、私の[一撃必射]は発同時に隙が出来る。その隙を突けとベリトが入れ知恵したのか。悪魔を宿す人間、ねえ…フフッ』
周りに生える大木を上手く利用し、回避を続けるアキラだが、何度避けても追跡し続ける赤い矢はアキラの体力共に傷を増やしていく。
「近接なら負けるつもりが無い?舐めてもらっては困る。私は近接だろうと負けはしない」
手から生成した5本の矢を弓に重ね、木々を飛び交い回避を続けるアキラに向けるバルバトス。
「中々面白い作戦だった。だが…────これで終わりだ」
「終わらねぇよッ!!───頼むぞッ!ベリト!!」
「何ッ!?」
空中で舞うアキラは回避が不可能。そう判断しての5連続の追撃だった。
だが不敵に笑うと同時に叫んだアキラ。その瞬間アキラの四肢を縛る白い糸。
「ッ!!ぐあああああッ!!!!やりすぎやりすぎ!!」
5本の矢と必中の赤い矢。それを人間の体では曲がらない方向に関節曲げる事で無理矢理回避したアキラは、その激痛に体と共に悲鳴を上げる。
「あの糸は…!ベリトの[人操糸]ッ!?まさか自分自身に使うとは…!」
苦痛に表情を歪めながらも関節を無理矢理元に戻していくアキラ。飛び交う矢をまるで見えているかのように回避し続けるアキラは、そのままバルバトスへと近付いていく。
「俺の秘策、って程カッコいいもんじゃねぇけどよ…今の俺なら体が限界だろうと無理矢理動かしてくれる…俺の中にいるベリトがな」
「クククッ、なんて馬鹿な事を。それでは死ぬまで動くという事か。実に馬鹿げている…!」
「だな。だけど弱い俺にはこれしかもう手がない。そしてお前にトドメを刺す方法も無い。───だからお前の矢で倒す!」
「何ッ──────グフッ…!」
四肢に付いている白い糸によって空中に引っ張られたアキラは、そのまま空中で一回転する。その際にアキラの背中に迫っていた赤い矢がアキラの下を通過し、バルバトスの胸へと突き刺さる。
「なる…ほどな……これは流石に…予想外…だ……」
「こんな形でお前に勝つのは不本意だし、俺の言葉に答えてくれたバルバトス、お前にも悪いと思っている。だけど俺は弱いから…こんな方法でしかお前に勝てない」
「クククッ…!どんな方法でも……お前の勝ちだ、人間…………名はなんと言う」
「アキラ。天道明星だ」
「そうか…いい名だ。実に楽しい死合だった…私をここまで楽しませ、驚かせた人間はいなかった……少し此方に来い、テンドウアキラ…」
言われるがままに近付いたアキラは、倒れるバルバトスの横で膝をつく。
するとバルバトスはアキラの手を震えながら掴む。
「ベリトを宿しているんだろ…?クククッ…本当に面白い人間だ……ふむ、やはりお前は少々特殊な人間なのだな、ますます面白い…!」
口から血を流しながらもクツクツと笑うバルバトス。
「私を受け入れろ、テンドウアキラ…!願え、私の事を…!」
「っ…!───俺の元に来い、バルバトス!!」
「クククッ!フハハハハハッ!!」
アキラがバルバトスの名を叫ぶと、バルバトスは高々に笑い声を上げながらその体を光の粒子へと変えていく。その光の粒子はそのままアキラの体内へと入っていく。
──あっははは!!あ~楽しかったぁ~♪ねぇ?アイボウ君っ?
「…そうだな」
ベリトの言葉にアキラは渋い顔で頷くと、立ち上がって国に向かって歩き出す。
雨に打たれ、全身ビショビショのアキラは髪から水を滴らせながらゆっくりとした足取りで歩く。その表情は髪に隠れて見える事が無い。
「もっと強く……っ…」
同じ事の繰り返し、それはまあ“なろう系“全体のあるあるって事でどうか!




