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264話:懇願

はい、よーいスタート

「あら、その剣へと伸ばした手でどうするつもりかしら?まさかここで戦うつもりではありませんよね?」


圧倒的な威圧感。まさに女王の肩書きに相応しきオーラを放つシャルゼさん。その恐ろしく鋭く冷たい視線を前に、俺はいつでも抜剣できるように柄へと手を掛ける。


──どーするの?アイボウ君じゃ到底届く相手じゃないよー?ぼく的にはすっごい不本意なんだけどさ、ここは逃げる事をオススメするよ?


『そんなの分かってるよ…っ…!少し黙ってろ…!』


どうする?考えろ、俺。ベリトの言う通り、俺じゃあ敵う相手じゃないのは明らかだ。俺がこの剣を抜いた瞬間、命があるとは到底思えない。

そして残念な事に、シャルゼさんの言う通り俺は不本意ながら現状も“悪魔宿し“となっている。このシルフィールで暴れ回った事もまた事実……身の潔白は極めて困難だ。


『いやバカか俺は…!身の潔白?印象を良くする?本当にバカだ俺はっ…!』


今までに行ってきた事は自分で選んできた道だ。悪い事をしたのなら、当然その報いは必ず自分へと返ってくる。

何より、今俺がすべき事は己の保身じゃないだろうが…!



「…!それはどういう意味ですか?“悪魔宿し“さん」


「俺がこの国で暴れ回った事も、悪魔を宿している事も事実です!!貴女が望むのなら、俺はどんな償いもします…!ですがお願いがあります…っ!」


俺は剣を手の届かない場所へと投げ飛ばし、そしてそのまま床へと額を付けて土下座をした。惨めで無様。だが実に俺らしい。


「お願い…?貴方は自身の立場を分かっているのですか?」


「勝手なのは分かっていますっ…!ですがどうか…!どうか1つだけ俺の願いを聞き入れてください…っ。その願いが叶った後は、いかなる罰も受け入れます…!ですからどうか…!お願いします……っ」


俺は1度頭を上げ、冷たい視線のまま俺を見つめるシャルゼさんの瞳を真っ直ぐと見ながらそう叫ぶ。段々と掠れていく声と共に、額が割れる勢いで再度頭を下げてシャルゼさんの言葉を待つ。

シャルゼの放つオーラが部屋を段々と凍結していき、それは床にまで侵食が進んでいた。床に面している皮膚から痛みを感じるのも無視して、俺はそのまま土下座を続ける。


「……叶えるかどうかはまだ断言出来ません。ですがその願いを聞く事だけなら可能です。して、その願いはなんですか?」


「っ…!俺の願いはただ1つ、“精霊族(エレメント)の秘薬“を頂きたい…!」


「何故?確かに“精霊族の秘薬“は市場に出回らない貴重品。売ればかなりの金額に変わるのは確かです。ですかそれならお金が欲しいと願えばいい……いったい何故?」


「ローザがっ…!仲間が毒の邪剣・紫毒蛾(しどくが)によって体を蝕まれてるんです…。俺は無力だから…彼女の傷を治してあげられない…。でも精霊国シルフィールにある秘薬があれば治るかもしれないって…!そう思って俺は……」


少しずつ小さくなっていく俺の声。それと同時に部屋に充満していた冷気と威圧感が無くなるのを感じた。不思議に思いつつも俺はゆっくりと顔を上げると、シャルゼさんは少し驚いたような表情をしながら小さく笑う。


「仲間とはいえ他人の為に自らを差し出すのですか?処刑される可能性だって考えていないはずもないでしょうに……ふふっ成る程、ミルが惹かれるのもなんとなく分かりますね」


「どうかお願いしますっ…」


「…貴方の願いと覚悟、それはよく分かりました。ですが貴方の身1つでは“精霊族の秘薬“は差し上げられない」


「そんなっ……」


俺の犯した罪は償って当然の事……そもそも自首するから願いを1つ叶えろと言っている方がおかしな話だったんだ。

だが俺を拾ってくれた恩人であるローザを蝕む毒を諦める事は出来ない。何としてでも“精霊族の秘薬“は貰わなければならない。例えそれがどんなに惨めで無様でカッコ悪くたっていい、彼女が助かるのなら、、


「そんな泣きそうな顔をしないでください。貴方の身1つだけでは差し上げられない。ですので私からも1つお願いがあります。私からのお願いを達成できた暁には、“精霊族の秘薬“はお譲りしましょう。どうです?」


「それは…!願っても無い話です…!何でも仰ってください!」


多少残っていた威圧感は完全に消え去り、放つ冷気も完全に消えたシャルゼさん。彼女は優しい笑みを浮かべて俺を見つめている。


「私からの願い、それは貴方1人で危険指定植物・捕食竜(プレデタードラゴン)アル・セリベリウスを討伐してください」


「…!俺1人で…ですか…?」


危険指定植物……以前ベリタス・ブレイブが討伐した超大型危険指定魔獣・ベヒモスと同じレベル存在だろうか。

それはルミナス聖国では勲章が与えられる程の強さを持つ事を表している。今の俺には手に余るどころの話ではない相手だ。


「怖じ気づきましたか?“精霊族の秘薬“は捕食竜アル・セリベリウスから取れる実からしか生成できません。倒せなければ作れないのです。どうします?アキラさん」


俺を試すような発言。そして何かを期待するかのようなシャルゼさんの表情。それな何を意味するのかは分かっている。

向こうは当然俺の力量など分かっている筈だ。分かった上で言ってるんだ。


「やりますよ…!必ず倒してきて見せます!1人で…必ず…!」


「ふふっ、そう来なくては。弱い殿方に娘はあげられませんからね」


覚悟を決めた俺の言葉に、嬉しそうな笑みを浮かべてそう言ったシャルゼさん。先程までの空気はどこへいってしまったのだろうか……急に娘をあげるとかの言い出したよこの精霊(ひと)


「これは貴方という人間(ひと)を信頼しての誓約です。必ず成し遂げ、無事に帰って来てくださいね。そうでなければミルが悲しみますから」


「はい、それは勿論。もうミルに悲しい思いはさせたくありませんから…」


「いい眼ですね。フリードに似ています……」


クスッと笑ったと思った矢先に、急に惚気だしたよこの精霊(ひと)…!舵を切るの早いなおい。


「ではこれで重苦しい話は一旦終わるとしましょう。───それで?ミルとはどこまで進んでいるのですかっ!?」


「おふ……」


だから舵を切りはえーって!!後急に椅子から立ち上がらないでくださいよ…!凄く失礼に聞こえるかもですが、凄い身長差で少しだけ怖いんですけどっ!?


そんなズイズイ来るシャルゼさんの質問攻めに心が折れかけながらもしっかりと答える俺。

その時俺はミルの思い立ったら即行動はシャルゼさんに似たのかもしれないと思うのであった…

シャルゼさんはミルに顔がそっくりです。ショートヘアで、雪のような真っ白な髪色。ミルとは違って横を編んでます。年齢は43歳です。

当然ながら、体は小さくなれます。



危険指定植物は超大型危険指定魔獣ほど危険ではありません。ですが冒険者ギルドではA+の危険度を誇ります。ほぼSランクと考えていいレベルです。

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