260話:事後報告
懐かしくも温かいモノを感じつつ、僕の体は一定のリズムで上下に揺れていた。段々と意識がハッキリとしてきた僕は、ゆっくりと瞼を開くと……
「……ん?起きたか?おはようさん」
「あ、ああ………おはよう…」
目を覚ますと、僕はアキラにおぶられていた。重いだろうに、彼は表情を一切変えないで夕日に染まりだした街を歩いていた。
あの後どうなったのだろうか……よく思い出せない。怒りのままに魔法を放った後、どうなったのだろうか。拐われた少女達は家に帰れたのだろうか、操られていた者達は解放されたのか……
「アキラ、僕が寝ている間の事を教えてくれないな?」
「…ああ、いいぞ。まず最初に誘拐されてた少女だが………すまない、4人しか生きてなかった。でもあの場でコウキが気絶していて良かったよ、とても君には見せられない光景だったならな」
「っ…!」
僕は思わず掴む彼の肩を強く握ってしまい、彼は痛そうに表情をしかめながら言葉を続けた。
「操られていた奴らも同じく、あの場にいた全員が既に死んでいた。多分死後から大分経ってると思う……アイツら、尋常じゃないくらい皮膚が冷たかった」
アキラはどこか遠くを見つめながら悲しそうな表情のままそう伸べると、アキラは小さく溜め息を吐いた。
『生命反応が極めて低かった事から、まさかとは思っていたが、こんな結末になってしまうなんて……あの日僕が依頼を受けていれば…!』
先日僕と同じ依頼を受け、ギルドで化物と恐れられるようになった僕と、唯一共にいてくれた冒険者仲間のライアンを想いだし、悔やむ。
まさかここまで最悪な奴が相手だとは思わなかった…っ…
「……アキラは何で平気なんだ…?何で普通に人を殺し、普通に死体を見れる…?そんなの普通じゃない…っ」
友だと言ってもいい程に共に歩んで来たライアンを殺された事を悔やむ事しか出来ない僕は、ポツリとアキラにそんな事を言った。
アキラはその言葉を聞くと、一瞬ビクッとした後に、少しの間を開けて話し出した。
「…別に平気じゃねぇさ。俺だって人間だ、同族を殺すのは絶対的なタブーであり、重罪って事は分かってる。でもここは異世界…命の価値が軽すぎる世界だ……どいつもこいつも俺を悪と言って普通に命を奪おうと襲ってくるんだからな。自分を守る為、俺は戦った。その結果が今俺が世間から言われている事さ。まあ…世間で言われてる事には嘘も多いけどな」
彼は実につまらなそうに語り終えると、近くのいこいの広場である公園へと入る。
世間でアキラの評価と言えば、大量殺人に国を破壊行動。竜族の国を襲い、毒霧による環境汚染等々……今思い付くだけでもこれだけの事が出てくる。どれが本当か、どれが嘘なのかも分からない程にアキラの噂は全世界に広がっている。
「疲れた。あのベンチで休んでもいいか?」
「あっ……ごめん、重いよね。もう体の方は平気だから降りるよ」
「別にそこは気を使わなくていい。また倒れられた方が厄介だからな」
そう言いながら苦笑いをしてベンチにもたれたアキラは『女の子相手だったら重くないよって言うんだけどな…何で俺の初めてのおんぶが男なんだよ…』と滅茶苦茶小さな声でぼやいていた。なんか…ごめん……
「それで…無事だった少女達はどうなったのんだい…?」
僕もアキラ同様にベンチに座り、もう少し詳しく結末を聞くと、彼は何1つ隠す事無くすぐに説明してくれた。
「助けられた子達は操られてない警備兵達に任せた。今頃自分の家に帰されてるかもな。…まあ一緒に誘拐されてた子達が喰われる瞬間を目の当たりにしたんだし、心の傷ってかトラウマは凄いだろうけど」
あの時ベリトが言っていた事に引っ掛かっていたが、やはり人間の臓器を目的で誘拐していたようだ。つまり人間を操って、効率的に少女達を捕らえて食らう。虫のような方法で今まで生きてきたのか。
「胸糞悪い…」
「それには俺も同意だな。少女達の事も辛いが、死んでも尚操られてた警備兵達の同僚の顔が俺には印象深いな…」
ベリトに殺されたであろう仲間を、死体を弄ぶかのように行っていたベリトには怒りを覚えて当然だろう。だけどここでこの悲しい事件を終わらせられて良かった。
「…!そういば…さっきアキラここの世界を異世界と言ってなかったか?それってどういう…」
話が1度終わった所で、ふと思い出した事を彼に直接聞いてみた。するとアキラはビックリした表情のまま咳き込み、いかにもヤベッって顔をしている。まさかアキラは…!
「あ、えっと…!あはは…!なんの事かなっ!?」
「えっ、誤魔化すつもりなの…!?今の演技でいけると思ったの!?ある意味それが1番の驚きなんだけどっ!」
「くっ…!」
顔をしかめたアキラは、僕の言葉にどう返すかと考えていると、彼は突然ベンチから立ち上がり逃走した。
予想だにしない行動に、一瞬戸惑ったものの、僕は冷静に魔法を使ってアキラを拘束しようと製鉄魔法で鎖を生み出した。
「そう何度も同じ手は食らわないぜっ!」
「うっそ…!?」
だがアキラは魔方陣から生み出された鉄の鎖を、先程のベリトとの戦いの際に渡した妖刀を鞘から抜き、それをまさかの投げるという事で鎖を切断。更についでと言わんばかりに木刀も僕へと投げると、彼は素早くその場から逃げていった。
「本当にアキラは分からない人だなぁ……」
別に彼を警備兵達へと突き出すつもりは無い。それは今回共に戦った事で、彼が悪だと思えなかったからだ。だがアキラには圧倒的な力がある。本人は隠しているが、僕には分かる。だからまだ油断は出来ない。今後とも彼をよく見て、判断しなければ。
「また会えるよね」
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夕日に染まる街中を全速力で疾走するのは誰でしょう?そう、私ですっ!(灰の魔女)
という冗談はさておき、危うくコウキに捕まってしまう所だった。瞬間移動も出来るであろうアイツが追ってこない事を見るに、魔力が無いんだろう。ふふっ、勝ったな。
「ぐっ……!っっ……」
──ちぇっ、やっぱり奪えないか。疲れてる時ならもしかしたらって思ったのになー。やっぱり“大罪悪魔“を2匹も宿せるような人間は特殊って事なのかなっ?まあ別に君の意識を奪った所で、特段やる事なんかは無いんだけどね。あ、でも人間の美味しい食べ物はいっぱい食べたいなぁ~、こう見えてもぼくってグルメだからさっ?だから若い人間の雌を食ってたんだけどさ、これがまた旨いんだよっ!肉は柔らかくて、捨てる所が無いくらいに食べれるっ!この中でも脳は────
「うるせぇぞ…ッ!はぁ…!はぁ……っ……突然意識を奪おうとするんじゃねぇよ…っ……この恩知らずが…」
何で人間の少女の味の感想なんか聞かなくちゃいけないんだ。カニバリズムはマジで勘弁だ。後話が無駄に長いのな腹立つ。
何故脳内にムカつくオスガキの声が聞こえているか、それは至って簡単。俺の体の中にベリトがいるからだ。
だが勘違いしないでほしい。別に助けるつもりは無かった。あの時ベリトが僅かに動いていたから、生死を確認の後、トドメを刺すつもりだった。のだが……
近付いた瞬間、コイツは俺の体内に入って来やがった。“大罪悪魔“が何度か出入りした体のせいか、もしかしたら俺の体は悪魔入り放題のガバガバシステムなのかもしれない。
──まぁ仲良くしよっ?これから長い付き合いになりそうだしさぁー。それに一応僕にはとっては恩人って事になるしさ、少しくらいなら協力はさせてもらうよっ?ぼくって面白い事が好きだからさー、面白い事を見せてよっ!ねぇ?アイボウ君っ?
「やかましいわ!ペチャクチャと長々と話しやがって…!」
レヴィ、アスモデウス、サタンとはまた違った厄介な性格の悪魔が体に宿ってしまった。
もしかしたら天使達に今度こそ殺されるかもしれない…
「ひぇっ……」
俺はもしかしたら監視されてるかもと怯えながら、駅へと走って向かった。
忘れかけてたけど、俺皆とはぐれとるやんっ!
ヤバイって!
俺は脳内に直接語り続けるベリトを無視して、駅に向かって全速力で走り続けた。
知 っ て た
これで天使と悪魔の力を持つ事に成功したアキラ。でもあんまり強くないっていうね。爽快感無いじゃねぇーか!いい加減にしろッ!




