表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
260/392

259話:物語の流れは俺には来ない

忙しい……ただそれだけです。

別に投稿に飽きてきたって訳じゃないので、楽しみにしている人がいるならご安心を。

「さぁ、始めようか」


……っとカッコよく言ったはいいものの、心臓の音がうるさい程に鳴り続けている。足はまだ震えているし、目の前で楽しそうに笑うベリトを見ているだけでも身の毛がよだつ。


「なるほどなるほど…人間は愚か、悔しいけどぼく達悪魔よりも魔力を持つ人間と、天使の気配を帯びた人間か。ふふっ!そんなの絶対に美味しいじゃないか…!」


「…!気味の悪い奴だ」


歯を剥き出しにして笑うベリト。コウキの魔法によって焼きただれた皮膚は見る見る内に癒えていく。どうやら悪魔達は共通で異常な再生能力を持っていると見てよさそうだ。


「でも…うんやっぱり君達は強いよ。そこはぼくも認めてあげる。ぼく1人じゃとてもじゃないけど太刀打ち出来そうにない。───だから単純だけどこっちの駒を増やそう。起きろ、ぼくの人形達っ!」


やがて再生を終えたベリトはクツクツと喉を鳴らし、ニヤリと笑いながらそう叫んだ。

すると筋肉が痙攣していた筈のチンピラと警備兵達は起き上がり、彼らは皆同じような動きで各々が武器を俺達へと向ける。


「そんなバカな…!いくら操られているからと言って、人間が動ける程弱くなかった筈だぞ…!?」


「ねぇー?不思議だよねぇー?」


自分の放った魔法の効果を1番知っているからこそ困惑するコウキを前に、嘲笑うように、茶化すようにそう言ったベリト。


「落ち着け、コウキ。お前の放った魔法は確かに効いてるさ。ただコイツが洗脳魔法に加えて操作魔法を使っただけだ」


俺の左目に微かに見える黒い糸。それらが奴らを操っているモノだ。以前メタトロンが操られていた時と似ているが、今回の場合は“強欲“の下位互換能力と見ていいだろう。

だが今の俺の説明で、ベリトはつまらなそうな顔をして俺の睨み付ける。ただでさえ天使の気配がするという事で反感を買っているというのに、これは少し不味いかもしれない。


「あーあ、折角おもしろい反応が見れそうだったのに…ほんっとお前みたいな奴、嫌いだな」


「そりゃどうも」


昔から思っていたが、“なろう系主人公“が戦闘中にナメた態度をするのは、今のベリトのように怒りによって判断力を失わせるのが目的なのかもしれない。ならば当然俺もその手口を使わせて貰お─────


「──────ッ!!?」


「ちっ……今なら殺れると思ったんだけどなー」


目の前まで迫った鋭く鋭利なベリトの指。それは間一髪でコウキが放ってくれたであろう障壁によって防がれる。

油断をしていた訳じゃない。相手を見くびっていた訳でもない。単純に反応できない速度で動かれた。そしてまさか突然攻撃を仕掛けてくるとは思わなかった。異世界ってターン制じゃないの…?


「油断は禁物だよ、アキラ…!」


「お、おう…ありがとう」


油断してはないんだけどな、それを言える空気感では既に無くなった為、俺は短くそう返す。するとコウキは空間に開いた穴へと手を入れると、俺に向けて何かを投げる。

もはや俺の知っている異世界戦ではなくなったので、今まで以上の警戒をしつつ投げ渡された物を受け取った。


「これは…刀か。はは…随分とお約束な物を……」


投げ渡されたのは異世界で出ない方がおかしいとまで言われる日本刀だった。あまりのお約束に、思わず俺は苦笑いをする。そしてなにより左目から見える日本刀が放つ禍々しい魔力が気になるが…まあいい。俺は素早く鞘から刀を抜き去り、鞘を捨てて右手に日本刀、左手に木刀という二刀流体制へと入った。


「あっはは!すごいすごいっ!二刀流ってヤツでしょ!?ぼく知ってるよ!少し前に君達みたいにここにやって来た冒険者?が丁度君みたいな戦法だったから覚えてるよっ!───まぁ…殺したんだけどね」


先程までの表情とは打って変わって、無邪気な子供へと戻ったベリトはパチパチとわざとらしく手を叩くと、最後にニコッと笑みを浮かべながらそんな事を言った。

そのベリトの言葉を合図に、俺は動き出した瞬間、俺の真横を高速で通り過ぎた青白い光。その光はベリトに当たると思われた瞬間に、横から突如入ってきた警備兵へと当た────りはせずに、上へと突如軌道を変えた。


「お前…さっき言っていた二刀流の冒険者を殺したってのは…本当なのか…?」


「ん?ああ本当だよっ?Bランクだかなんだか知らないけど、雑魚だったんだよねー。あの時も今みたいに人間を盾にしたら動きが止まっちゃってさぁ、ほんっと人間って操りやすいねっ」


明らかに変わったコウキの雰囲気を気にせずに、ベリトは聞いてもいない事までペラペラと喋り出す。

先程の突然の高威力魔法からなんとなく察していたが、どうやらコウキとその二刀流の冒険者は知り合いのようだ。


俺はこの手の展開を腐る程見ている。だから今コウキがどんな感情を抱いているかは分かるし、この後の展開なんて手に取るように分かる。

だから安心と恐怖がある。

ここでこの戦いの勝敗が確定した事。そしてコウキの怒りによって巻き込まれないかという事。


『しかしこれは俺が二刀流をする事で起こるイベントだった。はは…俺の知らず知らずの内にコウキの物語に巻き込まれてたみたいだな』


やはり路地裏で出会った時点で巻き込まれ確定だったようだ。

そんな事を考えながら、激しい怒りの炎を燃やしベリトへと叫ぶとコウキを横目に溜め息を吐いた。勝ちが決まっている勝負ほどつまらないモノは無い。


『俺はこの展開を起こす為だけにここに連れてこられたって事か……虚しいな、ここから俺は蚊帳の外なんだから』


目の前で繰り広げられる激しい魔法の連激を前に、俺はただただ虚しさを覚えながらそれを見続ける。

防戦一方どころの話にもならない程に攻撃を受けるベリト。人間を盾にして自身を守ると同時に相手の動きを止めさせようとしているが、放つ魔法は全て生き物のように軌道を変えてベリトへ直撃する。


「舐めるな…!ぼくは…っ…ぼくは“72柱“なんだっ…!こんな所で終わる存在じゃないんだよっ!!」


そう吐血しながら叫んだベリトは手を翳すと、自身を守っていたチンピラと警備兵達は各々が持つ武器で自害しようとする。

成る程、これまた悪どい手を使いやがる。

だが無駄だ。今のコウキには絶対に通用しない。そうなるように世界によって仕込まれている。


「そ、そんな…っ!?磁気まで操れると言うのか…!?一体いくつ適性があるっていうんだ!?」


「僕に使えない魔法属性は無い。この世界にある全ての属性に適性のある僕がお前のような下衆に負ける訳がない。───もう消えろ」


コウキが上へと左腕を上げると、自害しようと手に持っていた武器を全て引き寄せる。どうやら磁気を操作しているようで、更にそこから右手に溜めた黒い炎をベリトへと向ける。


「ひっ…!?ま、待ってくれ!ぼくは戦いには向いてないけど、人間を操る事に特化してるんだっ…!だ、だからねっ…!?君が望む人間の女を操ってあげるよ…!何人だっていい…!君が望むだけぼくが操ってあげるよっ…!?お、お金だって欲しいだけ手に入る力なんだよっ…!?ぼくを殺さないでくれるならそれらを提供出来る…!」


「黙れ。お前は話が長過ぎる。どれだけ言葉を並べようと、お前はここで消す」


「っ!!ま、待っ───────」


黒炎に呑み込まれたベリトは最後の声を上げる事無く焼かれた。こっちまで身が焼けるような熱だ、悪魔特有の再生能力でも助かる事は無いだろう。


「…!ったく……ここまでお約束ってか?コウキ」


疲れたのか、コウキはその場に膝から崩れて倒れ込んだ。あのコウキだ、魔力を使い切ったという事は無いだろうが、精神面で疲れた可能性がある。


「にしても…怖かったな、コウキの魔力は」


【賢者の孫】のシン君が魔力を解放した並に凄い気配だった。アニメでは主人公の力を分かりやすく示す為の『はいはいすごいすごい』っていうシーンだったが、こうして身に浴びるのは予想以上に辛かった。


「どうするんだよ……担いで帰るのか?忘れてたけど現状迷子の俺が……」


俺はそう呟き、やれやれ系主人公を気取りながら気絶したコウキを背中に背負って立ち上がる。


『結局この禍々しい刀は使わなかったな。俺があまりにモブだから刀の活躍シーンカットされたのかな?だとしたらこの刀に申し訳無いわ』


いずれ擬人化するかもしれないこの刀に心で謝罪しつつ、俺は出口へと歩きだした。


「………」


が、その一歩手前で後ろへと振り返り、コウキを1度下ろして先程ベリトが黒炎に呑まれた場所へと向かった。

その視線の先には時折ピクッと動く黒い炭のような物体。それが何を示しているかは分かっていた。分かった上で近付いた俺は、一言。


「大丈夫か?」


そう呟いてその黒い物体へと近付いた。

アキラが倒すと思った?

残念コウキ君でしたっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ