252話:地上世界にただいま
働かないで生きていく方法を探す系作者
「これでお別れですね。大変な事に巻き込んでしまって本当にすいません…」
「いやいや、中々楽しく感じたよ。久しぶりにさ」
ラミエルの案内の元、俺はゲート潜った。するとそこはどこかの森へと通じており、ラミエルが言うにはルミナスの近くの森らしい。
「恐らくもう会うことも無いでしょう。もっとも、貴方がまた悪の道に堕ちなければの話ですがね?」
「ふふ、そりゃ俺も嫌だな」
可愛らしく冗談交じりにそう言ったラミエルに、思わず俺も笑いが溢れる。しかしちゃんと考えてみると、寂しく感じるな。本来の目標は天使達とも交流を深めて、力を手に入れる筈だったから。
「…ラミエル、これは割りと真剣な話なんだが…いいか?」
「はい、なんですか?」
俺は天使達の力も求めていた。昔からずっと、天使と悪魔の力を同時使用するってのが妄想内では定番だったからだ。もっと言えば天使の方が憧れは強かった。
それはつまり、俺の欲望を集めて生まれたもう1人の俺も確実に天使達の力を狙っていると考えられる。
「もう1人の俺…悪魔の力を持って暴れている方の俺なんだが、恐らくお前らの国である天界を襲撃すると思う……」
“強欲“がどういった経緯で天界にまで手を伸ばしたかは分からないが、“強欲“以上に強欲なもう1人の俺の事だ。必ず天使を…それもネーム持ちの大天使などを狙うだろう。
「成る程、分かりました。一応聞いておきますが、そのもう1人のアキラは倒してしまっても構わないですよね?」
「ああ、頼む。弱く無力な俺では太刀打ち出来ない……その時が来たら、容赦なく殺ってくれ」
俺では到底止められる存在では無くなったもう1人の俺。自分で生んでしまったにも拘わらず、こうして他人任せな事がこの上無く悔しい。
思わず下唇を噛み切ってしまいそうな程悔やんでいると、ラミエルは俺の肩に優しく手を置いて言った。
「貴方は弱くなんかありませんよ。確かに物理的な強さなら弱いかもしれません。ですが貴方には強い意志がある、強い心がある。それがある限り、貴方は弱くなんかありません。だからそんな悲しい事を言わないでください」
「…!うん…そう、だな。もう少し自分に自信を持ってみるよ。ありがとう、ラミエル。君には感謝しかないよ」
「いいえ、私は大した事をしていませんよ。……では私はそろそろ天界に戻ります。メタトロンを奪還する為の作戦を立てなければいけませんからね。どうかお体に気を付けて」
「うん、ありがとう。またなラミエルっ!」
大きな翼を生やしたラミエルは空へと美しく舞い上がる。白い羽を舞わせながらゆっくりと空へと上がったラミエルへと最後に手を振ると、彼女は暖かな笑みを浮かべて手を振り、そして目にも追えぬ速度で雲の上へと消えて行ってた。
「……うし、俺も帰るか」
ラミエルを見送った後、俺は少しの間静かな時間を過ごし、ルミナス聖国を目指して歩きだした。
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あれから特に言う程の事は何も無く、無事にルミナス聖国へと戻っきた。門を潜れるかどうか微妙だったので、俺は来た時と同じ穴を通って国内へと侵入した。
国の中は復興され始めたのか、人はそこそこいる。だからこそ違和感を覚えたのだが、俺はそのままクリークス家の屋敷へと歩いて行った。
「アキラ…!」
「うわぷっ!!?」
屋敷の扉を開けた瞬間の事だった。お前扉の前で出待ちしてたろって速度で俺に飛び掛かってきたミルをなんとか受け止める。
「どこに行ってたの…?心配した……またいなくなったと思った……っ」
「ごめん…ちょっと……他国?に行ってたんだ」
「……え?」
?マークを浮かべるミル。そりゃそうだわ、いきなりいなくなって帰って来たと思ったら他国行ってました。…は?ってなるな。
それとミルの反応と国の復興を見るに、天界と地上世界の時間の流れは若干違うようだ。天界には数時間しかいなかったのだが、地上世界では1週間以上時間が流れていると考えてよさそうだ。
「よく分からないけど……ボク、寂しかったんだよ…?何か言う事、無い?」
「あ、えっと……ごめんなさい…」
「ん、よろしい。ついでにボクの頭を撫でてくれない…かな?」
何を言いやがるんだこの人は…
甘えてるのだろうか…いや確かに彼女はまだ高校生の年齢だし、剣に全てを捧げてるようなこの家で産まれたんだし、愛情?的なものが足りないってのはよくある展開だが…
「はやくやって…!ボ、ボクも恥ずかしいんだから…!」
「は、はい」
戸惑っているとミルから催促されてしまい、俺は慌ててミルの頭に手を乗せる。そして日本で死ぬほど勉強したラブコメ風の撫で撫でを意識する。
落ち着け、何度も勉強した所だ。焦るな、本番は練習のように、練習は本番のようにだ。
「んっ…!」
「ッ…!!?」
震える手でミルの頭を撫でると、ミルはくすぐったそうにそんな甘い声を出す。
お、落ち着け…!乱されるな俺…!ここはクールに撫でて、男を見せるのが鉄則。間違っても腰抜けな態度を取ってはダメだ。
焦るなよ、俺…!ほ、ほら、よくなろう主人公達がやってるように、『なんだか犬を愛でてるみたいだ…』と考えるんだ。中々酷くも感じるが、ここはミルを犬として見るんだ。ミルだけに。
───は?
「おい、いい加減その甘ったるい空気なんとかしてくれないか…?そろそろ胸焼けしそうなんだが」
「もうっ!ソルっ!なんで2人の邪魔するのっ!」
「だ、だってさ…!コイツら帰って来て早々イチャつきだすんだぞ?」
そんなやり取りと共に物陰から現れたルナとソル。おいおいおい、見られてたんかい。あー死にそう。恥ずかしくて死にそうですわ。さっきまで天界で死にかけてたってのに、また別の理由で死にかけるとは…やはり異世界は一筋縄ではいかないな、うん。
「あれ?ローザは?」
「その…ローザちゃんは具合が悪いって言って部屋で寝てるわ…」
俺の質問に答えてくれたルナ。するとこの場にいる俺以外の表情が曇っていくのが分かる。嫌な予感がするが…気のせいであってくれ。
「…!アキラ、その眼…」
「え?眼が何だって?」
「あ、いや……ごめん、見間違い。何でも無い」
「そうか?ならいいが」
よく分からないが、ミルの見間違いだったようだ。それよりも俺はローザの元へと急ぐ。彼女はこの世界の物語に関わるであろう大切な存在、現状主人公がいないからヒロイン特有のピンチが訪れても助けられない。ならばそうなる前に助けてしまおう。俺はそう1人考えながらローザがいる部屋へと急いだ。
「さっきのアキラの眼は…見間違い…?」
何か考えている時のアキラの左目が黄色に染まっている気がした。そして一瞬だったが、十字架の模様も入っているように見えたが、改めて見直して見ると通常通りだった。
「疲れてるのかな…」
ミルは1人そう呟いて、アキラが向かって行った方角へとルナとソルと共に歩きだした。
名前:テンドウ・アキラ
種族:人族
性別:男
魔法:
スキル:[双子座]
加護:[治癒の女神・リコスの祝福]「大天使・ラミエルの加護」
なろう系小説を読んでる人なら絶対に分かってた展開をぶちこむ。
と言っても、今時ここまでベタなのって少ないですよね。最近の他の作品は突飛な物が多いし…。しかも面白いし、凄いね。




