250話:命を懸けても助けたい
ギリギリセーフ(5時58分)
「ラミエル貴様ぁぁぁ!!誰に攻撃しているのか分かっているのだろうなぁッ!!?」
「っ…!貴方は既に私が知るメタトロンではないっ!これ以上人間である彼を甚振るなら…!──私は貴方に実力を行使しますっ!!」
ラミエルはそう叫びながらメタトロンへと神器・雷霆ケラウノスを振る。雷のような速度で振るわれる槍捌きは長きにわたる稽古の賜物であり、それはラミエルの努力と強さを示していた。
「ふん、緩いわ!!」
だがそれはメタトロンも同様だ。更に言えば、メタトロンは今の大天使の中では古参であり、実力と経験の差はラミエルとは大きくかけ離れている。
メタトロンは自身の神器・鉄月アダマスでラミエルの攻撃を受け止め、逆にメタトロンは自身の固有魔法である鉄魔法を使用して反撃をする。
「無駄だッ!ラミエル、お前の技は我には通じない……戦闘経験が違うんだ──よッ!!」
「ガ、ハァッ…!!?」
横に振るわれた大鎌を回避しようとした瞬間、地面から建物を突き破って生えてきた鉄の塊によって腹部に大きなダメージを負ったラミエルは、苦痛の表情と共にダウンしてしまう。
「我はずっと思っていた…今の天使達は甘過ぎると。悪人に対して優しさを与える…これではダメだ、悪は即刻排除しなければいつまで経ってもこの世界には悪が溢れ続ける…だから我が正すのだ!!悪のいない正しき世界へ変える為にッ!!」
メタトロンはそう語り終えると同時にガブリエルへと高速で接近戦を仕掛ける。
メタトロンが使用する神器・鉄月アダマスは伸縮無限であり、鞭のようにしならせる事も出来てしまう特殊な大鎌。その大鎌の固有能力を最大限に利用したメタトロンは、刃渡りが大きく伸びた大鎌を振るった。
「っ…![四大天使の翼]ッ!!」
だが大天使の中でも群を抜いた強さを持つガブリエルには神器さえも通じない。彼女は背中に生える大きな6枚の翼を強固な盾へと変え、大鎌の1撃を防ぎ、弾く。
『どうする…っ、メタトロンが正常ではないのは一目瞭然だが、私が直接手を出すにはあまりに威力が強すぎる…!』
メタトロンは今、敵を駆除する時と同じように力を振るっている。つまり本気で私達を殺しにきているという事だ。ここは天界、天使達の力が最大限の生きる場所であるが為にメタトロンには生半可な攻撃では倒れない。自分の固有魔法はあまり戦闘向きではない為、そうなれば神器を使うしかないが……威力が強すぎる。
「悪を許す訳にはいかない…!全ての悪を殲滅。殲滅…殲メメメメメメッ!!殲滅しなければぁぁぁぁぁアァァア!!!!」
精神が壊れたかのように同じ言葉を連呼し、目玉を異常な速度で動かしたメタトロンは、今までの彼では到達出来ない速度でガブリエルの背後を取った。
「排除ォぉおッッ!!」
「うぐッ…!!」
今度は短く形状を変えた大鎌を振るったメタトロンは、視線を安定させぬまま超高速で動き回り、小さくとも確実にガブリエルへとダメージを積もらせていく。
「仕方ないか…っ…!メタトロン、少々我慢をしてくれッ…!──来い、ブリューナク、フラガラッハ!!」
ガブリエルがそう叫んだ瞬間、2つの光が天より落ちてくる。1つは太陽のような輝きを持つ剣であり、もう1つは鈍器のような鈍い光を放つ剣。
ガブリエルが両手に握る2つの神器。それは彼女が相手を確実に仕留める時か、自身の窮地にしか使う事が無い双剣。各々が違う効果持つのだが、現在操られていると思われるメタトロンを解放するにはブリューナクの力が必要だった。
「神器・太陽ブリューナク、神器・蓄反フラガラッハ……2つで1つの神器でメタトロン、お前を止める」
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ガブリエルが2つの神器を手に取った時と同時刻。ラミエルは未だ激しく痛む内臓を庇いつつ、ゆっくりながらもアキラへと近付いていた。
「こんな所で……死なせない…っ…!」
骨の数本が内臓に突き刺さっているにも拘わらず、ラミエルは体を引きずってアキラへと手を伸ばす。後少し、後少しで届くのに、アキラの生命反応が低下していく。
「必ず…地上に帰すと約束した…!絶対に…死なせない…っ」
漸くアキラの手を掴んだラミエルは、自身の傷を治しもせずに、自身が出来る全ての治癒力をアキラへと注ぎ込んだ。
「しっかりしなさい…!死んではダメ……っ…ですよ…!」
体が冷たくなっていくのを握る手から感じ取ったラミエルは、アキラにそう呼び掛けながらも治癒を続けた。
不思議なものだ。ついこの前までは本気で戦っていたというのに、本気で彼を駆除するつもりで挑んでいたのに、今私は彼を生かす事だけを考えている。
部下のフテラの話を聞き、そして天界で流した涙のせいで私の考えは変わってしまった。だけどそれが正しい事なのかは正直自分でも分からない。だけど間違った事をしたとは思っていない。胸を張って言える、彼を助けて良かったと……
「ゴホッ………ッ」
出血が酷い。意識が遠くなっていく。このままでは私まで死んでしまいそうだ。助かるかどうか分からない彼を助けるより、まだ自分の方が助かる確率は高いだろう。
「だけど…っ!諦めない…!まだ私は諦めてませんよ……っ…!───だから貴方も諦めないで生にしがみつきなさい…!テンドウ・アキラ!!」
最後の叫び。もう声が出せない。治癒ももう限界だ。結局彼を救う事は出来ず、私も死んでしまう。
『っ…!今…手を……』
重くなった瞼を閉じた時だった。
微かに感じた私の手を握り返す感触。最後の力で私は瞳を開くとそこには、体を必死に起こそうとするテンドウ・アキラの姿があった。
「ラミエル…お前の声、確かに聞こえたぞ」
「良か…った…………後は……自分で…逃げて…………あのゲートを潜る……だけです……」
私の最後の言葉に、アキラは首を横に振るうと、小さな笑みを浮かべながら口を開いた。
「自分の命も顧みず、こんな俺の事を助けてくれた恩人残してはいけない。俺がきっとお前を助ける。だから信じていてくれ、ラミエル」
「本当に貴方って人間は……バカですね…っ」
苦笑いを浮かべて『そうだな』と言ったアキラに、ラミエルも同じく小さな笑みを浮かべる。
今は彼を信じてみよう。彼の想いを受け入れてみよう。彼を信じる事を決めた私は、不思議と安心して眠りにつく事が出来た。
「ありがとう…ラミエル」
彼の優しいその声を聞きながら、、




