246話:大天使の審議
大天使、集合ーっ!
妄想好きの男なら誰でも1度は考えた事があるであろう天使。それらが住むのは雲の上にある天界ってのは常識。ましてや異世界物が好きな奴には必須科目だ。
そんな天界って言ったら、皆はどんなイメージをするかな?楽園のような場所?神聖な神殿?分かる、俺もそう思ってるし。
「これより、テンドウ・アキラの審議に入る。進行はミカエルの代わりに私、ガブリエルがさせてもらう」
会議室のような重苦しい雰囲気漂う部屋。因みに俺が今いる場所な?あ、ここが天界だそうです。まあここはその天界の一角であって、本当はもっと幻想的な風景が広がっているそうだ。
何故俺が突然天界にやって来て、尚且つ審議に掛けられているのか…それは数十分前に遡る。
『貴方が禁忌スキルを宿しているならここで素直に帰す訳にはいかない。私と一緒に来てもらいますよ、天界に』
『い、嫌ですよ…!なんで悪魔と契約している俺が、天使達の本拠地に行かなくちゃいけないんですか…!そんなのライオンの檻に肉付けて入るようなもんじゃないか…っ』
『残念だけど拒否権は無いですよ。最初に貴方に付けた鎖、それがある限り私から離れる事は出来ません』
『そんな…!』
と、いう事があったんだ。
特殊なゲートに入ると、あっという間に天界に到着した。…までは良かったのだが、やはり下級天使らしき者からの視線はあまりいいものではなかった。
『しかも鎖に繋がれてるから気分は完全に囚人だよ…』
俺は果たしてここで死んでしまうのだろうか。
今は死ぬのが怖い。ここで全てが終わると考えるだけで震えてくる。
だけどもし殺される事になっても俺は抗わないだろう。認めたくはないが、俺はまた惨めに腰を抜かす。誰かにまた助けられるまでは…
俺が1人そう考えている間にも、目の前では大天使達が激しい討論を繰り広げている。
「例え悪魔との繋がりが完全に無くなろうと、彼が行った殺人の罪が消える訳ではない。また次なる犠牲者が出る前に、即刻テンドウ・アキラを駆除すべきだ!」
「しかし彼は悪魔を2匹にも体に宿していた歴史上類を見ない人間だ!2匹の悪魔によって心を汚染され続ければ、些細な事を切っ掛けに罪を犯す事だってある筈だ。人間は罪を犯すが、同時に罪を償えるのが人間、ここは最重要監視で様子を見るべきだ!」
薄いピンクの髪をした男性の天使、メタトロンが俺を駆除にするべきだと声を上げ、様子を見るべきだと声を上げるのが銀髪に眼鏡を掛けたサリエル。
まさかこの場に俺を擁護してくれる大天使がいるとは思っても見なかった。
「ふむ…両者の意見は分かった。ではここで皆に聞いてみようか。テンドウ・アキラを駆除すべきだと思う者は?」
メタトロンを最初に、次に手を上げたのはオドオドとした水色の髪をした女性。この時点で二票入ってしまったか……
「ふむ…メタトロンとラファエルが駆除すべきだと考えるか。その反対はサリエル、ウリエル、ラミエルでいいんだな?」
これまた意外な結果だった。この場にいる全員が挙手してもおかしくないと言うのに、過去に何度も戦ってきた彼らは手を上げなかった。
「悪魔を宿していた時と今では、天と地ほど彼は違います。分離したもう1人のテンドウ・アキラに力を全て奪われた事で、結果的に純粋な心を持つテンドウ・アキラが生まれた。ならばまた悪の道に墜ちぬように、導くのが私達の役目だと思っています」
「ふむ…成る程。ラミエル、君の言う事はもっともだ。この場にいる者は全員大天使、彼の心が白い事にはメタトロン達も分かっている。そうだろ?」
「む……それは…」「うぅ…」
ガブリエルの言葉に、痛い所を突かれたと言わんばかりに表情を変えたメタトロンとラファエル。
『凄いな、ラミエル達って。つい最近まで本気で殺り合ってたってのに、こうして俺を殺さない方向へと援護してくれるなんて…』
俺がラミエル達へとそんな事を事を考えていると、中央に座るガブリエルが小さく息を吐くと同時に口を開いた。
「だが新たな情報によればテンドウ・アキラ、君には禁忌スキルがあるそうだな?それは本当なのか?」
「っ…それは……」
ガブリエルの鋭い視線を始めに、この場にいる6人の大天使達から視線を向けられる。
俺はその視線を受けて、言葉が詰まってしまった。いっぺんに見られて恥ずかしいんじゃない。一言でも間違えた瞬間、俺の命が終わる…そう思えてしまう程に鋭い視線を向けられていたからだ。
「っ……」
「黙っていても仕方ないぞ。テンドウ・アキラ、君の口から私は聞きたいんだ」
「ガブリエル、もういいだろ。この人間は確かに心が白くなった。だがそれは禁忌スキルを宿しているとなったら話は別だ」
メタトロンはガブリエルの言葉を遮って、強い口調で俺を睨み付ける。その視線だけで心臓を握られたかのような感覚に襲われる。
──怖い、逃げたい、死にたくない
頭の中では逃げる事だけが支配していた。
何で俺がそのスキルを持っているせいで殺されなくちゃいけないんだ……俺はあの日、ミルとジェーンの故郷を守ろうと全力で戦っていただけだったのに…何でこんな事になっちまったんだよ…
「ラミエル、お前は悪の道に墜ちぬように導くのが我々の役目だと言った。だが世界の均衡を保ち、世界を護るのが我々の使命だ。分かるな?」
「それ…は……っ」
禁忌のスキルが全て揃った時、世界は役目を終える……その言葉が彼らの上司である神の言葉故に、彼らは世界を護る為に俺を消す。
仕方ない。俺がそんなスキルを持っているばっかりにこんな事になってしたったんだ。全部…俺が悪いんだ。
こんな事になるなら…この世界でスローライフでもすれば良かった…
「う…っ………っ…」
あぁ…くそ……泣くなよ、そんな大勢の前で…
止まれ、止まってくれ……これ以上俺に生き恥を晒せないでくれ……っ
「…案ずるな、痛みは与えない。次の瞬間には死んでいる」
メタトロンは最後にそう言うと、大きな鎌を俺の首目掛けて横に振るった。
無力のまま、何も成し遂げず、最後には涙を流して死ぬ。俺らしいと言えば俺らしい結果。
だけど……
「虚しいなぁ…」
「やっぱり見過ごせませんよ…っ!こんな結末は…!!」
「ッ…!!ラミエル、お前…!」
金属同士がぶつかり合う音が響き渡る。
メタトロンの大鎌を受け止めたのは、俺の前へと飛び出たラミエルだった。
彼女は自身の武器である槍で大鎌を抑え、踏ん張っていた。
「ラミエルちゃん…!───[神聖波動]っ!行きなさい!ラミエルちゃん、アキラ君!!」
金色の光の波動によって吹き飛ばされたメタトロン。だが流石は大天使、すぐさま体制を整えるが、それをウリエルが狙い打つ。
「お前らはいつもいつも…!───[聖なる銀の鎖]ッ!!」
ウリエルの攻撃に反応したラファエルが俺達の元へと向かって来たが、それをサリエルが横から銀色の鎖を飛ばして捕縛する。
「ウリエル、サリエル…!ごめんなさい、ありがとう…!───さあ来なさい…っ!」
「えっ…!?えっ!!?」
ラミエルは俺の手を掴むと、そのまま部屋の窓へも走り出す。まさか…!?と思うや否や、彼女は俺の手を掴んだまま窓へと飛び込んむ。
割れたガラスの破片と共に、俺はラミエルと共に重力に引かれるがままに落下した。
“節制“メタトロン:男
“慈悲“ラファエル:女
“勤勉“サリエル:男
“純潔“ウリエル:女
“人徳“ラミエル:女
“忍耐“ガブリエル:女
となっております。




