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244話:恐怖心

「なあアキラ、いい加減出てこいよ!」


「ミルちゃんは気にしてないって言ってたよっ?」


「ルナ、それは多分アキラに効くわよ…」


扉の向こうから聞こえてくるローザ達の声。理由はいたって簡単、俺が部屋に引きこもってしまっているからだ。

別に気にしないけど、ルナの言葉が何故かぶっ刺さる…


「アキラ、入るね」


「っ!!?」


ガチャリと開かれた扉。鍵は閉めていたのに……あっここミルの屋敷なんだし、合鍵くらいあるか。なら鍵閉めても意味無いよな。


「昨夜の事は気にしなくていい。……ハッキリ見たのはボクも初めてだけど、大丈夫だから…!」


「う“っ…!」


そこは嘘でも見ていないと言って欲しかった…!恥ずかしくて軽く死ねるぞ、これは…!あー…顔が熱い。


「そ、それよりさ!戦争の方は平気なのか?ほら、今カルネージ帝国と戦争中なんだろ?」


「ん、その事なら平気。友好関係にある神聖都ミスリアルからの援軍が来てくれたから」


話を反らしたはいいが、また知らない国の名前が出てきたよ。

その国の事を詳しく聞くと、なんでもガンナード人大陸では2番目に大きな国らしい。

国の名前に“神聖“というのが入っているから、もしやと思っていた聞いてみたらビンゴ。やっぱりその国でも聖道協会があるらしい。


「私からもいいかしら?アキラ、ちょっとこれを見なさい」


「っ…!これは…」


ミルとの話が区切りがついた所で、ローザが深刻な顔と共に新聞を差し出した。

そこには“悪魔宿し“テンドウ・アキラが、アルテルシア魔大陸にて最強と名高い種族である、竜人族(ドラゴニュート)の国を滅ぼしたと書かれていた。


「この1件を大きく見た国同士で、テンドウ・アキラを討伐する為の精鋭部隊が組まれるそうよ」


「状況は最悪だ。まさか倒すべき大罪悪魔が一気に増えるとはな…」


「しかも相手の能力を無力化する“嫉妬“だもんねっ…今まではアキラ君の味方だったから良かったものの……特に厳しい相手になるねっ…」


もう1人の俺はとんでもない事をやらかしやがった。せいぜい最強種族と言われているから攻撃でもしたんだろう。この数日間で国を堕とすとは…やはり“嫉妬“と“憤怒“を宿しているだけはあるようだ。


『しかしレヴィといつか戦うかもしれないのか…。漸くお互いに理解しあえてきた所だったってのに…』


そもそもの問題として、俺が戦えるのかだ。

何をするにしてもやる気が無い今の俺に、いったい何が出来ると言うのだろうか。


「俺が変わらないとダメって事だよな…」


──────────────


そして次の日の早朝。

俺は日が上る前から起床し、外に出ていた。久し振りに屋敷の外に出たが、やはり外は煙臭い。だけどこの世界に来たばかりの頃にやっていた走り込みをすれば、いくらか心境が変わるかもしれない。そう考えて俺は朝早くから行動していた。


「援軍に来てくれた…えっと……ミスリアルだったか?その軍は強いのかな……」


荒れ果てたルミナスのいこいの広場だったベンチにもたれながらそう1人呟く。

大きな国=強いってイメージがある俺は、今外ではどうなっている少し気になっていた。


「……行ってみるか」


国の門が開いている訳もないし、“悪魔宿し“として恐れられている俺を通してくれる訳もない。それでも俺はなんとなく壁際まで走って向かった。




「こうして見るとやっぱりデカイな。…………ん?これって…」


数分走れば壁際までやって来た。ここは門が無い区域なので、警備も必然的に少ない。というかいない。だから来たのだが、その高い壁に圧倒されていると、1ヶ所穴があるのが見えた。


「…いけるか?いや流石にキツいか…?」


とても小さな穴がある。恐らくこれも“強欲“によって出来てしまった穴なんだろう。ハイエナのように、混乱している隙をカルネージに突かれたせいで補強も出来ていないんだろう。

そう1人納得して、穴を通れるかどうか試してみる。


「うぐっ…!ぐぐぐっ…!!───出れたっ!」


かなり狭かったが、何とか穴抜け成功。

そして見えてきた風景は地獄だった。大きく空いたクレーターが多数あり、地面の草は焼け焦げている。壁はボロボロであり、煙があっこっちで立ち上っている。


「変に力があるせいであまり実感が無かったけど…戦争ってこういうもんだよな…」


自分には戦える力があった。何があっても敵の兵士は異世界では必ずモブ、そう認知していたせいで恐怖というものをまるで感じなかった。

だがこうして無力になって分かる。やはり命を懸けた戦いは恐ろしい…


「…………はは…人間同士の戦いで震えてたらこの先もたねぇよ…」


震える手を無理矢理抑え込み、無理に笑みを作る。そうすれば自然と笑えると、昔友達が言っていた。だけど中々そうはいかない。


「帰ろう……─────っ!!」


ここにいるのが怖くなった俺は、早々に穴へと戻ろうとしたその時だった。

頬を掠める矢。ツー…と滴る血を手で拭うと、真っ赤な血が指に付着していた。


「動くな。動けば命は無いぞ」


「ッ…!か、カルネージの兵士…!?」


カルネージの兵士が弓を構えていた。数は2人。そのボロボロの格好を見るに、逃げてきたのだろうか。

異世界でモブが放つ矢は最初は必ず外れるか頬を掠めるから助かったものの、次は無い。


『くっ…!どうする…!穴に逃げ込むか…!?いや潜っている間に殺されちまう。それどころかか穴があるのを知られてしまうぞ…!それなら賭けで矢を避けて近接に持ち込むか…!?いやそれも無理だ…!拳と剣じゃ分が悪すぎる…ッ』


少ない頭をフル回転させて深考するが、主人公のような作戦がまるで思い付かない。せめて稽古に使っていた木剣があれば話は変わるが……最悪過ぎる。


「その格好は民間人じゃないな。だがルミナスの騎士にも見えん……」


「姿で判断するなら国の魔法使いか、雇われの魔導師じゃないか?杖は持っていなさそうだが────おい!動くなと言っているだろ!」


疑うような眼差しで話し合うカルネージの兵士。だが警戒度はかなり高いようで、少しでも動こうものなら怒鳴り声が出してくる。

ヤバすぎる…!どうする…!?どうするッ!?


「魔導師ならこの場所にいる時点で向こう側と判断していいな。よし、殺そう」


「そうだな」


「ッ…!そ、そんな……ッ」


剣を抜いて俺へと近付いてくるカルネージ兵。無茶でも逃げるなり、タックルでもすればいいものの、俺は恐怖のあまり腰が抜けてしまった。

あり得ない。こんなの自分じゃない。そんな事を考えていても、時間の無駄だ。今の俺には戦う気力さえ無い……空っぽの人間なのだから。


「死ね」


「うっ…!」


振りかざされた剣。

俺は最後まで一切の抵抗をせず、体を震わせ瞳を閉じた。

だがいくら待っても剣が俺の体に当たる事は無い。まさか痛みさえも感じない程の即死だったのだろうか……そう考えながら、うっすらと瞼を開くとそこには、、




「全く…何故抵抗しないんですか。バカなんですか?死にたいんですか?死ぬんですか?」


「あ、え…?」


濃いめのクリーム色をした髪色に、ショートヘアー。そして眼が黄色く、十字架のような模様が眼に刻まれている少女がそこには立っていた。

彼女の名はラミエル。何度も戦ってきた大天使の1人である彼女は、白い羽を舞わせながら俺へと呆れたような声でそう言った。

あまり触れてこなかった天使達も書きたい。

未熟な作者の元で産まれたばっかりに、弱いみたいな風潮になってしまった大天使達を救いたい。

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