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243話:エロイベントは恥をかく

ヒロインがではなく、アキラが

「[火球(ファイアーボール)]ッ!!………………ダメか…」


「あははっ、そんな簡単に出来たら天才だよ~」


頭に知識を入れ込んだ俺は、早速庭でルナと共に魔法の稽古をしていた。

最初はエクスプロージョン!ってやりたかったのだが、それはかなりの高等魔法らしいので一旦保留となった。今は火魔法の初級である、[火球]の練習をしていた。


「こういうのってイメージ次第でどうとでもなるんじゃないの…?」


【チート魔術師】だと、理科の実験かなんなをイメージ次第で蒼い炎とか出してた。つまりイメージ次第の筈なんだが……


「あー確かにイメージは大事だよっ?でもそれと同じくらい魔力量も大事なんだよっ。アキラは……えっとね…?10で言ったら2…くらいなんだよね…」


「あっ……そうなんだ…」


知ってはいたけど、ルナからこうも申し訳なさそうに言われると何だかやさぐれるなぁ……

やっぱり俺って何の才能も無いんだよな。戦いメインの主人公になりたかったから軍司にもなれないし、技術発展させるような知識も無い。


『なんも無いんだよな……』


虚しいな……日本なら俺はスポーツ万能で力自慢だったのに、こっちの世界じゃ俺は底辺もいいところだ。井の中の蛙の気分だ。

確かに異世界の基準はレベチーなのは知っていた。だけど鍛練したこの体にチートがあればどうにでもなると考えていた。


『何で俺は…リコスのせいにしてたんだろう…』


チートを貰えなかった事を俺はいつまでも引きずって、リコスを恨み続けた。異世界に憧れを抱き、体を鍛え始めた頃ならチートが無いなら頑張ればいい、そう能天気に考えてた。


「虚しい…」


「──?何か言ったっ?」


「あ、いや……なんでもない」


「そうっ?なら練習を再開しよっか!」


「ああ…」


─────────────


魔法の練習はかなりの時間続けたが、付き合ってくれているルナに申し訳なくなってしまう程に芽が出なかった。

17歳の少女が戦地に赴いているというのに、俺は安全な場所で時間を無駄にする。どうしようもない程にやるせない気持ちが溢れる。だがそれは溢れるだけ。


「何をやっても中途半端……アイツの言うとおりだな」


俺は風呂の水面に映し出される自身の顔を見て、そうポツリと小さく呟く。1人静かな風呂は、そんな小さな声さえもかなり反響してしまう。


「悪魔達がいなくなっても、俺自身の本質が変わらないとずっとこのままだ……分かってるのに俺は……昔から変わってない…」


どんなに頑張っても人間には残念ながら限界がある。高校2年の時の地区の剣道大会、その時俺より優れた奴に当たった。

全力を出した。出せる全てを出して挑んだ。だけど結果は惨敗。勝機が微塵も見えなかった。その時から俺より優れた奴が嫌いになった。無駄な努力が嫌いになった。今まで頑張ってこれたのは、それが全て無駄じゃないと信じていたからだ。


「ダメだ…やっぱり1人の時間はろくな事を考えないな」


そう呟き、俺は手の平にお湯を溜めて顔に浴びせる。今日は少し長湯をし過ぎたのか、少しボーっとしてきた。そろそろ上がろう、そう考え立ち上がろうとした時だった。





「アキラ…?」


背後から透き通った美しい声が聞こえてきた。女性だ、若い女性の声がした。ミルだ。

これはかなりヤバイ状況なんじゃないのか…!?捕まるッ…!あ、いやここ異世界だった……───いや異世界でもヤバイだろ!!兎に角ミルが出ていくまで、けっして振り返ってはいけない…!


「まだ…入ってたんだね」


「…………へ…?」


チャプ……という音が聞こえた。

え、え…?え……え?ぇぇぇ?

何普通に入ってきちゃってるの…!?え、貞操概念捨てたんか!?

あ、あれか?ミルって剣士だし、男しかいない環境だから裸とか平気なのか!?よく異世界漫画で見る展開だが……なんか嫌だな、裸を見せ慣れてるのって。


「どうしたの…?何で背を向けるの…?」


「いや、その……ねぇ?ほら、俺って男じゃん?あんまりそう思ってないかもだけど…」


「…?アキラは男だと思ってるよ?」


背後から何故か必要に迫ってくるミル。俺はそれを上手く回避していく。当然ミルの姿を見ずにだ。結構それって凄くね?

てか何でお風呂の中でも鬼ごっこみたいなのしてんだよ。多分凄くシュールだぞ、これ。


「捕まえた」


「あひゃっ!!?」


いくら広いお風呂だからと言って、動きにくいお湯の中では動きは遅い。それは当然向こうも同じ筈なのだが、何故か追い付き、何故か凄いパワーで俺の腕を掴んだミル。これが主人公補正か…!恐ろしいな。


「もしかして…恥ずかしい?」


「そ、そりゃあそうだろうが…!ミルがこの前言った事だってあるし…!」


「…!えへへ…っ。意識、してくれてるんだね。恥ずかしいのを我慢して伝えた甲斐があった…!えへ…!えへへ…っ!」


何だこの生物は…!今どんな顔してるんだろう……凄く見たい…!えへえへ言ってる顔が見たい…!

だが振り返ってしまえば最後、ミルの裸体が見えてしまう。胸の谷間……は無いけど、あんまり見ていいものじゃないだろう。


「……今、変な事考えなかった?」


「いや?まっさかぁ~!───あだだだだだ!!?」


むっ…としたオーラをひしひしと感じる。

というか力が強すぎる…!腕がへし折れるって!!それから俺の腕をミルの柔らかい体にくっつけないでくれ!痛みと嬉しさで頭爆発しちゃうから!!


『今この光景が日本に写し出されてたら、『ゴクゴクゴク』とか『は?』でまみれてるんだろうな…』


ゴクゴクするのはいいが、俺も一緒に風呂入ってる事を忘れてはいけない…!

そう考えていた時だった。ミルが可愛らしい声で『えいっ…!』と俺の体を回転させて、ミルは自身の体を俺に強制的に見せる。風呂だから回転出来たが、ミルって結構力ありそうだよな。


「─────って…!なんだよ、タオル巻いてるのか」


「裸を見せる勇気…流石に今のボクには無い。でもアキラが見たいなら…!」


「ええいっ!頬を赤らめるな!!俺はもう出るぞ!!色んな意味で限界だッ!!」


俺はもう何十分と風呂に入り続けている。いい加減フラフラしてくるし、それに+してミルとの混浴は童貞の俺にはハードルが高過ぎる。

勢いよく立ち上がった俺は、出口へと向かおうとした時、ある事に気がついた。



「「あっ……」」


その時の俺は思考回路がバグっていた…それが全ての敗因だ。そしてアニメ、漫画、小説脳となっていた俺は、自然と裸には謎の光が入ると思っていた。

色々言い訳をしたが、もう誤魔化しよのない事が起こりました。


「ひっ…!うわああああああああああぁぁぁ!?!?」


見られた。

親以外だと、一緒にプール行った友達ぐらしいか見られた事がないアレを見られた。しかも17歳の少女にだ。申し訳ないと同時に恥ずか死い…!誰か編集して、【このすば】の聖剣エクスカリバーのように面白おかしく誤魔化してくれ…!


「わぁ…」


そんな願いは虚しく散り、ミルのそう小さく呟く。俺はもう死んでしまいそうな程の恥ずかしさのあまり、その場から全速力で逃走した。





その後、屋敷内を全裸で絶叫と共に走るアキラを見たと執事のマグさんが後に語る。

因みにアキラは当てられた自室に入ると、ベッドの中で号泣した…らしい。

粗末なモノ見せんな、ミルが可哀想だろうが。

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