241話:分離
また誤字報告を頂きました。
あれだけ多いと嫌になってきそうなものなのに、律儀に訂正してくれる&見続けてくれる……優しい人もいるもんですね。なろうっこんなに温かい人ばかりでしたっけ…?
「イッテ……ッ…!使えねぇゴミが!!使役されてる分際で主に逆らうなんて…ッ!!」
木々を薙ぎ倒して吹き飛ばされたのはルミナス聖国近辺の森林。アキラは1人そう吐き捨てながら、致死レベルの傷を“憤怒“の能力によって強制再生させていく。
「どいつもこいつも俺の邪魔ばかりしやがって…!そもそも俺が弱いからこんな目に合うんだ!ふざけるなッ!!」
怒り狂った表情のまま、アキラは突然自身の頬を力強く殴る。その怒りと拳は、アキラの体内に封じ込めたもう1人の自分へと向いていた。
「俺が俺の邪魔をしてどうする…ッ!さっきも説明したろうが!主人公には決断力がいるんだよッ!それにあんな雑魚どもとつるむ必要なんかそもそもねぇんだよ!!分かったかこの無能がッ!!」
──ふん、バカの1つ覚えのように雑魚雑魚言ってた相手に一杯食わされたのはお前だろうが。それだけの力を持っておきながら、上手く扱えないお前の方が“無能“だろ。
「テメェッ…!誰が無能だ……ッ…!無能はテメェだろうがッ!!雑魚で能無しで向こう見ずで泣き虫で無駄な罪悪感を抱き、あんな雑魚どもとつるむお前が本当の“無能“なんだよッッ!!」
──吠えるなよ、ますます弱く見えるぞ?
「ッ…!───あ“あ“あ“あ“ぁ“ぁ“あッッ!!!!」
絶叫を上げ、周りに自生している木々を破壊していくアキラ。まさに思うように行かずに癇癪を起こしている子供のようだ。
「何も出来ない無能が俺に指図するなぁぁア!!俺が主人公なんだ!俺が最強になるだ!!──お前のような弱い俺はいらない!!俺の体から出ていけッッ!!」
──っ!!?
強制的に吐き出されるかのように、何かに体を引っ張られる感覚を感じた瞬間、肌に土が当たる感触を覚える。先程まで浮遊感のある暗い場所にいたのにこれはどういう事なのか……そう考え、理解する前に瞳に映った俺の姿に絶句した。
「な……なんで…」
「はぁ……ッ…はぁ……!いひ…!いひひひひひっ!!これで俺は最強だ!!これから俺の主人公への道が漸く始まる!!」
顔を上げ、その視線の先にいるのは俺だった。30年以上同じ顔を見てきたんだ、間違える訳がない。まごうことなき俺の姿が、目の前で笑っていた。
「だが……その前に弱く無能な、俺だったモノを処理しなくちゃなぁ?」
「っ…!?く、来るな!!───ッ!?なんで……!」
ニタァ…と嫌な笑みを浮かべ、俺へとゆっくり迫る俺。全身に汗が吹き出る悪寒と共に、俺はそのまま尻を地面につけたまま下がりながら手を向け、[黒水]を放とうとした。
だが出ない。何度[黒水]を使用しようとしても、1滴たりとも出る気配が無い。咄嗟の事で調整を間違えてしまったのかと焦る中、目の前の俺は突如爆笑した。
「あははははは!!使える訳ねぇーだろうがバーカッ!!今のお前は本当の意味での無能…使える力は全部俺が貰ったんだよ!」
「そんな……そんなバカな話あってたまるか…!」
「悪魔の力は勿論、吸血鬼族の王族の力も全てだ。今のお前という存在は、俺という完全な存在を産み出す為の脱け殻なんだよ」
そんな事あり得ない。
そう否定したくても、現に俺は力が使えない。先程擦りむいた傷から流れた血を使う事さえ出来なかった。
「だが安心しろよ、お前のお陰で俺は強くなった。お前が死んだ後に達成してやるよ。───主人公となった俺をなァッ!!」
音を置き去りにしたと誤認してしまいそうな程の圧倒的な速度で地面を蹴った目の前の俺は、俺の頭を吹き飛ばすつもりで拳を放つ。
「────ッ!!」
だがそれを俺は紙一重で回避し、すぐさま距離を取った。
今の回避は日々の鍛練のお陰なんかじゃない。完全なる運だ。俺が恐怖のあまり顔を背けなければ今頃俺の頭は吹き飛んでいただろう。
『おかしい…!あり得ない…!何で今俺は顔を背けた…!?普段の俺なら絶対に取らない行動だぞ…!』
普段の俺ならなんとしてでも捌こうとする筈……今回は絶対に取らない行動のお陰で命拾いしたが、自身の異常が気味が悪くて仕方ない。
「避けた?……ってなんだよその顔っ!おいおい、そんか泣きそうな顔しやがって……俺を笑わせたいのか?」
「ち、違っ…!くっ…!」
泣きそうな顔をしている?そんなの嘘だ。俺を混乱させようとしている嘘に違いない。
先程の脚力を見るに、この場からの逃走は不可能に近い。その為に俺は偽者の俺に向かって走り出し、拳を振るった。
「お前の拳はそんなものか?この程度で異世界に通用すると考えてたなら本当にバカだよな、俺ってよォッ!!」
「ッ!?!?────うわぁぁぁぁぁぁっ…!!??ああああ……ッ…!?俺の…腕が…!!」
俺の放った拳を軽々と受け止めたもう1人の俺は、俺の手首を掴んだその瞬間、耳障りな鈍い音と共に腕をへし折った。
そんな激痛で涙を流す俺を、嘲笑うかのように見下すもう1人の俺。
「あー…ほんっとお前を見てるとイライラしてくる。所詮お前はその程度。これでわかったろ?お前が弱く、俺が強いという事を」
「ッ………!」
あまりの痛さに声を出す事も、惨めでも逃げ出す事さえ出来ない俺の髪の毛を鷲掴みし、軽々と俺を持ち上げたもう1人の俺。
「さよならだ、俺」
「ッ……」
終わった。
抵抗にもならない蹴りを何度入れてもビクともしないもう1人の俺を前に、俺はその言葉が浮かんでしまった。
この異世界で、何度か終わったと思った事はあった。だけどその度に俺は立ち上がってきた。でも……今の俺にはその“勇気“さえ無い。完全に死を…受け入れてしまった。
腕をまるで刃のように変えたもう1人の俺は、最後まで憎たらしい笑みを浮かべ、勝ち誇った表情のまま[黒水]で造り上げた刃を俺の首へと振るった。
「────……なんのつもりだ?」
「させ、ない…!殺し、ちゃ……ダメ…!」
刃が俺の首に触れるギリギリの瞬間で、もう1人の俺の腕が宙へと舞った。
小さく溜め息を吐いたもう1人の俺は、腕を吹き飛ばす黒い刃を放った者へと視線を向ける。
そこにいたのは息を切らしたレヴィだった。
「チッ…ゾロゾロと雑魚どもが集まって来やがった。ここでもう一戦殺り合ってもいいが……この無能が最初に無茶をしたせいで体がボロボロ、か」
少し先から走って向かってくるミル達の姿を確認したもう1人の俺は、舌打ちと共に出た吐血を見てそう呟く。
「レヴィアタン、話は後でじっくり聞こうか」
「………」
「黙りか。ホントにお前と無能は似ててイライラするなぁ…!サタン、見ているんだろ?さっさと出てこい、行くぞ」
もう1人の俺は積る怒りを隠しもせずに声を荒げると、空間に黒い穴を出現させた。
木の上から飛び降りてきたサタンは、沈黙のままその穴へと消えていく。
「レヴィ…」
「…………っ」
穴へと入る寸前の所で止まったレヴィは、最後に俺へと視線を向けると、下唇を噛みしめて穴へと消えていってしまった。
「……レヴィ」
彼女の表情がとても寂しく感じた。
本契約しているレヴィは俺によって縛られている。抵抗はきっと出来ないんだろう。穴へと消える最後まで、悲しい目をしたレヴィの表情が忘れられない。
俺はミル達によって保護されるまで、レヴィが消えた穴が合った場所をいつまでも見続けていた。
はい、またしても無能化。もはや呪いですね。
トレカのインフレの如く、アキラの弱体化が段々強くなっていく……なろう系主人公とは思えないな。まあ彼は頭弱い系主人公ですけども。




