23話:動いた結果がこれだよ…
ルカ君リオ君と共に絵本を読みながら文字を勉強をしてから数時間。あっちゅう間に夜が訪れた。
「あ“ぁ“ーどうすっかなぁー…」
ドサッとベッドに倒れ、天井を見上げながら呟く。知ってる天井だ…
「俺の頭…大丈夫かな…」
俺の頭がおかしいって意味じゃなくてね?そういう話じゃなくてさ…
頭爆発系精霊シェイロンに、いつ頭を殺られるかを怯えているのだ。
「でもまぁ…考えててもしょうがねぇよな、大事な事ではあるけども」
そう自分に言い聞かせ、俺は小さくため息を吐く。そしてリオ君から借りたこの辺の伝説が書かれた本を手に取り、寝そべりながら読む。
「ほぇ~いろんなのあるんすねぇ~」
あらゆる病を治す果実、悪だけを斬る精霊剣、最高位ポーションの原料である、精霊の泉等々…
精霊がいた事から何となく予想はついていたが、やはり精霊関連の伝承が多い。例に漏れずシェイロンも精霊の類いだった。
「なら俺のスキル譲渡は当たりの類いかな。ポーションの原料とかいらねぇし、少なくとも今は」
まぁ…スキル貰えなかったんどけどね!?クソガッ!!まぁ~それはそれとして。
目に留まった1つの伝承。
──四聖獣・水鞠の白虎
「うしっ!明日はこの伝承を調べにぃ~!行ってみヨーカドー!!」
ふざけられるだけの余裕忘れるべからず。これ結構大事だよね、ゆとりって言うかさ。
パタンと本を閉じ、魔石灯の明かりを落とす。明日への期待と不安でドキドキして中々寝付けない。気分はまるで林間学校前日の小学生。
──────────
「う~ん…?…………はっ…!朝だ!」
気が付いたらまさかの朝。意外にもあっさりと寝てしまった。まぁ良いことなんだけどさ。
「今日は仕事を速く終わらせて白虎を探すぞー!おー!」
圧倒的セルフ返し。1人の時間が長かったってはっきりわかんだね。
「あらおはよう。今日も早いのねっ!」
「おはようございます、ミオさん」
いつもの朝の挨拶を交わし、俺は一杯の水を頂いてからミオさんに声を掛ける。
「ミオさん、今日はちょっとやりたい事があるので、今から薪割りしてきますね」
「あら、別に毎日やらなくてもいいのよ?アキラ君はお客様みたいなものなんだから…」
「いえ!おんぶに抱っこという訳にはいきませんから。これくらいはやらせてください、でわ!」
そう言って俺は家の外に出る。大体5時くらいだろうか、少し暗い。今日は曇りかな。
「よし、先ずは薪割りからだな」
家の裏へと回り、今日も斧を手に取る。最近手にマメみたいなのが出来た。まだ変に力でも入ってしまっているのだろうか。
「うっ、しょ!…ふぅ……うっ、しょっと!……よ~…いしょっ!」
気持ちいい音と共に、次々と薪を真っ二つに割っていく。中々上手くなってきたんじゃないか?
「うん、こんなもんかな」
割って割って割りまくる事数十分。作業効率が若干上がった気がする。薪もお風呂に使う一回分くらいには割った。
「体熱っ……少し急ぎすぎて疲れたな…水貰いに行くか」
額の汗を拭って薪を運び、斧を元の場所へと戻す。太陽を見れば6時前くらいだろうか?そろそろ朝ごはんだろう。
「お帰りなさい、アキラ君。もう少しでご飯出来るからもう少し待っててね」
「わかりました!今日のご飯も楽しみにしてますね」
「ふふっそう言われたら張り切んなきゃね!」
そんな軽い談笑をした後、俺はリビングのソファーに腰を落とす。特にやることもないからボーッとしてしまう。
『平和やな……でももっとバトル的なのしたいよな、主人公なら。でもなぁ…俺、一般人より頭1つ飛び出る程度の強さだしな』
そもそも極真とか剣道やってる奴は、暴力とかやっちゃ駄目だしな。黒帯の極真空手と、剣道六段。果たしてこれは異世界でどこまで通用するのか…些か心配が残る。
それにここが死に戻り前提の世界とか、魔法あり銃ありの戦争の世界。いきなり召喚されて、知りもしない難易度Sの世界を救済させられる世界、負けたら種族位級序列が下がる頭脳戦の世界、歴史上の人物が集まる国奪いの世界等々…
こんな世界なら目も当てられない。だって俺、対人戦特化だもん。1対1の。弱いのは嫌なので攻撃力に極振りした男だもん。
あんまり言いたく無いけど…俺チート無いもん。熊と戦い、命懸けで手に入れスキルもギリギリの時にしか発動しないバフスキル。覚えた魔法も線香花火程度の火力。挙げ句、神から貰った幸福デバフに、精霊から貰った贈り物…
「クソゲー……」
強者と弱者、俺はどっちに属すかなんて、今のを聞けば100人中100人が弱者と答えるだろう。考えたくもないけどね。
憧れだった俺tueeeな展開は諦めた方が良いのだろうか…。いや別に格下をなぶりたいとそんなんじゃなくてさ…主人公主人公してる奴になりたいんよね。あれ?そうなると俺tueeeの類いじゃねぇのか?うーん…基準がわかんねぇよ。
「もうこれわかんねぇな」
少しソファーに座ってゆっくり休憩。チラッと台所を見れば、まだミオさんが忙しそうに料理している。まだ掛かりそうなら、昼のやる事を少しでも減らしておこう。
やることはお掃除。
掃除機とか無いからハタキでパタパタやるのだが、向こうで料理中だから埃が飛ばぬように隣の部屋とかをやろうと立ち上がる。
「うむ、中々いいんじゃねぇか?」
あくまでも自分基準ではあるものの、掃除となれば結構気を使ってるつもりだ。
ハタキ掃除を終えたら、濡れ布巾で掃除していく。
「お疲れ様ですアキラおじさん。母さんがご飯ですよって呼んでますよ」
フキフキと我ながら勤勉に掃除をしていると、背後から幼いながらもイケメンだな、っと分かる声が聴こえてくるので振り返る。
「おお、ルカ君。悪いね、わざわざ呼びに来させちゃって」
「あははっ平気ですよ、家の中なんですからっ!」
ルカ君はそう言いながら笑う。確かに家の中ではあるんだけどさ、俺は居候だから…謙虚に…ね?しないと。
「うしっ、取り敢えずは終わったから行こうか。あ~ミオさんのご飯楽しみだな~!」
「母さんのご飯は美味しいですからね、俺の自慢です!」
そんな話をしながら部屋を出て台所へ向かうと、今日も美味しそうな料理が並べられている。
「おお、来たねアキラ君。さぁ座った座った」
既に席についているルオンさんに促されるままに席につく。並べられた料理を見ればパンだろうか?きつね色に焼かれたパンの間にベーコンらしき物と卵が挟まれている。
控え目に言っても旨そうだ。
「いただきます!………んぅ~~!!うめぇ!!」
元気な掛け声と共にパンにかぶり付く。パクっと一口食べれば、熱々の卵とベーコンが俺を出迎える。更に食べ進めると、なんとチーズが出てくる。旨くねぇ筈がねぇッ!!
「うふふ、アキラ君は本当に美味しそうに食べるわね~」
食べることに夢中になっていると、ミオさんを始めとしたフリューゲル家(スゥーリさんを除く)全員に笑顔で見られる。正直恥ずかしい。
「えっと…その…!美味しすぎて…あはは…」
少し頬に熱を感じる。多分今の俺は赤面しているだろう。恥ずかしさを紛らわせるようにはにかむ。
「はっはっ!そう恥ずかしがること無いだろう?」
「そヴッ!ですネ“ッ!」
背中をバシバシと笑いながら叩いてくるルオンさん。悪気が無いのは分かってるけど痛いっす…食った物ゲロっちゃうって…
─────────
朝ごはんを食べた後、俺は少し残った掃除を完全に終わらせる。残りの細かいお手伝いは帰った後にやろう。
「よいしょっと。ではミオさん、行ってきますね!」
借りたショルダーバッグに水とこの辺の地図、この辺の伝説が記された本に干し肉を入れて靴をはく。
「ええ、行ってらっしゃい。危ないことはしちゃダメよ?」
「あははっ、わかってます!ではっ!」
最後にそう言い、俺は玄関の扉を開ける。時刻は酉刻の表、午前10時だ。時間は結構ある。
そう言えばなのだが、フリューゲル家に魔石で動く時計があるのだけど、こっちの世界の文字で干支が書かれてて分かりにくい。何でか気になって調べたら、何か数字の1から12は不吉らしい。十二使徒が関係しているとかなんと書いてあった。
っと心の中で寂しく雑談トーク(※彼1人です)をしながらあるけば村の入り口到着。今日はフールさんの姿が見えないからお休みっぽい。特に門番の人に言うことも無く、軽いお辞儀だけして村を出た。
「えーと?ここに書かれてるのがあそこで…この村がここだよな。なら…」
ブツブツと地図を見ながら呟く。今回起こしたいイベントは、四聖獣・水鞠の白虎との遭遇で何か力をいただけないかな?あわよくばペッT──んんっ失礼、仲間になってくれないかなってプラン。
主人公としての流れにはやや遅れ気味ではあるものの、伝説の生き物を仲間に引き込むのはラノベやなろうではお約束。俺も何か仲間にしたいのだ。
……別に1人が寂しいとか、俺の力が異世界に通用しない可能性を考えての対策とかじゃないからね?
「今日天気悪いな…」
何処と無く不吉と言うか何と言うか…何か一波乱起きそうだ。一般ピーポーならそう考えるだろう。だが俺はというと、、
「うんっ!イベント起きそうだ!ヒャッホウ!!ふんふんふ~ん♪」
能天気。お気楽。お馬鹿。そんな言葉が似合う男ッ!アキラ!アキラをどうぞよろしくッ!!
……茶番ッ!
森を歩くこと一時間弱程。
本に書かれた場所を目指していく。目指すは村からも見えていた一際デカイ岩山。その麓に祠があるらしいのだが、少し失敗したなと考えていた。何故ならば。
グゥ~~……
「腹減った…」
腹の虫が静かな森に響く。まさかここまで祠が遠いなんて思ってもなかった。一時間弱歩いたにも関わらず、まだ到着しない。往復も入れたら何時になることやら…憂鬱だ。
そこから更に50分程歩くと…
「つ、ついたぁー…」
岩山の麓に堂々と構える祠。日本生まれの俺からすると、神社みたいに感じる。
「さてさて…お供え物を…」
ショルダーバッグを開けて、お供えのつもりで持ってきた干し肉を祠にお供えする。
「狐系の生き物なら油揚げとか持ってきたんだけどな。虎だし…肉であってるよね?」
虎=肉食獣=肉
と安直だがたどり着いたのは干し肉。
そして、パンパンっと手を合わせて目を閉じる。果たしてあっているだろうか?
特に何もイベントが起きないので、本を開い見る。何かイベント発生のヒントはないだろうか。
四聖獣・水鞠の白虎
かつて世界に災いをもたらしていた十二使徒の一角、ライブラを追い払い、村を救ったとされる聖獣・水鞠の白虎。
村の人々は白虎に深く感謝し、村人達は白虎を讃える祠を立てた。それ以降村を中心に、森には災いが起こることはなかった。
「ふーむ…ここは失敗だったかなぁ…」
昨日の夜テンションで選んでしまったが故の失敗。こういう場合は、主人公のピンチに現れたり、テンプレで言うなら体を縮ませて現れるがお約束だ。
…俺にピンチが現れるまで現れないの…?
「すぐ来そうだな…」
嫌な事ではあるが、俺にピンチは割りとすぐ起こる。ホント不本意だけどねぇ!?
「無謀過ぎたな……はぁ…帰ろ」
少し駆け足で村へと急ぐ。若い体様々、結構走ってるけど疲れにくい。ここは褒めてやる、リコス。
「えっほ、えっほ、えっほ───ん?」
長距離走の時に出る掛け声を出しながら走る事数十分。何処からか視線を感じる。
それと同時に、ピキーン!っと俺のなろうセンサーが鳴る。
『フッ…来たな、イベントッ!』
俺を見つめる視線。刺さるような視線。
食い入るような視線。飢えた獣のような視線。
獲物を見つめるような視線。
ん?獲物を見つめる視線…?
何かおかしいと感じた俺は各方面の森をキョロキョロする。
『あれ…?この場合だと…白虎さんが来るんじゃないんですかねぇ…?何故俺は獲物として捉えられてるんですかねぇ…?』
何故獲物を見るように見られているか、その答えは簡単だった。
「えっ?」
グルルルルル……
低い唸り声と共に、薄暗い森の奥から俺をロックオンする複数の眼光。勘のいい俺じゃなくてもわかる。これは……白虎じゃない。
「……………んふ…」
無表情で軽い吐息を漏らし、俺はアキレス腱を伸ばす運動を始める。それを終えたらすぐにクラウチングスタートの体制に入る。
“いのちだいじに“
脳内でそんなアナウンスが流れる。
森にいる複数の獣の眼から放たれる殺気が一際強くなった瞬間、、
「逃げるんだよォォォォォオオオォォォオオ!!」
全身全霊の猛ダッシュ。過去最高速度、こりゃぁ世界狙えますよォ…と言える程のスピードで俺は帰り道走り出す。
『ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイィィィィィイイ!!!?』
ヤバイしか言えんのかこの猿ゥ!
そんな罵声が聴こえてこようがしったことじゃない。
切実な話、マジで後ろヤバイって!!
沢山の足音が聞こえるんすよ!?早い話、獲物として追われてるんだよッ!!
「あ“ぁ“ぁ“!!覚えてろよリコスゥゥゥゥ!!!!」
森に疫神の名前が響き渡る。
(命の)ポロリもあるよ♡大運動会!ドンドンパフパフッ♪
今、スタートです!!
「そんなのスタートしなくていいから!!?」
自分でボケて、自分で突っ込む。今はそんな余裕ある筈が無いのだが、いつの間にか癖になったようだ。
そんな事を頭の四隅で思いつつ、俺は全速力で逃亡するのであった。
お陰様でモチベーションが上がったので、早めに投稿。
 




