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234話:再稽古

ブックマークがちょこちょこ増え続けてくれるのが嬉しい。

「ヴッ……ぐが…ッ…!!ゴホッ…ゴホッ……」


ぐちゃぐちゃになってしまった感情を必死に抑え、暴発していた[黒水(こくすい)]と[黒炎(こくえん)]を消した俺は、木に凭れながら息と感情を落ち着かせていく。


「俺のくせしてうるさい奴だ……いや、俺だからうるさいのか。チッ…頭がイテェ」


しかし自分自身の言葉に惑わされてしまうとは…情けない限りだ。俺の言葉のせいで、危うくレヴィアタンとサタンに呑み込まれてしまう所だった。ただでさえ不安定の状況なんだ、1度呑まれたら帰ってこれないだろう。


「……今はあの場所に戻る訳にはいかないな…」


皆の明るい雰囲気に反応して、もう1人の俺が強い嫌悪感を出すのなら、大罪悪魔の力が暴走してしまうのなら……少なくとも今は皆の元へいかない方がいいだろう。


「はあ……」


溜め息を吐きつつ、俺は木陰に隠れながら1人寂しく[黒水]と[黒炎]の熟練度を上げる稽古に励んだ。

やりたい事や戦闘に組み込めそうな事は沢山ある。だがそれが実際に導入出来るかどうか、そもそも考えている事を形に出来るかは別問題。モブの俺はこんな地味な方法でしか稽古が出来ない。


「見つけた。何してるの?」


「ミル……あはは…見付かっちゃったか。こういう1人稽古はひっそりとやるのがお約束なんだけどなぁ…」


炎と水という相反する能力の同時使用の為の稽古をしていると、足音と共にやって来たミル。

1人寂しく稽古をしていた為、恥ずかしそうに頬を指で掻きながら視線を外したアキラ。


「ふふっ…やっぱりボクとの記憶が無くても君は変わらないね」


「えっ?それって……あっ、もしかして前も同じ事言ってた?」


「ん、その時も恥ずかしそうにしてたよ」


クスクスと小さく笑うミルに、俺もつられて笑みが溢れる。やっぱり彼女といると、心がなんだか暖かくなる。好意…とはまた違った感情だとは思う。どちらかと言えば親愛に近いのかもしれない。


「ねぇ、久し振りに一緒に稽古しよ?」


そう言ったミルは俺に2本の木剣を見せる。だが彼女の右腕はもう無い。利き腕を失くした人間は簡単には体の感覚を掴めない。彼女があまりに不利すぎる。


「平気。ボク、強いから」


「……分かった。やろう!これで何か思い出すかもしれないしなっ!」


「ん…!」


ミルの瞳が共に剣を交える事を望んでいる。マグさんはミルは元気が無いと言っていた。これで少しは元気になれるならと、俺は彼女の提案を受け入れた。

記憶を失くす前に俺はミルに勝ったことがあるのだろうか。だがどちらにしても、今の俺は異世界に来たときとは比べ物にならない程強い。


「負けても文句は無しだよ!」


「ん、勿論。だからボクも────全力で行くよっ…!」


「ッ!!?マジかよ…!?」


凍えるような冷たい風が頬を撫でた瞬間、ミルはもう目の前にいた。上段から下段への斬撃ではなく、完全に俺をダウンさせる気満々の容赦無い突きの体制で。


「やっぱり強くなってる。離れている間に色々あったんだね…」


紙一重でミルの突きを弾いた俺は、素早いバックステップで彼女から距離を取って息を整える。

やろうと思えば追撃など容易いだろうに、彼女はその場で制止したまま、少し寂しそうな表情でそう小さく呟く。


「アキラは大事な弟子だから……成長はボクが1番近くで見たかった…」


「ミル……────ゥッ…!?はやっ…!」


悲しい表情のままポツリとそう発した瞬間、俺の背後から冷気を感じた。

ヤバい、そう感じるや否や、俺は足に力を込めて人間離れした脚力で回避する。だがそのせいで足首辺りの骨が逝った。着地はカッコ悪くなってしまったが、背後からのミルの一撃を食らうよりはまだマシだろう。そう感じる程に本気の気配だった。


「ん、反射神経は衰えるどころか進化してるね。筋肉も発達しつつ、柔軟性を失っていない……ん、次の[終雪(しゅうせつ)]を習得出来そうだね」


顎に手を当てて、そう1人で呟きながら何かを考えているミル。どこか俺を試すような動き。それはつまり、ミルはまだ本気を出していないと言うと事だ。恐ろしいな……利き腕を失くしてからまだ1週間程しか経ってないんだぜ…?


「なあ、[終雪]って何…?」


「ああ…そっか。ボクとの記憶が無いって事は今までに覚えた技も忘れたって事だよね…。でも大丈夫。ボクが付きっきりで教え直すから」


「お、おう…」


凄いいい顔でニコりと笑ったミル。何故だろう…ミルの可愛らしい笑みに俺は恐怖心を抱いているぞ…?なんだろう…すっごいデジャブを感じる。


その後始まる地獄の再稽古の事を、アキラはまだ知らない……


───────────


「………」


アキラとミルが剣を交えている姿を、屋敷の窓から眺めている1人の黒髪の少女がいた。

その視線はどこか寂しくも感じ、ミルへの淡い嫉妬心も感じる。


「アキラ君に言わなくていいの…?」


「……何をかしら?」


「ローザちゃんの邪剣の事よ。それに“強欲“から受けた傷だってまだ……」


ルナの言葉に、無意識に左腕を撫でるローザ。彼女は数秒瞳を閉じ、そしてゆっくりと瞼を開く。


「別にアキラに話す程大きな事では無いわ。あれは私が弱かったから起こった事。それに……」


そう一拍開けてたローザは、庭で悲鳴を上げながらミルの無慈悲な斬撃を受けているアキラへと視線を戻す。


「それに……あまりアキラには心配を掛けさせなくないの。彼、私を凄く大切にしてくれるから…」


「あら……もしかしてローザちゃん、アキラ君の事…」


「っ!?ち、違うわよっ!そんなんじゃないわ!~~~っ!やっぱり今の言葉は無しっ!ルナも忘れなさい!いいわね!?」


「ふふっ!は~い、忘れますっ!」


珍しくローザがあたふたとする姿を見て、微笑ましさのあまり笑みが溢れたルナは、無自覚のアザトポーズでローザへの返事をした。



「なにやってんるんだ…?姉さん達…」


そんなルナとローザを影からひっそりと見ているソルは、なんだか入りにくい雰囲気のあまり、完全に出るタイミングを失っていた。


「今の事聞いてたなんてローザに言ったら僕……殺されかねないな。…うん、黙っていよう!」


誰にも聞こえないように、そう小さく呟いたソルは、誰にも知られる事無く2人の会話を知らない事にした。


だけど結局は姉のルナに隠れている事をバラされたソルは、5分後に若干不憫な思いをする事になる…

奇しくも片腕が使えなくなるのはアキラもミルも一緒だな、と最近気付いた。

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