233話:白と黒の感情
「……っ…」
「…?どうしたの?」
ミルからの突然の奇襲を受けた俺は、ミルと向かい合って1人掛けのソファにこじんまりと縮こまって座っていた。
顔は真っ赤に赤面。当然だ、年齢=恋愛経験無しの俺。どう反応すればいいのか、それはなんとなくだがラノベで知っていた。だがこれは現実であってフィクションじゃない。あんな咄嗟にカッコいい反応は俺にはハードルが高過ぎた。
「い、いやぁ~この部屋暑くない!?」
「そう…?常温だと思うよ」
体温が上昇している俺は、パタパタと扇ぎながら場の空気を変える為そう発言する。
だがそんな俺とは裏腹に、ミルは首をこてんと可愛らしく倒して、不思議そうに俺を見つめている。
『いや待て、ほんのりではあるが……ミルの頬が紅く染まっている…?』
平然保っているが、彼女もホントは少し恥ずかしいのだろう。時折視線が俺から外れるのが証拠……と言いたいが、表情が変わらないからあまり確証は無い。記憶を失く前の俺はどうやって彼女に接していたんだ?
「えと……なあミル、さっきの事なんだけどさ…マジなのか?」
「っ…!マ、マジだよ…!」
バンっ!とテーブルを叩いて立ち上がったミル。静かでおっとりしてそうな容姿だったので、意外のあまり少しビクッとしてしまった。
「ああいう事は……昔からその…してたの?」
「っ…!?し、してないよ…!今日が…初めて」
「あっ……」
見る見る内に顔を紅くしていくミルは、恥ずかしそうに俺から視線を反らし、声を小さくそう言うとソファに座る。
妖艶な笑みを浮かべていた彼女も、本当は恥ずかしかったのが見てとれる。
「ボク、本気だから…!」
頬を赤らめながらも、真っ直ぐと俺の眼を見つめてミルがそう言った時だった。
「何、かな?この…雰囲気、は……」
「え?あっレ、レヴィ!?」
ドアをぶっ壊して部屋に入ってきたのは俺の契約した悪魔、レヴィだった。
表情と眼は死んでいるが、オーラと言うか気配と言うか……とてつもない怒気、いや殺意に近いモノをレヴィから感じる。
「すまないアキラ……頑張って抑えていたんだが…」
「アキラ君のレヴィちゃん強すぎぃ~…」
申し訳なさそうに部屋に入ってきたのはソルとルナだった。久しい再開に喜ぶ間も無く、レヴィが俺の胸ぐらを掴む。なんてパワーだ……
「アキ、ラ…はちゃん、と自覚……してる、の?アキラ…がわた、しのだって…事を」
「っ…!っ………!?」
足がもう床につかない程に上へと上げられた俺は、言葉を発せない。恐怖からなのか、物理的に声が出せないのが原因か……
「やめて。アキラ、苦しそう」
「なに…?その、眼……嫌いな、眼…だね」
苦しむ俺を見かねたのか、ミルが俺を助けるべくそうレヴィへと言うと同時に、どこから出したのか分からない剣をレヴィへと向けた。
また助けられてしまった、そう考える暇も無く、2人の纏う雰囲気に俺はビビっていた。
「2人と落ち着け…!ゴホッ!ゴホッ…!」
ピリピリとしたこの空気を変える為に、俺は少し無理をしてそう言うと、2人は怖い雰囲気を消して、レヴィは俺を下ろしてくれた。
「ルナ、ソル!久し振りっ!元気にしてたか?」
「ったく…!お前って奴は本当に…!」
「あの時は本当に死んじゃったと思ったんだからねっ!」
ルナとソルの姉弟に久し振りの再開を果たした俺は、嬉しさのあまり子供のようにピョンピョンと跳ねて喜ぶ。
やはり失くなっている記憶はミルに関してのだけのようだ。
「あれ?ローザは?…………あ、いた」
「はぁ……何でこっちに来るのよ。久し振りの再開なんでしょ?私がいたら邪魔でしょうに…」
ローザの姿が見えないと思い、部屋の外に出ると壁を背もたれにして廊下で待機していたローザ。
彼女は俺に気が付くと、小さく溜め息を吐いてそんな悲しい事を言った。前の宝瓶宮との戦い後の船内でも、ローザは1人でいた。やはり1人が好きなんだろうか。
「これで俺の仲間が全員揃った……なんだか嬉しいな…」
「何で泣くんだよ…」
「あらあら…」
ローザも部屋へと半ば強引に連れてきた俺は、皆に改めて紹介すると同時に、皆の顔を見て思わず涙が汲み上げてきた。
オロオロとするミル、少し苦笑いのソル、頬に手を当てて微笑ましいと言わんばかりの表情のルナ、スッと無言でハンカチを手渡すローザ、俺の腕にさっきからずっと無言で抱き付いているレヴィ……それぞれ反応は違うが、それさえも懐かしく感じる。
「ッ……!!?────ごめん、俺ちょっとトイレ!」
「このタイミングでトイレかよ!」
「あはは…ごめん…!」
ソルのツッコミに笑いながら、俺は廊下を走る。向かうはトイレ、ではなく外だ。
玄関口の扉を開き、俺はそのまま庭の木に手を当てて息を整える。
──あんな明るい場所、俺には似合わない。もう分かっている筈だ、既に俺がいる世界はアイツらとは違うのだと。共に歩ける筈がない。
「黙れ…ッ!はあ…ッ…はぁ…!お前は…出てくるな…!」
──あんな連中とつるむよりも、もっと主人公らしい事をしよう。そうだな…ミルの腕と聖剣を奪った奴への“復讐“、なんてどうだ?
「ッ!?それは俺が求めている主人公像じゃ…!───あ…がァッ…!!」
──抵抗するなよ。どこまで行っても俺は正義の味方にはなれない。所詮は自分の都合で殺し、救うエゴイストなんだからな。
「黙、れ…!あぁぁァぁ……ッ!!あ、ああ…ッ!?嫌だ…!!」
瞳から流れ出る黒い水。全身を激しく燃やす黒い炎。制御が出来ない。いままで抑えていたモノが今にも溢れ出てしまう。そう焦った所で、1度取り乱してしまった感情を抑えるのはほぼほぼ不可能に近い。
特に“嫉妬“と“憤怒“の感情は、、
「殺してやる…ッ!仲間…ミルから奪ったモノを…………返してモらうぞ…!!」
ぐちゃぐちゃになってしまった感情が一気に溢れ、思わず口に出した言葉。
それは俺の本心であり、嘘。矛盾しているが矛盾していない。どちらも本当。
また1つ、俺のやるべき事が増えた。あの男、“強欲“だけは俺がこの手で必ず殺してやる。
精神崩壊させたい。




