224話:憤怒
「痛いし熱い……が、その辛さも攻撃に変えるッ…!!」
漏れ出る赤黒い炎が自身の皮膚を焼き、焼いたそばからすぐさま再生される。常に火傷の痛みを受けているようなものだ。
だがその炎を己の武器へと変えて、天使達の軍勢へと放つ。その威力はまさに爆炎。広範囲かつ高威力。[黒水]と違って遅効性ではない炎。即効性かつ持続性の炎、それが[黒炎]。
「大丈夫、なの…?サタン、の力は…ハイリスクハイリターン、の筈」
「ああ…かなり精神面をゴリッゴリに削られるが……問題は無い。痛い事や辛い事を我慢するのは慣れてる」
それについさっきまでサタン何度も殺される体験をした。実際に死ぬ訳ではないが、痛みはキチンと感じていた。それに比べればこの炎くらいなんて事無い。
「ッ───!!来やがったな…!大天使ども…ッ!」
隣のレヴィではなく、真っ直ぐ一直線に俺を狙った光の光線。それを[黒水]で造り上げた剣で弾いた俺は、攻撃主へと視線を向ける。
「貴方と戦うのはこれで何度目でしょうか。ですがこれまでの私とは思わない事ですっ!!」
「ウッ!?───へへっ…!なんだよ、見違える程強くなってるじゃねぇか…!」
バチバチと激しく鳴らして弾ける金色の槍。俺の記憶ではラミエルが所持してた雷霆ケラウノスは黄色の槍だった。
『気配だけでなく専用武器まで強化されているのか?フッ…!それはそれで最高だな!』
以前よりも大きくなっている大天使達の翼と、綺麗な輝きを写す瞳。強化されているのは一目瞭然だ。
愉快。相手が強ければ強い程に俺は成長できる。故に大天使達が強化された事は大変喜ばしい。おっと、ついサタンの口癖が出てしまった。
「[聖なる銀の鎖]ッ!!」
俺の体を捕縛する魔方陣から出現した銀色の鎖。この細さからは考えられない程強固であり、こちらの力を更に弱体化させているのを感じる。
「アキ、ラ…!?今助け───」
「させません!!“嫉妬“のレヴィアタン、貴女の相手は“人徳“を冠する私、ラミエルが相手します!!」
俺を助けに向かおうとしたレヴィは、ラミエルによって遮られてしまう。普段のレヴィならラミエル相手でも問題無いだろうが、今奴等は大幅に強くなっている。“嫉妬“の反対である“人徳“は恐らくレヴィの天敵の筈だ。もっとも、光の闇の関係のようにそれはラミエル側も同じなのだろうが。
「先ずは君と契約している“嫉妬“を始末する。その後にその体内にいる“憤怒“を引きずり出す。だが安心していい、君に危害は加えない」
眼鏡をクイッと上げながらそう言ったのは、俺を銀の鎖で拘束するサリエルだ。
サリエルにとっては俺に対しての危害ではないのだろうが、俺にとっては実害以外の何物でもない。当然抵抗する、拳で。
そんな訳ではなく、、
「解除、そして錬成!!」
手に持っていた[黒水]で出来た剣を元の水へと戻したそばからすぐさま錬成。造るのを一瞬で終わらせる必要があった為、形状は歪この上無いがそれを操作して、、
俺の腹を切り裂いた。
飛び散る鮮血、溢れ落ちる内臓。そして意識が飛びそうな程襲ってくる激痛。
体を縛っていた鎖から逃れる為に、俺は自身の体を半分にして拘束から逃れた。
「ッッッ──────!!戻って来たぁッ…!!」
その痛みのあまり、トンでしまった意識を持ち前の精神力ですぐさま覚醒して復帰する。
ある意味チートだが、使える場面があまりに少ない事と、辛い鍛練などをしていれば誰でも身に付いてしまうからチートの定義ではないんだけども。
「君は…!バカなのか!?たかが拘束から逃れる為だけに自身の体を切断するなど気が狂っているとしか言いようがない…!!」
「気が狂ってなきゃ何十年も異世界転生に憧れるかよッ!」
理解の出来ない化物を見るような目でそう叫んだサリエルの左脳へと回転踵蹴りを放つ。今が空中戦で良かった、着地に失敗したら自傷と判断されまた激痛を受ける事になる。
もっとも、俺の蹴りがサリエルの左脳部分に当たった時点で結果は分かっているのだが……
「がああああああッッ!!!!ッ…!く…ぅ…!」
膝関節が真逆の方向へと曲がってしまう程の威力。物理攻撃の威力が上がっても、これじゃあとても使えない。
だがこうなると分かって放った今の1撃はサリエルへと大きな打撃を与える事に成功したようだ。
「おいおい…!今ので気絶でもしてくれないとこっちの損害に合わねぇぞ…!」
だが気絶までにはいかなかった。普通の人間にあれを放ったら、頭を吹き飛ばしてもおかしくない。だがサリエルは頭を苦しそうに押さえるだけで、傷を負っているようには見えなかった。
「今のは……効いたぞ…!」
『やはりだ。なんなんだ?この異常さは……。やはりこの結界の影響なのか?俺が弱体化されているから効かない、とか?』
相手の観察をしつつ、サリエルの近接魔法を[黒水]の剣でいなし、遠距離からのウリエルの攻撃を[嫉妬罪]で消し去る。
だがこれではジリ貧だ。相手からの攻撃ダメージは全てカットされているが、体力面まではサポートしきれない。相手は悪魔特効の精鋭中の精鋭、悪魔を倒すプロだ。それを2人も相手にしていてはヤバい。
「くくっ、予想外だな。いつもみたいに俺の独壇場になると思ってたのに。大天使って結構強いんだな」
「うーん…その評価はスッゴい嬉しいんだけどね?アキラ君、そのギラついた目をやめてくれないかな?」
おっと、意外な強敵を前に興奮していたようだ。やはりいいな、強い奴と戦うのは。本来なら、主人公より強いやつは異世界ではご法度に近いのだが……俺はそれが好きだ。更にぶっちゃけてしまえば俺には残念ながら補正が無い為、運で勝てる可能性はかなり低い。改めて主人公補正ってズルいよね。
『…と、長く考えるのはいいが……ふむ、どうしたもんか』
完璧な連携のウリエルとサリエル。近中遠と隙が無い。どれだけ稽古を積んでも、ネーム持ちキーキャラにはモブは勝てないのだろうか?
「なぁ~に弱気になってんだ!その答えは否ッ!!だろがッ!!」
「これで終わりましょう![神聖の灯火]っ!!」
俺がそう叫ぶと同時にウリエルが展開した巨大な金色の十字架。それは1つに纏まり、極太の光のレーザーへと変化した。
「やった…!?」
「…!いや待て!まだ彼は倒れていない!!」
眩い光を放つ光レーザーが収まると同時に声を上げたウリエル。だがすぐさまサリエルが制止の声を上げ、警戒を表情に表す。
「なんだあの禍々しいモノは…!」
アキラがいた場所にはまるで盾のように展開された巨大な赤黒い炎の壁があった。
「[擬似憤怒の盾]、そう名付けようか…!」
赤黒い炎が消えるとそこには得意気な表情をして笑うアキラの姿があった。
瞳を赤黒く染め上げて、、
やっぱ憤怒と来たら盾の勇者だよね~(すっとぼけ)
はい…すいません…
ア、アキラが悪いんだ…!アイツが勝手に人の技をパクるから…!




