221話:荒れる嫉妬
「アハッ…!イヒッ!イヒヒヒヒ!!そういう君も相変わらずじゃあないか…♪アキラの姿でそんな冷たい態度をされたら僕、興奮しちゃうなぁ~…!」
「軽蔑。本当に気持ちの悪い笑みだ。しかし…ふむ、この体は中々だ。───驚愕…!何故この人間の中に“嫉妬“が結び付いている…!?」
「あははははっ!!気が付いたぁ?その子はちょっと特殊な人間でね?僕達にとっては無限の可能性を秘めているんだよっ♪」
体の異常を感じ取ったアキラの人格を奪ったサタンは、半信半疑ながらもベルフェゴールへと耳を傾ける。
もしあの悪魔が言っている事が本当なら…そう静かに思考するサタンは、顎に手を置いて何かを考えている。
「…?これは……成る程、天使の方ですか」
「“憤怒“のサタン…まさかお前の因子が残っているとは驚きだ。だがお前はここで消す。そして彼の体から出て行ってもらおう、“嫉妬“と共にな…!」
思考していたサタンの回りを囲う三角形の光の結界。悪魔の動きを封じるだけでなく、浄化作用まである大天使の力を全て注ぎ込んだような聖結界だ。
「聖結界ですか。ですが────無力。その攻撃は私には効きません」
「馬鹿なッ…!?」
無理矢理結界外へと出ようとするサタン。悪魔の力に反応するこの結界内で、そのような行為はまさに自殺行為に等しい。にも拘わらず、サタンは止まらずに結界を破ろうと腕を伸ばす。
触れただけでその身を焼く聖結界。だが脅威的な再生能力を持つサタンにはまさしく無力だった。
時間は多少掛かったものの、サタンは悪魔ながら大天使であるサリエルの力を全て使った結界から脱出してしまった。
「承認。確かにこの体は異常だ、ここまで再生可能とは思わなかった。確認。ベルフェゴール、彼の名前はなんと言う?」
「彼の名前はアキラ、テンドウ・アキラだよ♪気に入ってくれて良かったけどさぁ…───その子、僕のだからね?」
「ほう……」
興味深い人間、テンドウ・アキラの名前を聞くと同時に飛ばされる殺気。あのヘラヘラと常に笑っているベルフェゴールから笑みが消えた。
成る程、余程目の前の悪魔はこの人間に入れ込んでいるらしい。
「懸念。貴方の考えは相変わらず分からないが……ふむ、どうやらこの場所は少々不味いらしい」
いつの間にかこの場からいなくなっている大天使。どうやら彼は援軍でも頼んだのだろう、この国に天使が大量に近付いてきている。
「逃亡。我々大罪悪魔が2匹も揃えば当然。私はまだこの体に馴染みきっていない。故に逃亡させてもらおう」
その背中に大きな翼を2枚広げたサタンは、表情変わらぬまま空へと羽ばたいた。
「わた、しのアキラ……から…!出ていけ…ッッ!!」
「ッ───────」
か細い声に含まれた強い殺意と怒気。その次の瞬間には上空から巨大な黒い竜がサタンへと降り注いだ。
「仰天……まさか契約主ごと攻撃するとは。久しいな、レヴィアタン」
「黙、れ…!アキラ、の……中から…!───出て、いけっ!!」
レヴィアタンからの攻撃を赤黒い炎で切り裂き、両者睨み合う。
余程ここに来るまでに急いだのだろうか、レヴィアタンは息を荒くして、その黒いドレスにベットリと赤い血を付着させていた。
「悲心。久々の再会でその言葉は悲しいな。ふむ…君はアキラはわたしの、そう言ったが……遺憾。この体は既に私の物となった」
「ふざ…けるな……ふざける…!!」
震えながら小さくもハッキリと聞こえる声で呟くと、血走った形相でサタンを睨み付ける。
「ふざけるなァァァァッッ!!!!」
怒りの頂点に達したレヴィアタンは、鼓膜が破れる程大きな声で叫ぶと、レヴィアタンの体が水のように膨張していく。
それはもはや近辺に聳え立っている建物など比ではない程に大きく、そして細長くなっていく。
「あーあ…サタンちゃんのせいだゾ~、レヴィアタンの事をあんなに煽るから」
「失念。こうして彼女と合うのは久方だったのでな、ここまで奴が嫉妬深い事を忘れていた」
いつの間にか傷を再生させ、サタンの横に並んでいるベルフェゴールと共にどんどんその体を大きくしていくレヴィアタンを見上げる。
「どーすんのさ…これ。こうなった以上に、彼女は君を殺すまではどこまでも追ってくるよ~」
「…熟考。今それを考えている」
人形だったレヴィアタンは、それまでの姿からは連想も出来ないような禍々しく巨大な毒蛇へとその姿を変えた。
感情の赴くままに、レヴィアタンは暴れる事は確かだろう。
「提案。今この場にやって来る天使達を利用し、彼女を倒────させねぇ…!」
ベルフェゴールへと、レヴィアタンを倒す算段を話そうとした瞬間、サタンの口調が変わり、能面のように無表情だった顔に感情が露になる。
「アハッ…♪凄い、凄いよアキラぁ~…!まだ完全に回復していないとはいえ、完全体のサタンから意識を奪い返すなんて…っ!」
「黙って、ろ…!!メランコリー…ッ!!これは俺の体だ…!!許可無くテメェは出てくるんじゃねぇよ…ッ!!」
──愉快。いいだろう、ここまで来い。テンドウ・アキラ。
「言われなくても…!そうするさ…ッ!!─────」
最後にそう苦しそうに発すると、糸が切れたように倒れたアキラ。それを笑顔で支えたのはメランコリーだった。
「この危険な状況で話に行くなんてねぇ……。ははっ、でもアキラらしいや♪いいよ、僕がそれまで守って上げるよ」
そうニコリと笑ったメランコリーは、アキラをお姫様抱っこして建物の屋根上へと移動した。
「あんまり僕って体力無いからさ、早めに頼むよぉ~?」
「───ああああああああっっ!!!!返せぇぇぇぇぇぇ!!!!」
それを見たレヴィアタンが狂ったように暴れまわる。50mを越えるその巨体では少し動くだけでも大惨事だ。
メランコリーを狙った水の光線を軽々と避けたメランコリー。風圧によって捲れたフードからは、黒緑色をした瞳に、短い黄緑色の髪が露になった。
「怖い怖い嫉妬の鬼からの逃げましょう~♪」
ニッとまるでノコギリのような歯を出して笑ったメランコリーは、この状況にも拘わらず楽しそうにレヴィアタンから逃げ出した。
初めてメランコリー改めて、ベルフェゴールの姿が出た。
黒緑色をした瞳に、少しタレ目。
特徴的な黄緑色をした髪の毛に、少し長めのショートヘアをしている。
普段からニヤニヤとしており、歯はノコギリのようにギザギザとしている。
身長が150程しかなく、容姿が容姿な為、フードを取るとメスガキに見える…らしい。




