218話:荒れ狂う毒竜
ゆるして(パート2)
『まさかこんな所に天使がいるとはな、正直ビックリだわ』
【ダンまち】で何度も見たミノタウロスにそっくりな魔物を投げ飛ばした俺は、たまたま恐らく天使だと思われる少女に出会った。
そんな彼女は何故自分の正体が分かったのか、驚いた顔をしている。
恐らく彼女は下級の天使なんだろうが、悪魔と契約している俺は天使の気配にとても敏感だ。多分大罪悪魔が最上級の悪魔なんだろうが。
「にしても凄い変則射撃……なんであんなに曲がるんだよ、おかしいだろ」
グネグネと曲がる光の矢。物理の法則もクソも無い狙撃だ。だが的確に魔物達の数を減らしてくれるのはありがたい、正直俺だけではキツかったのは確かだ。
「そう言えばまだ名前を聞いてなかったな。俺は……って知ってるか」
「テンドウ・アキラ、でしょ。私の名前は………フテラ」
「フテラ…!いい名前───だなァッ!!」
背中合わせになった瞬間に気軽に聞いてみた彼女の名前。まさか教えてくれるとは思っていなかったから少しビックリしたものの、そんな驚きも粗末な武器構えて走ってきた植物の魔物によって現実に戻される。
「私の名前よりも、どうするの?この数は流石に分が悪いわ。1人で戦おうとしてたんだから何か作戦があるんでしょ?」
「一応な。だが実践投入した事無いから上手くいくかどうか」
この国に来るまでの道中、時間がたっぷりあった俺は、常に練習していた新たな[黒水]の技。
だがまだ操作も上手くいかない技の為、適当に放っていた[疑似神之怒]よりも難易度が高い。
「だけどやらなきゃ結果は変わらない。ならやってやるよ…!──────[疑似毒竜]ッ!!」
俺の背中から[黒水]を出し、それを巨大な3つの首を持つ伝説の怪物、ヒドラを作り出す。
モデルは【防振り】の毒竜であり、こっちの毒竜は黒色であり、残念ながら本家のように紫色じゃない。それでも造形はかなり凝った方だから、自信ある。アニメとそっくりなんだぜ?
「発射」
[黒水]で造り上げた剣を魔物達へと向けた瞬間、黒い毒竜は3つの口から真っ黒の液体を放射する。
広範囲且つ、3方向同時発射の毒液。低能の魔物には逃げるという判断があまりに遅く、気が付いた頃には[黒水]の毒に呑まれていた。
「凄い……あの数を一瞬で…!」
「気を付けろ、その黒い水に触らない方がいい」
その黒い水は人体に悪影響しか与えない水だ。ましてやそれはレヴィの、悪魔の力で放った物。天使は触れない方が絶対いい筈だ。
「これでかなりの数を減らしたと思ったんだが……チッあの穴がある限り、キリがないな」
まさに無限湧き。倒しても倒しても、上空にある【次元の裂け目】から新たな魔物が放たれる。今のところ超大型危険指定魔獣・ベヒモスのような大物が現れていないのが幸いだ。
「うっ…!」
「…!おい、大丈夫か!?」
もう時間さえ分からなくなる程の連戦に連戦。生きている限り、疲労というのか感じる。それは人間だろうが天使だろうが。
疲労から注意力が落ちていた俺の守備範囲を越えた狐の魔物の攻撃を受けたフテラ。俺のせいで彼女が傷を負ってしまった。
「すまない…!俺のせいだ…!」
「違う…わよ……これは私の責任…」
ジンワリとフテラの横腹から出る赤い血が服を染め上げていく。こうして彼女に肩を貸している最中でも、魔物達はお約束を守らずに攻撃を仕掛けてくる。
「フテラ!お前回復は出来るか…!?」
「当然…でしょ、私はこれでも天使なんだから……」
「よし、分かった。もう喋らなくていい…無理させて悪かった。回復する時間は責任を持って俺が稼ぐ…!────やれッ!![疑似毒竜]ッ!!」
本家と違う利点。それは、俺の[疑似毒竜]はスキルによって生まれたものではなく、俺が1から造形したものだ。
何が言いたいかと言うと、俺の[疑似毒竜]は毒液を吐くだけじゃないという事だ。
「ギェェェェ…!!?」「フゴッ…!!」
「ウガガガ───」「ギャインッ!!?」
暴れ回る黒い毒竜。逃げる魔物なんかも現れる。が、当然逃がしはしない。
次々の3つの首の竜に呑まれた魔物達は、黒い毒液内を泳ぐ事も出来ぬ程暴れた毒竜によって溺死していく。
「はあ…!はあ…!クソ……いい加減止まれよ…!!」
もう[黒水]を使用する事も困難になった俺は、その場に膝をついて息を切らす。
[黒水]を使用出来なくなった今、当然俺の毒竜は死ぬ。それはまるで水風船の如く、一瞬で形が崩れてしまう。
それでも魔物の出現は終わらない。絶望的だ。
「クソ……どうする…!?どうすれば…───ってお前……おいっ!大丈夫かおいっ!?」
「うるさいわね……耳元で叫ばないでよ…」
残る体力を使って、逃げを選ぼうとした時だった。フテラが走れるかどうかの様子を確認する振り返ったが、彼女は玉の汗を浮かべて息がとても荒い。
『まさか俺の毒が…!?だが当たらぬように、毒竜操作以上の神経を使っていた筈……ならなんでこんな事に…!』
彼女の額に触れれば、とても熱い。まるで熱があるように。これはこの火のエリアが暑いからでは説明がつかない。そしてよく見れば、傷も癒えていない。まさかさっきの攻撃で毒を…?
「…ッ!説教でと文句でも、後でいくらでも聞いてやる!だから今はごめん!!」
「は…?何を突然─────ってちょと何してんのっ!?!?」
俺の突然のお姫様抱っこに、その熱からか、恥ずかしさからかは分からないが、赤面して混乱しているフテラ。
フテラの症状を見るに、恐らく毒。ならば解毒すればいいのだが、今は……自身の寿命がおしい。俺は主人公のように身を切ってまで、初対面の女は助けられない。
「自分でも嫌になるほど矛盾してやがる……ああクソッ!!」
“女は絶対助ける“をモットーにしているにも拘わらず、自分の命を優先したのだから。
そんな嫌気を抜き去るように、フテラを抱き抱えたまま俺は走る。
後方から次々と放たれる魔法を、紙一重でかわしていき、少しずつ離れていく。
『レヴィは今何をしてるんだ…!?いつもならこういう場合にはすぐに駆けつけるのに…!』
まさかレヴィの方でも何か問題があるのか?
そう考えながら、フテラに声掛けしつつ解毒する物を売っている道具屋を探しながら走る事数分。先に鎧を纏った者が数名見える。衛兵だ。何かを叫んでいるが、付近の魔物の声や悲鳴に爆発音によってよく聞こえない。
『アイツらに構っている暇は無い…!』
走り向かってくる俺に、向こうは武器を構えている。どうやら戦うつもりらしいが、俺には…いや、フテラにはそんな時間は無い。今は少しでも時間がおしい為、老化した体に鞭を打って衛兵達の上を人間離れした跳躍力で飛び越えた。
「…!あった!!」
漸く見つけた道具屋に、俺は半ば蹴破る勢いで入る。こんな非常事態だ、店主はいない。
流石に盗むのはよくないと判断した俺は、小銭袋から適当に掴んだ硬貨を置いて、解毒剤を探す。
「これは…違う。こっちも違う……っ、あった…!」
魔物から受けた毒を解毒する薬を見つけた俺は、すぐさまフテラへと駆け寄り、薬を渡す。
「大丈夫か…?飲めそうか…?」
「そんな心配そうな顔しないでよ。はぁ…」
鬱陶しそうに溜め息を吐かれた。なんだよ……コイツとは気が合わなそうだ。
まあ俺からしたらフテラは憧れの天使でも、向こうからしたら俺は敵だもんな。
「どうだ?」
「うん、少し楽になった…」
「…!それは良かった…!」
ほっと一息ついたら急に疲労感が襲ってきた。アドレナリンで誤魔化していたが、よくよく考えれば時間も分からなくなる程戦ってたんだ、当然か。
「何かしら…?外が騒がしいわね」
「ああ…そうだな。ちょっと見てくる」
この辺にも魔物が現れたのだろうか。そんな浅い考えで扉に手を掛けて開くとそこには、、
「出てきたぞ!!アイツが“悪魔宿し“のテンドウ・アキラだッ!!」
「俺達の国をよくも…!お前は絶対に許さない…!!」
「アンタのせいで私の店がめちゃくちゃよ!!」
「は…?なんだよ…これ…」
店を取り囲むようのいる衛兵を先頭に、その後方では野次馬には見えない傷だらけの民間人がいた。
突然の罵声に恨むような視線。それら多数が一気に俺へと突き刺さる。俺は身に覚えの無い言葉に、呆然としながらその場に立ち尽くした。
悲報:【なろう】を見続けた男の末路は、他作品の技をパクる事だった…!!
ごめんなさい、丁度良かったんです…




