216話:迫る悪意
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「うげっ!?不味っ…!」
完全に本来の目的を忘れたアキラは、賑わう街に出ている露店の奇妙なお菓子を購入して買い食いしていた。
だが残念な事に、人間には少々苦い味付けのようでアキラの口には合わなかった。
「レヴィ……食べる?」
「いら、ない…」
差し出した絶対体に悪い色をしたお菓子。それを見てススス…と俺から距離を取るレヴィ。どうやら俺の反応があまりに悪かったせいだ。でもこれは無理だ、とてもじゃないが食えたもんじゃない。
「というか…あれ?俺って何しにここに来たんだっけ…?─────あ“っ“…!」
「思い、出したんだね…」
クスクスと小さく笑いながらそう小さく呟いたレヴィ。精霊国シルフィールがあまりに異世界チックな世界観の国だからすっかり忘れていた。
ここに俺がやって来た理由、それは俺の体に精霊を宿す為だ。俺の体はリドリーさんによると、70歳オーバーの体になっている。今後レヴィの能力やランカスター家の能力を酷使すれば、俺は老死という形で物語が幕を閉じてしまう。
「何の為に遠路遥々やって来たってんだよ……」
不味いお菓子を何とか完食した俺は、頭に手を置いて項垂れる。
てかそもそも、どうやったら精霊を体に宿せるんだ?レヴィと同じように契約とかなのだろうか。そしてリオ君が言っていたが、精霊が見えないと契約出来ないと言っていたから……うーん…やばくね?
「俺の魔法適正は“火“だ。それならやっぱり炎属性の精霊を宿した方がいいんだろうが……」
心配は残る。契約以外でこの身に精霊を宿せるのかどうか。そしてそもそもの問題、俺に協力してくれるかだ。大変不本意ながら、俺は現在犯罪者。指名手配されていると言っても過言じゃない程に敵視されている、全世界から。
「まあなんにしても、行動しなくちゃ始まらないしな。行くだけ行ってみますか」
至る所にある現在地を知らせる地図の書かれた看板を見つめながら、そう呟いた俺は火のエリアへと目指す。
火のエリアは風のエリアと反対側にあるので、シルフィール専用の列車に乗る必要がある。ホントテーマパークみたいな造りだ。
「暑い……」
「暑い、ね…」
まるでモノレールのような作りの列車に揺られる事数分。俺とレヴィは火のエリアに到着した。そして到着してすぐの感想が今のだ。
「暑すぎるだろ!サウナか!?ここは…!」
「上着、とお面……取れ、ば?」
「ダ、ダメだよ!!この黒いフードとお面を脱いだら俺周りのモブと同化しちゃうだろうが!!」
この特徴的な狐面と、黒ローブは俺はある意味俺のトレードマーク。脱いだらマジでその辺の奴と同じ服装になってしまう。
「髪」
「え?髪がなんだよ」
「その、髪色…はあまり、見ない。だから……珍、しい」
確かにッッ!!
はいもう限界でーす!脱ぎまーす!!
バッ!!っと無駄に演出力のある脱ぎ方で黒ローブを脱いだ俺は、汗でベットリと肌に張り付いたシャツをパタパタと仰ぐ。ヤバッ、乳首透けてないよな?男の乳首透け程需要の無い物は無いぞ、それも異世界物なら尚更。
「マグマがポコポコ鳴ってる街並みって……こんなの絶対おかしいよ!!」
風エリアとは打って変わって、溶岩など滝のように流れている街並みだ。芸術センスの無い俺だけど、多分……綺麗なんだと思う。この暑さが無ければね。
「レヴィ、こんな暑い中申し訳無いんだけど、少し情報集めに付き合ってくれないか?」
「うん…いい、よ」
「ありがとう、じゃああの時計台の針が卯刻の裏になったらまたここに集まろう」
コクりと頷いたレヴィに、調べてほしい事を伝えた後に俺とレヴィは一時解散する。
「先ずは……うん、精霊を体に宿せるのかどうかだな」
そうと決まれば急げだ。精霊らしき人や、精霊と関わりのありそうなエルフやドワーフなんかに声を掛け、情報を聞き出す。
筈だったのだが……
「な、なんでここにテンドウ・アキラがいるんだ!?衛兵は何やってんだ!?ここに“悪魔宿し“のテンドウ・アキラがいるぞーッ!!」
「このじじい…!!」
ただ話し掛けただけでこの反応。人をまるで凶悪犯のように怯えた目で見やがって…!俺が何をしたってんだ。
そんなドワーフのじいさんに怒りを覚えている間に、警笛を鳴らしながら此方に走って向かってくる背中に虫のような羽が生えた衛兵。
「いたぞッ!!テンドウ・アキラだ!!」
「チッ…!…………はあ…クソ……」
戦う為の体制を取った俺は、[黒水]を使った攻撃を仕掛けようとしたのだが、相手は恐らく精霊。どんな魔法やスキルがあるか分からない上、これ以上あらぬ噂を流されてはたまらない。そう考えた俺は路地裏へと逃げる事を選んだ。
「これ以上…!はあっ…!変な噂を流されない為にも戦わないのが……はあ…っ……1番だよな」
だが逃げるという事は、自分に非があるのを認めているようなものだ。それが少し納得いかないものの、衛兵達と戦うよりはマシだろう。
「向こうに逃げたぞ!!まだこの辺に…………」
衛兵達の足音が遠退いていく。気配も感じなくなってきた。
何とか物陰に隠れてしのいだものの、レヴィと約束した時間までには間に合いそうにない。このままではレヴィにまで危害が出る可能性があるが……いらぬ心配だろう。それよりも心配なのはレヴィが衛兵を殺してしまう事だ。
「マジで頼むぞレヴィ…!今俺が惨めに逃げても、お前が手を出したら水の泡だ…!」
と心の中で願ったはいいが……レヴィは絶対手を出すという謎の確信があった。
レヴィに何度か体を乗っ取られた事があったが、彼女は凄い気性が荒い。1度敵と決めたら相手が改心しようが関係無く殺すような奴だ。
「ヤバい…詰んだかも……」
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「おーおーおー、騒ぎになってるねぇ~。流石有名人って感じだねぇ?アキラ~♪」
精霊国シルフィールの上空。そこは国を守るドーム状の壁がある場所よりも上に、その人物は浮いていた。
「しかしぃ…何の為にここに来たのか正直分かりかねるねぇ、こんな観光名所なんかに何の用なんだい?アキラ」
誰に言うでもない大きな独り言。それは当然誰かが答える事は無い。
そんな静かな上空で、その人物は突如笑い出す。
「逆に、だ。逆にここを地獄にしたら、アキラはどんな顔をしてくれるかなぁ…!?イヒヒヒッ、怒るのかなぁ!?悲しむのかなぁ!?────やってみようかねぇ♪」
無邪気に笑いながらその人物が空へと手を翳すと、雲の流れが変わり、それはまるで竜巻のように渦を巻いた雲へと変化する。
そしてバチバチとプラズマが発生し、渦巻く雲の中心部が裂け、空間に亀裂が生じた。
「あははははは!!待っててねアキラぁ~!!君にとびっきりのプレゼントを僕から贈る────っ……」
後少しで完全に空間に亀裂が入るという所で、その人物を狙う者がいた。
「もう逃がしはしないぞ、ベルフェゴール。貴様に殺された部下の仇、このサリエルが直々に取らせて貰うぞ…!」
「はぁ……まぁ~た君なのぉ?懲りないねぇホントに。僕正直君には興味無いんだけど」
「黙れ、貴様の戯れ言に付き合うつもりは無い」
サリエルと呼ばれた眼鏡を掛けた男は、その人物、ベルフェゴールへと強い殺意の籠った瞳で睨み付ける。
それに対してベルフェゴールはつまらなそうに溜め息を吐く。それはそれは本当につまらなそうに。
「後少しで【次元の裂け目】は生まれる。その間だけなら、付き合ってあげてもいいよぉ~♪」
「ッ…!どこまでもふざけた奴だ!!」
小さな光の粒子を無数に展開したサリエルはそれをベルフェゴールへと放つ。立ち上る煙。直撃だった。
「まあ、これから起こる前座としてはちょうどいい催し物かねぇ?イヒヒッ!」
だが煙から現れたのは無傷のベルフェゴール。攻撃を放った本人も分かってはいたが、少しもダメージを与えられていない事に汗を浮かべる。
「10分間だけ…付き合ってあげるよ♪」
天使、悪魔やって出る…!
次元の裂け目を忘れてしまった方は、四章辺りご覧くださいッ!




