215話:精霊国シルフィール
「ほい、大金貨1枚と金貨1枚。まいどー」
「うし、ぼちぼちだな」
倒した魔物から取った素材を売り、旅銀を稼ぐ。日本円で約15万円、中々の稼ぎだ。これで認識阻害のマントを買おう。
「どう、だった…?」
「うん!結構高く売れたよ!頑張ってあのボス狼を倒した甲斐があったな」
「それは…良かった、ね…!」
今から2時間程前に倒した大きな狼、その角が予想より高く売れた。
満面の笑みでレヴィに報告すると、レヴィも嬉しそうに小さく笑ってくれた。
「このまま魔道具屋へ行こうと思うんだけど、いいかな?」
「うん、分かっ…た」
そしてリングスにある小さな魔道具屋へと到着した俺達は、店内に入って魔道具を物色する。
だが認識阻害のマントは置いてないようで、あるのは生活で役立つような物が多い。
「あの、認識阻害系の魔道具ってありませんか?」
「認識阻害系かぁ…そりゃあ王都とかの大きな国じゃなきゃ置いてないよ」
「そうですか…」
売り切れの可能性もあるので、一応聞いてみたのだがやはり無いらしい。
しかし大きな国か…入国が厳しい上に騎士達がマジで強いんだよな、個人個人がちゃんと鍛練してるのが分かる。
『精霊国シルフィールは勘だけど絶対大きな国だし、そこで我慢するか…』
そう決め込んだ俺は、魔道具屋を後にした。
まあ別に無くても困る訳じゃない、ちょっと色々面倒な目に合うだけだ。
それから山越え谷を越え、道中様々な魔物に遭遇して激戦激戦!!
だったのだが……なんというかまぁ…特段話す事がないんだよね。
何か特別な事が起こる事が無いんだよ、本当に。天使も仕掛けて来ないし、人目を避けて道中は森や平原に渓谷などを通って来たせいで、情報も何も入ってない。
そしてそうこうしている内に……
「……ついてしまった」
はい、【精霊国シルフィール】に到着してしまいました……
もうなんっっっにもイベントが起こりませんでした。道中なにかイベントを…!と焦った俺が、明らかに毒と分かるキノコを食べるという、【回復術士】のケヤルもドン引きの行為をしてしまった。(※無事にレヴィに救出されました)
「はぁ…何にも起こらないとかヤバイって…。カットされた感が凄い…」
「でも…わた、しは……アキラ、と一緒で…楽しかった、よ?」
「あはは…ありがと、レヴィ」
若干の慰め感を感じるレヴィの言葉に、俺は苦笑いをしつつ歩く。
精霊国シルフィールは森の奥深くにある精霊の国であり、ガラスのようなドームに包まれた大きな国だ。周りの森はまさに熱帯雨林のように、綺麗な黄緑色の木々が生えている。
「にしてもここは暑いな…ホントに北にある国なんだよな?」
地図を見直しても、ここ精霊国シルフィールは北にある国だ。もしかしたら北と南の温度が逆転しているのかもしれない、知らんけど。
そうこうしている内に検問所に到着。検問している人はとても人間に近い容姿だが、髪色と耳が違う。奇抜な色にエルフのように尖っている。
『さてさて検問は突破出来るのか……』
一応念の為にレヴィは俺の中に入れた。顔もギリギリまではお面で隠した。問題はこの国にまで俺の悪い噂が届いているかどうかだ。
「何をしにこの国に?」
「えと、精霊に会ってみたいので来ました!」
嘘じゃない。
「ははっ、面白い人族だな。あっ一応身分証とかあれば見せてくれるかい?」
身分証…ギルドカードでいいんだろうか。だが名前がフルネームで記載されてる。これを見せた時に判断をしなければ。
「うん?テンドウ・アキラ…?どこかで聞いた名前だな……はて、どこだったか…」
「…自分最低ランクのFなんで、まだまだ無名の筈ですが……誰かと間違えてるとかじゃ?」
不味いな…やはり届いているのか、俺の情報が。だが幸運な事にこの人はうろ覚えのようだ、ここは何としてでも誤魔化して入国したい。
「うーん……確か少し前に見た新聞に載っていたような……」
「気のせいですよ」
「後少しで出てきそうなんだが───」
もうこれは無理そうだ。他の検問している人の視線も少なからず集まって来ている。仕方ない、ここは1度引いて、違法入国の方法を考えるしかない。
そう考えて背中に翼を生やそうとした時だった、、
「おい、早くしてくれよ!こっちはこれから商談なんだ!!貴様のせいで破談になったら貴様の上司に文句を言ってやる!」
「おっと…!そりゃあ勘弁!君はもう行っていいよ、精霊に会えるといいね。もう目の前にいるけど」
「…!は、はいっ!」
奇跡的にも俺の後ろに並んでいた商人?らしい豪華な竜車を引いたおじさんのお陰で、ギリギリ検問所を突破。
危なかった……ここまで何にもイベントが起こらなかったのはこの時の為だったのかもしれない!……本当の主人公ならイベントにイベントで凄い事になるんだろうけど。
「何はともあれ入国成功っと」
──おめ、でとう…アキラ
「あはは、ありがと」
中にいるレヴィとの会話をしつつ、街の中を見渡す。不思議な造りの建物が多く、現代の建築技術ではまず造れないであろう奇抜で形容しがたい建物が沢山並んでいる。
「ほへー、全部で6ヵ所に分かれてんのか」
街にある地図が記載されている看板を見るに、精霊国シルフィールは全部で6ヵ所のエリアに分かれているそうだ。図を分かりやすく言うならピザとかホールケーキを切る時みたいなアレだ。
「……語彙力死んでる」
き、気を取り直していこうか。
今俺がいる場所が風のエリアらしく、暖かい気候と植物が共存する場所らしい。だからここは暖かくて木がいっぱいあるのかと納得。
「テーマパークに来たみたいだぜ、テンション上がるなぁ~!うしゃ、異世界っぽいやんけ!楽しむぞー!!イヤフォォォ!!」
あまりに幻想的な街並みに、本来の目的を完全に忘れてしまうアキラ。そんな彼を影から見つめるとある少女は、『やっぱり危険に見えない……』そう呟いた。……らしい。
アキラだから通る雑なカット。でも本当に何も起こらなかったそうです。




