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203話:判断ミス

目指せブックマーク150!

「フッ…!ハアッ…!デリァヤ!!」


情報収集をしたその日の夜。この国、コルップは静寂に包まれ、皆が寝静まる時刻だ。

そんな時間帯でコルップから少し離れた平原で活動しているのが俺だ。


「ッ!!くっ…難しいぞこれ…!」


水球作り、剣術、反射神経。これらの向上の為に費やしていた時間を短縮する為に、俺はそれら全てを1度にやるという暴挙に出た。

事前に作り出した無数水球による攻撃、それらを剣で弾きつつ、その次に迫る攻撃を察知して動く。そんな稽古をかれこれ3時間続けていた。


「はあっ…はあっ…!一旦…休憩にするか…」


服が汚れるのも気にせず、俺は稽古での疲労からその場に背中から倒れて空を見上げる。

最高の眺め。ここは現代社会とは違って、街灯などは無い。その為星が綺麗に見えて、空も清んでいる。


「………いかんな、このまま寝てしまいそうだ。その前にもう少しだけ稽古をしとくか」


眠気が襲ってくる前に、ガバッと起き上がって再度同じ事を繰り返す。主人公達がやっていた竜を相手に稽古するなどのとは全然違い、俺のはとても地味な稽古だ。そもそも本来なら、主人公に稽古シーンはほぼいらない。そもそも俺を含めた読者に求められていない。


「その地点で主人公の道から外れてんだよな…」


そもそも国を滅ぼすような悪魔を黙認して契約している時点で俺は主人公では無いのかもしれない。今考えれば、いくら盗人だからってまだ子供を蹴るのはよくなかったかも……でも犯罪は犯罪。覚悟無き者がそんな悪事をしてはいけない。だからと言って、俺が人を殺した事が許させる訳では無いが。


「ッ…ダメだダメだ…!自分を否定するな。それをしたら俺の全てが壊れる…!落ち着け、悪は悪いから悪なんだ。そんな奴は罰を受けて当然……殺そうとしてきた奴を殺すのは正当防衛だ……」


また嫌な方向へと思考してしまう。1人の時によく起こる気がする。前もそうだった。

それなら1人の時は、深く考えないで無我夢中で稽古に励もう。そうしないと俺は……ホントに壊れてしまう。



「おいお前!そこで何をしている!!」


「……あ?」


自分を壊さない為に、一心不乱で稽古に励んでいるその時だった。背後から男の声と共に数人の足音が聞こえる。

自分の守る事に夢中になっていた俺は、背後から来ていた者達に気が付かなかった。


「聞こえないのか!?そこで何をしていると聞いているんだ!その武器を捨てて、ゆっくりと此方に振り向け!!」


「…………」


声色的に野党や盗賊では無さそうだ。そうなれば残る答えは1つ、コルップの兵士達だ。

少々面倒だと思いつつも、バレぬように自然な動きで頭に着けていたお面を顔に着けて振り返った。


「なんだそのふざけた面は!それを取って素顔を見せろ!」


数は3人か、巡回組って所か?先頭が剣で、左側弓、そして右側が槍と、近中遠と隙がない構成だな。100点満点中、100点です


「おいっ!聞いているのか!?」


「うるさいな…聞こえてるっての」


「なら早くその面を取れ!さもなくば、此方も実力行使に出る事になる!」


「へぇ…それは面白そうではあるんだが、俺は稽古後で疲れててね。悪いがお前らに構っている暇は無いんだよ」


若干声を低くしてそう言った俺は、背中に大きな翼を生やす。当然そんな事をするどころか、人間に翼なんか生えるとは思っても見なかったであろう兵士達は口を開けて驚き、警戒しながら1歩後退した。


「……あ…!ま、待てっ!!」


3秒程遅れて反応した弓を持った兵士は、容赦無く矢を放って俺を撃墜されようとする。

だが攻撃される地点さえ分かればガードは容易い。俺は[黒水(こくすい)]で球体を作り、その中へと矢を入れて威力を殺す。


「うぅ……上の方は寒いな…」


そしてそのまま雲の上へと飛翔した俺は、その寒さに震えながらコルップ方面へと向かう。少々面倒ではあるものの、こうしないと国に入れないからな。


「結局今日はメランコリーの奴、戻ってこなかったな。ま、いない方が俺はやり易いからいいんだけも」


誰に言うでもなく、そんな独り言を呟いてコルップ内へと勝手に入り込み、路地裏から事前に取っておいた宿へと向かって歩き出す。念の為にお面は隠しておこう。


───────────


そして4日経ったある日の事。コルップ近辺で目撃された狐面の男という張り紙が出た。張り紙によるとその男は人間ではなく、魔族なのではないかと書かれている。半分正解だね。


『この張り紙が出るまで毎日稽古してたからな、流石に注意せよってなるよな』


住民達には余計な心配を掛けさせる事になってしまい、忍びない限りだ。まあどのみち俺は今日でここを出ていく予定だから、いずれこの狐面の男の噂は消えるだろう。



「ッッ…!!なんだ…!?」


身の毛がよだつような嫌な気配を感じた。それはどこかで実際に体験した気配だ。

だがそれがなんだったのかを思い出す間も無く、コルップの空に金色の結界ようなモノが張られた。


「おいおい……まさかまた聖道協会なのか!?」


こんな大規模な聖魔法結界を張れるのはラディウスか大天使くらいしか知らない。まさか大天使が攻めてきたのかと思ったが、それは住民達の戸惑った反応を見て違うと考えられる。

ならば無許可でこんな事をしでかすのはあの組織しかない。



──テンドウ・アキラ、このコルップは全て封鎖した。逃げ場は無い。大人しく投降すれば、我々は何もしない。だが現れない時は……覚悟しておきたまえ。


若い青年のような声がコルップ全体に響き渡る。まるでスピーカーから放たれた声のように反響している。これも魔法の一部なんだろうか。


「大人しく出ていく訳が無いだろうが」


──キミに少しの猶予を上げよう。間も無く時刻は卯刻の裏になる。それまでに君の居場所を示す行動を起こさねば、我々も少々手荒な方法で動く事になる。よく考える事だ。


まるで俺の声が届いているかのように、追加で新たな情報を示した男の声。住民達も何がなんだか分からぬようで、皆口々に『テンドウ・アキラって誰だ?』と呟いている。


『大体手荒な方法ってなんだ?無闇に動くのは危険だし怪しまれる……少し様子を見てみるか?』


時計台を見れば後3分で卯刻の裏になる。それまで俺は壁に寄っ掛かりつつ、時計台の針を見続けた。

そして1分、また1分と時間は流れ、先程男が言っていた卯刻の裏となった。


「さて、どうなる────」


何が起こるのか分からない状況で動くは危険だと判断した。だかその考えはどうやら間違っていたらしい。


「嘘だろ…?本気か…!?」


コルップの中央広場にて爆炎が上がったのだ。

いくらあの連中が悪を憎む組織だからと言って、突如関係の無い国を爆撃するとは考えもしなかった。



──テンドウ・アキラ。君がこのまま現れなければ、無関係の人間が大勢死ぬ。全ては貴様のせいでな…!



どうやら俺は聖道協会の行動理念を履き違えていたらしい。アイツらは物語にスパイスを与える集団ではない。単なるサイコ集団なのだと、、

俺は逃げ惑う住民達に弾かれつつ、黒々と昇る黒煙を呆然と眺めていた。


アキラが悪いんだよ(桃)

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