197話:足止め
「それで……アキラの場所、分かるの?」
「ええ、アキラと私の血は繋がっているからね、彼の居場所も粗方分かるわ」
「そう……」
少しムッとした。アキラとどんな関わりがあるのかは詳しく知らない。けどかなり親密なのは、話し方や表情で分かる。
『アキラが口説いたのかな…?でもアキラはそういうタイプじゃないし…』
いざ口説くとなったら、アキラは絶対に赤面して言葉が詰まる。普段からでも平然を装っているが、アキラはボクが近付くと少しだけ恥ずかしそうにしているし。
「ねぇ、アキラとはどんな関係なの?」
「はっきり聞くわね……」
小さくクスりと微笑んだローザは風に髪を靡かせながら話し始めてくれた。
アキラが奴隷として売られていた事、その際に殆どの記憶が無くなっていた事を、ローザの屋敷で住み込みの執事として働いていた事等々。
「記憶が無くても無茶するのは変わらないんだな、アキラは」
「ふふっ、そうねっ」
向かい側に並んで座っている姉弟、ルナとソルがアキラの話を聞いて笑っている。2人も当初、アキラが生きていた事を衝撃を受けていて、ソルが涙目になっていたのは少し驚いた。
「それにしてもローザちゃんは邪剣に選ばれているのね……やっぱりミルちゃんみたいに強いのかしら?」
それはボクも気になっていた。コル兄様と同じ邪剣であり、世界に12本あると言われている剣。彼女はどれ程の剣の実力があるのだろうか。
「私はそこまで剣術に長けている訳じゃないわ。このグラッジゾーグの能力を引き出して戦うのが基本ね」
「死滅廻は“殺す“事に特化した邪剣……成る程、それを攻防に回す、って事?」
「ええ、そうよ」
同じ12本の剣でも、所有者によって戦い方は違う。まさしく千差万別。ボクは銀零氷グレイシャヘイルの能力をあまり引き出せていないから少し…羨ましく感じた。
「にしてもまだ着かないのか?もうかなり竜車に乗っているが…」
「そろそろ私もお尻が痛くなってきちゃったわねー……」
「どう?ローザ」
ルナやソルの言う通り、長時間この竜者に乗っている。理由としてはリンガス国周辺の交通がストップしている事が大きく、列車が通っている国までかなりの距離があるから仕方ない。
「ん…やっぱりミルが言った通り、アキラは西の方角にいる。彼もどうやらこっちに向かってるみたいだけど……かなりの距離があるわね」
瞳を閉じて、集中していたローザはそのまま口を開いてそう言った。コル兄様を悪の道へと落としたあの悪魔といる…そう考えるだけで心配で仕方ない。無事でいてくれるといいけど……
「ふぅ……」
そして長い竜車での移動は終わり、漸くアバルドと言う国までやって来た。この辺は温かい地方のようで、住民達は皆薄着だ。
「おーい、かなり不味い事になったぞ」
「どうしたの?」
列車乗り場へと時刻表を確認しに行っていたソルが駆け足で戻ってきた。その表情は厄介な事があったようだが…?
「どうやらこの国より少し西で、毒の霧が大規模に発生してるそうだ…調査によると微量で致死量らしい」
「確かに厄介ね……でも何故それが不味い事なのかしら?」
ソルの言葉を聞き、腕を組ながらそう聞いたローザ。ソルは表情を少し暗くし、重苦しそうに口を開いた。
「情報によると、どうやらその原因を生んだのは“嫉妬“の悪魔らしい……それで現在、毒の霧がある村への救助隊共に、聖道協会が動くそうだ…」
「成る程……それは確かに厄介…」
ラディウス枢機卿とその手下達はまだリンガス王国周辺で停泊している筈だ。
つまりここにやって来ているのはまた別の国にある聖道協会の連中という事になる。
「町行く皆様、我々聖道協会が到着致しました!皆様をお困らせてしている毒の霧は我々が払います!」
列車乗り場付近の広場で演説を始めた聖道協会。大きく、それでいて聞きやすいその声に反応する者達。
「ミルちゃん、あの聖道協会の人達って見覚えは…?」
「無い…」
国にいる聖道協会の実力者は、ラディウス枢機卿を始めとした者達は役職柄ほぼ覚えている。
が、この場で神の加護などを演説し始めた者は知らない。知らないが、実力は確かなのはすぐに分かる。
「胡散臭い連中ね。まあここはあの者達に任せましょう、レヴィアタンの放った毒の霧なんてとてもじゃないけど殺しきれないから」
面倒そうに溜め息を吐いたローザは、踵を返して聖道協会の者達とは反対側へと歩きだした。ボク達も演説を聞く理由は無いので、ローザと同じく歩きだしたのだが、、
「皆様をお困らせてしている毒の霧…それを放ったのは“嫉妬“の悪魔と契約したテンドウ・アキラです!!植物を枯らし、水を汚染したあの毒を生み出した悪魔を操作しているのはテンドウ・アキラなのですッ!!」
足が止まった。
アキラはそんな事をする人間ではない。それは師であるボクが1番理解している。それなのにアイツらは根も葉も無い事を、事実のように語る。
「待ちなさい、ここで手を出してしまえば更に面倒な事態になる。ここは呑み込みなさい、ミル」
「…………」
グレイシャヘイルに手を掛けたボクの手を掴み、そう言いながら止めに入ったのはローザだった。いけない、ついカッとなって抜剣しそうになってしまった。
「…ありがとう、もう……平気」
「そう、ならいいわ。……私もアキラの事を悪く言われるの嫌なの、早くここから離れましょう」
「…………うん、そうだね」
少し恥ずかしそうにそう言ったローザに、少し引っ掛かったが、一先ず呑み込んだ。
普段の凛としているローザとは雰囲気が違った為、少し驚いた。そしてルナとソルも驚いているのが見てとれる。
「な、何よ…っ!」
ボク達の視線に気が付いたローザは、更に顔を赤くして先に行ってしまった。
なんだろう……少し心がモヤモヤする。アキラと再会したら、聞いてみようかな?
なんかアキラ……犯罪者になってね?




