194話:人殺し
評価を頂く度に思う。この小説って好き嫌いがかなりはっきり別れるっぽいですね…w
「しかし…主人公の補正ってやつは恐ろしいな」
空を1人飛びながら、そう呟く。
襲われてるのが女の子で、しかも子供だったからイベント目的で助けてあげたってのに……あれじゃあまるで俺が敵役じゃないか。
「だがこれでハッキリした。俺とコウキの関係はこれで終わり。お互いに敵だ」
だがまだ準備が足りない。今の俺は完全体であるレヴィアタンと契約しているものの、物語の主人公を殺すのは並大抵な事じゃない。つまり戦力が足りない。
「あっ…この宝石届けるの忘れてたな………ん?あれはなんだ?」
ある程度考えが纏まった所で、手に持っていた宝石の事を思い出す。然るべき場所に持っていく筈が……これでは俺が盗人だ。
そう考えていると、雄大に広がる森の中でポツンと一軒の小屋を見付ける。ウズウズした、何かイベントが起こりそうで。そう考えたら即行動、俺は急降下して地上の小屋へと降り立った。
『展開的に考えると、ここには主人公の先生ポジションの人がいる』
例えそうじゃなくても、物語に必ず関わりがある人がいるのは確定している。つまり、そんなイベントを目の前にして俺がノックしない訳が無い。
「すいませーん」
「あぁ?誰だテメェ」
「おっふ……」
出てきたのは薄汚い格好をした、ザ・盗賊といった屈強な男、推定30代前半。
そんな屈強な男は酒を呷りながら俺を睨み付けてくる。かなりの酒臭さを感じ、とても友好な関係は築けなさそうだ。いやでも人は見た目じゃないし…
「えと……あっ、道に迷ってしまってですね…」
「迷っただぁ?知るかそんなもん。どうしても知りたきゃ金目の物でも置いてきな、ヘッヘッヘ!」
「あっ…じゃあいいです」
咄嗟に出た嘘だったが、金目の物を渡してまで道を知りたいとは思わない。どうもイベントは起きなさそうなので、俺は踵を返して小屋を去ろうとした。
「おい待ちな、お前……その手に持ってる物見せてみな」
「……嫌ですけど?」
急に声色が変わった。酔ってはいる。が、とても鋭い視線を俺に向けている。
「お前その宝石、どこで手に入れた?」
「……あー、拾ったんですよ」
「嘘つけ、それは俺達の物だ」
「成る程、あの男達のお仲間さんか」
運がいいのか悪いのか、どうやら盗人の少女が盗んだこの宝石はこの連中の物だったようだ。
そして本来なら、コウキ達がこの連中と戦う予定だったんだうが……とうやら俺が道筋を壊してしまったらしい。
「おい野郎ども、このガキをぶっ殺すぞ。どのみちコイツは俺達のアジトを知っちまったんだ、生かしとけねぇ」
「ワラワラと出てきちゃって……前に見たスズメバチの駆除みたいだな」
展開的には読んでいたのだが、いざそうして小屋から盗賊が出てく来ると、嬉しいのと面白いので笑ってしまう。そんな俺にムカついたのか、少し長めのナイフを出してきた。
「一応聞いておきますが、この宝石って子供に盗まれたアレですか?」
「ああそうだとも。しかし気に入らねぇな、何故この状況でそんな余裕をかましてられる?自分の状況が分かってねぇバカじゃあるまいし」
「ヒィィィ!!?た、たたたた助けてぇ…!!」
「舐めてやがんだな。いいだろう、ぶっ殺してやるよッッ!!」
俺がイキれる場面が少ないので、こうした格下相手にイキっていたら激怒されてしまった。当然っちゃ当然なんだけどね。
ボスとみられる巨漢の男を先頭に、左右に広がる手下の盗賊達。ボスも含め、数はおよそ7人ぽっち。手こずる数じゃない。
「ほいっ、これあげるー」
「なっ!!?」
真正面から走り向かってきたボスに向けて、欲しがっていた宝石を放り投げた。突然の行動に混乱していたものの、俺を殺す事よりも宝石を優先させたボスは、武器を落として宝石をキャッチした。
「何のつもりだ?今更命乞いしても無駄だぞ?」
「命乞い?そんなのするわけねぇじゃん。お前1人を相手に」
「何を言って───ッ!!」
宝石を掴む事に夢中になっていたボスは、周りで起こった一瞬の出来事に気付けなかった。
ボスを除いた6人の亡骸に。
「テメェ…!何しやがった…ッ!」
「何って、簡単な事ですよ。言うならUの字で水の刃を飛ばしたって感じですかね」
手でUを作りながら簡単に説明。
わざわざ1人ずつ対処する必要は無い。全方向に水の刃を飛ばせばいいのだから。しかしそれでは主人公にはなれない。こういう場合はボス格の者を残して、恐怖共に強さを示さなくてはいけない。
「な、なんなんだよお前…!ふざけんなよ、こんな…!こんな事が許される訳ねぇ!!この人殺しが!」
「は?それは変だろ、お前らだって俺を殺そうとした。つまり俺も殺していいって事になる。大体異世界じゃ命の価値って低いじゃん?どうせお前みたいな悪役モブ、遅かれ早かれ死ぬんだしいいじゃん」
「このキチガイ野郎が!!」
落としていた鉈を俺に向けて投げ、そのまま走って向かってくる。どう殺そうか、そう考えていた瞬間に、ボスの男は俺に向けて砂を投げる。俗に言う目眩ましであり、ボスの男は逃げるように森の方角へと向かう。
「バカだな、逃げられる訳がないだろに……これも俺の未来の為だ、死んでくれ」
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「セレナ…アキラはどうやら裏があるらしい」
「……フン、だから言っただろう」
アキラに逃げられた後、コウキは少女を保護し、一時仲間に少女を預けてセレナと路地にて重苦しい会話していた。
「それで?この後はどうするつもりだ」
「うん…アキラの行方も気になるけど、取り敢えずはあの子が盗られた大事な物を取り返しに行くつもり」
「全く……お前は甘い奴だな…」
フッと小さく笑ったセレナはコウキと共に路地を出る。少女の話によれば盗られたのは母からの贈り物であり、その連中は丁度コウキ達が受けていた依頼と同じ盗賊団だった為、早速向かう事になった。
「まさかルッカが盗賊団のアジトを知ってるなんてね。助かったよ」
「いえ、そんな…!っ……」
ルッカは少し笑いながらも、自身のお腹に手を当てている。どうやらアキラに蹴られた所がまだ痛むらしく、時折表情を曇らせていた。
『あの盗賊達と比べたらアキラなりに手加減はしているんだろうが……それでも子供相手に酷すぎる…!』
聞けばまだ13歳なのにこんな暴行、許せない。何故アキラはこんな少女を蹴っておきながらあっけらかんとしていられるのか…それは分からないが怒りは沸いてくるのは確かだ。
「この臭い……鉄?いや血だ!──っ…急ごう…!」
誰か魔物に襲われているのかもしれない。そう考えたら走る速度が早まっていた。
「うっ…これは……」
だがそんな考えとは大きく違った光景が広がっていた……
「ちょっとコウキ!一体どうしたって言うの──キャアアアア!!」
「…!なんと惨い事を…!」
後から遅れてやって来たミザリーが悲鳴を上げ、尻餅をつく。当然だ、無惨に殺された男達の姿を見れば、、
「コウキ、これを見ろ」
「これは…」
土を赤黒く染める液体や、転がっている腕や足を見るに、殺されたのはついさっきと見れる。
そんな中、小屋付近にいたセレナに呼ばれ近付くと、そこには首の無い屈強な男が1枚の紙を持っていた。お腹に大きな穴を開けながら、、
──この宝石はコウキ、君が届けてあげてくれ。
赤く書かれたその文字を見て、血の気が引いた。僕の名前を知っていて、ルッカが盗られたと言っていた宝石を持っているのはただ1人なのだから、、
「まさか…アキラがこれを…!?」
「……考えたくはないだろうが、それしか考えられないだろう」
セレナの言葉に、僕は頭が真っ白になった。
まさか彼がここまでするとは思っていなかったから、、
一緒に大きな敵と戦った事もある彼がこんな事を……信じられないといった表情のまま、コウキは暫くの間直立する。そして、、
「決めたよセレナ」
「何をだ?」
「アキラは……僕が止める…!」
何気に初殺し。復活は不可です。




