185話:聖道と邪道
転スラファン激怒回。
先に謝罪、ごめんなさい…
「ほう……自ら現れるとは、随分と余裕のようですね」
城の中から現れたのはテンドウ・アキラと黒髪の女魔族。堂々としたその足並みは余裕さえ感じる。
「うっわ……数が多いな。ま、どうとでもなるか」
「全く…その考え方は危険なんじゃないかしら?最も、アキラが負けるとは私も思ってないけど」
緊張感の無い会話とあの余裕……そして嫉妬の悪魔がいる筈の城から無傷で現れた事が不可解だ。まさかこの男……
「光の矢……不意打ちか、いいね」
嫉妬の悪魔、或いはテンドウ・アキラは現れた次第放つよう指示していた光の矢が突如消えた。まるでテンドウ・アキラの守るように円形の壁があるように、、
「さて、やりましょうかね?ローザ」
「分かってるわよ、アキラも油断しちゃダメよ?」
「了解です!」
──────────
『どうやってこの数を倒すか…』
数は見える範囲だけで500近くいる。この中でも先頭集団は特に実力が高いと見える。
それでもその実力者を数人相手にしているローザはある意味怪物だな。
「消えろ悪魔宿しがァァァ!!」
そう考えていた俺に、固執しているように狙い迫る黄緑色の髪をした男、グラトスが高速で近付いてくる。グラトスにどこから攻撃されてもいいように円形に水のリングを放ち、俺は空へと舞い上がる。
「この卑怯者めッ!!俺を見下すな!!」
「卑怯者って……目に追えない速度で俺をいたぶってたお前は何なんだよ。ま、それは俺の実力不足だから仕方ないんだけどさ」
そう発して掲げた手の平から黒い水の塊を出現させ、形状を変える。それはまるで大きな虫眼鏡だ。
「俺には大賢者のようなスーパー知能は無い。だけど1発程度なら出来る。───死ね、[疑似神之怒]」
それは太陽の光を一点に集めたレーザー光線。本家転スラのように、一瞬でこの場を制圧するのは少なくとも今は不可能だが、1発だけなら可能。
「グ、グラトス司祭っ!?返事をしてください!!」
「し、死んでる…!?グラトス司祭がたった1発の攻撃に…!?」
脳天から[疑似神之怒]を食らったグラトスは声さえ上げる事も許さず倒れる。
太陽の光が一瞬にして貫き、焼き切った場所を止血した為出血が無い。それ故に、何が起こったのか理解が出来ていない聖職者達。
「調整が難しいな、これ。やっぱ大賢者様は偉大だよ、ホント」
アニメのように細く、それでいて大量に反射される事は出来なかった。が、やはり威力は折り紙つき。一瞬にしてグラトスを絶命させた。
「太陽光を武器に……ホホッ…成る程、面白い事を考えます。ですが彼はすぐにでも生き返る」
一般聖職者達とは裏腹に、ある程度の力を持っているであろう者は白ローブの老人と同じく平然としている。
前回あの老人、ラディウス枢機卿は確かに殺した筈だ。だがグラトス共に生きている事を考えるに、生き返る方法があるようだ。
「それはどうかな?[嫉妬罪]のある今、あらゆる能力は封じられる」
「ほお…!ではやはり契約をなさったのですね…!ホホッ、ですが今現在力を得たばかりの貴方に、長年天使様の力を使ってきた私の結界を壊せますかな?」
「出来るさ。俺とお前じゃ前提が違うんだからな──やれ、レヴィアタン」
「わか、た……任、せて」
俺の出した黒い水は形を変え、それは段々と人形に変わる。そしてそれは先程まで俺と戦っていたレヴィアタンへとなる。
ニコッ……っと俺に小さな笑みを浮かべたレヴィアタンは、天に向けて巨大な黒い波動を飛ばす。その瞬間空に亀裂が入り、ガラスが割れる音と共に国を覆っていた透明な壁が崩れ去る。
「おお…!おおお…ッッ!!間違いありません、あれが“七つの大罪“、嫉妬を冠する最上位悪魔、レヴィアタン…!!欲しい!欲しいぞッッ!!」
「はぁ……また、お前…か……」
普段の余裕そうな微笑みとは違い、目を見開いてレヴィアタンを欲しているラディウス枢機卿。それを見て、忌々しそうに溜め息を吐いたレヴィアタン。
「レヴィアタン、この場はお前に任せる。好きなだけ殺せ。だがローザには手を出さないでくれよ?」
「くく、く……分かってる、よ」
「OK、ありがとう。俺は────アイツらを相手にする」
背後から放たれた、俺とレヴィアタンを丸々呑み込む程大きな光線。それを[嫉妬罪]で消し去り、後ろへと視線を向ける。その先には先端が蒼い純白の翼と、全体が蒼く輝く翼を生やした2人がいた。ラミエルとウリエルだ。
「分離まで可能とは…!やはり“怠惰“、“憤怒“に並ぶ程危険な人間ですね…!」
「嫌われたモノだね……一応聞くけど、君達も俺と契約しない?」
「ふざけるなっ!!」
バチバチと鳴り響く電撃の槍を持ったラミエルがそう激昂して俺に迫る。
天使と悪魔、両方の力を持てれば後天的に【なろう】主人公になれたのだが……そう上手く行かないらしい。
「───ッ…!消せない?」
「当然です、これは神から授かった神器!悪魔の力では到底及ばない!!」
瞬時に出した血の剣で攻撃を受け止める。バチバチと弾ける電圧が少々痛いが、どうって事無い。しかし神器か、面白い物を持っているな、俺も欲しいや。
「っと…また鎖か」
「もうやめよう…?抵抗されてはアキラ君を天界に連れて行けなくなっちゃう…!」
「知るか、リコスの糞野郎がいる天界なんて行きたくもねぇよ」
レヴィアタンのように広範囲に相手の能力を消す事が出来ない俺は、視認した範囲のモノしか消せない。それでも[羨望]よりは強いんだけどな。
俺は拘束していた鎖を消し去り、ラミエルの横腹に蹴りを入れてウリエルへとそう吐き捨てる。
「お前ら天使には分からないし、分かられたくもない。どうせお前らも『お前はおかしい』って言うんだから。[二頭海竜渦]ッ!!」
両手から激しく渦巻く黒い水。まるで横に流れる台風の如く空を暴れまわる2頭の海竜。
「流石に2度目はダメ、か。あっ、上も気を付けろよ?」
「なっ!?くっ───」
この場より更に上空にいくつも展開している黒い水の球体。それは先程放った[疑似神之怒]の縮小版。威力は小さくても、貫通力は最高峰。無差別かつ当たり場所が悪ければ死ぬが、相手は天使。その辺は平気だろ、多分。
「ラミエルちゃん大丈夫っ!?」
「平気です…!このくらい──っ…」
右肩にかすったラミエルは、その痛みに表情を歪め、それをすぐさまウリエルが治癒する。
やっぱり天使相手には即死させないと倒せなさそうだ。
『ま、殺すのはタブーなんだけどな』
俺はラミエルの治癒が終わった瞬間に、バラけられる前に小さな針のような水を数千と飛ばす。
ジワジワと消耗させて戦おう。ローザの方は大丈夫だろうか。まあ彼女は強いから平気だろう、殺すつもりならグラッジゾークはチート武器になるし。
そんな小さな心配事を考えながら、俺は2人の天使に向けて攻撃を続けた。
レヴィアタンの能力を水にした時からずっと考えてました……伏瀬先生ホントすいません。




