182話:狂気の笑み
悪魔と天使って……イイよね…
「チィ…!再生まで消しやがるのか…!!」
「無、駄……アキ、ラは…どこまで行って、も……所詮人間。無能力、の…人間が、悪魔には…絶対に、勝てない」
「舐めんな、ジャイアントキリングしてこその主人公!!悪魔だろうが天使だろうが、全部ぶっ潰してやるよッ!!」
「ふ、ふふふっ…!アキラ、らしい……──でも、無駄」
うっすらと笑みを浮かべたレヴィアタンは、次の瞬間には目の前に現れ、俺の心臓目掛けて拳を振るっていた。
だが俺はその腕を掴み、寸前の所で止める。
「なっ……なん、で分かった…?」
「分かんねぇよ。だから賭けたんだ、お前が俺の腹を狙う事にな…!」
俺の命を狙うならどこか。
急所である心臓か頭になる。先程俺を後頭部を狙った蹴りを放った事から、次は心臓と判断。浅く、それでいてバカな考えだ。だから相手には分からない。
「なんの、確証もない…!1割、にも……満たない、可能性に…掛けるなんて…!!」
「だが俺は生き残った、その1割にも満たない可能性に勝ったんだよッッ!!」
「ッ!!」
レヴィアタンの腕を引き寄せるようにし、頭を振るった。レヴィアタンの顔面に向けての頭突きを放つ。鼻から血を流し、後ろへと下がろうとしたレヴィアタンの足を引っかけて床に向けて背負い投げる。
「無茶苦茶、だ…!」
「ホントはこういう体術にチートが合わさる筈だったんだがな、俺には無いからこんな変な形になってしまった」
憎悪の瞳を向けるレヴィアタンに対し、アキラは笑みを浮かべたまま関節を鳴らす。
「俺は女に対してドロップキックを放てる男さえも越える男。お前が女だろうが殴り、蹴りを入れる。覚悟しろ」
───────────
『ありえ、ない…!わた、しの支配下である…この場所で、あらゆる能力は、使えない…!なのに何故…!?』
理解できない。
アキラから生まれたレヴィアタンは、アキラの全てを理解していると考えていた。だがこうして目の前で初の対峙をした事で増えていく疑問。分からない、人間の欲や思考を理解しきっていると言い切れる程の悪魔の頂点にいるレヴィアタンが分からないのだ。
「あ、ハズレた。ははは…!そう何度もラッキーは続かないか」
レヴィアタンの放った攻撃に当たったアキラは、数m吹き飛んだ後に床を叩いて起き上がる。手応えはあった。能力を全て消している現在、アキラがやせ我慢をしている事はすぐに分かる。だがとてもやせ我慢には見えない笑みを浮かべ、額から垂れた血を流すアキラに警戒を強める。
「ギリギリの勝負!!これだよこれッ!!こういうのがしたくて俺は今日まで生きてきたんだァ!!」
狂気的な笑みを浮かべたまま、何の作戦も無いようにレヴィアタンに向かって走るアキラ。
近付かれては厄介、そう判断したレヴィアタンは[黒水]を針のようにするどく尖らせて、アキラの頭目掛けて放つ。
「甘ェ!!」
まるで来るのが分かっていたかのように、タイミングよく頭を反らしたアキラ。狂っているとしか形容できない笑みのまま、拳を振るう。
「だけ、ど……やっぱり君、の…攻撃は、軽い……」
片手でアキラな拳を受け止めたレヴィアタンは、哀れみの視線を向ける。
「無駄、なんだよ……人間、には限界が…ある………鍛えた程度、の力では……到底わた、しには届かない…!!」
巨大な黒い2枚の翼を広げたレヴィアタンは、羽をはためかせて浮き上がる。
そして指をゆっくりと回すレヴィアタン。するとどこから都もなく出現した小さな黒い球体。その数実に1000を越える。
「終わ、ろう……わた、しが…アキラの人生、に……終止符を打って、あげる……」
大広間に漂う黒の球体。それはまるで水のように柔らかな形をしている。だがレヴィアタンがそう発し、アキラを指差した瞬間全ての球体がアキラに向かって高速で飛来する。
「ッ───!!」
異常な反射神経でその球体を避け続けていたアキラだったが、1つの球体がアキラの肩に当たる。それはまるで鉄球のように硬く、耳障りな骨にヒビの入る音が響いた。
「あ“あ“あ“ぁ“ぁ“ぁ“あ“あ“ぁ“ぁ“あ“!!!!」
1つ当たってしまった事が命取りとなった。
たった1つの球体に当たった事で体制を崩されたアキラは、次の球体を避ける事が出来ず、次々とその身に球体を受ける。
「終わり、か…………そこそこ驚かされた、けど……あっけない最後、だった……」
重なり合う黒の球体を見つめながらそう呟いたレヴィアタン。自身の生みの親を殺した。何の苦しみも無い。むしろ清々しい気分だ。
そんな気分だったのに、、
「あはははははは!!」
重なり合う球体の中から聴こえてくる男の声。狂ったように笑い続けるその声に、レヴィアタンは眉をひそめる。
「ピンチからの逆転!主人公が必ず通る道だ。なんてったってここは異世界ッ!!そんな展開だらけの夢の世界なんだから!」
どこにそんな力を隠していたのか、アキラは黒の球体からゆっくりとその姿を現す。
全身血塗れ。左肩なんかは外れている。それでも笑顔を崩さず本当に楽しそうに笑い、子供のような清んだ瞳を輝かせる。
「何、故…!?分から、ない…!何でお前、は立てるんだ…!?」
自分が知っている人間とは違った人種に恐怖を覚えたレヴィアタン。彼女から出たその言葉にアキラは答える事は無く、地面に刺さっていた邪剣・死滅廻グラッジゾーグを無理矢理引き抜いて走りって来る。
「邪剣、だろうと…!能力を消せ、ばただの剣…!今度こそ死んでしまえッッ…!!」
邪剣の力を完全に消し去り、レヴィアタンは腕を振るう。手から流れた黒い液体は半月状の刃となって、グラッジゾーグとぶつかり合う──ことは無かった。
「バカ、な…!左腕を盾に、した…!?」
自身の左腕を盾にして攻撃を防いだアキラは、腕が切り離され、宙を舞うのも無視して突き進む。
「デェリァァァァッッ!!」
横一線に振るわれたグラッジゾーグ。それを僅かな差で後退したレヴィアタンに当たる事は無かった。
「───グッ…!?あの女…!!」
だが背後に走る激痛と共に、前へと押し出されたレヴィアタン。苦痛で表情を歪めたレヴィアタンが僅かに見えた先には、黒髪の女が不敵に笑っている姿があった。
「…!!しまっ───」
予想外の連続が続き、予想外の援護が入った事で、アキラから視線を外してしまった。
その僅かな隙を逃す事は無く、再度アキラへと視線を向けた時にはもう目の前まで2撃目の剣が迫っていた。
「はあッ……はあッ………、俺の……いや、俺達の勝ちだ……」
「負け、た…?わた、しが…?」
腹部へと突き刺された剣によって、押し倒されたレヴィアタンは自身の腹部へと触れる。
ベッタリと手に付着した赤黒い液体が滴る。
「約束通り、教えて貰うぞ……色々とな。……ローザ、コイツに[治癒]を頼めるか?」
「何でそんな事を…!───ってアキラが先に決まってるでしょ!?また無茶をして…ホントに貴方って人は……」
そう怒っているローザだったが、根負けしたように溜め息を吐いてアキラとレヴィアタンに手を翳す。
「まさか2人同時に出来るとは……流石ローザだね」
ローザの治癒力に感心しつつ、アキラはレヴィアタンの隣に座る。
「当然よ」
フンッと鼻を鳴らしてレヴィアタンの腹部に刺さった邪剣を引き抜き、グラッジゾーグを指輪の中へとしまう。
「なん、で……わた、しを治す…?」
「何でって……あっ、女だからじゃないぞ?そんな傷じゃろくに話せもしないだろ?それに……」
「それ、に…?」
「レヴィアタン、お前が欲しいからだ。弱い俺にどうか、お前の力を貸してくれないか?」
さっきまでの狂気的な笑みとは裏腹に、ニッと明るく笑ったアキラに、レヴィアタンは目を見開いて硬直した。
攻撃に少々難があるレヴィアタン。それでも能力は強いので、七つの大罪内では3位に入るレベルです。




