179話:無駄死?
これから仕事が忙しくなりそうで怖い。
「愚かな魔族だ、よりにもよってラディウス枢機卿様の張った結界内に入ってくるとはな」
「如何にも。魔物の仲間である魔族が結界内に入ればすぐに分かると言うのにな」
回避出来る場所を無くした連携技。
だが激しい砂埃が舞う中で、若い男の笑い声がする。一気に警戒体制に入った白ローブの者達は、それぞれ未だ晴れぬ砂埃に向けて魔法を放てるように詠唱を開始する。
「倒した気にならないでくれよ、聖道協会さんよぉ」
「なっ…!無傷だとっ!?」
ニヤリと笑いそう言った男と、漆黒の剣を持つ女は私達をゴミのように見ている。
まともに食らった筈だ、手応えも感じていた。だが奴らは掠り傷1つ負っていない。
「いきなり現れて攻撃とかヒデ。まあ敵対するなら俺達は戦うぞ?」
「その顔、その目付き…!気に入らんな、魔族の分際で!!」
実に腹立たしい顔付きで、此方を煽るようにそう言った男は私達に血のように赤い剣を突如造り出して向けてきた。
聖道協会の者として、魔族が付け上がるような事を絶対に赦してはいけない。この場で処分する。
「止めておきなさい、貴方達のような者が5人程度集まった所で私達には敵わない」
「ッ!ふざけた事を抜かすなッ!!所詮は───」
言葉が止まった。
自分で止めた訳じゃない、本能が喋る事を封じたのだ。何故止まったのか、それは背後に感じる気配と首に当てられた紅い剣が理由を示していた。
「バ、カな……」
「2人だけだったから油断したね?お前達が見下してる魔族に命を握られるってどんな気持ち?ねぇねぇ今どんな気持ち?ホントのところ聞かせてよ~」
「ッッ!!」
耳元で笑いを堪えるように囁いた黒髪の男。その声はまるで玩具を与えられた子供のように、ウキウキとして囁く。その姿はまるで悪魔のようだ。
「ま、待てっ…!いいのか…!?貴様が私を拘束した所で、此方はまだ4人いる…!私に手を下せばあの女の命は無いぞ…?つまり私と貴様の立場は同じなんだ…!」
「同じ…?あははははッ!!全然違うだろうが、あの4人じゃ殺せないよ。だって彼女は俺より強いんだぜ?」
「何だとっ…?」
「それとね、あの4人が手を下す前……言うなら行動を起こす前に全員殺す事ぐらいなら俺でも出来る。なっ?同じじゃないだろ?」
「アキラ、あまり意地悪しては可哀想よ」
「は…?」
眉を下げ、私を哀れむような表情をしてそう言った黒髪の女。それに対して男は『そうですね』と笑顔で答える。
こんな事あってはいけない。誇り高き聖道協会が魔物同然である魔族に汚されてはならない。
「舐め……な」
「ん?どうした?」
「人間を舐めるなァァァッッ!!!!」
コイツらは俺達を殺すだろう。ならばどうせ消える命、その全てを懸けてこの憎き魔族を葬ろう。
「御許しください教皇様…![命の灯火]ッ!!」
俺達の全魔力を使った自爆技。
代償として使用者の命を捧げる代わりに、広範囲を爆発するこの技は、教皇様の教えによって禁じられている。だが私達はラディウス枢機卿様の御加護がある私達は生き返れる。
「私達と共に死ね…っ!!」
最後に黒髪の男に向かって笑い返す。
男は驚いたように目を見開いて逃げようとする。が、時既に遅く、オレンジ色をした光が辺り一面を照らし出した。
───────────
「まさか自爆するとは……魔女教徒じゃないんだから勘弁してくれよ」
ただの脅しだったのに、聖道協会の者と見られる5人全員がまさかの自爆。ローザがグラッジゾークで爆炎を殺さなければ今頃俺の買ったばかりの服は燃えていた。
「噂通りの過激派、と言った所かしら?あんなのがガンナード大陸最大の宗教集団とはね」
「ホントですね」
円形に黒く焦げた地面を見ながらそう答える。魔女教徒でも追い詰められた時とかにしか使わないってのに……何で使ったんだ?無駄死過ぎるだろ。
「見えない壁がある……あの者達が言っていた事はホントにようね」
「そうなんですか?俺は普通に入れますが…」
「これは魔族や魔物を弾く結界のようね。でも大丈夫、私はこれがあるから入れるわ」
「便利ですね、それ…」
ローザが握っている漆黒の剣、邪剣・グラッジゾークを見て呟く。攻防、そして汎用性が高い。実に強力な剣だ。
ローザはその見えない壁に向けて剣を振るうと、ガラスが割れる音と共に何かが飛び散った。
「待たせたわね、行きましょう」
黒い髪を靡かせて、優雅にそう言ったローザ。何この溢れ出る気品さは……スッゴいお嬢様って感じ。ゴスロリって似合う人が着ると凄い似合うよな。
「スッゴい場違い感が凄い……」
リンガス王国方面の黒いドーム付近で上がる煙と炎を見て、ローザを見る。
お嬢様がいる場所じゃないな、完全に。
「かなりいるわね。また突然自爆をされては面倒だから迂回をしましょう」
「確かに少しでも派手な行動をしない方が望ましいですね」
何百人いるか分からないが、あの数が突然自爆なんてしたら面倒越えて厄介だ。隕石が落ちたレベルのクレーターが出来る事だろう。
『しかし……この感覚は何なんだ?あの黒いドームに近付けば近付く程嫌な感情が沸いてくる…』
この感情は……“嫉妬“、か?
主人公補正を持っていたハジメは勿論、隣を共に歩くローザにさえ嫉妬心が強くなっていく。
『流石は嫉妬のレヴィアタンって言った所か?精神汚染はお約束だもんな。だがこの距離でここまでの嫉妬心を抱かせられては、直接出会ったらどうなってしまうんだ…?』
このままじゃ嫉妬心を駆られて誰かを殺しかねない。最悪の場合はローザを手に掛ける事。これだけは間違っても起こしてはいけない、絶対に。
「大丈夫?顔が怖くなってるわよ?」
「え?ああ……すいません、少し考え事をしてました…」
「難しい事?」
「ええ、まあ……」
ローザは『そう…』と呟くと、腕を組む。そしてチラッと一瞬俺の顔を見てふぅ…と吐息を吐いた。
「あまり1人で考えるのはよくないわ、私がいるのだから相談しなさい。それとも私では頼りないかしら?」
「まさかまさかっ!俺よりもしっかりしてるローザが頼りない訳ないですよ!」
「ふふっ、そう?ありがとう」
俺が慌ててそう答えると、ローザはクスクスと笑う。
大丈夫だ…この人の笑顔を奪うような事は絶対にしない。例え嫉妬心に駆られても、絶対に、、
プロップはかなり先まで固まってます。なのにその場その場で考えている行き当たりばったり見切り発車ように見えるのは、作者の表現力が無いせいですね。




