169話:一始の実力
アキラがアクエリアスの放水に飲み込まれる数分前の事。ハジメがいるこの船内でも問題が発生した。
それは海から突如として出現した謎の生物。黒のヘドロのような生物で、俺の言葉が通らない化物だった。
「うわぁぁぁぁっっ!!」
「た、助けて…!」
船に上がってきた化物に悲鳴を上げる船員達がいる一方で、その巨大を生かしてタックルを仕掛けて海へと落とす船員もいる。だがそのやり方では怪我を負ってしまうのは当然の事だろう。
「クッ…!なんなんだ?コイツら…!」
空や海から魔物達も協力をしてくれているが、強さのレベルが違う。単体で戦えているのがシャチ型魔物のシェバニーと、鷲型魔物のエルドだけであり、その他の魔物は俺の指示の元連携を取らせている。
「ミザリー!コイツらなんなんだ!?シェバニーやエルドでさえ手を焼いてるぞ…!」
「あれは【星屑の厄】と呼ばれている単体で推定Bランクの怪物です!【厄災の十二使徒】が出現する前触れだと言われていますが……まさか両方が同時に出現するなんて…!」
よく分からない単語があったが、Bランクを越える魔物だという事は理解した。道理でAランクのシェバニー達の力しか通用しない訳だ。
『単体でも強いってのにこの数はヤバいだろ…ッ!100?いやもっといる…!』
船内に上ってきた星屑の厄を海へ落とすか倒すをしても、どんどん海面に上がってくる。まさかあの親玉がいる限り無限に現れるのではないかと内心苛立ちを覚える。
しかも連携まで取れており、水魔法が強力すぎる。
「っ!危ない!!」
ミザリーの背後を狙った攻撃に、俺は身を挺して守る。強烈な1撃だった……テイムしたメタルドラコから得たスキル[鉄防皮]が無かったら俺は今頃死んでいる。
「あ、ありがとうございます、ご主人様…!」
「いいって、ミザリーを守るのは主として当然だろ?」
「ご主人様…!」
ミザリーの頭を撫でた後、俺は他の魔物の魔法やスキルを使用して次々と星屑の厄を撃破していく。空と海からの援護もあり、船に上ってきた奴らを倒せばいいのはやり易い。
──ギィィィィィィィエエエエエエゥゥウ!!!!
「あがぁぁ…!!?な、なんだ今の!?」
頭が割れるような甲高い音がこの海域に広がる。世の中には音の兵器があるが、きっと原理はこういう事なんだろうとバカな事を思い付いた瞬間だった。
アクエリアスが持つ4つの水瓶から放たれた巨大な放水の攻撃。それは1つとなって、4倍の大きさへと変わる。その間僅か1秒も無かっただろう。
「アキラが……いないッ!?」
エルドのスキル[遠視]を使用してもアキラを発見する事が出来ない。どこを探しても空にいるのは黒髪の少女、ローザだけだ。
「まさか……!」
その瞬間、頭の中で最悪の考えが浮かんでしまった。突如として放たれた巨大な放水。空を駆けていたアキラが消えた事……考えたくない。だがもし俺の考えが正しかった…?
「ッ…!シェバニー!お前が頼りだ!アキラを探してきてくれッッ!!」
シャチには嗅覚が無い代わりに視力と聴力が桁外れな力を持っている。しかもそれは地球基準であって、魔物が蔓延るこの世界で進化したシャチは更に性能を上げている。
シェバニーが水中へと潜ったのを見送った俺は、今自分に出来る事を精一杯行う。
『アキラが生きているなら、シェバニーが必ず見付けてくる…!それまで俺は…!』
俺は初期にテイムしたエアスカイの魔法を使い、船を囲うように竜巻を発生。船を中心として発生する竜巻が、アクエリアスの攻撃から守ってくれる筈だ。
「それだけじゃ心配だ…!」
以前アキラの追尾のさいにオネストに掛けた隠密と透過の魔法を船へと掛ける。近辺にいる星屑の厄は兎も角、遥か遠くにいるアクエリアスからは姿を隠せるだろう。
「ッ……ミザリー、まだ魔法は使えるか?」
「はい、勿論ですっ!」
そうは言ってもミザリーは少し窶れているように見える。魔法の使いすぎは体に良くない。俺だって皆から魔力を得ているにも拘わらず足元が覚束ないんだ。
俺はオネストの体内に保管してあるマジックポーションをミザリーへと渡し、同じく俺もマジックポーションを飲み込んだ。これでまだ戦える。
「行くぞ、ミザリー!」
「はい、ご主人様っ!」
────────────
ハジメ達一行が星屑の厄と戦いを繰り広げている同時刻。場所はアクエリアス付近の上空へと変わる。そこではアキラが突如として消えてから数十秒後の事。
「何が……」
上空に佇むローザは、今現在何が起こったのかが理解できずに棒立ちしていた。
だが隙だらけのローザを狙うでもなく、水瓶に海水を補充する事に専念するアクエリアス。それはまるでローザに興味が無いように見えた。
『アキラが……殺られた…?いやアキラとの繋がりは僅かだけど感じる…』
つまりそれは生きている事を表していた。だがその気配も少しずつ弱まり、小さくなっていくの感じた。それはアキラとの繋がりが消える、つまり彼が死ぬ間際を表す。
『気配は……っ!海の…底……?これじゃあ助けに行けない…!』
何百と遠くに感じた微弱なアキラ気配。それは海の遥か底、深海を示していた。
そのあまりに深すぎる居場所に、ローザは表情をしかめた。とても助けに行ける場所じゃないからだ。
「…?あれは……」
どうすればアキラは助け出せるか、持ち前の知能を生かして考えていたローザの視界に、1匹の巨大なシャチが入った。
そのシャチはアキラがいる丁度の場合で止まると、くるくると回り出した。
「まさかアキラを助けに…!でも深すぎるのね…っ」
あのシャチは確かディープオールという深海を住む魔物。だが生息地よりも遥かに深い場所に、あのシャチも戸惑っているように見えた。
「それなら…!海を殺しなさい、グラッジゾーク!!」
海に向けてグラッジゾークを切り払う。
それは海面にいたシェバニーを透過し、海だけを殺す刃となる。グラッジゾークによって殺された海は、まるで地割れのように大きく割れる。
「これであの子もアキラの場所まで息が持つ筈……お願い、どうかアキラを…」
アキラの隣に立つべき自分が助けに行けない事を悔やみながら出た言葉。
その悔しさを噛み締めながら、ローザは祈るようにロザリオを握り締めた。
一始 16歳
授業中、突如異世界に飛ばされた天上高校1-Bの1人。
与えられたスキルは[テイマー]であり、テイマー1人につきテイム出来る魔物は1体。尚且つ自分と同等以下の魔物しかテイム出来ない世界で、弱者だと認知されたハジメは、クラスメイトから除け者にされ苛められる。その後王様からも見限られ、文無しで国外へと追い出される。その後謎のドラゴンに襲われたハジメは巨大な穴へと飲み込まれる。気が付いたらアルテルシア魔大陸だった。
だが実はハジメは無限テイム可能。そして自分より遥かに強い魔物も交渉によっては可能。そしてテイムした魔物の魔法、スキルを全て使える為、戦闘もそつなくこなせる。
当然ながら、それを知ってる奴はいない。
実はミザリーもテイムしている。(魔物とのハーフな為可能)




