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168話:弱点を探せ

何か無駄に長くなってる気がする。

8本の触手が飛び交い、アクエリアスの口から放たれる蒼白い光線が海を裂く地獄のようなこの海で、自殺気味に特攻を仕掛けている人間がいた。それは俺が怪しんでいたアキラの姿だった。


『俺の力を狙っていると疑っていたアキラが1番命を張ってる……それなのに俺は…ッ』


クラス転移で得た力に自惚れていたのかもしれない。グッと握った拳は小刻みに震えている。


「また無茶を……帰ってきたらお説教ね」


「あ、危ないですよ、ローザさ──」


俺が悔やんでいる間に、アキラを狙った光線が外れ、船へと向かって来る。そんな死を感じさせる光線に1歩近付いた黒髪の少女、ローザ。

そんな彼女をミザリーが止めようとした瞬間、突如として出現した漆黒の剣でその光線を消滅させた。


「この船は私が守るわ。だから貴方はアキラから頼まれた事を全うしなさい」


そう言いながら振り返ったローザは、海風によってその黒髪を艶やかに靡かせる。その姿は強さと美しさを両立したかのようだった。


「アキラが見付けてくれる弱点に叩き込む1撃…水は効かない。それなら凍らせてしまえばいい」


だが俺に氷魔法の適性は無い。そもそも俺には魔法の適性が無いからクラスメイトからバカにされ、王からも見限られて捨てられたんだ。

だが俺には【テイマー】のスキルがある。このスキルを使えばテイムした生き物の力を俺自身にも使う事が出来る。


「みんなぁぁ!俺に力を貸してくれ!!」


テイマーである俺の能力をフル活用する。その為に俺はアクエリアスとアキラとの戦闘音にも負けない程大きな声で叫んだ。すると空からは鳥の魔物達が、海からはシェバニーを初めとした海の魔物達が現れる。

シェバニー以外はテイムしていない。だが俺の声は魔物に届く。故に近辺にいる魔物達に力の要請を頼む事だって可能という訳だ。


「後は皆の力を借りて、魔法を一斉発射するだけ……頼んだぞ、アキラ」


激戦を繰り広げるアキラへと視線を送りながら呟いた言葉が静かに船内へと響いた。


───────────


「行くぞオラぁぁッッ!!」


ハエを叩き落とすかのように振るわれる8本の巨大な触手。それらを全て回避し、斬撃を放ってくれ反撃をする。8本全ての触手に細かくダメージを与えてみたが、どうやら弱点は触手ではないようだ。


「攻撃に使用してる触手に弱点なんかあるわけねぇよな!──ハァッ!!」


伸ばされ触手の上を走り、アクエリアスへと接近していく。その間も当然落とそうと別の触手が振るわれる度にその触手へと移動し、少しずつ確実に接近していった。


「お前はワンパターンなんだよ!」


2本の剣の内、1つを弓に。もう1つを矢へと変化させ、俺は矢を放射する。

高速で飛来するその矢は、巨大故の反応速度を越えてアクエリアスの目に突き刺さる。


──ギイィィィィィィゥゥウッッ!!!!


耳から血が出るほどの絶叫上げたアクエリアスは、8本全ての触手を自身の顔へと持っていき、包み込むようして叫ぶ。その姿はまるで人間のように見えて、その人間紛いな姿と相まってとても気味が悪い。


振り落とされた俺は翼をはためかせて滞空。片目を潰した事で生まれた隙を突いて、俺はアクエリアスの体の至る場所へと攻撃を仕掛ける。そして理解する。


「なんだよこの再生力は…ッ…これじゃあ弱点もクソも無いだろ…!」


斬られた瞬間からすぐさま再生していく傷。触手にはそのような効果が見られない事を考えるに、脱皮のように新たな腕を生やす事が可能なのだろう。


「あるとするなら…やはり本体か…?」


人間の体のような作りになっている体のみ、異常な程再生力がある。つまり体が弱い可能性がある。あるのだが…それを越えられるだけの力がハジメにあるかどうかだ。


『ハジメはテイマー……魔物の力を使って戦うのが主力だ。魔法に特化している訳じゃない……』


ハジメが転生賢者の佐野ユージのように強力な魔法が使えればの話は別だが……

俺も魔法が使えない剣士タイプで、ローザも回復寄りのオールラウンダータイプ。それ故に突飛した物がない。唯一可能性があるミザリーでさえ、先程見せたような大規模な魔法は不可能だろう。


「クソッ!弱点への攻撃ならハジメの魔法でどうにかなると考えてたってのに…!」


そもそもお互いの能力も知らないから作戦さえもろくに立てられない。お互いがどこまでやれるのか、せめてその辺を話しておけば……


「俺の…プライドのせいだ……」


ちっぽけなプライドのせいで招いた状況に、俺は歯を強く噛み締める。

そうこうしている間にもアクエリアスは眼を再生させ、上空の俺を睨み付けるかのように気味の悪い瞳を動かす。


「なっ────」


そして4つの水瓶を俺へと向けた刹那、回避不可の超高速な激流が放たれる。

俺の知っている滝、津波、海流、その全てに属さない水の威力に、俺は反応が遅れてしまう。明確な死を目の前に、守る事も頭から抜け落ちてしまう威力。僅かに遅れて苦し紛れに腕で壁を作り、瞳を閉じて震える。


だがいつまで経っても俺にアクエリアスの攻撃が当たる事は無い。疑問に感じた俺はゆっくりとその瞳を開けると、、


「全く…アキラは無茶をし過ぎよ。もう少し自分を大事しなさいとこの前言ったばかりだと言うのに……手の掛かる“キング“ね」


漆黒の邪剣を輝かせながら、俺へと振り返ったのはローザだった。彼女は俺をまるで手の掛かる子供を見るような視線でそう呟くと、髪を靡かせた。


「ご、ごめん、助かったよ…!っ!船は大丈夫ですか?」


「平気よ。ハジメがこの周囲の魔物をテイムしたから」


マジかよ。化物みたいな能力だな、流石チートを貰っているだけある。

そしてローザがここに来てくれたお陰で大きな戦力アップだ。何より心強い。


「私達ならあの【厄災の十二使徒】だって越えられる。そうでしょ?」


「ああ、俺達は“キング“と“クイーン“……王が怪物ごときに敗れる訳がない!行くぞ、ローザッ!」


「ふふっ、ええ!」


お互いを支え合えるだけの信頼がある。それ故に背中を任せる事が出来る。どちらかがピンチの時は、どちらかが守る。そうやってあの戦いだって勝ち得たんだ。


「触手にはダメージを与えても止まらない!狙うなら体だ!そのどこかに必ず弱点がある筈だ!!」


上から振り落とされた触手を2本の剣で受け止め、そして切断。だが予想通りすぐさま新たな触手が生えてくる。

やはり再生の仕方やスピードが違う。再生が早いのは守らなければならない所があるからだと俺は睨んでいる。


「くっ…!グラッジゾークの能力を使っても再生を止められない…!」


触れるだけで死を招く邪剣・死滅廻(しめつかい)グラッジゾークの力はアクエリアスにも有効なようで、触手を1撃で消滅させる。

だが再生までは止められず、僅かに遅らせるのがやっとだ。


「何か…!何かヒントになるような事は無いのか…!?」


どんな些細なことでもいい。そこさえ分かれば俺達の勝ちになる。何か無いのか…?


『っ…!そうだ、前に屋敷の掃除中に見た覚えがある…!』


新聞の切り抜きを集めたスクラップブックで見た覚えがある。どこかの国で現れた【厄災の十二使徒】を討伐したというニュースを。

その倒し方は確か、、


「──!!あそこだッッ!!」


記憶の中で思い出した場所目掛けて高速でアクエリアスへと突き進む。

2本の剣を束ね、1つの巨大な槍へと変化させて全力を込めてその槍を投げた。


『あの場所が記事に書いてあった場所ならアイツは必ず守る…!』


先程放った矢よりも速い速度で放たれた槍。鈍足な奴には反応できない速度。その筈だった。

だがその槍は下から登ってきた海の水によって威力を殺され、触手で弾いた。


「やっぱり…!」


防がれた。守られた。あの鈍足なアクエリアスが1ヶ所だけ守ったのだ。

遂に発見した弱点に、俺は思わず口角が上がる。後はこれをハジメに────


──ギィィィィィィィエエエエエエゥゥウ!!!!


今までにない程の大絶叫の後、4つの水瓶から放たれた水が1つとなってアキラを飲み込んだ。それはアクエリアスの咆哮後から僅か1秒にも満たない速度だった。


誰1人として反応する事も出来ずに極太の水に飲み込まれたアキラは、巨大な水流に飲まれ、そのまま下の海へと叩き潰されるようにして深海へと消えた。

安定のアキラ瀕死状態。可哀想に…

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