164話:港町リベローラ
後2人か……すげぇ、、
「ねぇ君達っ!昨日の竜車でも宿でも会ったよね、もしかして君達もガンナード人大陸に行くのかな?」
「………」
竜車内にて、突如俺達に声を掛けたなろう太郎。乗客は彼達と俺達以外いないが、きっと俺達じゃないだろう。ほら、主人公って見えない何かが見えたりするしぃ?
「えっと…種族的な言語が違うのかな……ミザリー、もしかして俺の言葉が変なのかな…?」
「い、いえ…ご主人様はキチンと共通言語ですよ?」
そりゃあ無視してるからな。
ぶっちゃけ今俺は手汗が凄い。関わるとイベントが起こるメリットはある。が、それはあくまでも主人公に利益があって、モブにはとても厳しいのが異世界の常識……つまり関わっても何のメリットも利益も無いのだ。
そんな感じで、ごくごく自然に風景を楽しんでいると、ローザが肘で突っついてきた。会話しろってか…?
「……そういえば同じでしたねっ!」
「あっ、良かった…通じてた…!」
敵を作らない笑みで振り返った俺は、なるべく爽やかに接した。うん、好感触。無視したってのに聖人やん。
「2人とも綺麗な黒髪──っとと、俺は一始っ!こっちはミザリー!」
「ミザリーですっ、よろしく」
人の良さそうな笑顔の青年、ハジメとペコリと頭を下げたミザリー。2人とも性格良さそぉ~…俺とは違っていい子ちゃんだ。
「俺はアキラ。んでこっちがローザ、よろしく」
「………」
爽やか笑みでそう言うと、ローザは黙って会釈。
服装や髪色のお陰で日本人ですか?とは聞かれなかったが、名字を言ってしまえば即バレだ。故に言わない。ローザもランカスター家のお嬢様だし、そっちの名前は出さない方がいいだろう。
「ねぇハジメ、君は見慣れない服装だけど……もしかして召還された勇者?」
「っ……何で分かったんですか?」
「あはは、そんな警戒しないでよ。噂で聞いてね、召還された勇者様は皆珍しく、同じような服装をしているって聞いてね」
軽いジャブを打ってきますよ~。多分ハジメはクラス転移だな。正直個別転移の可能性もあったが、賭けに勝った。んで1人で行動している事を見るに、ハブられたんだろう。ありがちだが、崖に落とされた南雲の方のハジメよりはマシだな。それは俺達に対する接し方で分かった。
「そうなんでっ!ご主人様はテイムの勇者なんですよっ!!」
「あっ!ちょっ、ミザリー!?」
あー、テイム系の能力か。戦闘面じゃ使えないとか言われたんだろう、可愛そうに。異世界から来たテイマーが弱いわけないだろ!いい加減にしろ!
「色々事情があるみたいだね、御愁傷様」
「ありがとう、アキラ…」
俺の労いの言葉に、苦笑いを浮かべて頬を掻いたハジメ。にしてもよっぽど惚れ込んでいるようだな、あのミザリーって娘は。ハジメの話になるとあんな鼻息をフンスっ!てやって……現実で出来るんすね、初めて見た。
そしてその後は、ハジメに何か聞かれたらそれに答えるというやり取りを続け、面倒だなと感じながらも会話を続ける間に目的に到着した。
「ここが港町リベローラか!」
坂が多く、石レンガを中心とした街並みに俺は興奮ぎみにキョロキョロする。客観的に見たら子供っぽく見えるんだろうな、俺は。
「そう慌てないの。リベローラは逃げないわよ」
やれやれといった感じでそう言ったローザに、俺は申し訳なさく笑いつつはしゃいだ。だって港町って興奮しない?海賊船みたいな船あるんだぜ?
「ガンナード人大陸行きの船って少ないんですね」
「航海が危険だからよ。乗って死んでも自己責任だしね」
船着き場付近にあるチケット売り場で怖い事を言い出すローザ。流石何回も乗ってる人だ、面構えが違う。
そんな小ボケは置いといて、船が出るのは3日後。微妙な日付だが、折角なのでローザと共にこのリベローラを満喫する事にした。
そしてやって来たのは街で有名な海鮮料理屋さん。なんでも、ここで食べられる海の幸が美味しいらしい。
そこで俺達はオススメ注文し、暫くすると店員がお皿持ってやって来る。
「ロブミシェルって……伊勢海老じゃね?」
真っ赤なその姿、形は完全に伊勢海老その物で、こっちではロブミシェルと言うらしい。ロブスター的な感じだろうか。
「あ、美味い!」
プリっと柔らかく濃厚な味に、思わず頬が緩んでしまう。正直日本で食える伊勢海老より美味い。
「ローザさんのソレも美味しそうですね」
ローザさんが食べているのはどう見てもウニ。錯覚なんだろうが、それはまるで山吹色に輝く宝石のようだ。
「食べてみる?」
「え…?あ、はい」
スッ…とごく自然に差し出されたスプーン。所謂あーんなのだが、向こうが気にしないと案外こっちも平気なもんで、俺は普通に頂いた。
「うっま!」
鮮度抜群、濃厚クリーミー!流石目の前で取れたてなだけある。安っいウニとは比べるのもおこがましい程レベルが違う。塩水ウニだって目じゃない程美味い。
『しかし思わぬ体験だな。異世界食堂や居酒屋のぶとか思い出すわ』
俺は小市民だから感想がありきたりだが、こういう異世界グルメは現世でも人気がある。俺は料理チートなんていらないけど、取り敢えず言わせてくれ。異世界グルメ本は飯テロだってな!
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そして翌日を迎えた俺は、朝早くからリベローラ近辺にある森へとやって来ていた。魔物を狩って、素材を売るために。
因みに宿はちゃんと2部屋取れました。ハジメとは別の宿にしたのが功を奏したのでしょう。
「ハッ…!!」
「ギッ────」
自身の腕を少し切り、そこから流れ出た血を剣にして魔物を狩る。切れ味が落ちたらまた新しいのを作ればいいし、腰に差す必要も無いから便利だ。使い過ぎ注意ではあるが。
「ふぅ……こんなもんでいいか」
持ってきているお金も無限じゃない。稼げる時に稼いで、尚且つ体も動かしていく。実に効率的だな。
俺は魔物の売れる部位を剥いだ後、石に腰掛けて水分補給をして空を眺める。
「俺のスキル、どこ行っちまったんだ?それに[双子座]ってなんだよ」
そんな事を呟いて、俺は[双子座]のスキルを発動しようと頑張ってみる。が、全然何も起こらない。発動条件でもあるのだろうか、、
「……!誰だッ!」
背後から僅かに揺れた茂みの音。俺はその場からすぐに飛び退き、血の剣を構える。
「いるのは分かってる。3つ数える間に出てこい。さもなくば俺は攻撃を仕掛けるぞ───1つ、2つ、3──」
最後の3を数え終える瞬間に、ピョンと飛び出てきたのは水色をした拳程の大きさのスライム。
「転スラ……いや転生賢者…?」
うっすらと顔が見える……気がする。3つの穴を見ると顔に見える現象のせいだろうか。
そんな事を考えつつ、スライムと見つめ合う事数十秒。スライムは俺を無視して再度茂みの奥へと消えていった。
「何だったんだ…?」
よく分からないが人じゃなかったようだ。視線を感じた気がしたんだがな……
つか俺スライム相手に『誰だッ!』って言ったのか…恥っず。
で、でもほら、スライムって強いじゃん?異世界なら尚更さ…!魔王になるやつだっているし、物理が効かないのもいるし…!俺の警戒は正しいよね!あ、あははは。
そして俺はその場から逃げるようにリベローラへと戻た。決して恥ずかしいからではない、断じて。
スライムは強いってはっきりわかんだね。




