162話:行く先々にいる奴ら
この辺で後半近くになる……かも。
調子に乗ってローザさんをからかってから数日後。俺はいよいよリンガス王国へと向かう日がやって来た。
「アキラ君、ローザ、気を付けてね」
「はい、お母様」
わざわざ見送ってくれるエルザさんやヴィノさん達。何だが恥ずかしく感じる見送りに、俺は少し苦笑いを浮かべる。
「アキラ、ローザお嬢様の事頼んだよ」
「全力で守ります、任せてください!」
俺の肩にポンっと手を置いたブロンさんに、心臓を捧げる勢いでサムズアップをとる。
「では、そろそろ行きます。見送りありがとうございました!」
俺が今日まで働いたお金などを持って、屋敷の皆に頭を下げて俺とローザさんを歩きだす。
見えなくなるまで手を振っていた俺に、何やら隣から視線を感じる。
「あの…どうしましたか?」
「別に…何でもないわ。ただ朝から元気だなって思っただけよ」
「それは…子供っぽいって意味ですか…?」
「さぁ?知らないっ!」
クスクス笑って顔を逸らしたローザさんは、止まった俺を置いて先に行ってしまう。
よっぽど俺は間抜けな顔をしていたのだろう、ローザさんが結構ツボってる。
『笑ってくれるのは嬉しいが…なんとも言えない感情だな、これ……』
そんなよく分からん感情を抱いて、俺は先に歩いて行ってしまったローザさんを駆け足で追った。
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屋敷周辺の森を抜け、草原へと出た俺達はその先に見えるガルドという街へと向かった。因みにガルドは俺が奴隷商に売られたり、半人の人が石投げられたりと色々とイベントがあった街だ。
「ここで竜車に乗って、港町のリベローラという街に行くのよ」
「流石旅好きのローザさん、詳しいですね」
「ふふっ、おだてても何も無いわよ」
そんな他愛も無い会話をしつつ、俺達は街中を歩く。やっぱり俺と同じ人間はおらず、やたらと俺に視線が集まる。
「気にしなくていいわ。アキラから漏れ出る気配が強いから、仕掛けてくる者はいない筈よ。魔族はそういうのには敏感なの」
「えっ!そうなんですか?」
言われてみれば確かに街行く人達には見られてるけど、何か退かれてる気がする。
『なんか嫌な視線も感じる……チンピラモブ、かな?』
人が多いせいでどこからかは分からない。が、多分路地裏だろうな、チンピラモブはそこが生息地だし。
「見えたわ、あそこよ」
「おお…!」
ローザさんが指差す先には地竜に繋がれた荷台が数台ある。時折街中を走っている姿を見たことがあったが、こうして近くで見るのは初。故に俺は少し興奮気味に近付いた。
「ガァァウッ!!」
「おわっ!?」
「ダメよアキラ、急に近付いては危険よ──って…遅かったわね」
ローザさんの言葉を聞く前に接近してしまった俺は、危うく噛まれる寸前だった。めっちゃ睨んできやがる…!低く唸ってるし……
「兄ちゃんは地竜に嫌われやすいみたいだな!アッハハハ!!」
滅茶苦茶怒ってる地竜を見た御者のおっちゃんが爆笑。魔物に嫌われやすい俺だが、どうやら地竜にも嫌われやすいようだ。うーむ…悲しい。
「アキラは近付かない方が良いわね。それと眼を合わせてはダメよ」
「はい……」
ローザさんの助言を受け、俺はすぐに視線を外し、そしてそのまま荷台に乗り込んだ。
ちょっと静かにしてましょうか…うん……
「そんなションボリしないの。きっとアキラにピッタリの地竜がいるわよ」
「だといいんですが……」
ガクッと項垂れていた俺に、優しくフォローしてくれるローザさん。聖人かな?
それはそれとして、そろそろ出発時刻。ランカスター家の高級感ある竜車とは違って、この竜車はサファリパークのバスみたいに解放感がある。
「そんじゃ出発する──「わーっ!?待って待ってっ!乗りまーすっ!!」」
御者のおっちゃんが出発しようとした瞬間、駆け込み乗車してくる青年と美少女。俺は心の中で舌打ちをした。
「ふぅー間に合った…!」
「ギリギリでしたね、ご主人様…」
息を切らして席に座った日本の学生服の青年と、従者のような格好をした犬耳の美少女。
『コイツら前に半人の差別行動にいた連中だよな?確か。てなると隣の美少女はあの時石投げられてた子か。随分と綺麗になっちゃって』
羨ましいですね、死んでください。
とは流石に言えないので、俺は知らん顔で外の風景を楽しみ、ローザさんと談笑する。向こうは何やら弁当を食べてる。
「ふふっ、お口に付いてますよ」
「えっ!どこどこ?」
「ここです」
そう言って青年の口元に付いている食べカスを自らの口へと持っていき、パクっと食べた犬耳美少女ちゃん。あざとっ!
別に俺はどうでもいいんだよ?ただ竜車内で飲食ってどうなの?俺はいいんだよ?俺はね!?でも他の人に迷惑を掛けちゃあ不味いと思うんだ!(※アキラ達と青年達以外はいません)
「アキラ、あまりジロジロ見るものでは無いわよ?」
「そ、そうですね」
嫉妬から盗み見していた事をローザさんに叱られ、俺はもう見るのやめた。だが聴覚から攻撃を仕掛けるイチャイチャボイス。顔には決して出さないが、心の中ではとんでもない形相で奴らを睨んでいる。おのれぇ…!俺のいない所でやってくれよ!
「もしかして羨ましいの?」
「ま、まっさかぁ…!あはは」
嘘である。
この男、美少女とイチャイチャする為に今日まで生きてきたと言っても過言ではない?つまり羨ましいのだ。
「ホントかしら?」
「ほ、ホントですよぉ~…!」
ジト目で俺の目を見るローザさん。美少女との近距離で見つめ合い、俺にはキチィぜ。
ローザさんは俺の本心が分かっているかのように、クスクスと笑った後に『そういう事にしとくわね』と可愛らしく言った。自分、鼻血いいっすか?
俺は後方のイチャイチャと隣の美少女の可愛さに、ぐっ…!っと耐えながら竜車移動を満喫?した。
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「あー腰イテェ…」
主人公が乗り込んでいる竜車だったが、特にイベントなどは起こらず、無事に街に到着。ただリベローラまではまだまだ遠く、既に暗くなった道は魔物も活発になり危険なので、ここチラスティという街で1泊だ。
「まだ空いている宿があって良かったですね!」
「ホントだな、ラッキーだったよ」
「………」
宿屋へとやって来た俺とローザさんだったのだが、何故か同じ宿に学生服の青年&従者犬耳美少女がいる。何故だ。
「嫌な予感する……」
桃鉄のキングボ○ビー並みに着いてくるんじゃないかと心配で仕方ない。
因みにキ○グボンビーは不幸を運ぶキャラだ。物語の主人公もまた然り。ある意味不幸を運ぶ存在だ。客観的に見たら、なるべく近くに居たくない存在だね。
「また暗い表情ね。そんなにあの人間と半人が嫌いなのかしら?」
「そういう訳じゃないというか……うーん…表現しにくい感情ですね」
「私にはよく分からないわ」
苦笑いでそう言ったローザさん。俺も思わず苦笑いを浮かべて部屋へと共に向かった。
うん、絶っっっ対何か起こるね。
そろそろ大罪系や十二使途の話に戻ると思います。




