160話:歪んだ決意
久し振りに書いたせいで、言葉遣いとか忘れてしまった…
新年明けましておめでとうございます!今年もどうか…!よろしくお願いします!
「ねぇ、今日もミルちゃんは……」
「ああ…出てこないよ…」
「そう……」
列車が襲撃され、アキラを亡くしてから早1ヶ月以上が経過。あの後冒険者ギルドから救助にやって来て、民間人他僕達を保護。そしてルミナス聖国へと戻ってきた。
「もうミルは……部屋から出てこないかもしれないな…」
「そんな…っ」
クリークス家の屋敷へとやって来てすぐ、ミルは表情は消え、無言のまま自室へと閉じ籠った。僕や姉さんはこうして毎日ミルの部屋前まで行っては声を掛け、何とかして出そうとしているのだが、返事は決して返ってこない。
「私も……行ってくる…」
「……僕も行くよ」
姉のルナの後に続いてミルの部屋へと向かう。
ミルの部屋に近付くにつれ、段々と凍えてくる廊下。そして部屋のドアノブから壁にかけて一面が凍り付いてる。まるで全てを拒絶するかのようだ。
「ミルちゃん…?生きてる、よねっ…?」
返事は無い。
だが一面の凍結が少し広がった事を見るに、生きてはいる。それは大体分かった。
「ここ、開けてよ…ミルちゃん……。アキラ君が亡くなって辛いのは分かる……私達だってそれは同じよ…?でもいつまでもこうして閉じ籠っててもアキラ君は…喜ばないんじゃないかなっ…?」
ルナがそう発した瞬間、凍結の侵食が止まる。
そして代わりと言わんばかりのソルとルナへと冷気を向けられる。それはまるで向こうへ行けと言われているかのようだった。
「ダメだ、姉さん……戻ろう…」
「うん……」
あのままいれば身が凍り付いてしまう。そうなる前に撤退を選んだソルとルナは、扉へと悲しい視線を向けて離れていった。
────────────
「アキラ……」
───ありがとな、ミル…
───さよならだ…!
「っ……!」
もう何度同じくシーンがフラッシュバックされたか分からない。その度にミルは吐き気を催す。
「ボクがもっと強ければ…!アキラは…っ…アキラは…!!」
どれ程悔やんでも、失ってしまった人は帰って来ない。去っていったルナの言葉通り、いつまでもこうして閉じ籠っていても仕方ないと分かっている。それでも外に出る勇気がミルには無かった。
「ボクがもっと聖剣を上手く扱えていたなら……」
視線の先にある聖剣・銀零氷グレイシャヘイルは本来の輝きを失い、鈍い光しか放たない。
何度あの時間に戻れたらと想像しただろう。だがそんな力はミルには無く、アキラと過ごした日々がミルを苦しめた。
「あああぁぁぁあぁあああ…!!」
やり場の無いこの苦しみを物へとぶつけたミルは、その乱れた髪を掻きむしり息を整える。
“復讐“
この2文字が頭に浮かんだ。だがそれを実行する覚悟も、ここから動く事も出来ない。無気力という訳じゃない。ただ外の世界が怖くて仕方ない。出ればまた何かを失うんじゃないかという気持ちが強くなり、ミルをこの部屋に縛り付ける。
「…………?これは……」
ミルが暴れた事で散乱した部屋の中。脱力したミルはベッドへともたれ掛かると、すぐ近くにあった新聞に目が止まる。これは執事のマグが毎日持ってくる新聞であり、今まで読んでは来なかったが、偶々視線の先にあった事で手に取ったミル。
「七つの大罪・“嫉妬“…?」
記事に大きく書かれた七つの大罪・“嫉妬“現るの文字に、ミルは反応する。
嫉妬は確かアキラが宿していた悪魔であり、そのせいで“強欲“と“暴食“に狙われた。
「ここに行けばあの男がいる……」
嫉妬の力は強欲を冠するあの男がアキラから奪った力だ。悪魔の事はよく分からないが、リンガス王国へと行けば、アキラを殺したあの男がいる……
「今のボクに出来る事……」
つい先程までは復讐をする覚悟も勇気も無かった。だがこの情報を見て、ミルは覚悟をした。否、してしまった。
「待っててね、アキラ……ボクが君の仇を取るから……」
暗い瞳のままアキラへと誓ったミルは、立て掛けてある銀零氷を手に取る。
この1ヶ月で鈍ってしまった勘を取り戻す為にミルは扉へと手を掛け、久し振りに太陽の日を浴びる。
「眩しい……」
一言そう呟いたミルは、その後は何も口にする事無く廊下を歩きだす。
「み、ミル!?出てきたのか!」
「良かった……また会えて良かったよぉ…!」
「………」
ホッとするソルと、涙を流しながらミルの手を掴んだルナ。それに対してミルは反応は無く、下を1度向いた後に口を開く。
「二人とも……毎日ありがとう。本当に感謝してる。ボクはやる事が出来た。そこは危ない場所……だから──」
「リンガス王国へ行くつもりだろ」
「…!」
ソルは“嫉妬“の記事が書かれている新聞を出すと、言葉を続ける。
「そこに1人で行こうってか?バカかお前は。何のために僕達がいると思ってる」
「そうよっ?それにこれは七つの大罪が関係してる…私達だって無関係じゃないの!……また誰かを亡くす前に止めたい…っ!」
真っ直ぐとしたその視線に、ミルは暗い表情のまま視線を反らし、再度下を向く。それは二人とミルが抱えている感情が違うからだ。
復讐の為にあの男を殺す事を選んだミルと、もう犠牲者を出さない為に戦う事を選んだルナとソル……
「来るのは構わない……───でもボクの邪魔をしないで。例え何があったとしても…ね」
「っ…!そ、それはどういう意味──」
鈍い光を放つ琥珀色の瞳でいつもとは違う声のトーンに、思わず体をビクつかせたルナは震えながら意味を聞く。
が、それに答える事は無く、ミルは歩きだす。
「ねぇ…ミルに何かあったのかしら……」
「分からない……だがアキラの死が原因なのは確かだ。あの殺意にまみれた目、僕達が止めないと不味いぞ…」
「ええ……そう…ね」
振り返る事も無いまま廊下を歩くミルの背中を見つめた二人。その背中からでも分かる程歪んだ感情を抱くミルに、二人はミルの行動を危険視する。
「……また悪魔との戦いになる。戦いと旅の準備をしよう」
「そうね……」
─────────────
「ふっ…!はっ…!」
復讐を決意したミルはすぐさま庭へと回り、聖剣を抜いて久方ぶりの稽古を開始する。約1ヶ月以上の間剣を握っていなかった為、僅かに鈍った体と勘を取り戻していく。
『前よりも扱いにくい……?』
思い通りにグレイシャヘイルを扱えない事に違和感を覚えるミル。
そしてグレイシャヘイルから時折聴こえてくる声はもう1ヶ月以上聴いていない。前までは戦いの最中などにアドバイスなどをしてくれていたのに……
「関係無い……ボクの目的は変わらないのだから」
輝きを失ったグレイシャヘイルを見ながらそう呟いたミルは、再度剣を振るう。
調子を取り戻したらすぐにでもここを出る。
「待ってろ……必ずボクが殺してやる…」
瞳から光を失ったミルは、いつも以上に無表情で聖剣を振るった。それは大切な初弟子であり、初恋のアキラを奪い殺したあの男を殺す為だけに。
闇落ち好きです。光落ちも好きです。ハイライト落ちてる子っていいよね……よくない?
新年からこの小説を読んでいるそこのアナタ!好きッス!




