157話:王を越える存在
後少しかぁ……初めてでよくここまで来れたなと実感し、皆様に感謝してます。
森に響く爆発音と、暗い夜さえも赤く染め上げる業火。地面は割れ、木々は薙ぎ倒され、どれだけの激しい戦闘があったかはそれだけで分かるほどに荒れていた。
「はぁっ………はぁっ…………ッ……」
執事服を赤く染め上げ、ふらつきながらも踏ん張って耐えるアキラは、目の前から迫る攻撃を素早く回避。が、別の場所に仕掛けられていた魔法が発動し、アキラはダメージを負ってしまう。
『ちくしょう……血が止まんねぇ…!そろそろヤベェだろ、これ』
出血性ショックで死ぬかもしれない。そうなったら“キング“の不死は発動されるのか……なんて下らない事を考えて少し笑う。もはや笑うしか出来ない程、アキラは追い詰められていた。
「無様無様無様ァァァァァ!!!!」
「クッ…!─────ガハ…ッ…!!」
黒の腕を複数俺には向かって飛ばす。速すぎるその攻撃に、もはや逃げ切る力も残されていない俺は滴る血を紅い結晶の盾にして守るが、それは一瞬で砕け散る。
『もう限界だ…!これ以上は俺には…ッ!』
情けない。結局倒しきれないまま、俺の方が敗北宣言をしてしまうのだから。
だがアイツは本当の怪物だ。決死の覚悟で切り刻んでも、奴には通じない。
「俺に残された力……全部使うぞ…!ジギタリスッ!!」
俺はジギタリスに向かって走り出す。次々と迫る魔法や黒の腕を腕や足を犠牲にして突き進む。
俺は残された力を全て使って自爆する。もうこれしかないジギタリスを止める方法が無い。俺の命は軽く安いが、何がなんでもジギタリスを道連れにする。絶対に…!
「ダメっ…!!」
「なっ!?」
ジギタリスまで後少しの所で、ジギタリスの伸ばされた黒い腕が切断され、俺は誰かにタックルされて吹き飛ばされた。
「バカっ…!今、何しようとしていたか分かってるの!?もっと自分を大事にしてよ…っ!」
俺を吹き飛ばしたのはローザさんだった。ローザさんは俺の上に乗って、涙を流して本気で怒っている。
「そんな事言ったって……もう手が無いんだから仕方ないじゃないですかッ!!通らないですよ…アイツには…!」
どのみち俺は後少しで死ぬ。血を飲んだことで起こる副作用で。なら無駄死にするくらいなら、少しでも役にたった方が俺も嬉しい。勿論死にたくなんかないが。
「ローザざざざざァァァァ!!ぼぼぼボ僕僕ノローザッッ!!」
「…!危なッ─────」
ローザを視界に捉えたジギタリスは、蝙蝠の体には継ぎ接ぎの足を何十本も生やして接近してくる。当然俺は守る為に動いたのだが、、
「五月蝿い。私は貴方のじゃないって何度も言っているでしょ」
ジギタリスへと邪剣を向けた瞬間、赤黒いプラズマと共に一瞬にしてジギタリスを貫く。音を置き去りにしたかのようなその攻撃に、ジギタリスは大きなダメージを受け、100m程吹き飛ばされた。
「アキラ、時間が無いからよく聞いて」
「は、はい…」
ジギタリスへの嫌悪がまだ瞳に残ったまま俺を見たから一瞬ヒヤッとした。
「まだ手はあるわ。ジギタリスを倒し、そして──貴方の命を繋ぐ方法が」
「ッ…!それは本当ですか!?」
あの化物を倒せる方法がある事に驚き、俺が死ぬ事も無くなるなんてまさに夢のような話だ。にわかには信じられない話だ。だがローザさんの紅い瞳を見れば、それが本当だと信じられる。そう感じるほど芯の通った瞳をしていた。
「その方法は一体…!?」
「簡単よ。私の首から血を吸いなさい」
「えっ!…………え?」
首から血を吸うってアレか?吸血鬼的な感じで吸えばいいのだろうか……てかどんな感じでやってるか知らないんだけどアレ……
「えっと…どうやれば……」
「説明している時間が勿体無いわ。私が先にやるから、それで覚えなさい」
そう言って俺の首に口を当てたローザさん。美少女接近でドキッ!……とする間も無く、俺の首にそこそこな痛みが走る。
『い、痛い……』
思ってたのと違う……。結構痛いんだけど、これ。うわっ!首から滴る血の感覚が嫌だな……
「………ふぅ、今のようにやるのよ。分かった?」
「はい……痛いのを我慢してくださいね」
どんな感じ感じいまいち分からなかったが、取り敢えず顔をローザさんの首へと近付ける。
すると俺の歯が急に伸びてきて、犬歯が鋭く尖りだした。
『成る程…これで……』
かなり尖っているので、痛くしないとかは無理だろう。首に2本注射針刺されてるようなもんだし。
「んっ……!」
「い、痛かったですか…!?」
「平気よ。少し…くすぐったかっただけ」
なら変な声出さんといて……今のがネット民に知られたら、『は?』の嵐だからさ…。しかも俺が悪いっていう理不尽なやつ。……いや、悪いか。
「ローザァァァァァァァァァ!!!!」
こうしている間にもけたましい地響きを鳴らし、耳を塞ぎたくなる程不快な声を上げて迫ってくる。
「時間が無いわ。ちゃんと私の血を吸いなさい、早く」
「は、はい!」
俺は急いでローザさんの首に口を当て、そして歯を立てて血を吸いだす。
その瞬間、俺の体に異変が起こった。
『何だこの感覚……』
エルザさんから血を与えられたとのは訳が違う。体に激痛が走る訳ではないし、体を作り替えられるような不快感も無い。むしろ心地好く、俺の体を作り替えたナニカを優しく包み込むような感覚だ。
「僕のローザに──触れるなぁぁぁぁァああ!!!!」
今までの比ではない黒い腕を生やしたジギタリス。森の木々をすり抜けて、逃げ場の無いように全方向から迫る。完全に囲まれてしまった。
「消えろキエロ消エろッッ!!死ンでしまえッッ!!!!」
俺だけを狙った黒の腕。それが逃げ場を完全に無くし、俺を球体のように包み込んだ。
そこはまるで闇。真っ暗で何も見えない空間。そこから俺を手足を力強く掴む冷たい手。
──憎い……痛い…………
──死にたくない死にたくない……
──何でこんな目に会わなくちゃいけないんだ…!
俺の心に直接響き渡る怨念の声。それは悲痛な叫びであり、ジギタリスによって殺され魔剣の素材に使われた者の声だった。
「大丈夫だ、俺が全部終わらせる。だからもう少し……もう少しだけ待っててくれ」
俺はゆっくりと瞳を開けて、両手に剣を造り出す。俺の血から造り出した剣は、先程よりも強い光を放っており、不思議と全てを切り裂けるように感じた。
俺を掴んでいた腕を振り払い、そして全方向汲まなく2本の剣を振るった。黒の腕を切り裂き、闇を払うように振るわれた剣は間も無く球体に光を灯し、完全に球体を破壊した。
「バカな馬鹿なババババッッ!!ナゼナゼナゼナゼ破壊でキる!?!?」
「“クイーン“となった私の血を飲んだのよ?アキラは“キング“越えた存在へと進化したの」
同じ言葉を連呼しながらも、ジギタリスの意志が残っている怪物はそう驚き、100を越える目玉をギョロギョロと動かす。
「“キング“を越えた存在、か……。ならエンペラー……、いや、皇帝と書いて“マジェスティー“だな」
「何言ってるの…?早くあの化物を倒すわよ」
「あ、はい」
ローザさんからの軽いツッコミを受け、俺は2本の剣を構える。それと同様にローザさんも漆黒の邪剣を静かに構えた。
「ぼぼぼ僕よりも、その貧弱ナ人間の男を選んだノノノノか…ッ!?」
「ええ、そうよ。そもそも貴方なんか選ぶ筈が無いじゃない」
「く、くぅぅゥ…ッッ!!ならお前共々消し去ってくれるわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
巨大な口を大きく開き、真っ赤な火炎を吐いたジギタリス。周りの木々にまで影響を及ばせる程の火力に、俺とローザさんはお互いに視線を合わせ頷いた。
「行くわよ、アキラ」
「はい、ローザさん…!」
この戦いが終わったら、ランカスター家以外にスポットを当てたいと考えてます。(恐らく1位人気の)ミルとかが今、何をしているかですね。




