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156話:覚悟が決まる時

作者やそのファン等々…色んな方角からいい加減怒られそうですね……

突き刺さった魔剣から禍々しくこちらを覗いている双眼の光。俺に向けられた強い殺意に耐えながら、俺は血の剣を2本生み出して構える。


──憎い……お前が憎い…ッ!


魔剣から聞こえたジギタリスの声。その声が聞こえた瞬間、魔剣の口から真っ黒の腕が数十本集まり、それは段々と膨張していく。


──僕は“キング“……、僕が…絶対だ…!


「おいおい…!こんなの無しだろうが…ッ!」


もはや人でも剣でもない、それは巨大な蝙蝠のような化物だ。人と人を継ぎ接ぎしたように蝙蝠の体には腕や足などが飛び出ており、本来なら2つの眼があるであろう場所には100を優に越える目玉がこちらを見ていた。


「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いィ……!人間のオ前が憎くテ仕方なイ…!!ぼ、ぼぼボぼぼ、僕ノ前からいなくナれ!!」


怪物と化したジギタリスはその大きな翼をはためかせると三日月のような形をした風の刃が複数出現。俺はそれを二刀流で切り、またはかわす事で事無きを得る。


「ッ…!マジかよ…ッ!?」


三日月の刃を切った剣は1度で刃溢れに近い状態となり、あの刃がどれだけ高威力かつ鋭利か分かる。体に少しでも当たった瞬間、一気に体の部位を持っていかれるだろう。


「消エろ死ね消えロロロロロし、しし死ね消えろ死ね…!!」


バグったように何度も同じ言葉を連呼するジギタリス。もはや振るわれる攻撃には知性は無く、大雑把な攻撃が多い。

が、それでも広範囲に高威力。油断は全く出来ず、一撃を喰らった瞬間即死亡。そんな攻撃が数百と次々に展開されていく。


「アガッ…!!────クソ…!切っても切ってもキリがない!」


避けきれなかった攻撃によって失った腕を再生させる。ローザさんに行った【治癒術】とは違い、自身に掛ける【再生術】は己の寿命を使い、そして疲労感凄い。無限には出来ないだろう。

対してジギタリスの体から不気味に伸びる黒の腕を切ってもすぐさま再生。もう数十回は切断しているのだが、再生のスピードはおろか無限に再生し、むしろ増えている気がする。


『クソ!どうする!?コアである心臓を破壊したのに止まらない…!どうすれば倒せる!?』


パターン考えろ。俺が唯一この世界で通用する知識だ、フル活用しろ。

従来の再生持ちは【再生術】然り、何かを代償または何かを消費している。なら切り続ければ道は見えるのだろうが、現状では全く限界の兆しは見えない。

そしてもう1つが本当に無限に再生出来る場合だ。そうなってくると主人公達が行ってきたのはほぼ1つと言っていい。


「……相手の完全消滅、だな」


転スラのリムルがいい例だろう。

無限に再生するには丸々飲み込み、消滅させるしかない。または賢孫のシンのようになデタラメな魔法で完全消滅もあるが……どちらにしろ俺にはそこまでの力は無い。


今は“キング“となっているが、“キング“は不死の存在であり、ランカスター家の秘術しか扱えない。死なない事は大きな力だが、それは向こうも同じ。

要するに、本人のスペック次第と言った所だ。


「おままマまま前さえ、え、え、エいなければァあぁあ!!」


俺を囲うように全方向から黒い腕が迫る。もはや見えざる手にしか見えないその手から逃れるために、唯一残された道である上空を選んだ。

誘われている気がするし、嫌な予感を感じ取っていた俺は、必要以上に上空へと逃げる。


「────危なかった……あれを喰らっては再生は厳しいぞ…!」


予想通り上空に仕掛けられていた水魔法が破裂し、中に詰められていた黒の刃が全方向へと飛ばされている。もし今あの場にいたら、俺は回避不可のダメージと共に地上へと落下していただろう。落ちたら最後……考えるだけでも恐ろしい。何より大雑把に動いていたジギタリスが、今のような小細工を仕掛けて来た事に戦慄する。


「回避は出来たが……どうすればいい…?どうすれば奴を倒せる」


この手の場合は大体がイレギュラー。予想外の事態であり、恐らくあのジギタリスと同じになった者はいないだろう。つまりそれは倒し方を誰も知らないという事だ。


「コアである心臓は無い。再生速度は異常で無限再生。俺自身に奴を消し去るだけの火力は無い、か……」


詰んでいる。

もはやその考えが浮かんでしまう程、俺には手立てが無かった。

“キング“を殺せるのは“キング“だけ。俺はジギタリスを殺せず、ジギタリスは俺を殺せる……どうしろと言うのだ。これがチェスなら俺は既にチェックメイトだ。


「ジギタリスは今、俺を殺す為だけに動いている……なら俺が死んだ後はどうなる?」


恐らくあれはジギタリスの欲望、抱いていた意思によって動いている。今は俺を殺したい程憎んでいるが、それを達成したら……


「間違いなくローザさんを狙う……クソッ!!」


戦わない訳にはいかない。俺はエルザさんからジギタリスを倒す事を託されたと言っても過言じゃないんだ。夢や目標の為もある……だが恩人には絶対に傷付けるような事はさせない。


「戦いの最中で弱点を見付ける……これしかないのか…!」


俺は下唇を噛み、2本の剣を構える。

視線の先にいるジギタリスの100を越える目玉と睨み合う。そして俺は小さく息を吐くと、高速落下と共に体を回転させて攻撃を仕掛けた。


──────────


アキラとジギタリスが戦闘を繰り広げる事で生じる地鳴りと爆音。それに背を向けて走っていたローザは漸く屋敷内へと到着し、教会のような部屋へと急いだ。


部屋へと近付くにつれ、瓦礫の数も増えていく。それらに足を取られないように走り続けたローザは、その大きな扉を力強く押して開いた。


「ローザ…!無事で良かった……」


「お母様も無事で良かった…!」


ブロンの手当てをしているエルザを見て、一安心したのも束の間。ローザはすぐに母、エルザへと本題を切り出した。


「お願いお母様!私に…私に“クイーン“を任せてくれないかしらっ!?」


「それは……アキラ君の為ね?」


エルザはローザの言わんとしている事を理解してか、真っ直ぐとローザを見ながら静かにそう聞いてきた。


「ええ……もうお父様のように同じ理由で誰かが死んでほしくないの…っ!アキラは今、ランカスター家を背負って戦っている…!自分の命なんか考えもせずに……」


「ローザ、貴女の言っている事は分かる。私もエルフィンと同じ理由で誰かを亡くすのは嫌よ。でもね、ローザ……貴女にはランカスター家の全てを背負う覚悟があるのかしら?」


「覚悟……」


「“クイーン“は“ビジョップ“や“ナイト“のような役割とは違うの。“クイーン“は先代から受け継がれてきたランカスター家を守る大事な役割……そして“クイーン“は本来“キング“の隣に立ち、支える役割なの。貴女のやろうとしてい事はその“キング“と共に歩む事を意味するのよ?──それら全てを貴女は受け止められる?」


「っ……」


エルザの言葉に、ローザは黙ってしまう。

本当に自分にはその覚悟があるのか、ジギタリスに敗れ、ランカスター家の将来をアキラに任せた自分に、屋敷の者や王家の血を守れるのかと……


「私は……ブロンやヴィノ、屋敷の者達に支えられなければいけないほど弱い。邪剣に選ばれ、ランカスター家始まって以来の天才と言われても……」


キッと俯いた顔を上げたローザは、エルザの眼を真っ直ぐと見つめて続ける。


「───でも、だからこそ守りたいっ…!今度は私が皆を守ってあげられる程強くなりたい…っ!命を削ってまで戦って欲しくない…っ!その為に“覚悟“が必要なら……私は全てを受け入れ、立ち向かうっ!!どんな辛い事だって、屋敷の皆と乗り越えていくっ!!」


「フフっ……ホント、あの人そっくりなんだから。…貴女の“覚悟“、確かに受け取ったわ。ローザ、手を貸してっ」


「えっ…?うん…」


ローザは戸惑いながらも右手を出すと、エルザはその手を掴み、そして指を絡めて瞳を閉じる。すると、エルザな手が淡い紅の光放つ。


「エルザ・ランカスターは、“クイーン“を降り、娘であるローザ・ランカスターへと“クイーン“託す…」


エルザがそう発すると、エルザの手で輝いていた光はローザの手へと渡り、そして消える。

その光が消えた瞬間、体内でナニカが燃えるように暖かな感覚を覚える。


「お母様……今のは…?」


「貴女に“クイーン“が渡った証拠よ。ランカスター家の未来を頼むわよ、ローザ。決して力の使い方を見誤らないようにねっ。これ、アキラ君にも伝えといてっ」


優しく微笑みながらそう言うと、エルザは大きなあくびをしてその場に座り込んだ。

何かあったのかと心配をするローザを、手で制止したエルザは眠そな目付きで口を開く。


「大丈夫よ。でも今の継承で、少しお母さん疲れちゃった。……後はあなた達次第。頑張りなさい、ローザ」


「…!はい、お母様っ!」


覚悟の決まった強い眼差しで頷いたローザは、その背中に先程よりも大きな翼を広げて空へと飛翔した。


「ホント……大きくなったわね、ローザ…」

多分出てこない設定

ランカスター家には、何故か人間が関わる事が多いらしい。その度に何か大きな事件が起こり、当主と共に何度も解決してきた。

実はエルザやローザ、セルリアは人間の血も流れています。王家の血が濃すぎて、ハーフって訳じゃないんですけどね。

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