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154話:王は1人でいい 前編

100の壁が遠い。

「はあっ……はあっ………、くっ…!」


「いい加減諦めなって、ローザ。君じゃ僕は殺せない。たとえ“死“を司る邪剣を持ってしても、ね」


殺さぬように、それでいてローザの心を折るために手加減しつつ追い詰めるジギタリス。ローザは頬や腕などに傷を作り、黒のドレスも所々切れてしまい、心身共にボロボロだ。


「私はランカスター家を守る…!貴方なんかに私の家族も誇りも渡しはしないっ!」


「フフッ…君のそういう所、ホント大好きだよ。でもね?あまり聞き分けの無い子は嫌いなんだよね。───それが君であってもだ」


「─────うぐっ…!!」


刹那の如く、赤黒い閃光が輝く。その次の瞬間にはローザは全身を刃で切りつけられたかのように出血。そして遅れて衝撃波がローザを襲った。赤黒い刃に飲まれたローザは、空中で方向感覚を失う。


『ランカスター家を守る長女として負ける訳にはいかないのに…、邪剣を扱っているのに…、それなのに“キング“には届かないと言うの…?』


背中の翼にも激しいダメージを負ったローザは滞空する事も不可能となり、翼をはためかして飛翔する事も不可能。

地上に向かって落下していくローザの視線の先には、憎たらしく嗤う男の姿。それが悔しくて、ローザは自身の下唇を噛み切る。


「お母様、お父様…守れなかったよ………ごめんなさい……」


瞳から溢れた涙がローザと共に落ちて行く。

そのままジギタリスを止める事も出来ず、“キング“を倒す事も出来ず、惨めに落下していく。


───筈だった


「いいや、守れるさ。その為に俺が来た」


「アキ…ラ…?」


落下して行くローザを受け止めたのは背中に大きな黒き翼を生やしたアキラだった。

アキラは優しい笑みを浮かべ、頷いた後に上空のジギタリスへと視線を向ける。


「へぇ、どんな手段を使ったか知らないけど、回復したんだね」


「お前を倒す為にわざわざ戻ってきたんだ、もう少し嬉しそうな顔をしろよ」


お互い睨み合う中、アキラはジギタリスから視線を剃らさずにローザの傷を治癒していく。

アキラの体内で一部流れる血がアキラに【治癒術】を教え、ローザを治癒する事が出来た。


「何でアキラがランカスター家の秘術を…!?それにその翼は…!」


「すいません、ローザさん。色々説明したい所なんですが、どうやらそうも行かないらしいですよ」


その言葉に、ローザもアキラの視線の先へと向ける。そこには天に向けて手を上げたジギタリスがおり、見る見る内に肥大化していく赤黒い炎の球体が出来上がっていた。


「僕のローザを抱き上げるなんて……随分な事をしてくれるじゃないか、えぇ?弱き人間君」


「確かに俺は弱い。でもな、今の俺はお前と同等の力がある」


「何…?」


俺の言葉に一瞬動揺の顔を浮かべジギタリス。だがすぐに余裕の笑みへと戻り、


「ならその力ってヤツを見せてみろよ、人間君よぉ!!」


少しの怒りと嫉妬を感じる声色で、ジギタリスは赤黒い炎の球体を俺達に向けて放つ。ジギタリスと俺達にはそれなりに距離があるにも拘わらず、熱気が凄まじく身が燃えてしまいそうな程熱い。


「ローザさん、少しすいません」


「え、ええ……何をするつもりなの?」


俺はローザさんを下ろすと、背中の翼をはためかせ滞空してそう聞いてきた。


「あの炎を切ります。その為に……」


俺は自身の腕をナイフで切ると、大量の血が溢れ出す。腕を滴り落ちる血を操作し、形状を整える。そして俺の血は深紅の剣へと変化した。


「まさか【血器生成術】まで使えるなんて……一体貴方に何があったの…?」


「……今はそれよりもあの炎です───セリアァァァァッッ!!」


深紅の剣を上から下へと振り下ろすと、赤黒い炎は真っ二つに切り裂かれ、空中で大爆発。爆風と爆炎によって、屋敷周辺は一時的に明るく染まった。


「ま、まさか僕の炎を一撃で…!?」


「言った筈だ、今の俺はお前と()()だとな」


たった一撃で炎を切断したアキラにおののき震えるジギタリス。そして戦慄の表情と共に気が付く。この人間は自身と同じ“キング“の力があるのだと、、


「あ、あり得ない…!弱く脆い人間が血に適合したと言うのか!?まさか…お前も“キング“になっと言うのか…!?」


「お前を倒す為に俺は全てを捨てる覚悟でここに立ってる」


「何でお前はそこまで…ッ!狂っているのか!?人間であるお前が王家の血を飲んだら死ぬんだぞ!?」


「目的の為、夢の為なら俺は死ねる」


「ぐ、ぐぐ…ッ!完全に予想外だ…!お前のような狂人がいるとは…!!」


顔に手を当てて、指の隙間から俺を睨み付けながらブツブツと語り出すジギタリス。

俺はその間も油断せずにジギタリスへと視線を向けていると、俺の袖を引かれる。そこには真剣な顔付きのローザさんがいた。


「血を飲んだって…本当なの?」


「……はい。勝つために必要な事だったんです……でも微塵も後悔はしていません。何を言われても、俺は謝りませんよ」


怒られる前に俺は開き直ってそう言った。だがこれは本心であり、こんな主人公のような力を一時的とはいえ手に入れられたんだ。何の後悔も無い。


「貴方って人は……何で自分の事を考えないの!?もっと自分の命を大事にしてよ…!」


「………」


目尻に涙を溜め、本心から心配と分かる言葉を言ったローザさんに、俺は黙って聞きながらお約束を守らないジギタリスの攻撃を弾く。


「それじゃあお父様と同じ道を辿る事になっちゃう………もう私の前から誰かいなくなるなんて嫌だよぉ……」


俺の服を掴み、下を向いて消えてしまいそうな程小さな声でそう言うローザさん。その声は震えており、泣いている事はすぐに分かった。

本来なら頭でも撫でるのが主人公なのだろう。だがローザさんは俺の主であり、そんな事は許されない為、左手で背中をゆっくりと擦る。


「ふざけるな…ッ!勝手に俺の女に触れんじゃねぇよッ!!」


「ローザさんはお前の女じゃねぇよ。それに……お前には勿体無いくらい素敵な人だ、釣り合わねぇだろ」


ローザさんは俺の女だ、とでも言えればいいのだが、この人は俺にも勿体無いくらい素敵な人だ。俺なんかの為に涙を流してくれる人なのだから。


「言いやがったなコイツ……!」


怒り心頭のジギタリスは空中に1000を軽々と越える黒い矢を出現させ、それを俺に向けて全て放つ。

それを俺の胸で泣くローザさんを庇いながら、ジギタリスと同様の紅い矢を飛ばして打ち消す。


「言った筈だぞ、俺とお前は同等の力だと。お前自身の力でなければ俺には通じない」


「はッ!さっきの事を全ての忘れたのか?僕に瞬殺された事をな」


「それはどうかな?次は負けない───絶対にな」


「ッ!!?─────ガッ…!!」


一瞬にして加速した俺はジギタリスの腹へと深く拳を沈める。そしてすぐさま蹴りを横に放ち、横へと飛ばす。


「ば、バカな…!何故ここまでの力が…!?」


「俺は死ぬっ決まってるからな、お前とは覚悟が違うんだよ」


短時間でと夢を叶える為に、俺は死力を尽くしてコイツを倒す。

時間が無い俺は、ジギタリスが放った苦し紛れの突きを手の甲で弾き、下から上へとジギタリスの体を切り裂く。


「ガアアアッッ…!!よくも僕の体に傷を───」


「うるせえ」


右足を大きく上げて、ジギタリスの頭に向かって踵落としを放つ。それは人間の力を遥かに凌駕した一撃であり、地上に向かって凄まじいスピードで落ちて行き、ジギタリスが落ちた地上では、巨大な砂煙が舞っている。


「さて、次は───ッ!!?」


手に握る剣の形状を槍へと変化させて追撃を放とうとした瞬間、俺の左手腕が丸々吹き飛ばされた。激痛を耐え、すぐさま腕を再生させる。


「今のは…!やはり“キング“は不死身で再生も速い、か……上等だよこの野郎」


地上から放たれた黒のレーザー。その攻撃を放った張本人であるジギタリスへと少しの笑みを浮かべて俺は槍を剣へと戻す。


「“キング“は1人でいいだろ?どっちかの王が死ぬまで…殺り合おうじゃねぇか」

↑チェス的な意味で。



“キング“はランカスター家の長女に濃く継がれる特殊な血を同族の吸血鬼族(ヴァンパイア)であり、ランカスター家の血が流れている者が飲む事で生まれる。

本来なら他種族がこの血を飲むと、逆に取り込まれて体の内から崩壊。最終的には体が灰になって散るのだが、人間には何故か耐性があるようで1%以下の確率で適合する。


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