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153話:もう1人のキング

アクセス8万達成!いえい!

……メリクリ(中指を立てて)

「俺がお前を倒すッ…!」


「人間の君がかい?フフフッ、面白い事を言うじゃないか。いいよ、人族(ヒューマン)と魔族の力の差ってヤツを見せてあげよう」


ジギタリスがそう発した瞬間、両者は高速で走り出す。スキルも無く、強力な力は何一つ無いアキラが若干遅れ気味に見えるが、鍔迫り合いでは何とか踏ん張る事が出来ていた。


『うぐッ…!?なんて力だ…!押し込めない…ッ!』


「ほらほら、頑張りなよ」


全身に力を込めて、何とかこの場を耐えるアキラ。それに対してジギタリスは楽しそうに笑い、力を使っているようには見えない。

それならと、ジギタリスの首を狙って上段蹴りを放つが、、


「なっ…!?」


「君の蹴りはまるで止まっているかのように見えるよ」


完全に俺の蹴りを捉えた左腕のジャストガード。来ることが分かっていた訳じゃない、完全に見えていたんだ、コイツは…!


「君の剣術も体術も中々だけど……うん、もういいかな。どうやら君は蛮勇だったようだね」














「………………あ、ぁ…?」


「アキラっ!!」


ローザさんの叫び声が聞こえる。そんな中、俺はゆっくりと後へと倒れていく。それはまるでスローモーションのようにゆっくりな世界で、何が起きたのかはがまるで分からない。一体何が起こったんだ…?


『視界がボヤける………お腹が熱い…………立て、ない……』


思考がしにくい中、俺は必死に状況を探った。周りの音さえも聞こえなくなり始めた中、俺は燃えるように熱い腹へと手を置いた。


「うわ……やられたわ…」


ベチャッと手に付着したのは真っ赤な血。少し触っただけで手の平を赤く染め上げる程の出血を俺はしていた。ボヤける視界の中、俺は自分の腹を見れば、大きな穴が空いていた。握り拳1つは軽々入る程の穴からは、思わず目を背けたくなる程グロテスクだ。


「今治す───くっ…!」


「その蛮勇な人間より、僕の相手をしてくれよ。なぁ、ローザ」


ローザさんが駆け寄ってきて、すぐさま治癒に入ろうとするが。だがそれはジギタリスによって邪魔をされる。治癒最中は無防備に近い。“キング“となったジギタリスを前に、それは自殺志願に近い事だ。


「ここじゃ狭いよね?外に行こうか」


「何を───」


うっすらと聴こえてくるローザとジギタリスの会話にアキラは静かに耳を傾ける。

ジギタリスは天井に向かって手を掲げた瞬間、赤黒い光が天井を崩壊させる。崩れてくる瓦礫は運良くアキラには当たらなかったが、空に浮かぶ紅い月が禍々しく輝き、不吉な気配を感じた。


「さぁ……行こうか。来ないとこの辺一帯を吹き飛ばす、いいね?」


「っ…」


ローザはアキラへと視線を向けた。ローザの隣には今治さなければ死んでしまう傷を負っているアキラがいたからだ。使用人を大事にするローザは、アキラを見捨てる事は出来ない。だがここでローザが行かなければアキラも皆も死んでしまう。どうすればいいのか苦悩するローザ。


「っ…!」


苦悩し、ジギタリスへの言葉を考えるローザ。すると自分の足が誰かに掴まれた事を感じ、下へと視線を向ける。そこにはアキラがローザの足を掴んでおり、何かを言いたそうに口を動かしていた。


──俺は大丈夫だから、行ってくれ。


「そんな……」


ゆっくりと口を動かしたアキラ。自分の状況は分かっている筈だ。それにも拘わらずその言葉を言うのかと驚くローザ。

踏ん切りがつかないローザに、アキラは口から血を流しながらも笑い、そしてサムズアップを取った。俺は大丈夫だよ、と……


「…………分かった、貴方の意向を汲み取るわ。───行きましょう、ジギタリス。今度こそ、貴方を消し去る」


「フフッ、楽しみだ」


ジギタリスとローザは背中に大きな黒い翼を生やし、空へと飛翔して行く。この場に残されたアキラは静になった部屋で1人、内ポケットを漁った。


「うッ………………」


取り出したのは小さな小瓶に入った回復ポーション。そこには黄緑色の液体が入っており、栓を開けて口に液体を運ぶ。苦い味が一気に広がり、これが最後に味わう物かと思うと気が滅入る。

そして更に4本回復ポーションを取り出し、それらを全て腹へとぶっかけた。


「ヴィノさんから多めにの渡されたが……役にたったな…」


気休め程度に回復した俺は、口から吐血しながら這いつくばって玉座で眠っているエルザさんの元へと急ぐ。

エルザさんやブロンさんをここから遠ざけなければ、上空で起こっている戦闘の被害が2人に及ぶかもしれない。ここで俺は死ぬかもしれないが、お世話になった人まで死なせては死んでも死にきれない。


「エルザさん……、起きてください…!」


「ん………………」


息はしている。だがいくら揺すっても起きる気配が無い。殴って起こす訳にもいかないから、俺は再度内ポケットから魔道具を取り出した。

取り出したのは、侵入の際に見つかりそうになった時に使う音の出る魔道具。用途は囮なのだが、凄まじい音の出る道具だ。


「────うわああ!!なになになに!?」


スイッチを入れた瞬間、部屋にけたましく鳴り出たベル音。目覚まし時計のベルにそっくりだ。

この魔道具のお陰でエルザさんは飛び起きる。鼓膜が破れていないか心配だが、この世界ならいくらでも治せるだろう。


「時間が無いので、手短に話します………まず、残念ながら“キング“が生まれてしまいました。今ローザさんが戦っていますが勝てるかどうか……」


「…!そう、なのね………」


目を見開き、声も出ない程驚いたエルザさんは、どうしようと無い事態と悟ったのか、顔に手を当てて小さく呟いた。


「……エルザさんなら知っているんじゃないんですか?“キング“を殺せる方法を」


「知っては…いる。でもそれは実行出来ないのよ……」


「それは…何ですか?」


顔に置いた手を退けて、俺を見つめるエルザさんは少しの時間を置いて、重い口で語り出した。


「“キング“を殺せるのは同じく“キング“だけ……太陽の光でも殺せるけど、“キング“が生まれたこの世界にはもう2度と…太陽は差さないから意味は無いけど……」


「“キング“を殺せるのは“キング“だけ、か…………その“キング“には…俺はなれますか?」


「まさか……貴方が“キング“になるつもりなのっ!?」


俺は重く頷く。

きっと簡単にはなれないだろう。所詮俺は力無き人間。どれだけ足掻いてもそれだけは覆らない。それでも可能性が少しでもあるのなら、それに手を伸ばす事は決して間違ってはいない筈だ。


「無茶よっ!王家の血は人間にはとても耐えられない!適合してもしなくてもその身を蝕み続け、必ず死んでしまう!!」


「人間でも適合は出来るんですね…?」


「それは…!……可能よ。でもそれは死ぬ事が確約されるようなものなのよっ!?」


「どうせこのまま何もしなくても、俺はこの傷です、死んでしまうでしょう。それなら、どんなに低い可能性でも賭けてみたいんです。だからどうか…!俺の愚行を許してください…!」


俺はエルザさんに向けて土下座をする。このまま何も出来ず、達成できずに終わるなんて絶対に嫌だ。勝てる可能性があるのなら、夢を叶えるチャンスがあるのなら、俺はそれに全てを賭ける。


「…………分かったわ。───汝に我が王家の血を授ける。これは契約よ。………必ず生きて帰って来なさい、必ず生き残れる道を見付けてみせるから……」


“クイーン“の名に恥じない厳格な姿を見せたエルザさん。だが後半に掛けて少しずつ表情は変わり、本心から俺の生還を願っていると分かる言葉を言い、俺の手を握った。


「この血を飲むからには私の眷属よ。覚悟は良いわね?」


「はい…ッ!」


俺は真っ直ぐとエルザさんの眼を見つめて頷くと、エルザさんは俺の投げナイフで自身の手の甲を少し切ると、紅い血が溢れ出した。

俺はエルザさんの手の甲を舐め、その紅い血を口へと運んだ。




「────────ウグ…ッッ!!がッ…!?あああああああッッ!!!!」


体が切り刻まれたような激痛が一瞬の内に全身へと回り、心臓がバクバクと耳まで聴こえてくる程暴れている。

ナニカが体内で暴れ出す。血管や全身の筋肉、身体中の臓器を傷付けながら少しずつ、だが確実に脳へと向かってくるのかナニカ。


「耐えて血を服従させなさい!少しでも折れた瞬間、全てを飲み込まれるわよ!!」


分かってはいる。だがどうしようも無い程に暴れ回るこのナニカを抑えるのはとても困難であり、脳に近付くにつれて吐き気を促すような嫌な気配が全身を刺激し続ける。


「もう少し、後少しで適合する!生きる事をやめてはダメよ!!」


首辺りまで上がってきたナニカ。痒い訳でもないのに、首を狂ったのうに掻きむしる。首の皮を切り、血が流れ出た所で遂にナニカは脳へと達した。


「はあッ…!はあッ…!………ッ……」


先程まで全身に感じていた嫌悪感も痛みも何もかもが全て消えた。俺は必死に空気を取り込み、息を整えた。


「おめでとう、アキラ。貴方は王家の血を乗り越え、擬似的ではあるけど“キング“になったわ」


安心したように胸を撫で下ろしたエルザさん。自分の体を見てみるが、特に変わった様子は無い。“キング“になっても、目に分かる進化はしないようだ。


「特に変わった感じはしないんですが…?」


「見た目はそうね。でも体内では体の作りが丸々変わっている筈よ。現にお腹の傷、癒えてるでしょ?」


言われてみれば穴が空いていた筈の腹が綺麗に塞がり、リガードとの戦いで負った傷も完全に治っている。自身の再生能力が飛躍的に上がっているようだ。


「我がランカスター家に伝わる秘術も貴方は使えるわ。貴方の体に流れている王家の血が、意識的に教えてくれる筈よ」


「分かりました、エルザさん。そしてありがとうございます!!」


俺はエルザさんにそうお礼を言い、背中に力を込めるとローザさんやジギタリスと同じような蝙蝠のような翼が展開される。それを使って俺は飛翔した。上空で繰り広げられている戦いに向かって。


────────────


アキラが空へと飛び立ったのを見送ったエルザは、1人瞳を閉じて昔を振り返っていた。それはローザやセルリアが産まれるよりも前の頃。


「貴方と同じように王家の血に適合したわ…………人間ってのは本当に不思議な種族ね」


今から20年以上昔の頃、アキラと同じようにエルザを守る為に王家の血を飲んだ人間がいた。彼はアキラと同じように適合した人間だった。奇しくもそれは当時のエルザと彼も、全く同じ道筋を辿っている。


「勝ちなさい、ローザ、そしてアキラ。貴方達なら必ず“キング“でさえも倒せるわ」


祈るように手を合わせたエルザは、月に向けて願う。


「貴方も娘とアキラが勝てるように祈っててよね、エルフィン」


かつてエルザを守る為に王家の血を飲んだ男、エルフィンの名を語ったエルザ、静に微笑んだ後に赤く輝く月を見つめた。

【魔剣生成術】

666個の魂を糧にして生み出すことが出来る魔剣であり、素材にされた者の怨念が集まって持ち主並びに周りの者に悲劇を招く。

ランカスター家が王族だった頃の秘術であり、人徳に反する為禁止になった。


【再生術】

自身の寿命を引き換えに、細胞を異常進化させて体を強制的に治す秘術。生きていれば使えるが、負っている傷が大きければ大きいほど寿命が取られる。尚、これは自分以外にも使う事が出来る。禁止理由はシンプルに、寿命を減らす事が危険なので。


【血器生成術】

自身の血を操り、様々な物へと変化させる事の出来る術。扱いはとても難しく、下手をすれば血を一気に無くなってしまうので、使用者はかなりの稽古を積む必要がある。汎用性は高いものの、時間経過と共に色が赤から黒へと変わり、強度などが劣化していく。使い過ぎ注意の秘術であり、禁止されてはいないがランカスター家は昔から使用をあまり進めていない。

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