150話:攻撃開始
地竜を走らせる続ける事数十分。森を走り抜け、俺達はウルフズベイン家の屋敷が一望出来る高台にやって来た。
「では作戦通り、私達が正面から奇襲を仕掛けます。爆発音が合図となりますので、ブロン君達はそれまでには屋敷左側へと回って下さい。では行きますよ」
俺とブロンさん、そしてローザさんは地竜を走らせて屋敷の左側へと回る。
音を立てないように気を付け、少しずつ進み続けると、屋敷の灯りが見えてくる。見れば、確かに警備が手薄なようだ。
「もうすぐヴィノさん達が攻撃を始め───たようだね、よし行こう」
屋敷の正門側から激しい炎と爆音が響き渡る。それはヴィノさん達が攻撃を仕掛けた合図であり、俺達が潜入する合図でもあった。
ただでさえ警備が手薄な場所だったが、今の爆発音でそちらへと向かっていく。その隙に俺達は闇に紛れて忍び込んだ。
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場所は変わってウルフズベイン家正門前。そこでは周りの森は炎に包まれ、その奥から4人の人物の姿が見え始めた。
「来たぞッ…!全員戦闘体制に入れ!!」
ウルフズベイン家の者達は、それぞれが剣や槍に弓を構える。そして合図と共に放たれた矢や魔法攻撃。だが、、
「そ、そんなバカな…!?」
先頭に飛び出た漆黒の剣を持つ剣士が魔法や矢を全て切断して無力化して進撃してくる。
炎の灯りを背に浴びた4人の姿はまるで悪魔のように見え、騎士達は体を震わせる。
「これはこれは……皆様お集まり頂き、ありがとうございます。では私も──御期待に添うとしましょう」
1度止まり、一礼したヴィノ。そして顔を上げると、角膜と結膜を黒に染め、瞳孔を金色に輝かせる“ビジョップ“ヴィノ・レガシーの姿がそこにはあった。
ヴィノはそのまま自身の身長さえも越える大鎌を出現させると、それを横一線に振り払った。その瞬間、刹那の如く飛ばされた黒の斬撃が厳重に護られた正門を崩壊させる。
「たった1撃でこの威力…!やはり噂は本当だったか…!72柱・ベリアルの血を引く者、ヴィノ・レガシー…!」
「申し訳ありませんが……その呼ばれ方はあまり好きではありません」
表情を暗くしたヴィノは、再度大鎌を振るう。命を刈り取る為だけにあるような刃は、騎士達の防具を無視して血飛沫を上げさせる。
「怯むな!!所詮はたった4人!数で押すんだ!!」
誰かの声が響くと同時に一斉に走り向かってくる騎士達。しかし騎士達から発せられる殺気帯びる気配にも怯えもせずに前に出る同じ顔をした2人の子供。
「エルト」
「分かってる」
短い会話の後、ヘルトとエルトは拳を構える。全く同じ動作で拳を構えた2人は重く、ゆっくりな動きで拳を放つ。すると次の瞬間、空間にヒビが入り、地震のように揺れた後に衝撃波が騎士達を襲う。目に見える衝撃波によって50を越える騎士達は立つこともままならず、屋敷の方面へと吹き飛ばされる。
「ランカスター家の連中は化物か!?なんてデタラメな力だ…!」
この人員をたった4人で崩壊させたランカスター家の使用人に恐怖で後退りをする騎士達。だがここで屋敷へ逃がせば救出作戦に支障が出る。
「どこへ行くつもりだ?」
「ひっ…!?」
風が騎士達の横を流れた瞬間、背後に現れた金髪蒼眼の青年。清楚なその容姿からは考えられないような殺意にまみれた鋭い瞳で小さく笑った。
ヴィノ達の目的はこの場に騎士達からヘイト集め、現在屋敷に潜入しているアキラ達に向かわぬようにする事。故に誰1人として屋敷へは向かわせない。
『頼みましたよ、ブロン君、アキラ君、そして…ローザ御嬢様』
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ヴィノ一行がウルフズベイン家の騎士達を恐怖に飲み込んでいる時と同時刻。場所は変わり、屋敷内にて戦闘を行うアキラ達。
倒した騎士からエルザが囚われている場所を聞こうとしている時、小さな蝙蝠の大群が突如現れた。それはやがて人形へと変わり、姿を表したのは黒スーツの男。アキラはその男には見覚えがあった。
「お前…!セルリアお嬢様を襲った奴だな」
「ふん、人間であるお前ごときに覚えられるとは……最悪の気分だな」
相変わらずの上から目線の言葉と見下すような視線。その殆んどが俺に向いている事から、相手は俺に固執していると思われる。
「ブロンさん、ローザさん……ここは俺が残ります。2人は先に行って下さい」
「っ……分かった。でもアキラ、決して死んではダメだよ…!」
「俺は死にませんよ」
小さく笑いそう言った俺。
本当はボス戦まで残りたい気持ちはある。だが何よりも優先すべきは俺のエゴではなくエルザさんの救出だ。
「行かせると思ってんのか?────ッ……テメェ…!」
「お前の相手は俺がする……お前も丁度俺を殺したいだろ?昨日は俺にやられっぱなしだったからな」
黒スーツの男の横を通ろうとした瞬間、2人に視線が向いた瞬間を狙って投げナイフを飛ばす。そして少し嫌な言い方をして俺にヘイトを向かせる。
「随分と大口叩くが……俺が本気で戦ったと思ってんのか?だとしたら浅はかな考えだな、所詮は人間か!ハハハッ!」
ブロンさんとローザさんを横目に、俺を見下すような目で嘲笑う黒スーツの男。やはりコイツは典型的な人を見下すバカだ。プライドばかり高く、そのくせメンタルは弱い。……筈だ。
だが完全に向こうは俺を殺すつもり。俺の目論みは一応成功だ。
「本気じゃなかったのか?だとするならあの夜、大切な襲撃時に力を出さないなんて……お前相当無能だな。力を抑えてる俺カッコいいってか?厨二かよお前」
「……あ?」
「だいたいさ、お前が嘲笑い見下す“人間“に、昨日やられたんだけど……忘れたの?本気を出してないって言うけどさ、それもホントかどうか怪し────ッ、あぶなッ!!」
回復の勇者ケヤルから習得した、相手を完全にバカにするような顔をして煽ってみた所、作戦は成功。男は平然を装っているようだが、隠しきれないその雰囲気が証拠だ。現に、俺の言葉を遮ってまで攻撃を仕掛けてきたんだからな。
「随分お喋りが好きなようだが……あまり口数の多い者は弱く見えるぞ?」
「俺、弱いよ?」
最後まで相手を煽るような言葉を並べ、訓練して習得した三白眼で笑った瞬間、お互いの剣がぶつかり合う。暗い屋敷の廊下に剣ばぶつかり合う事で火花が一瞬散った。
「その目、俺が1番嫌いな目付きだ」
「そりゃどうも」
鍔迫り合いのようにお互いの剣が重なる事十数秒。男の前蹴りによって俺は吹き飛ぶ。床に倒れた俺に向かって容赦の無い魔法による追撃。だが体を横に回転させて回避し、両手を器用に使って起き上がる。そしてそのまま男に向かって走り出す。
「魔法も使えない人間がぁ!イキがってんじゃねぇぞ!!」
「魔法が使えなくたって、俺はお前なんかに負けねぇよ!」
再度鍔迫り合い──のように見せ掛け、フェイントの上段蹴り。左で剣を扱うようになってから、更に利き脚の右で蹴りやすくなった。
向こうもまさか蹴りを驚きながも腕でガードする。
「柔軟な奴だ。人間らしく小賢しい手は使わないのか?」
「どうかなぁ~使うかもよ?」
「チッ」
俺の舐め腐った反応に、男は怒りを隠しもせずに嫌悪して剣を横に振り払う。
それを体を後ろへ反らし、床に両手が着くまで反らしたら足に力を込めてそのままバク転。その際に相手の顎を左右の足で2回蹴り上げる。
「そう焦んなよ、まだ始まったばかりなんだ」
「舐めるなよ人間風情が…!その顔を恐怖に染めてやる」
顔や言葉で相手を舐め、下に見ているように見えているようだが、実際はとんでもない。正直な話、俺の蹴りや剣術が通じない事に焦っていた。焦っているのは実は俺の方。だがそれを決して顔には出さず、相手が激怒した事による隙を突く……それまではこの表情を崩しはしない。
『さて、どうしたもんかね』
所詮は無能力、この辺が精一杯か?
因みにアキラの相手であるリガードは吸血鬼族ではなく、元は普通の魔族です。ジギタリスから血を分け与えられた事で、擬似的に吸血鬼族の力を使えてるといった感じです。




