147話:血族
ブクマ90達成…!深く感謝を…!
「“ポーン“……ですか?」
「ええ、“ポーン“はとても大切な役割であり、屋敷を支える大切な仕事よ」
なるほど、どうやら俺もチェスの役割を与えられるようだ。肩書きが付くのはこの上なく嬉しい。
「了解しました。このアキラ、謹んでお受けします」
「そう言ってくれて良かったわ。じゃあ、私は行くけど……無理してはダメ。今日はゆっくりと休んでなさい」
「あっはい……すいません…」
俺がそう言うと、『気にしなくていいわ』と言って部屋から出ていった。
「休暇か、ありがたいけど申し訳ないな」
窓から見える風景を見ながらそう呟くと、部屋の扉が開いた音がして振り返る。
だが誰もいない。
「あれ…?」
「ばあっ!!」
「っ!?」
下からピョンと現れたのはセルリアお嬢様だった。思わず驚いてベッドから動こうとしたが、痛みで声も出せず悶える。
「だいじょーぶ?」
「あー…はい、大丈夫ですよ……それで、どうしたんですか?」
「えへへっ、つまんないんじゃないかと思って遊びに来たの!」
遊びに来たのか……ついさっき?あんな事があったのに元気な子だな……
「いいですよ、何をしましょうか?」
「えっとね、絵本読んでほしいの!」
「分かりました、一緒に読みましょう」
絵本ならベッドから出なくて済むからありがたい。もしかしたらその辺は気を使ってくれたようで、どこか俺の様子を伺っているように感じる。
「じゃあ読みますね。遥か昔のお話です──」
そして俺はベッドの中へと入ってきて、隣に座るセルリアお嬢様へと昔話を読み聞かせてあげた。
──────────
そしてローザさんの治癒魔法によって回復した俺は、翌日から職場復帰した。
俺が抜けた分の仕事をやっていただいた同僚に、謝罪と感謝の言葉を述べて通常業務へと戻る。
「アキラ君、少しよろしいでしょうか」
「え…?ああ…構いませんけど……何かありましたか?」
花瓶の水を交換している時、ヴィノさんから呼び止められる。別に急いでやる仕事でもないし、何やら表情が真剣なので、俺は姿勢をただして話を聞く体制に入った。
なんでも、ここでは話せないそうなので、俺はヴィノさんの後を着いていく。到着したのはこの屋敷の上層部の方々が話し合い?を行う場所だった。
「失礼します……」
扉を開けて入ると、そこにはチェスの駒の名前が付いている方々が待機しており、1番奥の席にはエルザさんが座っている。いつもの明るい表情ではなく、真っ直ぐと真剣な目付きで俺を見ていた。
「これで全員揃ったわね。先ず始めに、アキラ君、娘を……セルリアを守ってくれてありがとう」
「い、いえっ!屋敷に仕える者として当然の事をしたまでで…!」
頭を下げてきたエルザさんに、俺は戸惑いながら言葉を並べた。そもそも、大人が未来ある子供を守るのは当然の義務だし。
「あの…つかぬことお聞きしますが、セルリアお嬢様を狙ってきた連中は何者なんですか?」
「あの者達は恐らく、ウルフズベイン家の者かと」
無知な俺の質問に答えてくれたのは、エルザさんの側で控えている茶髪メガネのメイドさん。名前はアベリア・リデューといい、“ビジョップ“の1人だ。
「ウルフズベイン家はランカスター家の分家だよ。セルリアお嬢様を狙ったのも、ランカスター家の“血“と“人質“が欲しいからだろうな」
アベリアさんの話に、補足のように言葉を続けた金髪蒼眼の“ナイト“、フェリシア・アンブラーさん。
そして今の話の流れで大体察してきた。【吸血鬼】【血】【人質】【本家と分家】……そうなると、このイベントのボスはウルフズベイン家の者になってくるな。
「フェリシア君の言った通り、我がランカスター家は特別でね?吸血鬼族の王の血が流れているの。このタイミングでセルリアを狙ったという事は、ローザか私の血を狙っている事になる」
「同じ吸血鬼である、ウルフズベイン家の者が王家の血が流れているランカスター家の者の血を吸えば、何か起こるという事でしょうか?」
俺の仮説と予想を伝えると、エルザさんはコクりと頷いて肯定する。
「簡単に言えば、圧倒的な力を宿した吸血鬼が生まれる。そして1番恐れているのが“キング“が生まれてしまうこと……」
「“キング“……ですか。それはつまり、エルザさんの血を飲むことで生まれるって事でしょうか」
「ええ、そういう事よ……」
つまり今回セルリアお嬢様が捕まってしまっていたら、人質解放にエルザさんの血を求めてくるという事か。そこまでしてでも血を欲すると言うことは、よっぽど“キング“というものに価値があるのだろう。
「“キング“が生まれてしまえば最後……2度と太陽が差すことは無いでしょうね。“キング“は不死の体を持つ。条件が揃わなければまず殺す事は不可能よ」
「成る程。と言うことは、今回皆さんが集まっているのは……」
「うん、アキラの考えている通りだよ。僕達はウルフズベイン家と戦う事を選ぶ」
俺の考えを読んだかのように答えたブロンさん。やはりか。その問題のキング以外の役が揃ったこの状況、完全にチェスの戦いだ。
言うならば、『まるでチェスだな』ってヤツだ。語呂悪いけど。
「だからアキラ君、“ポーン“になったばかりで悪いけれど、戦う覚悟をしておいて欲しいの」
「分かりました。このアキラ、全力でお役に立って見せます」
俺は当主であり、“クイーン“のエルザさんに向けて頭を下げながらそう発した。
『戦いの時に備えて、もっと稽古をしなくてはな』
────────────
屋敷内ではウルフズベイン家と戦う事は屋敷全体に伝えられ、警備の強化などがされていく。
そんな中、正式に役職が執事見習い兼騎士見習いから“ポーン“に変わった為、やる事が変わった。
「飛行機──じゃなくて飛竜~!」
「わーっ!」
俺は今、庭にてセルリアお嬢様の相手をしている。異世界人には決して伝わらないだろうから、飛行機ではなく飛竜と例えてセルリアお嬢様を高い高いして遊んでいた。
『俺も昔は父さんによくやってもらったっけな…』
まさか自分の子供でも親戚の子でもなく、異世界のお嬢様を飛行機のように抱っこすると思っても見なかった。
そして腕が疲れたので、肩車の形にして庭を駆け回る。これも結構好評なのだが、かなり疲れる。
因みに“ポーン“の仕事は、執事としてのお嬢様方の相手や、“ナイト“、“ビジョップ“、“ルーク“を支援し支える仕事だ。だからやる事が増えた。その代わり洗濯なんかはしなくていいんだけどね。
「もっと速くーっ!」
「もっとですか……──しっかり掴まっててくださいよ~!」
まぁ使用人としては1人仕事を抜けるよりも、セルリアお嬢様捜索の方が大変なので、俺が相手をする事でセルリアお嬢様も嬉しい。使用人達も嬉しい。つまり良い事尽くめなのだ。
そしてその夜、セルリアお嬢様の相手で腕がとても疲れているのだが稽古に励む。
ただひたすらに木へと木剣を打ち付け、股割りなどをしていると、、
「やあアキラ!こんな所で1人稽古かい?」
「ブロンさん、こんばんわ。ええ、少しでも戦力になれるように」
「アキラならもう既に戦力なんだけどなぁ………あ、そうだ!僕もご一緒してもいいかな?」
「勿論構いませんよ。だったら軽く……打ち合いましょうか」
俺がそう言うと、ブロンさんは好戦的な笑みを浮かべて頷いた。怖い……
そしてすぐさま打ち合いの体制に入り、圧倒的なスピードの前に俺は、防戦一方という事になるのだが、防御も大事な稽古になるのでいい稽古になった。
「大丈夫かい…?ごめんよ、少しやり過ぎてしまった……」
「あ、もう……はい、あの……うん…」
もう言葉も出ない程一方的だった。
ヤラレチャッタ
アキラ以外のフルネームキャラは、基本的にチーターだと思っててください。
アキラはまぁ……弱くはないけど…?決して強くもないと言うかなんと言うか……ってレベルです。




