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137話:無能の俺に出来る事

勝てないと分かってても突っ込む奴好きです。

「[氷月刃(ひょうるいが)]ッ!!」


「[暴風雪(ぼうふうせつ)]…!」


氷の刃と吹雪による竜巻。それが重なりあって、砕けた氷の刃が竜巻に飲まれて霰が吹き荒れるような強烈な吹雪が発生。


「[獄炎(ヘルフレイム)]」


だが男が放った紅黒い炎によって、礫の竜巻を相殺して消し去る。やはり複数のスキルと魔法を持っている奴には弱点が見当たらない。


「まるで【なろう】主人公だな…!クソが」


ダーク系でなければ【なろう】主人公は大体普通の人間だ。だがコイツに限っては黒髪なだけだと思われる。複数のスキルと魔法は、強欲の力によって人から奪った物だろう。まさか俺が昔から考えていた能力を持った奴と戦う事になるとはな。


「諦めろ、お前らなら分かるだろ?俺は100近くのスキルと魔法を持ってる。攻撃から防御、バフにデバフ、状態異常など様々だ。勝てる方法なんか無い」


そう言って笑いながら、男は上空から五属性全ての魔法をいっぺんに放ってきた。身を焦がすような炎が、渦のようにうねった水が、刃のように鋭利な風が、巨大な岩が、激しい電撃が俺達を襲う。


だがミルが聖剣を一振りすれば、炎のような形の無い物は氷に閉じ込めて砕き、岩のような物質はその聖剣で真っ二つに切り裂く。


「うっわ、マジかよ……人間じゃねー…」


顔を引きつらせてそう呟いたが、その仕草からは余裕が見て取れる。追撃が無い事を考えると、ただの小手調べのようなもののようだ。


「君達が剣を使うなら、俺も使ってみよっと」


少し声を弾ませた男は、何も無い場所に小さな穴を生み出すと、その穴へと手を突っ込んで真っ黒な剣を取り出した。

俺の予想では今のは亜空間収納と魔剣。どちらと強力であり、【なろう】お馴染みのスキルと武器だ。


「んじゃ早速──オラッ!」


黒い電気を漏電させた黒の魔剣を振りかざすと、鋭い電気が刃となって俺達の命を狩り取ろうとする。

だが昔から剣道をやっており、今もミルから剣術を習っている俺には効かない。細剣に氷を纏わせて、黒の電気を受け流して反撃の氷の刃を飛ばす。


「ッ…!あっぶな───おっと、それはさせないよ」


「チッ…!届かないのかよ…!」


ミルに連撃されている隙を突いて、足元を狙って[霧雪(きりゆき)]を放ったが、それは地面から生えた土の壁によって防がせる。


「[紫電黒雷(しでんこくらい)]」


ピンクの電気を纏わせた男は、眼に追えぬ速度で移動し、俺とミルに連続斬りを放つ。ミルはそれを全ていなしていたが、俺には限度があり、数回の攻撃をその身に受けてしまった。


「アキラ…!」


「平気だ…ッ!だが今のは…!」


ピンクの電気を纏わせての移動。そしてその間に反撃をしたが男の体を通過した。つまり幻影だ。それらを使えるのは、、


「やっぱスゲェな、“七つの大罪“の能力は。斬られたのに無かった事にしちまいやがった。これで進化前のスキルだなんて信じられねぇよ」


「進化…?何の事だ」


「あれ?知らないの?俺や君が使っているスキルは進化前のスキルなんだよ。悪魔が進化すれば、自然とスキルも進化する。契約してる悪魔から聞いてないの?」


そんな事俺は知らない。そんな話なんか1度だってされてもないし、匂わせてもいなかった。つまりアイツは意図的に黙ってやがったんだ。


「もっとも、今はそんなのどうでもいいんだがなッ!!」


それを知った所で、今現状を生き抜いて、レヴィアタンを守れなければ何の意味も無い情報だ。

俺は[氷冠(ひょうかん)]で生み出した氷の塊を囮にして、俺は横からから駆けて回転斬りを放つ。


「君、遅すぎ」


「なっ!!?」


後少しで俺の刃が男の首に届くと思われたその時、俺の体は空中で制止し、指先すらピクリとも動かせない俺に向かって、腹目掛けて横蹴りを放った。


「ガフッ……ッ!!」


元より内臓を痛めていたにも拘わらず、更に追い討ちと言わんばかりの蹴りが俺の内臓を痛め付けた。そしてとても素人とは思えない程強烈な一撃。フォームが雑なのを見れば、スキルによるものなのだろうが、強烈なのは変わらない。


「抵抗されても困るから、手足は落とさせてもらう。あ、大丈夫大丈夫!後で治してやるから」


吹き飛ばされた俺に間を入れず接近し、彼はそう笑顔で魔剣を振り落とそうとする。当然ミルはそれを防ごうとするが、男が指パッチンをすると五属性魔法の球体がミルを追尾し続け、此方に近付く事が出来ない。


そして、、


「ッッ!!ぐああああああッ!!!!」


剣を握っている右腕が邪魔だと判断したのだろう。彼は全くの躊躇いを見せずに俺の右肩へとその剣を振り落とす。

ザシュッ、という耳に張り付くような不快に音と共に、俺の右肩から夥しい量の血液が溢れ出る。ゴリ…という音と共に剣が一旦止まる。骨に当たったようで、中々斬れないようで手間取っている。


「あっれ?おかしいな……もう1回──」


俺の肩から剣を抜き去り、もう一度力任せに振り落とそうとしたその時、身も凍るような冷気が辺り一面に広かった。

草木や地面は氷によって侵食され、岩のような氷塊がゴロゴロと地面から生えてくる。


そして侵食を続ける氷は男の足元まで達し、足から上にかけて凍り付いていく。


「やっぱ聖剣に選ばれた奴って人間辞めてるわ……」


男の視線の先には氷のように冷たい表情をした1人の少女。その視線だけで全てを凍て付かせる程極寒の視線で男を睨み付けていた。


「なんで……利き腕を落とそうとした……」


「何でって決まってるだろ?コイツは無能になっても剣が使える。抵抗されたら困るから斬り落と───」


言葉の最中に飛んで来た高速の刃。それを[危機感知(ききかんち)]で何とかかわした男は、頬から血を流して1歩後ろへと下がった。


「は、はは…!良いねぇ…!おもしれぇよ…ッ!」


凍り付く程冷徹な気配を漂わせるミルに、完全に意識が向いた所で俺は激痛で狂いそうな痛みを堪えて、男を張り倒す。


「なっ!?お、お前まだ戦え──ッ!!ッ…!」


何か言おうとしたのも気にせず、馬乗りで男の顔面に殴る。右腕は使えない。だがこの男をのすには左拳だけで十分だ。


「このッ…!イテェだろうがッ!!」


馬乗りになっている俺を囲うように展開された魔法が俺を吹き飛ばす。皮膚から匂う焦げ臭い匂いを堪え、俺はすぐさま体制を整えて男に向かって走る。


『1撃だ。1撃だけでいい…!この剣を刺せれば…!』


俺はまだ起き上がったばかりの男に向かって走り続ける。残り3m。一気に地面を蹴って、間を詰めた俺は男の心臓に向かって細剣を突き刺した。

聖導協会の言っていた事が本当なら、ここが悪魔宿しの弱点の筈だ。


「カ“フ“ッ“………テメェ……やりやがったな…!このクソ野郎が……ッ!」


口から血を滴ながらゆっくりと後ろへと下がる男。視線だけで心臓に穴を開けてしまいそうな程俺を睨み付ける。


「ミルッ!コイツを氷塊の中に閉じ込めるんだ!!」


「ん…!任せて…!」


吹き荒れる吹雪が男を囲み、身動きを取らすことさえも許さずに凍結。まるで岩山のような巨大な氷塊に閉じ込める事に成功した。


「はあ……はあ………」


俺はその場に座り込んで、裂けた右肩を抑えて激痛に堪える。右腕が上手く動かせない。感覚は感じず、ただただ痛みだけを感じる。

だがまだ戦いは終わっていない。ルナとソルがまだ戦っているからだ。


「行かなくちゃ……」


「待ってアキラ…!その傷じゃ戦えない…!」


確かにミルの言う通り、俺はもう細剣を持つ事が出来ない。今はこの傷を治せるだけのポーションも無い。スキルも魔法も無い俺はただのお荷物だ。


「このまま動けば出血も増える……だからアキラはここで…」


「……わかった。後は…頼んだよ」


「ん…!」


ミルは最後に俺の右肩を氷魔法で止血した後、ルナとソルの元へと向かって走っていった。

その背中を眺めた後、俺は凍り漬けにされている男へと視線を向ける。


「どうすればこれのスキルを取り返せるんだ……クソ…」


そう呟いた瞬間、氷塊に亀裂が入る。それに対応する時間も無く、その亀裂は一気に広がり、、


「やってくれんじゃねぇか…!少しだけ焦ったよ」


「み、ミル───ガッ…!!?」


俺がミルの名前を叫ぶ前に、光のような速さで接近した男によって首を鷲掴みにされて上へと上げられた。


「ガッ…!はな……せッ…!!」


「シーッ……静かにしろ。俺は今すぐにでも首の骨を折れる」


足が着かず、首を捕まれた状況でも蹴り続けるが、ビクともしない。

そしてそのまま俺の頭へと手を置いた男は、気味悪く笑みを浮かべる。


「ここまで無駄な抵抗、ご苦労様。んじゃまあ……───お前の力、頂くぞ」


「や、やめ───!!」


とても大きなナニカが引き抜かれる感覚と共に、俺の中で気配が消えたレヴィアタン。

そして男は一段と嬉しそうに笑った後、俺をゴミのように投げ捨てた。


「これで【強欲】【嫉妬】【色欲】を手にいれた…!あのガキのも合わせれば【暴食】も俺の物。もう誰も俺を止められないッ!!」


「返せ…!俺の……」


「あぁ…?うるっせぇな、もうお前の力じゃなくて、お~れ~の~な~の~ッ!!」


そう叫んで俺を蹴り、頭を踏みつける。


「おいッ!もうソイツはどうでもいい、殺せ」


「ッ…!」


ミル達と戦っている子供に指示を飛ばした男。それを聞いた子供は、驚いた顔をした後に動きが完全に止まった。


「とっとと俺の言うことを聞け。またあの痛みを受けるのは嫌だろ?」


脅すような言葉で子供を怒鳴ると、とても悲しい表情をした後に叫ぶ。


「うわああああああ…!!」


とても聞いていられない悲痛な声で叫んだあの子は、ミル達に向かって黒い巨大なを飛ばした。

それは周りの全てを吸い込むような底無しの穴。まるでブラックホールのように闇を映す。


「凄いだろ?あの穴は何でも喰っちまう穴だ。人間が吸い込まれたら最後、細胞レベルでバラバラだ」


「そんな…!」


黒い穴は地面の草木を丸ごと吸い込んでいく。ルナやソル、ミルは必死になって踏ん張っているが、もはや時間の問題だろう。


「嫌だ……大事な仲間なんだ…大事な師匠なんだ…!絶対に……─────絶対に死なせないッ!!」


俺は踏みつけられた足を全部の力を込めて退かし、足に全力を込めて走り出す。


「皆良い奴なんだ…!強くて優しい奴らなんだ…!こんな場所で死んでいい奴らじゃない…!!」


転びそうな走り方で走るアキラ。

その顔は涙に濡れてぐちゃぐちゃになって必死に走り続けた。


──────────────


「うわああああああ…!!」


みすぼらしい服装をした子供が泣きそうな顔で叫ぶと、手の平から黒く巨大な球体が出現。それは周りの全てを吸い込み、地面の草木をドンドン飲み込んでいく。


「グッ…!何なんだよこれ…ッ!」


「ヤバイヤバイっ!!吸い込まれちゃうって!!」


ソルは地面に剣を刺し、ルナは地面から生やした石の壁にしがみついているが、少しずつ穴へと吸い込まれていく。


「不味い…!これじゃあ飲み込まれる…!」


ミルも同様に聖剣を突き刺した、氷の壁によって耐えてはいるが時間の問題だった。

あの穴をどうにかしなければ。そう考えていた一同は、突如飛び込んできた人物に視線を奪われ。


「絶対に死なせない!!絶対に…!!」


飛び込んできたのはアキラだった。

アキラはルナとソルの手を掴み、必死になって穴から遠ざけようとする。地面に足跡をくっきりと着けながら、涙を流して穴から遠ざかっていく。

そして吸い込む力が弱まる所までルナとソルを遠ざけたアキラは、ダメ押しのように2人を遠くへと投げ飛ばす。


「ミルッ!!早く俺の手を掴むんだ!!」


2人を避難させたアキラは、再度戻ってくるとミルへと手を伸ばす。ミルはその手を掴もうとした瞬間、ミルの足元の地面が一気に穴へと吸い込まれた事で体制を崩したミルは穴へと一気に吸い込まれていった。


「あ……」


「ミルッ!!!ぜってぇ離さねぇ…ッ!!」


だがアキラは地面に刺さった聖剣を掴み、自身が引き込まれないようにミルの手を掴む。

所有者ではないアキラが聖剣を掴んでいる事で、アキラの左腕は凍り付いていく。だがそんな事は全く気にせず、アキラは必死になって踏ん張る。


「このままじゃ2人とも飲まれる…!この手を離して…!アキラっ!」


「嫌だ…ッ!ミルだけは死なせなくないんだ…!絶対に!!」


大事な恩人であり師匠のミル。こんな俺を見捨てず育ててくれた大切な人を死なせなくはなかった。


「ルナ!!ソル!!ミルの事……頼んだぞ」


「ッ…!…………クソッ!!ああ任せろ!!」


アキラの言葉を理解したソルは、苦虫を潰したような顔をした後に頷いて叫ぶ。それを見たアキラは最後に小さく笑って、ミルの手を一気に引っ張った。残る力を全て使い、最後の願いを姉弟の2人へと託した。


「ありがとな、ミル……」


「えっ…?」


「───さよならだ…!」


今までの感謝を込めた言葉。それを最後に伝えたアキラは、ニコッと笑った後にミルをソルとルナの元へと投げ飛ばした。


「アキラっ!!」


投げ飛ばされたミルは穴へと吸い込まれていくアキラへと手を伸ばす。だがその距離はあまりに遠く、残酷にも伸ばされたアキラの手を掴む事は出来なかった。


涙を浮かべたアキラは、最後まで笑顔のまま黒い穴へと吸い込まれ、その黒い穴は無慈悲にも閉じられた。

主人公死亡。お疲れ様でした。


次回のアキラ先生の作品にご期待ください!

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