136話:強欲の契約者
「なぁ、どうせ君が持ってても使えないんだから俺にくれないか?その悪魔」
「はッ…!冗談だろ?」
両者睨み合いながらそう言葉をかわす2人。ミル、ルナと取り囲んでいるにも関わらず、全くの隙が無い。
隣にいる子供も不安因子でしかない。悪魔の位によっては、子供だろうが驚異になり得る。
「いいじゃんいいじゃん、俺にくれよ。てか寄越せ。どうせカスみないスキルと魔法しか持ってなかったんだから、全部丸々寄越せよ」
能力とその瞳の色を見る限り、コイツは【強欲】で確定。だがこの男はマモンではなく、そのマモンと契約していると言った。嘘かホントかは置いといて、コイツと隣の子供が列車を襲撃した事で確定だ。
「はぁ……口で言っても譲ってくれないか。ま、当然か。んじゃ俺らしく、実力行使で行かせて貰うわ」
そう言ってニヤッと笑ったこの男は、俺に向かって手を向けた。その次の瞬間、赤黒い炎が俺に向かって放たれる。
広範囲に放たれた炎を横に飛ぶことでは回避不可。すぐさまシアンの羽を使って空へと舞うが、、
「まぁそう来るよな。[重力増加]」
「グッ…!!?」
空へと舞い上がった筈が、上手く上に行く事が出来ない。まるで上から押されているかのように錯覚してしまう。
「からの、[拘束する鎖]」
彼の手の平に現れた小さな魔方陣から伸ばされた銀色の鎖。それが俺の片足を拘束し、それを彼は投げ縄のように振り回す。
ミルとルナはアキラの助けに入ろうとするが、男の側に控えていた子供によって邪魔される。
「くっ…!攻撃が通らない…!」
「私の魔法が全部を飲まれちゃう…!」
ミルの斬撃を黒い穴で受け止めて無力化し、ルナの魔法はもう1つ生まれた黒い穴によって飲み込まれる。
「俺の道具は便利だろ?馴れ合ってる君らとは違ってな」
そうアキラへと語り掛けた男は、パッと突然手を離してアキラを列車に向かって投げ飛ばす。
ほんの紙一重でシアンとの分離を完了させたアキラは、そのまま背中から列車へと吹き飛ばされた。
「ゴホッ…!ゴホッ……」
列車へと叩き付けられたアキラは、吐血しながら咳き込む。裏を見れば大きくへんこだ列車に、思わず青ざめる。生きて意識を保っている今が奇跡に近い。
「やっぱ悪魔を2匹宿してっと丈夫だな、再生も早いし。能力さえ貰えれば後は見逃してやるからさ、そのままじっとしててくれよ」
「嫌…だ……!」
俺の前にやって来た男は、そう言いながらめんどくさそうに俺を見つめる。だが俺の否定の言葉を聞くと、彼は眉間に皺を寄せて俺の腹へと蹴りを放ち、そのまま踏みつける。
「あぐ…っ…!!」
「あのさぁ……俺はお前とその仲間の命をいつでも奪えるんだよ?文字通り生殺与奪を握ってんの、わかる?俺はその悪魔とスキルさえ貰えれば見逃すって言ってんじゃん。え、何?お前のエゴで仲間殺すの?殺しちゃうの?」
「……ッ!」
「何だよ、その眼。はぁ……やっぱバカとの会話は嫌だな、話になんねぇや。……おいッ!何チンタラやってんだ!さっさと殺せ!!──コイツの目の前でな」
気味悪く笑ったこの男は、ミルとルナと戦っている子供へと怒鳴る。ビクッと脅えた表情をし、何かを躊躇っているようで、一向に2人を殺そうとしない。
「チッ!どいつもこいつも使えねぇバカばっか。ホント腹立つわ。……まあいいや、貰うぞ、お前の悪魔」
「やめ……ろッ…!!」
伸ばされた手を、何とかして離そうと両手に力を込めるが、押し返せる処かむしろどんどん力が強くなっていく。
「無駄だって。増強系のスキルが無い君じゃ……俺を離そうとしても抗えない。諦めろ」
[背水の陣]も[激情]も無い俺では、とても抗えない力によって俺の頭に男の手が乗せられた。
またしても吸われるような不思議な感覚を感じ、俺は身体中に冷や汗をかく。このままでは本当に俺は文字通りの“無能“となる。
「クソッ!クソッ!!」
男の腹や足に蹴りや拳を放っても、ビクともしない。この場で[羨望]を使えば一時的にこの男の増強を消せる。だが1度使ってしまえば、暫くは使えなくなるだけではなく、身動きもろくに取れなくなる。だが迷っている暇は無い。
そう考えた瞬間、俺の体に纏っていたピンクの電気が消滅した。
「おっ![情欲]ゲット~♪これで色欲が俺のもんだ。残りの[羨望]も貰うぞ」
何故この男が2つのスキルを持っているのか、何故奪う前から[羨望]まで知っているのか。疑念はあるが、俺の中でアスモデウスが消失した事を理解する。
「……結構深い関係だな。【嫉妬】が君の中で産まれたって事か」
俺の頭に手を置き続ける男は、そう呟きながら能力を発動させていく。
このままでは本当に不味い。だが非力な俺と、デバフ特化のレヴィアタンでは【強欲】と複数の魔法とスキルを宿したこの男には勝てない。
「ぐ…!ぐッ……!離、せ…!」
「しつこいな……諦めろって──」
レヴィアタンの力を出せる最大まで引き出して押し退けようとするが、男から手を退ける事が出来なかった。
その時男にも向かって電撃が放たれる。一瞬力が緩まったその隙を突いて、俺は男を押し退けて上段蹴りを首へと放って蹴り飛ばす。
「悪いッ!乗客の避難が予想以上に遅れた!大丈夫かアキラッ!?」
「悪ぃ……助かった、ソル…!」
俺を助けに入ってくれたのはソル。どうやら乗客の避難を優先していたようだ。
ソルは手にキューブ状のアイテムが握られているが、恐らく魔道具だろう。そこから更に炎球や風の刃を飛ばしている。
「何だよ、まだいたのか」
「誰だお前。……その眼、悪魔か?」
「んー、8割正解って所か」
「チッ……クソ野郎が…!」
怒りの表情を露にしたソルは、懐から黒の小さな球体を取り出すと、それを男に向かって何故飛ばす。
「何だ、これ?───っとと…成る程、爆弾か」
淡い水色をしたシールドで爆発をガードした男は、面白そうにソルを見つめる。
「ッ…!あっぶな……おい何てこずってんだよッ!さっさと殺せよ愚図!!」
シールドを突き破る威力で放たれたミルの攻撃。それを小さな風を足に纏わせて空を飛んで回避した。
「アキラ、大丈夫…!?」
「大丈夫だ…だがアイツは【強欲】……メランコリーと繋がりのある男だ」
「ん…!逃がす訳にはいかない…!」
俺とミルは空に滞空していく男に向かって細剣を向けて、それぞれ[終雪]の体勢に入る。
「逃げる?俺が?ははッ!バカ言うなよ、俺は無益な戦いは好きじゃないんだ。むしろ俺が逃がしてやるって言ってんだろ?」
「俺は逃げないし、レヴィアタンも渡さない。俺は【強欲】なお前以上に欲深く生きるって昔から決めてたからな。ソル、ルナッ!そっちの子供は頼んだぞ!」
「任せろッ!」「任されたっ!」
ソルとルナにはあの厄介な防御と妨害をしてくる子供の相手を頼む。2人は強いし、俺に向けた自信に満ちた顔を見れば、安心して任せられる。
「ミル、行くぞ」
「ん…!」
俺とミルは空中にいる男に向かって氷の刃を飛ばす。
魔法やスキルが無いからなんだ。俺にはミルによって鍛えられたこの剣術と[終雪]がある。たとえ俺の全てを盗られたとしても、その努力は決して無駄なんかじゃない。
「複数のスキル、魔法持ちVS無能……ありがちだが俺が好きな展開だ、悪くない。バトルマンガらしく、ジャイアントキリングと行こうじゃねぇか!」
色欲・アスモデウストが奪われ、残るスキルは嫉妬・レヴィアタンの能力だけです。
アキラから産まれ、アキラと契約しているので繋がりは深いですので、そう簡単には奪えません。
[貪欲]
相手の頭に触れて発動する事で、相手のスキル、魔法を奪う事が出来る。種族は問わず、魔族でも魔物でも関係無く家系のスキルや魔法まで奪える。
加護や、特定のスキルや魔法は奪えない。
使用すればする程欲深くなり、欲しい物は何としてでも手に入れようとしてしまい、記憶が欠落していくデメリットがある。




