135話:列車襲撃
そして鼻血ブーした次の日の朝、俺とミル、ルナとソルと共にルミナス聖国の駅へとやって来た。
「忘れ物ない?」
「ね、姉さん…!僕はそんは子供じゃないよ!」
そんな姉弟の可愛らしいやり取りを横目に、俺は皆の分の切符を購入。そしてそれを配ってホームへと向かう。
次の目的地は水上都市バブルフエンテという巨大な都市であり、前回同様大きな都市に行くことにした。
「いったいどこに隠れているんだろうな」
「ん……もし小さな村とかで隠れているのなら、見つけられるかどうか……」
確かにそうだ。最近はメランコリーとコルさんは動きを見せていなければ、俺達の前に現れもしていない。以前アスモデウスと戦った時は、メランコリーと思わしき奴から命令されていたらしいが……現状不明だ。
俺の予想では繋がってるんだろうが、確信は無い。
「なあ、そこの水上都市って────」
駅弁を食べながら、俺の隣に座っているミルに話し掛けたその時、突然列車が大きく揺れた。座っているにも関わらず、今にも転倒してしまいそうな程揺れ続ける列車内は、乗客達の悲鳴が響き渡る。
「なんだ!?何が起こってるんだ!!?」
大混乱に飲まれるのは何も乗客だけではない。当然ミルやソル、ソル達も驚き、事前に起こるイベントの予想を立てている俺でさえ予想外の出来事だ。
「これは…!この列車が攻撃されてる…!魔物じゃない、アレは──」
窓の外へと指差したミル。その先に何か浮いている人影のようなものが見えたちょうどその時、列車は今まで以上の揺れと衝撃、爆発音と共に床と天井が逆さになる。何度も床と天井が反転し事によって窓ガラスは砕け散り、大勢の悲鳴と共に人が何度も列車内で回転している。
「ウッ…!!?」
体の自由が効かない列車内で何度も回転したアキラは、座席に頭部を強く打ち付けて苦しい表情をした後にゆっくりと瞳を閉じて気絶した。
「おーい、起きろ」
「う…っ………」
誰かに頬をペチペチと叩かれた俺は、ゆっくりと瞳を開ける。そして太陽の逆光を浴びる1人の青年が俺を覗き込んでいた。
「君は……っ…誰だ……?」
「え、俺?俺は……まぁいいじゃん、それより立てるか?」
そう言って差し出された手を、俺は少しの疑念を抱きながらも掴んだ。
起き上がって見れば、彼は俺は同じ黒髪。だが瞳は異様な程輝くオレンジ色。どうやら日本人では無さそうだ。
「それよりこれは一体……」
運良くそれらしい怪我も無かった俺は、線路を外れ、黒い煙出して全車両転倒している列車へと視線を向ける。
このレベルの被害を出すのは大型の魔物だ。だがさっき見たときはそれらし怪物はおらず、1人の人間らしき生き物がいた事しか確認していない。
「君も乗客してたの?」
「いいや?俺はたまたま近くにいてね」
たまたま近くに、か……なんかきな臭く感じるのだが、気のせいだろうか。特に敵意や殺気は感じないが……
『それどころか親しみを覚えるのは何故だ?初対面なんだけどなぁ…』
ちゃんと見ればこの青年は顔が平たい気がする……あれ…?もしかしてこの子日本人か?しかしなら何故こんな光ってんだ?そういう種族なのだろうか。んー……どっかで見たことあるような、、
「なぁ、君は一体誰──」
「あっ……」
1人で考えるよりも、本人に聞いた方が早いと思った俺は、この青年へと顔を向けると、彼は俺の頭に向かって手を伸ばしていた。しかもその手を勝手に弾いた俺の腕。
何で勝手に動かしたんだ?アイツら。
「あれ?失敗しちゃった」
何が失敗だったのかは分からないが、何か危険なモノを感じ取った俺は、ゆっくりと1歩後ろへと下がる。俺が1歩後ろへ下がると、彼も同じように1歩前に出る。何がしたいんだ?
「あー逃げないでよ、髪の毛にゴミが付いてるからさ」
「えっ…?あ、そう…なのか」
何か変な感じはするが、この青年からはやはり敵意は感じない。なので俺が止まると、彼はニコッと嬉しそうに笑って俺の頭への手を伸ばす。
「じっとしててねー」
そう言って、笑みのまま手を伸ばす青年。ポンっと置かれた手の平からは何か不思議な気配を感じるが、特に気にせずじっとしてた。
だが次の瞬間、青年の腕は小爆発と共に鈍い音を鳴らして真っ赤な血液を飛ばして吹き飛ばされる。
「ぐあああああ……ッッ!!!!」
「ッ!?な、何なんだよ次から次に!!」
無くなった腕を押さえて悲鳴を上げる青年。俺は何がなんだか分からないが、近くに列車を襲った敵がいると判断し、ミルの屋敷で貰った細剣を抜剣した。
「……ってあれ…?ミルにルナ……ど、どうしたんだよ……」
攻撃が放たれた方角にいたのは少し汚れているミルとルナがそこにいた。列車での怪我は無いようだが、その表情はとても厳しいものだった。
「アキラ…!今すぐその男から離れて…!」
「え、えっ!?どういう意味──」
俺が最後まで言い切る前に、ミルは待てないと言わんばかりと表情で聖剣を俺に向かって振った。高速で迫る氷の刃が俺の真横を通り過ぎる。何故俺に攻撃を、っと思った矢先、、
「チィッ…!邪魔すんじゃねぇよ雑魚どもが!!」
膝を地面に着けて悶えていた筈の青年がいつの間にか俺の真隣におり、見ればさっきとは逆の腕が切り落とされていた。
切り落とされた腕を、反対側の手で支える青年に、俺は漸く気が付いた。
俺は咄嗟に青年の腹に向かって前蹴りを放ち、すぐさまバックステップで距離を取った。
『バカか俺は…!吹き飛んだ筈の腕が生えてるって事はコイツは俺と同じ同種だって事だ…!!クソッ!さっきの既視感と親しみを感じたのは同種との反応だったんだ!!』
異様に眼がオレンジ色に光ってたのはのは悪魔を宿している者特有の反応。何故気付けなかったのかと過去の自分を悔やむ。
『さっきコイツら俺の頭を触った…!何しやがった!?呪い!?毒!?だが何も害は感じない…!考えろ俺!オレンジ色を連想する“七つの大罪“は何だ!?』
何の大罪かを考えるよりも先に、俺自身に掛けられたモノを消すのが先だ。
だが俺の[羨望]は視認したモノしか消すことが出来ない。鏡が無いこの場では、それは不可能だ。
「くっ…!──っ!そうだ…!」
俺は手に持つ細剣の刃を見つめ、[羨望]を使用した。細剣に映る俺は、蒼く瞳を輝かせているが…これで平気だろうか…
「チッ…お前らが邪魔したせいで肝心なスキルが盗れなかったじゃねぇか」
盗る…つまりコイツは相手のスキルを奪えるという事だ。俺の予想が正しければコイツは【強欲】だ…!
「ッ…![羨望]と[情欲]は無事……だがその他全部を持ってかれた…!」
俺の唯一扱える魔法[火花]が使えなくなっている事を考えると、俺の所持しているスキルの全てを盗られたという事だ。
「何してやがんだぁッ!!お前のヘマのせいで失敗しちまったじゃねぇか!!」
誰かに向かって怒鳴る青年、いやマモンと言った方がいいだろう。
彼が誰かに向かって叫ぶと、後方の列車が爆発し、何かが飛んでやって来た。
「……子供…?」
土埃が晴れ、マモンの隣に立っていたのはボロボロの布を纏った子供。長い前髪で片目を隠している、通称鬼姉妹ヘアースタイル。鬼がかってるけど、栄養失調並みに痩せ細っているのかが気になる。
「仲間、じゃなさそうだな。首と手首に枷がついてるし」
「当たり前だろ?コイツは俺の道具だ」
その態度はあまりいい気はしない。だがやみくもに近付くのは危険だ。
どうすれば、、
「目的は何だ。肝心なスキルを盗れなかった……お前はそう言ったが、もしや目的は俺か?」
真っ直ぐとマモンに向けた視線を外さずに細剣を向ける。現状ミルとルナ、そして俺で囲っている為、優位ではあるが……悪魔に乗っ取られた者の力は異常な程強い。一切の油断が出来ない。
「ご名答!でもそこの女どもが邪魔してくれちゃったからさぁー、ちょっとご退場願いたいんだよね」
「ッ…!そんな事させないぞ、マモン!!」
「あ…?マモン?それって……俺に言ってるの?」
キョトン顔で当たり前の事を言い出したこの男は、少しの間を置いた後に理解して笑い出す。
「あはははっ!違う違う、俺はマモンじゃねぇーよ!俺は普通の人間、だよ」
「……は…?だってお前の眼はオレンジに……」
理解できない俺を嘲笑うかのように、大声で爆笑する青年。そして引き笑いの後に、彼は漸く口を開く。
「俺はそのマモンと“契約“した人間だよ。人格だって俺自身の物。それは君も同じだろ?天道明星クン。あ、そうそう、こっちのガキも俺と同じ悪魔と契約した奴だから。よろしくー♪」
そう言って、笑顔で俺に手を振る青年。その顔は清々しいほどに満面の笑み。
それに対して隣の子供は下を向いて無表情。
『まさか俺以外にも契約している奴がいるなんて…!』
この世界では悪魔はまさしく悪として伝えられている。それと同様に危険だとも伝えられてきたこの世界で、俺と全く同じ者2人といるとは……
ツー…っと流れた汗と共に、俺は戦闘体勢へと入り、体にピンクの電気を流した。
いやいるだろ、普通。
ここでアキラのスキル、魔法は悪魔のスキル以外全ロスです。[剣術]も無くなりましたが、けして剣の扱い方を忘れた訳ではありません。[剣術]スキルはあくまでも、剣の腕のサポート位置にあるスキルなので。
鳳赫クリメイトリヴァイ
炎を冠する聖剣で、常に剣から紅い炎が漏れている。剣自体はルビーのように全てが真っ赤。
炎を自在に生み出し、操れる。そしてその炎は傷を癒す作用もある。
尚、この聖剣に選ばれた者は寿命以外ではけして死なず、それ以外で死んだ場合は不死鳥の如く炎と共に生き返る。




