132話:黒に染まって
ブックマーク100を越えたら底辺作家じゃないらしい……頑張りますね。
ルミナス大聖堂の裏にある塀に囲まれた空間。そこでは激しい戦闘音と共に爆炎が立ち上っていた。
「「まさ、か…“正義“を冠する人間、だったなんて……はッ!クソ天使の加護を受けてやがんのか」」
「クソ天使とは無礼ですね、大天使ミカエル様のお力ですよ。そういう貴方も……いえ、貴方達も“七つの大罪“とは……それも2匹宿っているとは完全に計算外ですね」
その言葉とは裏腹に、やはり好戦的な笑みを浮かべるラディウス。そして十字架の模様が入った瞳を強く輝かせ、杖から白の光線を放つ。
「「道理で…人間、では放て…ない技を使う、訳だ……まあ、俺達には通じねぇんだけどなぁッ!!」」
レヴィアタンの力によって光線は消滅。そして反撃の電撃が放たれる。
だが向こうも当然食らうことは無く、光の薄い壁を生み出して反射する。
「「人間、風情が…!!」」
「此方から言わせれば悪魔風情が、と言った所でしょうか」
翼によって飛翔したアキラは、上空で滞空。お互いに睨み合い、それはアキラの攻撃によって幕を閉じる。
翼をはためかす度に溢れる電気。それらが1つに集まると、一直線にラディウスへと向かう光線が生まれる。
「無駄です。私には効かな───」
先程と同じく反射する光の壁を生み出したラディウスだったが、突如壁は消滅。混乱状態のまま、ラディウスは雷の光線をその身に浴びた。
感電したラディウスは眼を見開き、体をあり得ない程ビクつかせて膝をつく。
だがやはりラディウスからは笑みが消える事は無かった。
「フフフッ…やはり素晴らしい力ですねぇ…!是非ともその力、欲しいものですなぁ…!」
「「力が欲しいだぁ?お前は既に天使の力を持ってるじゃねぇか。大、体……天使の力、を持つ者に……悪魔の力、は引き出せ…ない」」
この人間は天使の加護を受けた身にも関わらず、悪魔の力までも欲する深い欲を感じ取った2匹の悪魔。
天使と悪魔の力はお互いに反発し合う。1つの器に全く逆の属性は相容れない。
「それが可能なのですよ…!このように──ねぇ!!」
「「ッ!!」」
ラディウスの杖から放たれた赤黒い炎。大した火力ではない。だがそれは天使の力では無く、悪魔の力だった。
「「……わから、ない…高が人間如きに扱える力じゃねぇ……テメェ、何しやがった」」
人間に天使と悪魔の力を同時に使う事は出来ない。人間処か、それは全ての生物には不可能な筈。にも関わらずこの男はそれをやってのけた。アスモデウスとレヴィアタンはこの男に興味を惹かれていた。
「簡単な事です。この身に宿せないのならば、道具として形にすればいい……このようにね」
ラディウスは笑みのままアキラへと白と金色をした杖を見せ付ける。そこから悪魔である2匹にしか分からないオーラを感じ取った。
「「お前まさか……盗ったのか…?」」
「盗ったとは失礼ですねぇ。私は再利用したのですよ。どの道消え行く命なんです、それなら今後の為、正義ある未来の為に使うのは当然でしょう?」
悪魔の力の根源は宿主の心臓、即ち心から発生している。完全体ではない悪魔達は人間を依り代にして成長していく。この男はその成長途中の悪魔と宿主を捕らえ、心臓を加工し、道具として小さな球体としたのだ。原理は分からない。だが人間は常進化していく事をこの2匹は何百年も前から知っている。
「大変でしたよ、ここまでにするのは。何せ悪魔の力を残したまま心臓を抜き取るのですから」
狂喜的な笑みを浮かべてそう語るラディウス。それをアキラは無表情で見つめる。
別に同種がそんな扱いを受けている事を怒っている訳じゃない。こんな奴らに捕まる悪魔が悪い。弱き者は悪魔の面汚しだからだ。
だが、2匹の悪魔が何も感じなくても、心の奥の存在が怒りを覚えている。人が行っていいラインを越えたこの人間に対して、アキラは激怒していた。
そして同時に感じる軽蔑心。同じ人間として、アキラは目の前の人間を激しく軽蔑していた。
「「これ、は……くくくっ…!」」
2匹の悪魔が中から感じた強い憎悪、殺意、嫌悪、恥悪。ドロ…と溜まっていく黒の感情に、2匹は思わず笑みが溢れてしまう。
「貴方達は悪魔の中でも頂点に近い力を持つ“七つの大罪“…!何としてでも力を頂きますよ…!」
「この力はお前には勿体無いよ。既にこの力は俺の物であり、今後も増えていく予定なのだから」
先程とは違う若い男の声がし、首を傾げたラディウス。その視線の先には先程と何も変わらない禍々しい翼を生やした青年が立っている。
だが違う点はその瞳だった。
「貴方は…何方でしょうか?」
「俺は明星、天道明星だ。お前と同じ、人間だよ」
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アキラを縛り付けていた鎖が灰と化した時間と同時刻。ミルを始めとした4人がアキラを救出する為に動いていた。
「焦るな、ミル」
「ん…分かってる……でも…!」
落ち着きの無いミルの肩に手を置いて、そう静かに言うソル。ミル自身も分かってはいる。だが相手は聖導協会。1度悪と決めた者には容赦の無い連中だ。焦らずにはいられない。
「全く…まさかここまで厳重だとは思っても見なかったけどねっ」
そう言って息を吐いたのはルナ。その後ろでは数十名の聖導騎士達が倒れている。
この先には行かせないといわんばかりに溢れていたが、ミル、ルナ、ソル、そしてジェーンによって壊滅。
「よっしゃッ!後はこの結界を破壊するだけだな」
「ん…とても強力な結界だけど……聖剣が2本あれば破壊できる」
そう言って聖剣を構えるミルとジェーン。
銀零氷グレイシャヘイルと鳳赫クリメイトリヴァイから放たれた強力無比な一撃によって、扉を塞いでいた結界が崩壊した。
「アキラ…!」
結界が破壊されてすぐに動いたミルを追い掛ける3人。ミルによって開かれた扉から漏れる太陽の光に一瞬目が眩む。
そしてそこで見た風景は、、
「……え…?」
血だらけで倒れている沢山の騎士達と大量の赤い水溜まり。むせかえる程臭う血生臭い香りが鼻を強く刺激する。
そして唯一その中央で、此方に背を向けて立っている黒髪の男がいた。
「アキ…ラ…?」
ミルの声に反応したその男はゆっくりと振り返る。その右手には白いローブを被った老人、ラディウス枢機卿が持ち上げられていた。
首をがっしりと掴み、今にも首の骨を折ってしまいそうな気配を感じる。
「皆…!助けに来てくれたのか…!」
ミル達の姿を確認したアキラは、嬉しそうに笑い、ラディウス枢機卿を投げ捨てた。
その場違いな笑みと、一瞬真っ黒に見えた瞳に、ミル達は静かに戦慄する。
ラディウス枢機卿は“正義“を冠するミカエルの加護を持っています。ラディウス自身は特に契約などはしておらず、代々ラディウスの家に受け継がれてきた加護です。
なんでも、ラディウスの遠いご先祖様がミカエルと契約してらしい。




