130話:浄化
(主人公の事嫌いじゃ)ないです
「何だアレ…」
ルナと共に【星屑の厄】を大量に討伐したソルは、あちこちに出来た黒い水溜の上に立って【厄災の十二使徒】へと視線を向けた。
「何かしら………うーん?何か剣士達がこっちに向かって走ってくるけど…」
そう言って指を指す先には人間離れした走りをする剣士達と、巨体な男2人を手に掴んで空を飛んでいるアキラ。
2人を掴んでいるアキラが最後尾であり、時折後ろを確認している。まるで何かに追われているようだ。
そう考えていた次の瞬間、黒く体を染めた【厄災の十二使徒】が眩い光と共に大爆発した。ルミナス聖国と近いこの場所まで届く熱風と衝撃波。姉さんと共に体制を低くして耐える。
「何だったんだ…!?急に爆発したぞ────ッッ」
衝撃波が収まった所で顔を上げたソルが見た風景は何と、【厄災の十二使徒】を中心に超広範囲に巨大なクレーターが出来ていた。
あまりの被害にルナと共に声の出ないソル。
「アキラ…!アキラ…っ!」
呆然と大爆発の被害を見ていると、ミルの悲痛な声が響き渡った。見れば倒れているアキラを揺すっているミル。アキラの体からは尋常じゃない量の出血をしている。
「おいアキラ…!しっかりしろ…!クソッ…!」
アキラに掴まれていた1人の赤髪の青年が、アキラへと呼び掛けるが返事は無い。それを見た赤髪の青年は剣を抜いて、有ろう事かその剣をアキラの心臓へと突き刺した。
「おいお前ッ!!何してるんだッ!!」
思わずその赤髪の青年の胸ぐらを掴んで叫んだソル。大事な恩人であり、大切な仲間に剣を突き刺したこの男を許せなかった。
「誤解するな、トドメをさした訳じゃない。俺の聖剣は不死鳥のような力を持つ。この聖剣から溢れる炎でアキラを治癒するんだ」
「治せる…のか…?」
「分からない……だがやってみる価値はある筈だ」
そう言うと、赤髪の青年は再度剣に炎を宿してアキラの胸へと突き刺した。
何も出来ない僕は、アキラが目覚める事を祈るしか出来なかった。
「…!傷が塞がっていく………呼吸も安定してきた」
ミルの言葉でホッ…とするソル。そしてすぐに思い出したように顔を曇らせ、赤髪の青年へ、
「さっきは理由は知らず掴み掛かって悪かった…」
「いや、突然剣を突き刺したら誰だってそう思う」
若干の気まずい空気になり、少しの間静かな時間が流れる。すると突如ゾロゾロと白いローブを被った奴らが此方にやって来た。
そいつらは何やらボソボソと会話すると、アキラへ指を指す。すると白ローブの者達はアキラを取り囲む。
「聖導協会の方々がアキラに何の用ですか」
アキラを守るように前に出た赤髪の青年は、白ローブの者達を睨み付けながらそう発した。アキラを抱き上げているミルも少し視線が鋭いのが気になる。
「これはこれはフラム家三男のジェーン様、ちょいとそこを退いて貰ってもよろしいかな?そしてミル様も御離れに。その者は危険ですから」
「危険…?あまりふざけた事を言わないで」
「ふざけた事など申しておりませんよ。その男は悪魔を宿した人間、【悪魔宿し】なのですから」
装飾が他の者よりも豪華な白ローブの老人がそう言うと、周りの剣士や騎士達がザワザワとしだす。状況が飲み込めないルナとソルは黙り、様子を伺っていた。
「悪魔宿しは悪魔に心を売った愚かで弱き人間。いつの時代も人間達に厄を運ぶ存在……今回の【厄災の十二使徒】の出現もこの男による仕業でしょう」
「勝手な事を…!アキラには指1本触らせない」
「そうだ。お前ら聖導協会は信用できない。お前らの言葉を信じるより、オレは親友を信じる」
アキラを守るようにミルとジェーンが立ち上がると、強者特有の覇気を纏わせて白ローブ達を睨み付ける。
「あ、はいはーいっ!私達もアキラ君の味方しまーす!」
「アンタらが何をするか知らないが…アキラには手を出させないぞ」
僕と姉さんは当然アキラの味方を選ぶ。【悪魔宿し】…その言葉の意味はよく分からないが、きっと色欲と同じようなヤツを宿しているって事だろう。
「水臭い奴だ、僕達に言ってくれればいいものを…」
「きっとアキラ君は私達に気を使って言わなかったんだよっ!ほらっアキラ君ってそういう変な優しさがあるじゃんっ?」
『確かに』と頷いたソルは、ルナと共に戦える体制へと入る。それを見たボスらしき白ローブの老人は『ふむ…』と溢し、眼を光らせる。
「困りましたなぁ、争い事はあまり好まないのですが…──聖導の邪魔をするならば仕方ありませんな」
ローブの中から見えた十字架のような柄をした瞳を輝かせた老人は、そう言って手を翳すとアキラを中心にして囲うように四角形に光の十字架が落ちる。その中にいた僕や姉さん、ミルとジェーンはその結界から弾かれてしまった。
淡い黄色をした四角い箱へと閉じ込められたアキラは、フワッとその箱ごと宙へと浮かび上がる。
「アキラっ…!く…っ!」
すかさず体制を立て直したミルは、腰に佩剣している聖剣を抜こうとするが、、
「御辞めくださいミル様っ♡国に仕える六剣が私情でそんな事しちゃったら……分かりますよねっ♡」
ミルへと巨大な鎌を向ける白いドレスを着て、右側をサイドテールの髪型にした紺色髪の少女はクスクスと笑いながらそう言った。甘ったるい声で吐き気がする。
「メルナ司教、そこまでにしておきなされ。行きますよ」
「はーいっ!じゃラディウス枢機卿が呼んでるから行くねっ!バイバーイ♡」
ミルへと手を振ると、メルナと呼ばれた少女はトテトテと白ローブの老人の後を追う。
「ま、待てッ!!」
「や、やや…やめてください……動かないで……き、きき、切っちゃいますよ…?」
背後から首に鎌を当てられたソルは言われた通りに止まる。
ソルの首に鎌を当てた本人である左側をサイドテールにし、青紫色の髪をした少女は、ペコッとソルに一礼した後にメルナの隣へと向かった。
「クソッ!聖導協会の連中め…!!」
歯を食い縛り、自分の太ももを殴ったジェーンは、悔しそうな表情をしている。
ミルも似たように表情を曇らせ、とても悲しい表情をしていた。
「んんーっ!!悔しいっ!!もうっ!何なのアイツら!!」
「アイツらは聖導協会の連中だ。ルミナス聖国で王と同等近い権力を持つ連中で、ろくでも無い奴らで有名なんだよ…クソッ!」
そう言って怒りを露にするジェーン。今の話やさっきの態度を見た感じ、本当の事なんだろう。
「アキラ…」
ミルの小さな声を最後に、この場いる全員が沈黙した。僕は心にしこりを残したまま聖導協会が向かった先へと視線を向けた。
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「いつまで寝ているッ!!さっさと起きろ、悪魔宿し!!」
「ウッ…」
精神世界から引き上げられた俺は、眼を開けば5人の騎士達が立っており、暴力によって目を覚まされた。
「漸く起きたか。随分と図太い性格のようだな」
「コイツこれから何が起こるか分かってないんじゃねぇのか?」
「確かに!コイツ馬鹿そうな顔してんもんな!あははは!」
ヘラヘラしてる騎士達を睨み付けながら黙って耐える。俺を馬鹿にすればする程油断しやすくなる。コイツは馬鹿だから気を抜いても平気だと思ってもらえば俺のチャンスが増える。
騎士達は俺を太い鎖で手足を拘束すると、鎖を引っ張って俺を連れていく。
俺の体から伸びた4つの鎖を4人に分けて持ち、先導するように1人の騎士が俺の前を歩く。
『予想以上の警戒様だな……だが必ずチャンスは来る』
暗い通路を歩き、石階段を上ると外の光が見えてきた。そして外に出ればそこは四角く塀に囲まれた庭らしき場所。唯一この塀の外へと繋がっていると思われる場所は巨大な建物のみ。
『これは大聖堂か?ならやっぱりここはルミナス聖国の中か』
「これよりッ!!悪魔宿しの浄化儀式を開始するッ!!」
そう騎士の隊長らしき人物の声と共に俺は地面に刺さる太い柱へと巻き付けられ、足場を撤去。そして足元には薪をくべられ、まるで火刑だ。
「…!グッ………ッ…!」
魔法によってつけられた火。淡いオレンジ色をした炎が俺を苦しめる。熱だけじゃない。体の内側から燃やされる苦しみが続く。
「はあッ…!はあッ…!!───ッ!ふざけんなよ…!」
段々と火力が上がっていく中、俺の前に数人の騎士達が長い槍を持ち、それを俺に向けた。
熱による汗とはまた違った汗が額から落ちる。
このままでは俺は逃げ出す前に死んでしまう。だが鎖の影響か炎の影響か……俺は悪魔の力を引き出す事が出来なかった。
『…ッ!どうする…!?』
打開策を考える暇も無く、槍は俺の腹へと突き刺さった。
「があああああッッ!!!!」
溢れ出る血と身を裂くような悲鳴。だが誰1人としてアキラを助けるどころか同情の眼を向ける者さえいない。それどころか軽蔑のような視線と嫌悪の視線を向ける者ばかり。
「ああああああッッ!!グッ…ゴホッ…!ゴホッ!」
意識を飛ばせばアイツらに俺の支配権は移る。だが力を全く引き出せないにも関わらず、悪魔を呼び出す事は出来るのだろうか。
「おお…!やはりこの者には強力な悪魔が宿っているようだな」
槍を突き刺す騎士達を一時的に止めた1人の白ローブの老人。老人が言うとおり、アキラには強力な力を宿す悪魔がいる。
アキラを縛る鎖は聖属性であり、悪魔の力を制御する物。そしてアキラを炙るオレンジの炎も同様の力を持っている。それにも関わらず内蔵が飛び出る程腹を切り裂かれたアキラの体を再生していく。
「素晴らしい…素晴らしい力だ!実に興味深い…!」
老人はそう言うと、手を下げて騎士達に合図を送る。すると再度槍がアキラの腹へと突き刺される。
「ウグッ…!!?あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“ッッッ!!!!」
再度絶叫を上げるアキラ。再生した皮膚をもう1度突き破り、激しく吹き出す血液。涙を流し、歯を食い縛るアキラはこの場にいる全員に強い殺意が宿った瞳で睨み付ける。
その瞳は青黒く、黒ピンクに左右で輝く。
「「「お前ら全員…殺してやる」」」
アキラだけではない誰かの声が重なる。それはとても深い憎悪と殺意、様々な感情が歪に混ざりあった強い感情がこの場の支配した。
一瞬の静寂に包まれた次の瞬間、アキラを縛り付けていた鎖にヒビが入り、アキラを炙る炎が一瞬揺れた。
超王道の腐りきった聖職者達。この世界では別に悪事を働く訳じゃないんですけどね。ただちょっとやり方がいき過ぎてるだけです。
六剣と聖導協会はお互いにいがみ合う関係です。また、聖導協会では役職高い程強いです。なら【厄災の十二使徒】と戦えよってなりますけどね、個人的に。




