126話:炎の聖剣
安定のモブ化アキラ回です。キャラ人気投票とかあったら誰が1位なんでしょうね。……ミルだな。
ピクリとも動かなくなった水を扱うジェミニ。それを見たであろうルミナスの騎士達が声を上げているのがここまで聴こえてくる。
「はあっ…!はあっ…!…………あ…?」
息を整えていると、自身の体に違和感を覚えた。先程まで黒焦げた臭いや煙の臭いがしていた筈なのに、今は何も臭わない。いやそれどころかいくら空気を吸っても臭いを感じられない。
『まさかアスモデウスの代償?嗅覚を奪う、とかか?』
いやそれは変だ。使える能力が幻影なのを考えると、そこまでの代償は無い筈。だがだからと言って嗅覚だけ奪うのは変な話だ。可能性としては五感をランダムで奪うって所だろうか。
「眼や耳を奪われなくて良かった」
そう考えながら俺は立ち上がる。まだジェミニを倒した訳じゃない。
アキラは視線の先には、片方のジェミニがやられた事で怒り狂ったように破壊の限りを尽くす風を扱うジェミニの姿があった。
「いつの間にかシアンとの繋がりも切られてるし…どうすんだよこの翼…」
引っ込める事が出来ない黒い翼。これが邪魔でシアンを寄生させられない。
なら考え方を変えよう。ここまで頑張ってくれたシアンには、一時どこかへ逃げてもらう。
シアンに指示を飛ばすと、シアンは素早くジェミニから距離を取って、ルミナス聖国へと向かっていった。
翼は少々邪魔だが、今はジェミニの方に集中だ。片方が倒れた事で激情化したジェミニだが、六剣全員が1匹を相手に出来るのはとても大きい。大体は分裂した怪物は分裂前の力を半分ずつ分けるのがセオリー。つまり勝てる見込みはあるんだ。
「すぅ………───【厄災の十二使徒】の弱点は奴の顔の額部分にありますッ!!そこにある部分を突けば、勝つことが出来ますッ!!」
そして俺が発見した弱点をすぐに六剣全員に聴こえるように叫ぶ。報連相はとても大事だ。これで少しでも勝てる確率が上がれば、俺の主人公ムーブなんてどうでもいい。少なくとも今は生き残る事が優先だ。
そして俺も少し遅れてもう1度戦闘に参戦する。その瞬間地面を思いっきり蹴った俺は、尋常じゃない速さでジェミニへと近付いていく。電気の加速なんて目じゃない程に。
「はああああッ!!」
まだこの速さに慣れないものの、俺は必死に食らい付くように走った。そしてジェミニの足元へと向かい、人間のようにアキレス腱があるかどうかは分からないが、アキレス腱辺りを切っていく。
すると俺の狙い通り、ジェミニは体制を崩すように膝を着く。その隙は必ず六剣達が突いてくれると信じていた俺は、邪魔にならないように少し距離を取る。
「──────ッッッ!!!!」
だがジェミニは怒りの声のような絶叫を上げ、2本の手を地面に叩き付ける。地震のような揺れの後、ジェミニを囲うように竜巻が発生。近辺にいた六剣は竜巻に飲まれてしまい、遥か上空へと飛ばされてしまった。
そして追撃と言わんばかりに、ジェミニは空中の至る所に黒い穴を出現。その穴からは小さな隕石が大量に放たれる。
だが流石は六剣と言われているだけあり、空中では炎や吹雪、砂煙や鳥の大群がそれらを消し去っている。あの人達は本当に俺と同じ人間なのだろうか?
「オラァ!!オレはそんなちャちなこ攻撃じャ死なねェぞッ!!」
そう声を上げながら炎に乗ってジェミニの体に渡ったエクス。彼はそのまま大剣をジェミニに突き刺してながら駆け上がっていく。
途中ジェミニからの攻撃はあったが、それらは他の六剣達が援護で対処していく。ジェミニの頭まで後少し。この場にいる誰もが勝機が見てた瞬間だった。
「キキキェェェェェェッッッ!!!!」
ジェミニが初めて翻訳できる声を上げた。それはまるで悲鳴のような絶叫。耳を塞がずにはいられない程の大絶叫だった。
そしてその絶叫の瞬間、けたたましい大爆音と共にジェミニの顔周辺が爆炎に包まれた。誰もがエクスの技が決まったのだと思った矢先、ドサッ…と落下してきたモノ。
「ッ…!!あ、兄貴…!!?」
それはジェーンの兄であるエクスだった。
左腕を無くし、右腕は深い傷がある。全身から溢れる血の量はどう見ても致死量だった。
ジェーンの泣き叫ぶ声によって一時戦闘が止まった剣士達。六剣の一角であり、フラム家の当主であるエクスがやられた事で騒然となるなか、俺は何が起こったのかを考察する。
『何が起こった…!?爆発音共に落ちてきたエクスさん……エクスさんが放った技で爆発を?そんな失敗するのか?六剣が』
ならば何故こんな事が起こったのか。それはジェミニの首辺りで行われている再生が理由を示していた。
『まさか…自ら爆発させたのか…!?』
ジェミニの首辺りから立つ煙と、修復されていく傷を見たらそれしか考えられなかった。弱点を突かれ、死んでしまうくらいなら自ら爆発させて、その後に修復した方がいい。そう考えたと言うのだろうか。
「キキキキキ……ッ!!!ェェェェエエエエエ!!!!」
傷の修復を終えたジェミニは、突然の叫び声を上げる。すると倒れていた水を扱うジェミニの体は宙へと浮いて、風を扱うジェミニへと向かっていく。
「や、ヤバいッ…!!」
数多の異世界物を見てきた俺は、これから何が起こるか察して[羨望]を使用した。だがソレ消すことは出来ず、何も出来ないままジェミニとジェミニが融合してしまった。
「クソ…!そんな所までお約束を守んなくていいんだよ…ッ!!」
1度黒い球体へと飲み込まれたジェミニは、その球体を突き破り新たに変化した姿を見せる。それは双頭があり、4足だった頃とは少し違い、1つの頭に2本の足。だが腕は4本となり、水と風を同時に手に集めている。恐らくこれが奴の最終形態だ。
「なんて禍々しい空気……近くにいるだけで吐きそうだ…」
堂々と仁王立ちして地上の俺らを見下ろすジェミニからは、黒いオーラのような物が見える。それはまるで弟を殺された兄のような殺意にまみれた雰囲気。それに当てられて自然と震えてくる足と、冷や汗が垂れてくる。
「ッ…!!何だ…?」
この状況から生き残れるのだろうか……そんな弱気な言葉が出てしまいそうなのをグッと我慢していると、激しい熱風と共に空の雲さえも突き破る程高々と昇る炎によって、周囲は明るく染まる。
振り返ればそこには、炎に包まれた紅い大剣を手に持ったジェーンが立っていた。
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空から落ちてきたのは左腕を失い、口や体から大量に血を出している兄、エクスだった。
「ッ…!!あ、兄貴…!!?」
すぐに駆け寄ったオレは、兄貴の止血に入る。
こんなの嘘だ。嘘に決まってる…!あの誰よりも強い兄貴がこんな傷を負うわけがない…!
「す、まん……ジェーン………兄ちャん……ヘマしちまったよ……」
「喋んなッ…!!黙ってろ…!!」
今にも消えてしまいそうな声で笑う兄貴に、オレは怒鳴りながら必死に血を抑えようとした。だがドクドクと溢れ出る血は、決して止まろうとしてくれない。
「ジェーン……オレは…もうダメだ…………オレが…ッ死んだら…………次の当主…はお前がなるんだ……」
「ダメなもんかッ!!兄貴はこんな所じゃ死なねぇ!!そうだろッ!?」
「ははッ……そうだな…まだ死にたくねェな……」
「だったら───」
頑張って生きろよッ!!
そう言おうとしたジェーンの頬に、優しく当てられた兄、エクスの手。その大きく硬い手の平は震えながらと優しくジェーンの頬を撫でた。
「お前は……強くて、優しい弟だ………誰よりも強い心も持ッてる…!ジェーン…お前はオレを越える最強の剣士になれる…ッ!だか、ら……他の弟達を、フラム家を…!頼んだぞ、ジェーン…ッ!」
「…ッ!兄貴……?兄貴ッ!!」
最後に微笑んだエクスはジェーンの頭を撫でると、ゆっくりとその手を落とし瞳を閉じた。
いくら揺すっても目覚める事はないエクス。それを見たジェーンは柄にもなく大粒の涙を落とす。
「兄貴ッ…!!オレ強くなるからッ!!もう大事な奴を死なせないように強くなる!!だから見ててくれッ……兄貴ッ!!」
──兄との約束を守れ。強くなれジェーン・フラム。何も失わない為に炎のように熱く、強く、、
誰かの声がする。
脳に直接語り掛けるかのように響くその声。
『そんな事言われるまでもねぇ!!オレは必ず兄貴との約束を果たす。もう2度とオレの前で死なせやしねぇッ!!』
──そうだ、それでいい…ッ!熱く燃やせ!その心をッ!!叫べッ!!我の名をッ!!さすれば我の力はお前の物となるッ!!
「オレに力を貸してくれッ!!来いッ!鳳赫クリメイトリヴァイ」
ジェーンが叫んだ瞬間、まるでその声に答えるかのように空から爆炎と共に突き刺さる1本の紅い大剣。加熱された鉄のように真っ赤に染まる大剣を、ジェーンは抜いてジェミニへと向ける。
「オレは兄貴との約束を果たす。だがその前に───【厄災の十二使徒】、お前を討伐するッ!!」
激しい炎に包まれて叫んだジェーン。
背後で激しく燃え上がる炎は、まるで龍のように天へと昇り、空を駆ける。そして分厚い雲を突き破り、フォトン平原を覆っていた全ての雲を消滅させた。
エクスは弟と妹を大事にするお兄ちゃんでした。エクスの父が早くに亡くなったので、若くして当主になって頑張っていた強い人です。
PS.エクス家はかなりしぶとい家系です。ヒント程ではありませんが、炎の聖剣の名前を見ればすぐわかるかと。
これで聖剣は4本、邪剣は1本出ましたね。
まだ未登場の聖剣は2本と、邪剣は5本です。邪剣関連は次の章で登場予定です。




