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115話:心の内に秘めた想い

「ただいまっ!はいミル、旅の路銀を稼いできたよ」


元気よく扉を開けて、ミルに硬貨の入った袋を渡す。ミルは俺の表情を伺いながらも、袋を開けて眼を見開く。


「…!こんなに沢山どうしたの?」


「んー?頑張って沢山のクエスト受けたんだよ。あっ見てくれよミル!ほらっ、俺Dランク冒険者になったよ!」


ミルにCランクの魔物を1人で相手したと言ったらこっぴどく怒られるだろうから内緒だ。

今まで沢山のクエストを受けた事と、高ランクの魔物、黒豹(ブラックパンサー)を討伐した事でランクが上がった。討伐報酬も大金貨2枚(日本円で20万円)だから暫くはもつだろう。


「ソルもさっきは嫌な態度を取ってごめん。ちょっと色々あってな」


「ああ…別に気にしてない」


頭を下げて謝罪をする。何とか許してもらえて良かった良かった。


「結局色欲は仕掛けて来なかった……もしかしたらあの時の天使に消されたのかも…?」


「やっぱりそうなのかなっ?でもそうなると手掛かりを消されたも同然だよね…」


ミルとルナの話しに耳を傾けながら考える。ルナとソルに危害を加えるアスモデウスは俺の中にいる。契約で危害を加えない事も約束しているから、実質命の心配はいらない。


『俺の中にいる2人…いや2匹か?ソイツらと会話出来ればいいんだが…』


あの謎の空間には呼ばれなければ行けない。アスモデウスは体を休めているから反応は無いし、レヴィアタンは俺が死にそうな時にしか出てこない。契約した時以来呼ばれてもないしな。


「何か情報を掴むまではここに残るって感じか?」


「ん…そうなるね。4人なら情報も集めやすい。…でも念の為に2人1組で行動しよう」


そうと決まれば即行動を起こすミル。組分けはそれぞれミルと俺、ソルとルナとなった。まあ妥当だな。

この国は大きい。そうなれば情報等もよく回る。元よりそれが目的で来た訳だから、初期に戻ったと言った感じだ。


そして俺達はそれぞれ別れ、情報収集の為に街へ向かった。


────────────


「そうですか…ありがとうございます」


ミルと共に情報集めを開始して早2時間。予想はしていたが、全くと言っていいほど情報が無い。


「どうだった…?」


「全然ダメ。やっぱり情報が少な過ぎるな…」


「そっか……なら一旦休憩しようか」


確かにずっと歩き続けるから足裏が痛くて熱くなってきた。グッドタイミングで休憩を持ち出してくれるなんてミルは有能ですわ。


取り敢えず近くにある公園へと向かい、そこにあるベンチで水を飲む。うめぇ。


「ねぇアキラ……ちょっとお話…しない?」


「話?別に良いけど…」


唐突にそう言い出したミルにちょっと驚いたが、その顔はどこか真剣だ。何か大事な話なんだろう。自然と背が伸びる。


「ボクはアキラの事、あんまり知らない。何でそこまで頑張れるのかも、何でそんな辛そうな顔をするのか……ボクはアキラの事は強くなりたい事しか知らない…だから教えて欲しい」


「ミル…」


俺の顔を真っ直ぐと見てそう言ったミルに、俺は少し眉を顰めた。なんて言えば良いのか困ってしまう。


「……ど…どうしたの?急にそんな話し出すなんて…」


「眼を反らさないで…ボクから逃げないで…?大丈夫……ボクはアキラの味方だから。ボクは君の辛さを一緒に乗り越えたい…師匠として……す……」


最後に何かを言い掛けたミルだが、それを言うのをやめて俺の言葉を待っている。


『ここまで俺の事を考えてくれてるのに俺は……情けない』


ミルと自分を比べていた自分が本当に嫌になる。だがミルのこの想いを無下にはしたくはない。俺は小さく息吐いて、ポツポツと語りだした。


「俺は強くなりたい……それこそミルやコルさんも追い越すくらいに。…でも俺は弱い。俺はな?昔っから強い奴に憧れて生きてきたんだ。次第にそれは夢になって、目標になった」


苦笑いでそう呟いて、流れる雲を眺めながら話を続けた。


「……今日までそれはそれは頑張ったよ。叶うわけ無いって散々言われてバカにされて……それでも諦めないで今日まで生きてきた。そのまま叶わず30歳を迎え、俺は……死んだよ。そしたらチャンスが来たんだよ」


「え、死んだ…?」


“死んだ“その言葉に眼を見開いて静かに驚くミルを置いて、俺はミルの顔を見て、、


「俺は…この世界の人間じゃないんだ」


「…………え?」


「俺は30歳で死んで、この世界に転生…いや転移をしたんだ。神様の力でな」


ミルは驚いているのか、理解出来ていないのか、固まっている。そんなミルが可愛らしくて、少し微笑んでしまう。


「本当は俺は30歳のおじさんなんだよ。ごめんな、こんな子供っぽい奴で。大人っぽくないだろ?」


「いや……そんな事は無い…けど………今の話、本当なの…?」


「うん……ホントの話。でも信じなくても良いけど……ミルには信じて欲しい、かな。なんてったってここまで明かしたのはミルが初めてだから……」


「ボクが…初めて?」


ミルはそう呟くと、少し俯いた。どんな事を考えているか分からず、俺はちょっと覗き込んだ。


「ミル…?どうした?」


「ん“っ…?何でも無いよ」


一瞬変な声を出したミルだったが、スン…といつもの顔に戻る。だけど少し…ほんの少しだけ口元が緩んでいる気がする。気のせい…だろうか。

ちょっと分からないが、話を続けた。


「……それでこっちの世界に来たは良いけど…思うように行かなくてさ…何をやっても底辺で……やっと習得した魔法がこれだよ?」


そう言って発動させた俺の唯一の魔法[火花(ヒバナ)]。パチパチと5秒弾けた後に消えてしまう。


「それでも夢を諦められなかったからさ、俺は冒険者になって成り上がるぞ!って息巻いたんだけど……結果はやっぱりグダグダで……でもそんな時ミルに出会ったんだよ」


「ボクに…?」


「うん。あの時助けてくれたから今の俺がいる。あの時俺の頼みを聞き入れてくれたから今の強さがある。ミルは俺の憧れであり、恩人なんだよ。改めてありがとう」


そう言ってミルに頭を下げると、少し戸惑いながらも『どういたしまして』と言う。


「そこからは楽しかった。ミルとの稽古が楽しくて、クエストとかも上手く行くようになってきてさ……本当に楽しかった…少しだけ夢に近付いた気がしたから」


そう発した後に、俺は俯いて『でも…』と小さく呟く。


「ミルの屋敷での稽古も楽しかった。久々にミルと会えて、話も出来たし。でも楽しかったのはそこまで、かな…………楽しかった、嬉しかった。そんな感情は段々と消えていったよ」


自分が嫌になる程人を妬んでいる。憧れていた人達にでさえ、その妬みは向いてしまった。


「俺はね、“悪魔“と契約してるんだよ」


「っ…!!なん、でそんな危ない事を…!」


「仕方なかったんだよ……弱い俺がミルのいる舞台に上がるには…必要な力だったんだ。どんなに危険でも、どうしてもミルに近付きたかった…!でも俺は弱いから……悪魔を飼い慣らす事も出来ずにミルを襲ってしまった…」


最後になるにつれ、小さくなっていった声。それは今にも消えてしまいそうな程か弱いモノだった。


「“嫉妬“……それが宿ってからは自分より優れた奴等が羨ましくて仕方なかった。それはミル…君にも抱いてしまった…」


ツゥ…と1滴の涙が頬を伝って落ちる。

また泣いてしまう。抑えなければまたカッコ悪い姿を見られてしまう。

俺は手で涙を拭おうとした時、俺の体は暖かくて柔らかいモノに包まれた。


「大丈夫…涙を隠さなくてもいい…!ボクの前ではそんな仮面いらないから……ボクのせいでアキラをそこまで追い込んでるなんて知らなかった……ごめん…ごめんねアキラ…!」


「違っ……ミルのせいなんかじゃないんだよ…!!俺の心が弱いから……誰かを妬む事しか出来ない俺が弱いせいで……ッ」


ミルに抱き締められながらそう発した言葉。ミルのせいなんかじゃない。俺の責任だ。それなのに俺は溢れる涙を抑えられずに、ミルの胸で泣いてしまった。


「ごめん……ッ…!ごめん、な………弱くて…ッ!ごめん………」


俺はミルの胸を借りて大粒の涙を流しながら謝り続けた。怖かった。見限られるのが、捨てられるのが、拒否されるのが。ミルやソルにルナ達は1度だって俺を貶すような事をした事が無い。それなのに俺は一方的に妬んで、嫉妬して、、


「本当に……ごめん、なさい…ッ」











「もう大丈夫…?」


「大分…落ち着いたよ。その…ありがとう」


「んっ…」


ミルの胸で暫く泣き続けた俺は、ミルに背中を擦られる事で漸く落ち着きを取り戻した。

まだ目元が赤くなってるだろうけど、そうやって恥ずかしがるのも今更感を感じる。


「ミル……ホントにごめん。そしてありがとう」


「ん……大丈夫だよ。ボクは何があってもアキラの味方だから。辛い時、倒れてしまいそうな時はその…ボクに頼って欲しい…!」


俺の手を握り、眼を潤わせてほんのり頬を赤く染めている。正直可愛い。美少女を絵に描いたように可愛い。


「…ありがとうミル。また辛くなった時は…寄り掛かってもいい…かな?」


「っ…!勿論いい…!いいに決まってる…!」


少し恥ずかしさを感じながらも、俺はミルの手を握り返してそう言った。するとミルは花が咲くような笑みで『うんっ…!』と頷いた。


「ミルに話を聞いてもらって泣いたら少しスッキリしたよ。…ちょっとお手洗いに行ってもいい?」


一息ついたら何だか尿意を感じ、俺はミルに一言断りを入れてから公衆トイレへと向かった。鉄道があるから薄々分かってはいたが、公衆トイレや給水場がある時点でかなり発展してる気がする。それは兎も角、俺は駆け足でトイレへと急いだ。



「心が晴れた訳じゃない。それでもミルにこうして心の内を言えた事は大きいな」


「そこの貴方、ちょっと待って」


誰に言うでもなく呟き、ミルの元へと戻ろうとした時、白いローブ?布を被った女性に声を掛けられた。

何かを感じる。俺の中でその女性を嫌悪している。拒否している。足が勝手に後ろへと下がった所で、彼女は再度俺に向かって、、


「貴方に宿っている悪魔は危険。すぐに対処しなければ取り返しのつかない事になる」


そう言って彼女は白いローブを捲った。

あのさぁ…30歳が10代の前で泣くなよ。後なにしれっと“胸“で泣いてんだよ。ちょっとそれは世間が許してくれませよ。


紛れもなく、ミルは悪くない(鉄の意思)



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