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114話:劣等感

ブックマーク、ホント感謝です。栞でも全然嬉しい。

「ここは…………あぁ…そうだったな」


目が覚めると全く知らない場所で寝ていた。しかも床で。何でこんな所で寝てたのかは、目の前にある巨大な時計を見て理解する。


「これで2つ目……」


胸に手を当ててそう呟いて目を閉じる。違和感はある。枠に収まっていないような気持ちの悪い感覚が。


眉を顰めながらも小さく笑みを溢したアキラは立ち上がり、階段を下って時計台から出た。まだ明るくなったばかりのようで、寒くて少し暗い。今なら1人で稽古していたと言えば通るだろう。






「どこ…行ってたの…?心配した」


「ごめんごめん、ちょっとその辺走ってた!何だか体を動かしたくてねっ!」


「…?そうなんだ」


予想通りミルがどこへ行っていたか聞かれたので、事前に考えていた通りに言う。少し不思議そうな顔をした後に納得してくれた。


それからミルと談笑して朝の時間を過ごしていると、ルナとソル達が起きてきた。

ん…?ルナとソル達…?


「え、えっ?なんでまだ2人なんだ!?」


「んー…私達にもちょっと分かんないんだけど、私達に掛かってた呪いみたいなのが解けたって事なんじゃないかなっ」


顎に指を置いてんーっと考えているルナ。ルナもルナでヒロインムーヴなんだよな、仕草も相まって。

俺の予想だと主人公はミル。そのヒロインがルナとなると……


『……え、ミルってもしかしてそっち?百合的な意味でそっちの人なんですか!?』


頭に浮かんだミルとルナが抱き合う姿を振り払い、俺は冷静に考える。そもそもソルだっているんだ、まだそうと決まった訳じゃない。


『でもソルは何と言うか…違う気がするんだよなぁ…イケメンなんだけど…なんか違う気がする』


どちらかと言えばヒロインの性格をしている。ツンデレっぽいしな。となると…ルナもソルもヒロイン!?マジかよ、両刀ですかミルさん…


『俺もミルに守られてるから実質ヒロイン…?多くないか?ヒロイン。ミルのハーレム物語かよ。見たいな、普通に』


そんなバカな事を考えながらも1人で盛り上がっていたが、ミルがルナとソルと話をしている姿を見て、ある事に気付いてしまった。


『……ミルの物語は俺がいなくても成立してたんだよな』


俺はいつだって異世界のイベントを探しては頭を突っ込んでいる。今だってこうしてイベント続きの状態でいれるのは、あの日俺がミルに頭を下げたからだ。


『いいな、ミルは。俺に無いモノを沢山持ってて』


剣術もスキルも俺より優れていて、聖剣にだって選ばれている。こう言ってはあれだが、宿敵的な立ち位置にいる兄もいる。優れた仲間にだって恵まれていて、将来を父親にも期待されている。

何もかもが俺より優れていて、とても自慢の師匠だ。可愛くて強いは正義。


だけど……それを羨ましいと感じずにはいられない。ミルとは異世界で1番長く共にいる。当然自分と比べてしまうようなシーンを出くわす事は沢山あった。その度に自分が嫌で嫌で仕方なくなり、無我夢中で稽古に励んだ。



ブチッと切れる痛みと共に、口に広がる血の味。自然と下唇を噛んでいたようで、それを誤って噛み切ってしまったようだ。

だがこの痛みのお陰でこの思考から脱出する事が出来た。俺は黙って椅子から立ち上がり、玄関へと向かう。


「アキラ、どこ行くんだ?こんな朝っぱらから」


ドアノブに手を掛けた所で後ろからソルが声を掛けてきた。俺は少し間を置いた後に、振り返らずに口を開く。


「ギルド行ってくる。旅の路銀稼ぎの為にちょっくら稼いでくるわ!……俺に出来るのはそれくらいだしな」


「…どうしたんだよ、らしくもない……───っておいっ!」


肩に置かれたソルの手を弾いて、俺はそのまま逃げるように走り出した。後ろからまだソルが何かを言っているのが聞こえた。俺はそれを耳を塞いで走る。共に旅をする前からわだかまりを抱えたくなんか無い。


だけど今だけは……今だけは頭を冷やす為に、1人の時間が欲しかった。


──────────────


「何だよ…アイツ」


「どうしたの…?」


「別に大した事じゃない……アキラも色々溜まってるんだろう」


小さくため息を吐いたソルは、そのまま家へと戻っていく。それを横目に、ミルはアキラが走って行った方角を見つめた。


嫌な予感は前からしていた。

前々からアキラが何かを抱えている事は薄々わかっていた。だけどボクは深くは踏み込まなかった。その話をしようとすると、アキラが困ったような顔をするから。だからその時が来たら、そうやって先延ばしにしていた。


最近アキラは焦っているように稽古に励んでいる。それはとても真剣で誠意の籠ったモノだ。だけど焦っていては精神的に持たない。


「ボクはアキラに何をしてあげられるかな……師として…」


好きな人の為に何が出来るかな……

ボクに貰った沢山の楽しい記憶や笑顔。貰ってばかりのボクには何が出来るのかな。


─────────────


アスモデウスとの戦いで出来てしまった円形の荒れ地。そこは今立ち入り禁止であり、そこにいた低ランクの魔物は姿を消している。その為魔森林(マジック・フォレスト)の奥地へと行かなければ魔物はおらず、強い魔物しかいない。普段なら俺は高ランククエストは危険だから絶対に受けない。だが今日はそんなのを無視し、クエストを受けて森へとやって来た。


「はぁっ、はぁっ………」


道中に合った魔物を斬り刻み、俺はドンドン奥へと進んで行く。斬っても斬っても沸きだ水のように溢れるこの想いが晴れる事は無かった。



そして俺は目的の魔物を発見し、素早く構えに入る。俺の敵意を感じたのだろう。黒い豹の魔物は低い唸り声を上げて身を低くして飛び掛かる体制へと入った。


牙を剥き出しにして飛び掛かってきた黒豹。それを俺は紙一重でしゃがんで回避。そしてそのまま相手の腹を斬りつける。

飛び散る鮮血が俺の頬を染める。ここに来るまでに付着した赤黒い血が付着した細剣を見た後に、俺は黒豹を見つめる。


「ガルルルル………!」


俺を見つめる黒豹は弱々しい唸り声を上げて1歩後ろへと下がる。その表情はまるで怯えているかのような恐怖に染まっていた。


「逃げんなよ……俺と…俺と戦えよ…ッ!!」


抱えたこの暗くて嫌な気持ちを消す為にここまで来たんだ。それなのに相手が逃げ出しては意味が無い。

俺は自分でも驚く程のスピードで接近し、相手が驚いている間に片前足と体を斬りつけた。


俺の連続斬りを受けた黒豹は悲鳴のような声を上げ、木の上へとジャンプで移動した。血を滴ながら俺を睨み付ける黒豹。完全に戦う気をなったようだ。


「ははっ…そうだ、それでいいんだよ」


木を蹴り、加速して飛び掛かってきた黒豹を細剣で受け流すように回避して斬りつける。まだ[流氷(りゅうひょう)]と呼べる程のモノではないが、それと似ている。


『斬ってる時に快感と落ち着きを感じる……今までに無い感情だ。これが“色欲“の効果って所か……』


そんな自分が嫌で、表情を歪ませながら俺の回りを高速で動き回り翻弄する黒豹を眺める。それはとても眼で反応しては対応出来ない程の速さ。だから俺は脱力して眼を閉じた。


「…………」


眼を閉じれば聴こえてくる黒豹の足音。その音はとても小さく、こうして集中しなければ感じられない程小さい。

黒豹は俺の完全な隙を狙っているように駆け回る。そして遂にその時が来た。


『ここだ』


背後からした今までの音よりも力の籠った音がした。その瞬間に眼を見開き、体を回転させて流すようにして細剣を力強く振り落とした。


「ガ─────」


断末魔さえも上げさせぬ斬りは黒豹の首を落とす。黒豹の胴体から溢れる血の溜まり。そしてボトッ…と落ちてきた黒豹の首。それを持って俺はその場に座り込み、頭を掻きむしってため息吐いた。


「結局俺は……誰かの力を借りていないと戦えない弱者だ」


俯いて消えてしまいそうな声の後に落ちた水滴。それは戦いからの汗か、それとも、、

悪魔を2匹飼うってのはこういう事なんだよアキラ君。

宿る悪魔が強くなればなるほど、宿主に影響が出てきます。元を辿れば餌を与えたのは宿主の方なので、仕方ないね。

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