109話:第2形態
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霧によって視界が悪い魔森林を、俺の眼を頼りに進んでいく。
道中興奮状態となった魔物に襲われたが、ミルがいち早く反応して斬り倒す。
『魔物も魅了されてるのか。つくづくダンまちのフレイヤみたいな能力だな』
内心でそう考えながらもミルが示した方角を警戒して、現れた魔物を斬り倒していく。
そしてそこから更に進み続けると、眼の反応が強くなるのを感じた。
「…!近いな……皆急ごう」
段々と強くなってきた嫌悪感。近くに同類がいる事を示す反応だ。眼が示す先へと走り続けると、円上に開けた場所が見える。
「…!!姉さんがッ!!」
ソルが指差す先には、石の上に拘束されたルナへと手を伸ばす色欲の悪魔がいた。とても嫌な気配を感じた俺は、傷付けるのを承知で技を放った。
「[氷月刃]ッ!!」
高速で飛ばされた半月状の氷の刃は色欲の悪魔の不意を突くことに成功し、ルナへの伸ばした手を腕ごと切断する事に成功した。
拘束を取られたルナは、ソルの胸で泣きじゃくる。ここで姉弟の邪魔をするつもりは無いから、ルナの肩に優しく置いて、
「もう大丈夫だ、ルナもソルも俺とミルが護る。お前らに辛い思いをさせる奴は俺達がぶっ潰してやるから」
少しでも安心出来るようにと、自分自身も少しの恐怖を感じながらもルナへと笑顔を向けた。
そして俺は自分を奮い立たせるように色欲の悪魔を睨み付けて口を開く。
「決着といこうじゃねぇか、色欲の悪魔。……いや、アスモデウスと言った方がいいか?」
「て、テメェ…!」
切断した腕を再生させながら立ち上がり睨み付ける色欲の悪魔、改めてアスモデウス。流石悪魔と言った所だろうか。だが【なろう】を見てきた俺は知っている。殆どが再生というのは無限には出来ない事を。
「は、はは…!随分と黒い色になったじゃねぇか…!俺の真名まで看破しやがって……“嫉妬“とでも契約したかぁ?その時にでも俺の名を聞いたのか!?なぁ!!」
「ああ、俺はレヴィアタンと契約した。それと……アイツに聞くまでもなくお前の名前は知ってるよ。15年くらい前からな」
俺は少しでも隙を見せないように右手に握った細剣を構えながら、左手をロングコート内側へと伸ばした。
「成る程なぁ、どうりで。折角のご馳走を前に邪魔しやがって…!お前を───!!?ぐああああッッ!!!!」
耳を塞ぎたくなるような凄まじい爆音と共に発射された弾丸はアスモデウスの左腕をまるごともぎ取った。
「悪魔ってのは随分とお喋りが好きなんだな。本当はお前が喋っている間は待ってやりたいんだが……生憎俺は弱くてな、こういうやりたかでしか格上に勝てないんだ。そして──」
そう発しながら続けざまに2発の弾丸を発砲する。だが今回は不意を突かない、あぐでも牽制目的で発砲した為、アスモデウスは素早く回避する。後ろでは木々が弾丸によって倒れていく。
「ぐっ…!!この野郎が…!ただじゃ殺さねぇ───!?!?」
腕を再生させながら俺へと近付いたアスモデウスは突然下から生えてきた巨大な氷塊によって上空へと吹き飛ばされ、そのまま地面へと重力によって叩き付けられる。
「──俺は弱いから1人じゃ戦わない」
「ボクがいる事……忘れてた…?」
俺の隣に並び立つミルはアスモデウスを冷たい視線で睨み付けながら聖剣を向けた。
それに続くように俺もアスモデウスへソルが作ってくれた魔道具である特殊な銃を向けて発砲する。
俺の遠距離用武器。内蔵の雷の魔石によって電磁加速させられた弾丸はまるで小型レールガン。現世では不可能でも、異世界なら作れると踏んだ俺は、あの日ソルに頼んだ。
「く、くくくッ!!おもしれぇじゃねぇか!!」
笑いながら手を広げたアスモデウス。その後ろでは4つのピンク色をした電撃が展開されている。そしてそのまま迅雷の如く目に終えない速度で飛んできた電撃。俺とミル、それぞれ2つずつの電撃が迫ってきた。
「[羨望]!───グッ……!」
[羨望]のスキルを使って対処不可の攻撃を消し去る。だが[羨望]の反動によって俺は咳と共に吐血した。
「アキラ…!?」
「大、丈夫だ…!それよりも!」
電撃を聖剣によって切断したミルは、俺へと振り返って心配の顔をするが、今は俺の心配をしている場合ではない。
ミルの隙をついて迫るアスモデウスに向けてレールガンを発砲。威力が高い変わりに、反動もデカイこの銃。左で扱うには荷が重すぎる代物だ。
『この日の為にかなり鍛えたつもりだったんだが…!まだまだ甘かったか』
痺れる手の平と、痛む腕と肩。だがそれさえ我慢してしまえばこの銃はかなりの戦力になる。現にアスモデウスの近距離を剣で対応して、遠距離を銃で対応する。
それに加えてミルという心強い味方がいる。2人なら負ける気がしない。
「ああああッ!!揃いも揃って面倒な奴等だ!!」
体にピンクのプラズマを纏わせ、腕を振るうと電撃の刃が高速で迫る。なんとか紙一重でそれを回避する。背後ではいくつもの木々が横に切られている。
『なんつー威力だ……当たったら即終わりとか…クソゲーかよ』
「俺の食事を邪魔しやがって…!あああ…!!」
頭を抑えながら俺に殺意の籠った眼で睨み付けると、帯電していたピンクのプラズマが黒く染まりだした。
「アキラ、何か来る。ボクの後ろに…!」
どっちが主人公か分からなくなるようなセリフだが、とても嫌な予感がするのは確かだ。情けないが俺はミルの後ろへと移動する。
その瞬間、アスモデウスが纏っていた黒いプラズマが弾け飛び、衝撃波と共にアスモデウスの姿が変わった。
「くくくッ…!10年ぶりだなぁ…この姿になるのは」
禍々しい黒いピンクのプラズマを帯電させて、表情を歪ませながら笑うアスモデウス。
人間の体に宿っていた時とは違い、悪魔が表側に出てきたような黒い翼に捻れた片角。悪魔が憑依したかのような姿へと変化していた。
「第2形態と言った所かぁ。ここで去っても構わないがぁ……お前達を殺してからにするとしようか…!」
アスモデウスが不敵に笑った瞬間、迅雷の速度で俺の目の前に現れた。
「んなっ…!?──ぐああああ!!!」
アスモデウスが目に追えぬ速度で振るわれた拳が俺の横腹に沈み、そのまま何度も地面に体を叩き付けながら5m程吹き飛ばされる。
「アキラ…!!──くっ…!」
「くくくッ…!やはりこの力は素晴らしいな…!」
ミルがアスモデウスの相手をしているが、迅雷のようなスピードを誇るアスモデウスに手を焼いている。
ミルに集中している間に、俺はアスモデウスへと標準を合わせて発砲した。
「おっと……忘れていたよ、お前の存在を」
「───!!」
たった今までミルと戦っていた筈のアスモデウスが俺の目の前に現れ、ニヤリと笑うと俺を踏みつけ、上へと蹴り上げる。
俺の体が軋む音と共に鮮血が上空へと舞う。
『羽、を…………ヤバ、…!意……識が…!』
蹴られた箇所に走る激痛が俺の思考を邪魔して言葉を発する事も出来ない。このままでは意識を失い、転落死してしまう。
そう考えていても口が動かない。どうすればこの状況を打破できるか、痛みに耐えながら唯一それだけを考えている時だった。
「大丈夫ー?わわっ!凄い傷!今癒して上げるねー」
落下する俺を上空で受け止めたのは、蒼い翼に白い服装をした美少女。どこか気の抜けた顔をしているが、その格好はまさに天使だった。
「誰……ですか…?」
「あんまり喋らない方がいいよー?あ、でも自己紹介はしとかないとねっ!私、“純潔“のウリエル!」
元気よく自己紹介をした美少女が言った言葉に俺は反応する。
『ウリエル…?確か天使の名前だな』
その後に続いて出てきたのが転スラの誓約之王だが、今はどうでもいい。この美少女から発せられる温かな光が俺を癒して心地いい。
「何だか……眠くなって………きた」
「いいよー、寝ても。悪魔の相手は私に任せなさいっ!」
可愛らしい笑みでそう言ったウリエル。俺はその温かな光に包まれ、ゆっくりと瞼を閉じて意識を手放した。
「眼は蒼いねー。こないだよりもちょっとだけ黒くなったかな?んー困ったなー」
ウリエルは、眠ったアキラの顔を見ながらそう呟いた。その表情は警戒と懸念。ウリエルは既にアキラに宿る悪魔を警戒していた。
「ああやって宿主から出てくれないと分離出来ないんだよなー…」
下で薄灰色の髪をした少女と戦う悪魔、アスモデウスを見ながらそう呟いた。
そして再度アキラへと視線を向ける。
「君も早く出て来てよー?そしたらラミエルちゃんが貴方を救済してくれるからねー」
眠るアキラへと微笑みながらそう呟くと、アキラはゆっくりと眼を開いた。
「呼ん、だ…?」
「っ…!」
ウリエルを蒼黒く眼を輝かせながら見つめて呟いたアキラ。思わずウリエルは回復をやめて手を離してしまった。
落下していくアキラへと遅れて手を伸ばすが、既に手遅れだった。
「さ、て……色欲、を……消そう」
──アイツは……邪魔だ
底の見えない暗い瞳でアスモデウスを見つめ、小さく笑った。
ルナとソルの母ステラは有名な魔女であり、今のルナとそっくりの容姿をしています。ソルは父に似ている。
ですが、ルナとソルが幼い頃に[情欲]を宿した魔女を狙った連続殺人鬼に殺されてしまいました。その時命懸けで2人に魔法を掛けてくれたお陰で、2人は今日まで生き延びてこれました。
元々はアスモデウスを宿していたのはエリーンではなく、上記の殺人鬼です。彼は魔女を殺す事で性的快感を得る人物で、13人殺しています。ですが既に捕まり、処刑されています。
恐らくこの設定は物語には出ないと思うので、ここに書かせて貰いますね。




