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108話:姉を返せ

色々と悪魔の性質的なのを明かす話。

「グッ……痛っ……」


爆発で倒壊した【太陽と月の交差】の瓦礫から俺は起き上がる。

ミルやソルの安全確認をする前に、俺はふらつく足に鞭を打って走り出す。


その先には黒いローブを被った大勢の人がいる。先程店を爆発させたのもこの人間達だ。ミルからの情報とソルから聞いた噂を合わせると、この人達は色欲の悪魔に操られた一般人。当然斬り殺す事は出来ない。

だが俺には拳と脚がある。ダウンさせるには充分すぎる武器だ。


「セイッ!!──ハアッ!!」


速攻で近付き、相手の懐に入ってアッパーを決める。脳さえ揺れてしまえば俺の勝ちだ。

そのまま次々と俺を焼き殺そうとする火炎を回避しながら着実に倒していく。


「チィ…!黒ローブに火炎って魔女教かってんだ…!ふざけやがって!!」


最も、今回の相手は怠惰ではなく色欲なのだが。そんな事を考えながら、足元を狙った攻撃を横回転しながら高く飛び上がって回避し、そのまま足底で術者のみぞおちを蹴り飛ばす。


向こうは操られているとはいえ、火炎魔法で俺を完全に殺しに掛かっている。それに対して俺は斬れず殺せず。しかもわざわざ危険を冒してまで接近しなくてはならない。当然相手もただ棒立ちじゃない為、かなり動かなくてはならない。


「ジリ貧か…辛いな、この状況は」


段々と息切れしてきた時を狙われた。背後から迫る火炎に、俺は愚策だがシアンの羽を使って空へと回避しようとした。


だが空へと逃げる前に、火炎は地面から生えた氷の壁によって防がれる。


「ミル…!無事で良かった…!」


「アキラも無事で良かった……もう大丈夫、後はボクに任せて」


心強い言葉の後に、ミルは氷のような目付きをして左手を黒ローブの者達に向けた。

すると突風のような吹雪が俺を通り過ぎる。そして背後から感じる凍てつく冷気。振り返れば、背後にいた大勢の黒ローブ達を建物も巻き込んで氷漬けにしていた。


「恐ろしいな……実力共にやることが」


俺がプチプチ1人ずつ倒していたのにミルは一撃。広範囲で死なせない技があるってズルいよな。


「クソ…!クソ!クソッ!!」


俺がミルの強さに改めて驚いていると、地面に手をついたソルの悲痛な声が聞こえてきた。

姉を拐われ、大事な店を壊された心境は計り知れない。


「店の事はすまない……突然の攻撃過ぎて防ぎようが無かった……」


「…………お前のせいじゃない…でも…!姉さんが…ッ!!」


「それは大丈夫だ、俺の眼を見ろ。この蒼く光る眼が色欲の悪魔──あの魔女の場所まで案内する。お前はどうする?」


「行くに決まってるだろ…!絶対に姉さんを取り返すんだッ!」


「分かった」


俺はソルへと手を差し出して立ち上がらせる。いつもの素っ気ない顔ではなく、その眼は姉を想う弟だった。


『眼が示すのは魔森林(マジック・フォレスト)の方角か。厄介な所へ行きやがったな』


レヴィアタンに聞くまでもなく感じる色欲の気配。どうやら契約した事で分かるようになったらしい。それさえ分かっていれば、常時で眼を光らせるんだが……後の祭りだな。


仕掛けてくる事が分かっていたにも関わらず、最悪の形で幕開けした色欲の悪魔との戦いに、俺は心を滾らせた。









「何だよ……これ…!」


魔森林へと到着した俺達は、変わり果てた森の様子に息を飲んだ。

魔森林を包み込む深い霧。それは手の届く範囲しか視認する事が出来ない。


だが今はこの眼を頼りに進むしか無い。俺達は最大の警戒をして、魔森林へと入っていった。


─────────────


「んっ…………ここは……………?」


「あら、お目覚めかしらぁ?」


「っ…!エリーンさん…!」


目が覚めると、視界には太陽と月がうっすらと見える空。そして声のした方へと顔を向ければ、椅子に座ったエリーンさんが紅茶で唇を濡らしながら微笑んでいた。

よく辺りを見渡せばここは森らしく、優雅に紅茶を飲むエリーンさんの姿は異質だった。


「エリーンさん…!なんでこんな───っ!?か、枷…?」


動こうとしたが動けない。すぐに手足へ視線を向けると、両手両足が枷によって縛られていた。状況が飲み込めない中でも必死に把握しようとする。


『石のベッドに拘束…?なんのために…』


「可哀想に……混乱状態なのねぇ…」


石の上で拘束されている私の頬を、悲しそうな表情で撫でるエリーンさん。

だけどその感覚はいつもとは違い、本能が嫌悪する。


「やっ…!やめて…!」


「…………チッ」


思わず顔を反らしてエリーンさんを拒否すると、エリーンさんとは思えぬ目付きで私を睨み、小さく舌打ちをした。


「あーやめやめ、こんな芝居やってられねぇわ」


顔つき共に口調まで別人のように変わったエリーンさんに驚きながらも、口が勝手に動くように声を出した。


「だ………誰…?」


「あ?……ああそうだったなぁ、まだこっちの名で名乗って無かった。──俺の名はラスト、そう呼んでくれよ。まぁ…その名でお前に呼ばれるのは今日で最後なんだがなぁ」


「ラスト…?エリーンさんじゃない、の…!?」


私がそう言うと、エリーンさんと同じ容姿をしたラストと名乗った女は、気味の悪い笑みを浮かべて笑い出す。



「アハハハハ!!いいやこいつの()()エリーン本人さ。ただ人格が違うだけだ」


「そんな……エリーンさんを…!返してよ…!!」


「あぁ?随分と酷い言い方じゃねぇか。もう1年くらい前から俺と会ってるくせに」


その言葉を言われた瞬間、心臓が止まったような感じがした。沸き出す嫌な汗と共に、耳にまで聞こえてくる煩い心臓音が煽り立てる。


「まぁ……実を言えばルナちゃんもソル君もこんくらいのチビなガキの頃から知ってんだがなぁ…!」


「そんな筈は………!」


エリーンさんと出会ったのは私が10歳ぐらいの頃だ。それより前…両親が生きていた頃には当然会った事は無い。


「男の方は忘れたが、女の方は確か……()()()、だったかぁ?」


ラストがその名を言った瞬間、頭に最悪の光景を想像してしまった。聞いてはいけない、知ってはいけないと分かっていても、私は言ってしまった、、


「なん……で…お母さんの名前を……知ってるのっ………?」


今にも消えてしまいそうな声で、私は言ってしまった。今私はどんな表情をしているのだろうか。私の顔を見たラストは嬉しそうに、狂ったように笑いだし、お腹を抱えて、





「お前らの両親を殺したのはぁ…俺だからだよ…!!く、くくくくっ…!美味かったぜぇ!?お前の母親の魂はよぉ!!」


「ッッッ!!!!」


ここまで誰かを殺してやりたいと思った事無い程私の心は黒く染まっていた。

たとえそれが姉のように慕っている女性と同じ容姿だろうが関係の無い程に。


今すぐコイツを殺してやりたい。だが両手両足を拘束された私には、森に鎖の軋む音を響かせる事しか出来ない。


「あの清みきった潤いを持つ魂は今でも食った事が無い…!!お前らガキを護る為に必死になっていた顔も忘れられない程甘美だったぁ…ッ!」


頬を紅潮させて自身を抱き締めながらクネクネと動くラストは、ゆっくりとその笑みのままルナへと近付いた。


「だがあの女よりも輝いているのはルナちゃん、お前だよ…!!」


「ッ…!!」


頬を撫でようとするラストの指を、ルナは噛み付いて出血させるが、ラストは痛い顔一つせず笑みを浮かべたまま血の出た自分の指を舐め回す。


「ステラを越える極上のご馳走、それがお前なんだよ。10年前もお前を喰おうとした。だがッ…!!お前ら両親が掛けた余計な聖魔法のせいで俺はお前ら姉弟に触れやしない!!挙げ句の果てクソ天使に宿主と分離させられ俺は消滅させられ掛けた…!!」


忌々しそうに地団駄を踏みながら激昂するラストは、『折角“覚醒“したってのに…!』と小さく呟いた後、怒りの表情から一転して笑顔になる。


「だが俺は生き永らえた!10年掛かったが、宿主を替えてこうしてまたお前を喰らうチャンスが巡ってきたぁ…!!」


そしてルナの顔を覗き込んで、ラストは上を指差す。空には月と太陽がもう少しで重なる所だ。


「完全なる皆既日食になったその瞬間、お前らに掛けられていた聖魔法の効果は切れる…!」


「い、嫌──ンンッ!!?」


「無駄だよ、ルナちゃん………助けはだ~れも!来ないんだから…♡」


口を塞がれ、叫ぶ事も出来ない。

恐怖と悲しみ。弟を残してしまう心配と両親の仇を取れない事への無念。


「それじゃあ───頂きまぁす…!」


ゆっくりと伸ばされた手がルナの視界を埋め尽くす。

それを最後に、様々な感情を抱いたルナは瞳を閉じると共に1滴の滴を流した。


『助けて…お父さん、お母さん…ソル…───誰か………助けて…』















「[氷月刃(ひょうるいが)]ッ!!」


その声と共に飛来した氷の刃が、迫るラストの腕を切断し、宙を舞うラストの腕。


「ああ…ッ!!あああああああッッ!?!?俺の腕があああぁ!!!!」


鮮血を噴き出しながら悲鳴を上げて後ろへと倒れるラスト。何が起こったのかも理解出来ない中、私は声のした方へと顔を向けた。


「ソル…皆…!」


そこにいたのは弟のソルとアキラにミルちゃん。ソルは私の元へとやって来て、枷を外していく。


「遅れてごめん姉さん…!」


「ううん…!ありがとう…」


皆が来てくれた安堵から、私は大粒の涙をいつくも流す。弟の胸で泣きじゃくる私の肩に、暖かい手が優しく置かれる。


「もう大丈夫だ、ルナもソルも俺とミルが護る。お前らに辛い思いをさせる奴は俺達がぶっ潰してやるから」


柔らかく笑ったアキラは、すぐに視線を強くして未だに悲鳴を上げているラストを睨み付けた。


「決着といこうじゃねぇか、色欲の悪魔。……いや、アスモデウスと言った方がいいか?」


「て、テメェ…!」


腕を再生させながら立ち上がったラストは、腕を切断した本人であるアキラを強く睨み付ける。お互いに眼を蒼とピンクに輝かせ、互いの命を掛けた戦いが今動き出した。

眼の色を蒼だのピンクだのと書いてますが、実際はもっと明るい色をしてます。蛍光色と考えてくれればありがたいです。

流石に蛍光色って表現はアキラ視点以外だと入れられないので…

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