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106話:お願い

そろそろこの章のボス戦闘が近付きます。

「………またか」


起きたら知らない天井でした。はいおしまい。

もういい加減嫌になってきたゾ。どんだけ俺は気絶を繰り返すんだ?【なろう】始まって以来だろ、こんな天井見た主人公。


「さてと?ここはどこかな?」


右、左とゆっくり部屋を見渡して現状把握に入る。ベッドは清潔感のある白。その隣には縦に長いテーブルがあり、その上には水が入った瓶にお花。開けられた窓と風に靡くカーテン。

……うん、病院だな。


「んで次が何があったのか、だな」


俺は双頭竜との戦いの後、落下ダメージで恐らく骨折と打撲をした。んで[羨望(エンヴィー)]を使った事で内側からの激しい痛みで意識がとんだ。

だが今は別に何とも無い。両手も動くしそれらしい傷も包帯も無い。


「だけど問題は[羨望(エンヴィー)]のデメリットだよな」


使ったら死ぬ程痛いなんて言われてない。まぁ…聞かなかった俺にも非はあるけど。

ま、まぁ…?これもある意味主人公っぽいしぃ…?ほら、盾の勇者のカースシリーズ的な?でもそれと比べちゃうと……能力と代償がしょっぱいか…?


「で、でもでも!相手の能力を消せるのはとんでもないチートの──」


顎に手を当てて考え込んだり、あたふたとしたりと、忙しく考えていると部屋の扉が開かれた。


「…!良かった…っ!目が覚めた…!」


「ミル…!何か久し振りな気がするよ」


レヴィアタンに操られて戦った以来、ミルとは会ってなかった。時間で言うなら1日も経ってない………あれ?


「俺が起きてる時って…全部陽が出てたな……」


「それはそうだよ。アキラは1日中眠ってたから。事情聴取の前も1日中眠ってたって聞いたから……2日ぶり」


「うへっ!?お、俺1日中眠ってたの!?」


『てなると、双頭竜との戦いの時点で1日経過してたのか……そんでまた気絶して1日経ってたと………は、恥ずかしい…!』


しかもソルとの情報共有も2日サボった事になる。約束すっぽかしたも同然だし、ソル絶対怒ってるだろうな……


「大丈夫。ボクがちゃんと伝えといた」


俺の表情から察したのか、心を読んだのか……まぁ前者だろうが、ミルはそう言った。一先ずは安心だな。


「んで…ミル、そろそろぉ……手を離して貰ってもよいだろうか?」


ミルが部屋に来た時からずぅ~っと俺の手を握っている。暖かくて柔らかい……

じゃなくてさぁ!!この状況は心理的にヤバい!!くっ…!女性耐性はまだ取得してないのに!(※そもそも習得する機会がありません)


「んで…どうだろう、離してくれない…かな?」


「やだ」


「っ!?」


おま…!そんな真顔……っていうか無表情で言う事じゃないだろ!!

……と、心の中でもツッコンでおこう。後、何で嫌なんだよ……恥ずかしいよ…!くそ、どうすりゃいんだよ……助けて2ちゃんねらー!!助けてヤ○ー知恵袋!!!


「アキラのこの手を離したら……どこかへ行ってしまいそうで怖い……」


ミルは俺の手を強く握ってそう小さく言うと、俺の手を自分のおでこへと当てる。今にも泣いてしまいそうな程悲しい表情だ。



そんな表情を見て、俺の邪念は消え去り、そのままミルの肩に手を置いた。


「心配ばかり掛けてごめんな……俺も遠くに逝かないように頑張るよ。だからそんな悲しい顔はしないでくれよ………な?」


「ん……そうだね。……でも少し我儘を言うなら、手は頭に置いて欲しかった…かな、なんて」


「そっ…!それは……」


少し頬を染めて、からかうような笑みを浮かべてそう言ったミルに俺は驚きと共に可憐だと感じた。何より、以前のミルならこんな事も言わなかった。


『少しは心を開いてくれたって事、かな?』


それなら少しは…触れても平気だろう。俺はスロー再生のような速度でミルの頭に手を置いて、そのまま撫でてみる。


「んっ…」


ミルは目を細めて受け入れてくれる。まるで犬を撫でているようだ。


『お、俺は親戚の子供を撫でた事がある…!平常心で表情を崩すな!』


こういうのはテンパったり、焦ったりしては台無しだ。微笑みながら優しく撫でるのが主人公!!


「……?アキラ、大丈夫…?」


「ダ、ダイジョウビ……オレハツヨイ」


「ふふっ……なにそれ」


笑われてしまった。それはつまり……顔に出てたって事だよね?うわぁ…しくった。どうしよう、童貞臭出てたら。


「……あ、そうだ!賠償金ってどうなったんだろう」


「双頭竜はきちんと討伐したから報酬は出てる。ちゃんと被害者側に渡されてるから安心して」


そう言ってミルは俺の手に何かを握らせる。それを見てみれば大銅貨。つまり100円だ。


「え……なにこれ」


「賠償金の50万と治療費から天引きされた余った報酬だって」


「……そう」


俺は大銅貨をしまって天井を眺める。あんだけ痛い思いをして貰えるお金がこれ……悲しいね。まぁこの治療費も出てるから助かるっちゃ助かるけどね。


そして今日は大事を取って1日入院。ミルは時間ギリギリまで俺の側にいてくれた。ホント献身的で可愛らしいって色々ズルい。


───────


「さて……行くか」


その日の夜。皆が寝静まった時刻に俺はベッドから降りて窓を開ける。空を見上げればもう少しで満月になりそうだ。


俺は窓から飛び降りて、病院を脱出する。病院で履いていた靴に患者特有の服で少し……いやかなり寒い。

そんな寒空に晒されながらも俺は【太陽と月の交差】へと向かう。





「いらっしゃ───ってお前…!どうしたんだよそんな薄着で……兎に角入れよ」


ソルがいる事を願って扉を開けると、今日もいてくれて良かった。

ソルは驚きの顔と共に暖炉の前へと手招きする。


「どうだ?暖まってきたか?」


「ああ……悪いな、ありがとう」


暖炉に当たっていると、ソルは俺にホットミルクを渡してくれた。それをチビチビと飲みながら、俺は口を開いた。


「ソル、まだきちんと裏を取った訳じゃないんだが……1つの情報として聞いてくれるか?」


「何だ?」


「魔女の連続殺人犯は恐らく同じ魔女だ。名前は分からない。だけど容姿と格好は全部見た」


俺がそう言うと、ソルは視線を強めて続きを催促するように俺の言葉を待つ。


「黒のスカートに肩の出した服装。そして薄い水色の髪に低いサイドポニーテールだった」


「なっ…!?そんなバカな…!」


俺の情報を静かに聞いていたソルだったが、最後辺りから表情を変えて驚愕の声を上げた。


「それは確かなのか…!?」


「ああ、確かな情報だ。実際に俺は襲われて戦ったしな」


「お前が怪我をした理由はそれ…なのか」


俺は頷いて肯定すると、ソルは苦虫を潰したような表情をして何かを考えている。


「ソル……俺の予想が正しければお前の姉、ルナはほぼ間違いなく狙われる。あくまでも可能性の域を出ないが……用心するようにと弟のお前から伝えてくれ」


「……ああ、分かった」


ソルは神妙な面持ちで小さく頷いた。

他人の俺が言うより肉親のソルが言えば効果は高いだろう。


「それとソル、もしもの時は俺も戦う。だけど俺は弱い。だから……俺に魔道具を作ってくれないか?」


「それは構わないが……具体的な案はあるか?」


「ああ、昔から考えてたのがあるんだ。えっとな───────」


俺はソルに案を伝えると、奥にある工房へと一緒に向かう。そこである程度の内容を羊皮紙へと書いた後、俺は邪魔になってはいけないと思って部屋を出ようとすると、


「明後日までには間に合わせる。が……時間はまだまだ掛かる。今日はもう帰ってもいいぞ」


「そうか……なんか悪いな…」


「お前が気にする事じゃない。それに……今日まで僕が動けない昼に動いてくれたんだ、お礼くらいさせろよ」


ソルは振り返らずに少し恥ずかしそうにそう言った。若干最後の方は声がかなり小さかったがちゃんと聞こえた。難聴系主人公じゃないんでね。


「ははっ、ありがとな、ソル」


「わ、笑うな!お前がいると気が散る!さっさと帰れ!!」


「へいへい、分かりましたよ。じゃあなソル」


最後に俺はソルに別れの挨拶をすると、ソルは振り返らず無言で俺に手を振った。

何だかんだで優しい奴だと思いながら、俺はまたしても寒空を猛ダッシュで病院へと向かうのであった。

[羨望](エンヴィー)

強く、そして深い憧れと羨望を持った者に宿るスキル。

相手の能力1つを完全に消し去る力であり、妬みが強ければ強いほど能力共に身体能力が飛躍的に上昇する。その一方で常時精神的汚染が発動。

このスキルが発現したら、他の者に発現しないという特性を持ち、大変珍しいスキルではあるが今までに発現者がいなかった訳ではない。

また、このスキルは人間にしか発現しない。

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