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105話:罪人には危険なクエストを

「戻ってきた……」


ゆっくりと瞼を開けば、知ってる天井が目に入る。どうやら無事にレヴィアタンとの契約を済ませたようだ。


「目覚めたかい?早速だが事情聴取だ。歩けるかい?」


「あ、…はい」


レヴィアタンの因子が入った胸を擦っていると、男性医らしき人が俺の側にやってきてそう言った。何故女性医ではないのか……お約束だろ…?


それは兎も角ベッドから降りて、水を貰う。渇いた喉に水を広がらせていると部屋の扉が開いた。


「テンドウ・アキラ、此方に来て貰うぞ」


軍服のような服を着た30代らしき眼鏡を掛けたイケメンがそう言った。どうやら早速事情聴取のようだ。


俺は抵抗する理由も無いので、大人しくついていく。そして『ここだ』と言われて入ったのは檻のような個室。…え?投獄?


「そこの椅子に座れ」


「あ、はい」


強めにそう言われたので、俺は萎縮しながら椅子にもたれ掛かった。


「まずお前には器物破損の罪が掛かっている。理由は分かるな?」


「……え?」


何故俺にそんな罪が掛かってるんですかねぇ……やったのは──いや俺だけど俺じゃないじゃん!!大体仕掛けてきたのはあっちだし。


「約50万の修復金と賠償金が必要となる。それさえ払えればいいと被害者側も言っている。どうする?」


「えっと………お金、無いです……」


「ならお前は投獄だな。連れていけ」


話は終わりだと言わんばかりに部屋から出ていこうとする眼鏡を男。そして俺を羽交い締めにする2人の軍服を着た男達。


「わーっ!待って待って!!払う!宛もちゃんとある!!働いて返しますから!!」


「安心しろ、牢獄に行っても働かされる。そこから被害者に渡される」


「そういう話じゃないんだよ!?前科持ちになるのは嫌だあああ!!」


弁護士も呼べないこの状況と時代。初めて異世界が嫌だと思った瞬間だった。


「……そう言えばお前は冒険者だったな?フム…ならお前にうってつけのクエストがあった」


「……塩漬けクエスト…?」


俺は声を震わせながらそう言うと、眼鏡の男はうっすらと笑う。何笑っとんねん。


「そうだ。お前にはそれを受けて返済してもらおう」


「そ、そんなゴムタイヤ──じゃなくてご無体な…!」


俺の言葉をガン無視して『連れていけ』と言われた。なにこの理不尽。酷いよね………酷くない…?確かに俺加害者だけども。


───────────────


「ホントにこの格好でやるんですか…?」


「当然だ。まだお前は罪人なんだからな」


魔森林(マジック・フォレスト)を俺と眼鏡の男、アルバナとで歩く。俺は白と黒の昭和コントみたいな囚人服にレザーアーマーというヘンテコな格好で歩いていた。恥ずかし過ぎてヤバい。


「でも罪人に剣渡しちゃっていいんですか?俺はしないけど、貴方とかに斬りかかってくる奴とかいるでしょ?」


「罪人ごときに後れを取る程俺は軟弱じゃない。そうしてきた奴等は皆切り殺す。だから変な気は起こすなよ」


コワッ!命の軽さを急に出さないでよ!!日本人の俺ビックリしちゃった!カルチャーショックってやつかな?


「………無駄話は終わりだ。これを使ってヤツを殺せ。そうすればお前は晴れて釈放だ」


そう言って投げ渡されたのは軍人とかが使ってそうなサーベル。俺は細剣派なんだけどな。


「…まぁそんな事言ってられないよな。────うしっ!!レヴィアタンの力、試させてもらうぞ」


俺はサーベルを抜剣し、それを魔物に向けて構える。俺が倒さなくてはならない塩漬けクエスト、それは双頭竜の討伐。適正ランクは知らないが、明らかに俺より格上だろう。


「ガグルルルルッッ!!」


双頭竜。その名の通り頭が2つある竜であり、縄張り意識が激しく、気性が荒い。素早い動きで翻弄し、その鋭い爪で切り刻む。


俺は双頭竜に向かって走り出す。低い唸り声を上げてヤツは後ろへと飛び退き距離を取る。どうやらそれなりの知識があるらしい。


『チッ…俺の備品全部取り上げやがって…!これじゃあ牽制用のナイフも隠し球の仕込み手甲も使えねぇじゃねぇか!』


挙げ句にグリモバースの魔導局員であるアルバナもいるからシアンも呼べない。今シアンはどこにいるんだろう……心配だな。


「ナイフが無いなら石で結構!!」


俺は飛び退いた双頭竜へと接近する過程に拾った小石をヤツに向かって投げる。だがやはり知能が高く、それを素早く回避された。


『人間に対してかなりの警戒心があるな。何人かと殺しあってるな、こいつ。……それなら!』


身を低くして接近。しかし俺は躓いて前転のように転んでしまった。その瞬間、ヤツら高くジャンプをして飛び掛かってきた。


「嘘だよッ!!」


「──!?」


俺はくるりと空から落ちてくる双頭竜に向けてサーベルを向ける。空での回避は不可能。

俺の主演男優賞並の演技力に騙されたな。レヴィアタンの力を使うまでも無い。


そう思っていた矢先の出来事。


「へっ!?マジか──うわぁぁあ!!!」


空中で体を捻って、俺のサーベルを寸前でかわした双頭竜。僅かに背中を斬れたが、反撃のテールアタックをされて吹き飛ばされた。


「ダメージ量がわりにあってねぇぞ…!」


俺は追撃のジャンプアタックを仕掛けてくる双頭竜の攻撃を避ける為にすぐさま動き出す。

双頭竜の戦法はジャンプで押さえ付けて手の爪で切り刻むようだ。


「なら──!!」


双頭竜が接近した所で俺は左手に握っていた砂を相手の顔面にぶちまける。突然の目眩ましに驚きの声を上げて飛び退こうとするが、逃がしはしない。


「[霧雪(きりゆき)]!」


3段突きを双頭竜の体に放つ。サーベルだから本来の用途ではないが、勝つ為には仕方ない。

見事ヒットした体からは沢山の血を出血させる事に成功した。


「このまま畳み掛───グッ!?」


そのまま[砕氷(さいひょう)]へとは入ろうとした瞬間、双頭竜は尻尾を使って俺を拘束。そして2つの頭で俺を噛み切ろうと迫る口。


「ひ、[火花(ヒバナ)]…!」


「ガグル…!!」


全身を媒体として放つコスパ最悪魔法[火花]を放つ。あくまで虚仮威しだが、人と戦った事がある双頭竜は警戒して、俺を器用に空中へと投げ飛ばした。


魔森林に生えている木を軽々と越える高さまで投げ飛ばされた俺は瞬時に頭を切り替えてサーベルを構える。チャンスは落ちる寸前。


「人間を舐めんじゃ………って…マジか………」


下に見える双頭竜は2つの大きな口を俺に向かって開いている。【なろう】で学んだ俺は知っている。あの動作が何を表すのかを、、


自然落下+俺の体重でどんどん落下速度が上昇する。口に赤い炎を待機させている双頭竜までもう後8mも無い。



「頼むぞレヴィアタンッ!![羨望(エンヴィー)]!!]


俺は契約したレヴィアタンの能力に全ての願いを掛けて、俺は体を捻って回転斬りを放つ。それはまるで[氷月刃(ひょうるいが)]のように薄い氷の刃を宿している。


「ガグル──!!?ガグッ!!ガグッ!!!」


俺の狙いと願い通り双頭竜の口に宿していた炎は消滅し、慌てる双頭竜。その隙を俺は回転を更に早めて、、


「ハアアアアアッッ!!」


双頭竜の2つの首目掛けてサーベルを切り抜き、2つの首を落とす事に成功した。

これは日本刀ではない為、回転した遠心力と俺の筋力が必要だったが、何とか上手くいった。


だが、、


「ガッ…!!あ“あ“ぁ“………ッ…!!?」


先ず始めに俺を襲ったのは落下時の衝撃と激痛。俺の背中にはシアンはいない。その事をすっかり抜け落ちていた俺は受け身も何も取らずに落下してしまった。痛みからして腕の骨は折れていると思う。


そして次に襲ったのは内側からくる鈍痛。そして吐きそうな程胃をかき回す感覚。落下時のダメージが内側まで届いたというのだろうか。


『いや違、う…!これ、は………ッ……[羨望(エンヴィー)]のデメリットだ…!』


この気持ち悪さはメランコリーや色欲の悪魔から感じたモノと全く同じだ。そして内側からくるこの全身の皮を剥がれたような激痛はレヴィアタンとの契約時と似ている。


『アイツ…!デメリットがあるなら言えよ…!!』


痛みで意識が飛びそうだ。向こうからはアルバナが何か叫んでいるが、全く聞こえない。

何か液体をぶっかけられたのを最後に、俺は意識を失った。

やったねアキラちゃん!お約束のデメリットだよ!

前回カッコよく契約した癖に、それを遥かに上回るダサさで終わるアキラ。ある意味主人公ですね。


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