104話:悪魔との契約
無言投下!(迫真)
気を失ったアキラを支えていたミルだが、後方から沢山の足音が聞こえ、振り返る。
そこには数名の騎士と魔導師がいた。どうやら騒ぎを通報した者がいたのだろう。
「通報にあった黒髪の男だな。その男の身柄は此方であずらからせて貰う。そして君には尋問の為に同行を願おうか」
「……わかった」
ここで反抗してはアキラの立場が悪くなると判断したミルは、大人しく騎士達に着いていく事にした。
アキラの方は、枷をはめられて回復魔法を掛けられている。
そしてそのまま2人は魔導局へと連行されていった。
「ふ~ん、成る程ねぇ」
その光景を屋根の上から傍観している1人の少女がいた。
彼女は今までの戦いをずっと見ていた。まるで監視をするように。
「“色欲“の目覚めは早そうかなー。もうじき“覚醒“してもおかしくないね」
そう呟きながら羽ペンでスラスラと記入する少女。そしてチラッと遠くに見える黒髪の青年、アキラへと視線を向けた。
「う~ん……でも“嫉妬“まで居るなんて聞いて無いんだけどなー…状態は初期の段階だけどぉ…ちょっと危ないよねー」
そう困り顔をした少女はページを捲ってスラスラと記入していく。そして、んーっと伸びをした後に、少女は空を見上げて呟く。
「これはラミエルちゃんに報告しとかなきゃねー…………おっ?」
どこからか視線を感じ、キョロキョロの探すと向かいの家の窓から小さな子供が少女を見ていた。
「あっははっ!可愛いー」
少女はその子供に笑顔で手を振ると、向こうも笑顔で返してくれた。
「さてっ!報告の為に戻りますかー」
そして少女は高くジャンプをすると、屋根の上から消え去った。
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「わぁ…きれい…!」
「何を見てるの?鳥さん?」
「ちがうよ、あおいはねのてんしさんだよ!」
興奮気味に母親にそう言った幼女は、手で翼を表してヒラヒラとする。
「天使…?鳥さんじゃなくて?」
「ちがうよ!ほんとにいたんだってば!」
「はいはい屋根裏部屋は危ないから行きましょうね。ママが天使さんの絵本を読んであげるから」
少女の背を押して下へと行かせようとする母に対して、むっと拗ねた表情の少女。小さく『ほんとにいたもん…』と呟くが、母は信じはしなかった。
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そして場所は変わり魔導局内にある治療室。そこに運ばれたアキラは、薬や魔法などで傷付いた体を癒していく。
ミルは今事情聴取中である為、アキラの元にはいない。ここには眠るアキラと担当医、そして見張りの騎士2人しかいない。
「……………」
意識を取り戻したアキラがぼんやりと見えてきたのは知らない天井。もうこの展開には飽きたなと感じていると、再び意識を暗闇へと引っ張られる。そしてアキラは再度深い睡眠へと落ちていった。
『ここは…どこだ?』
気が付いたらそこは真っ暗な空間。真っ暗で灯りが無い筈なのに、1m程はよく見える。足下を見れば浅い水面が見え、両足が漬かっていた。
『何だこれ……気持ち悪いな』
しゃがんで水を掬うと、黒くてドロドロとしている。臭いは無いが、不気味で気持ち悪かった。
──こっ、ち……来、て……
『………?何だ?』
誰かを呼ぶ声がした。場所的にはここを真っ直ぐに行った所。少し不気味さと恐怖を感じながらも、俺はその方角へと進んでいった。
『ッ…!!何だよこれ…!』
暫く真っ直ぐと進み続けると、そこには石で出来た壁のような物があった。
そしてその壁にいくつもの鎖で縛られた青い黒い靄。それは人形ではあるが……異形と言っていいだろう。
──待って、た……君、が来る…のを……
目があるであろう場所の靄が、一際蒼く2つ輝いて俺を見ている。俺はこういうのには現世で慣れているから分かる。
『嫉妬、か?』
──違、う…!わた、し…は……そん、な名前じゃ…ない…!
俺の言葉に強く反応した“嫉妬“は、鎖を軋ませて俺に寄ろうとするが、鎖は外れない。
『じゃあ何なんだよ、お前は。予想はついてるけど、一応教えてくれ』
──いい、よ……わた、し……はレヴィアタン……嫉妬、の…悪魔………君、から生まれ落ちた悪、魔……
心の中で『やっぱりな』と思いながら、俺はこいつに……レヴィアタンに質問した。
『目的は何なんだ?それだけが予想がつかない。メランコリーやあの色欲の悪魔の仲間なんだよな?』
──あん、な野蛮……な、奴と一緒…にしな、いで…!同族…だけ、ど仲間じゃ…ない。メラン、コリー…は誰だか分から、ないけど……
同じ系統の悪魔、厳密には七つの大罪である悪魔なので、てっきり仲間だと思っていたがどうやら違うらしい。
しかしメランコリーに心当たりが無いのか。嘘をついている可能性もあるが、、
『ベルフェゴール……そう言った方が馴染みあるか?』
──……!なん、で…?知って、るの…?
表情は靄のせいで分からないが、声色で判断するにメランコリーは偽名であり、ベルフェゴールが本名らしいな。
『なに、ちょっとした知識があるだけだ。それは兎も角本題と行こうか。俺に何の用だ?呼んだのはお前…だよな?』
──そう…呼ん、だのはわた、し………知りた、い………何、で体を動か、せた…?それ、がどうしても…分からない……
『それは……多分───いや…お前に教える必要も無ければ義理も無い。俺は割りと用心深いからな、もし教えたら対策でもしてくるだろ?』
──……………
黙ったまま俺の眼を見続けるレヴィアタン。
あの時意識を取り戻せたのは、感情が乗っ取りを越えたから。
……ではなく[激情]の効果だと俺は思ってる。感情によって戦闘の強さが左右するスキル。それは感情面でも作用した?………今回はそれがミルに対して向いたから意識を取り戻せただけだ。もし一般の人なら無理だったろう。
これを言ってしまえばレヴィアタンは民間人を虐殺するかもしれない。そうなったら俺は主人公のように止められる自信が無い。
──契約、しな、い…?
『は…?突然何を言い出すんだ?』
──君、は力を欲して…る。わた、しと契約…すれば力、を貸して…あげられ、る………
『分からないな。その場合お前にメリットが無い。寿命半分ってか?』
──人間、の短い…寿命なんていら、ない………わた、しは……自分、より優れたモノ…が赦せない……人、でも物…でもね……ただ、それだけ……
『……俺の知ってる“嫉妬“と大分違うんだな。もっとこう……全てが羨ましくて嫌だから壊す、そんな奴だと思ってたんだが?』
──宿り主……つま、り君の想い…を強く、引き継い…で、わた、し達は生まれ、る………格上、が嫌い、憎い……それは君、の本心………
相変わらずレヴィアタンは嫌な所を突いてきやがる。俺の心から生まれたコイツが言ってるんだ、それはきっと本心なんだろう。薄々自覚もしていたしな。
『信用できない。お前は2度も俺の体を乗っ取った。何よりミルに攻撃を仕掛けた事が許せない。……と言っても、お前は自由に俺の体の自由を奪えるんだがな』
──断、る……そう、いう事…?
『正直な所悩んでるよ。俺は確かに強くはなりたい。それこそ敵無しくらいにな。だが契約したとして、もし完全に乗っ取られたら……俺は主人公のように取り返す事が出来ない』
最後になるにつれて声量が小さくなるアキラは下を向き、少しの間を置いた後顔を上げて口を開いた。
『条件付きでいいなら……契約したい』
レヴィアタンの眼を真っ直ぐと見てそう言うと、靄で分からないが笑っているような気がして体が少し震えた。
──いい、よ……君、は何…を望、む?
『1つ、俺の体を勝手に奪わない。2つ、俺の周りの人物に手を出さない。それさえ守れれば俺は……契約するよ。無論レヴィアタン、お前の願いも聞く。契約だからな』
──わた、しの……願い、も聞くなん…て言った、人……初め、てだよ………君、の願い…は承諾、する………わた、しから…は1つ、だけ……強者、を強く…羨んで……そう、すれば…わた、しも強く、なる……
『自分が強くなるのを目的と隠しもしないんだな。てっきり俺は強者と殺せとか言うと思ったんだが…』
──君、に嘘…は通じ、ない……それ、に…強者、との戦い、は…君が勝手…にやる、でしょ…?
そう言うレヴィアタンは少し笑っているような気がした。それを見た俺も自嘲気味に鼻で笑う。
『後俺は君やこの子じゃない。アキラだ』
──よろ、しく…アキ、ラ……契約、をする…こっち、来て…
俺はレヴィアタンの言う通り、青黒い靄へと近付いてその靄に手を伸ばした。
──ここに、契約は成立、した……!
『ウグッ…!?!?ガッ──あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“ッッ!!!!』
青黒い光の粒が胸へと入る。
すると身体中を裂くような痛みが全身を襲った。路地でメランコリーにされた時の比では無い。それを遥かに上回る激痛。
──わた、しはまだ…ここ、から動け…ない……だか、ら因子…をアキラ、に宿した……うまく使う、といい…これ、は君の力……わた、はここで蓄え、て…待ってる、よ……
レヴィアタンのその声を最後に、俺は暗闇の部屋から消え去った。




