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103話:牙を剥く

「急いでアキラの所に戻らないと…」


近くの公園にある給水所で水筒に水を入れたミルは、駆け足でアキラの元へと急いだ。

だが周りの気配が変わった事に気付いたミルは、目を細めて聖剣に手を掛ける。


「誰…?気配が漏れてる…」


ミルが警戒しつつそう言うと、木の影から5人の全身黒いローブを被った者が現れる。

人相までは分からないが、それはミルにはどうでも良かった。


「誰だか分からないけど……邪魔をするなら容赦しない」


立ち去れ。その意味を込めた警告だったが、黒いローブの者達は懐から両刃のナイフを取り出してミルに接近してくる。


「警告はした」


ミルはそう小さく呟くと、聖剣を抜剣してそのまま横に振るった。すると空気中の水分を瞬時に凍結し、そのまま氷の斬撃を放つ。

黒いローブの者達は身軽に回避して、そのままミルを囲う。


『ちょっとどけ速い……もしかしてこの人達は噂にあった怪しい集団…?』


ミルはそう思考しながら聖剣を振るい、斬撃を飛ばす。黒いローブの者達はそれ回避して俊敏に接近してくる。

だがミルにとってはとても遅く感じる動きだった。


「遅いよ…」


「ガッ…!!」


天賦(てんぶ)]のスキルによって覚えたアキラの下段蹴りを放ち、相手を転倒させて吹雪を放ち、手足を氷漬けにして身動きを取れなくする。


『このタイミングで仕掛けてくるのは不自然……やっぱりアキラの言う通り、メランコリーと繋がっているみたい……』


だが仕掛けたのは自分だけなのか。そう思い付いた瞬間、嫌な想像してしまった。


「悪いけどあなた達に構ってられない……だからあなた達は───5手で詰む」


そう宣言した瞬間、ミルは吹雪に乗って高速で移動し、その威力のままに相手を蹴り飛ばす。1手目。


「次」


次に聖剣を鞘に収めて、流れのままに敵の横腹へ鞘に収められた聖剣で斬り飛ばす。2手目。


「…次」


そして迫る2つの火球を防ぐ六角形の氷の結晶である、[氷晶(ひょうしょう)]を生み出して身を守る。

そこから反撃の氷の塊を飛ばし、当たった2人の黒いローブはその場に倒れる。3手目。


「最後…」


5人の黒いローブを吹雪によって集め、5人を中心に竜巻のような吹雪が生まれた。4手目。


「終わり」


そしてミルが手を上げ、握り締めるようにすると、竜巻の吹雪は一瞬にして凍結。巨大な氷塊から黒いローブを着た者達の顔だけを出したオブジェが完成した。これで5手目。その間僅か1分の出来事。


「グレイシャヘイルの扱い方を練習しておいて良かった……あなた達はここでよく…頭を冷やすといい…」


ミルは振り返らずにそう言うと、アキラの元へと急いだ。胸騒ぎがしてならない。

そして通りへ出ると、パニック状態になりながら逃げ惑う人々が前方から向かってくる。ミルはそれを押し退けて進んで行くと、建物が崩れる音が響き渡った。


「今のって……」


一瞬見えたのは魔女のような格好をした女性の姿。それは黒いナニカに吹き飛ばされたのをミルは見た。


「嘘……何で…」


魔女を吹き飛ばしたのは黒いロングコートを羽織った黒髪の青年。それはミルがよくしる人物だった。


血だらけで感情が自滅したような表情に、前髪が全て裏へと持っていっているが、それは間違いなくミルの弟子であるアキラの姿だった。

眼を蒼く輝かせ、首を傾げた後に魔女へと追撃の蹴りを放つ。それはアキラの限界スピードを大きく上回る速さだった。


「っ…!あの魔女の眼は…!」


茫然とアキラの姿を見ていると、相手の黒いピンク色の光が視界に入った。その正体は眼の輝き。

その眼を見た瞬間に自然と聖剣を抜剣し、氷の斬撃を箒に股がった魔女へと飛ばしていた。


「アキラに……何をしている…!」


「お~怖っ!まあ俺の目的は果た。そ・れ・にぃ…♡もうすぐで私の願いは叶うから、その時を楽しみにしてろよ?フフッ…!フフフフフッ!!」


奴は間違いなくアキラの言っていた“色欲“。アキラをあそこまで傷付けた事がミルには許せなかった。怒りの表情を隠しもせずに、魔女へと叫ぶと、奴はニヤリと笑った後にアキラへ手を振って黒い穴へと消えていった。


『っ…!また逃がし──』


表情を歪め、ミルは穴があった場所を睨んでいると、アキラは突然の蹴りを放ってきた。


「っ…!!どうしたのアキラ…!?」


そんなボクの声を無視して、アキラはすぐさま左脚で蹴りを放ってきた。突然過ぎるアキラの攻撃に頭が回らず、2撃目を食らってしまった。


「ウっ…!」


アキラの蹴りは横腹へと沈む。いつもの蹴りよりも遥かに重い。本気の一撃だ。

苦痛の表情のまま、一旦距離を取ったミルはアキラに何度も呼び掛ける。

だが返ってきた言葉は、、


「死ん、で……ね?」


「っ!!」


まるで底が無いような嫉妬を宿した眼でボクを見つめ、アキラは明確な殺意を飛ばす。

ボクは体から嫌な汗が噴き出すのと恐怖を感じた。


「正気に戻って…!アキラ…っ!!」


「うる、さい……」


アキラの攻撃を聖剣で捌きながら説得し続けるが、アキラは無表情のまま拳を振るう。手甲からは刃が出現しており、確実に殺しに来ている。


『正気じゃない…!仕方無いけど……一旦拘束する…!』


ミルは聖剣をアキラへと向けて、吹雪を発生させてアキラを包む。そしてそのままさっきのように氷漬けにする。

だが……


「邪魔、だ…!消え、ろ…!」


「っ…!う、嘘……」


アキラを包んでいた吹雪は突如として消え去り、ミルは眼を見開いて驚く。

アキラはミルを睨み付けてゆっくりと接近してくる。


「お前、が…いる限、り…!この、子の…劣等感、は消え…ない…!」


「何を…言って……」


「どいつ、もこいつ……も…!ズルい、よ…!わたし、は……この感情、を無くし…たい。だか、らまず……────お前を殺す」


「────っ!!?」


次の瞬間には目の前に現れたアキラ。驚く暇さえも与えぬ超高速の連撃で畳み掛けてくる。

放たれた連続の拳を、聖剣の腹を使って弾き続ける。その速さは常人には全く見えない速さで捌き続けた。


『くっ……これ以上は捌ききれない…!』


剣1本で対応するミルに対して、腕2本で殴るアキラでは手数もスピードも差がある。

心苦しいがミルはアキラの腹を蹴って距離を取った。


「はぁ……はぁ……!」


「痛、い………許せ、ない……赦せない!!」


蹴られた事で転倒したアキラは、地面叩いて怒号を飛ばしている。そして息を整えているミルに殺意剥き出しの眼を向けた。


『アキラを凍結させるのは不可能……何か手は…──そうだ…!』


ミルは地面に聖剣を突き刺して辺りを一面を凍らせて、自身を守る分厚い氷の壁を生み出した。

向こうではアキラが氷の壁を何度も殴っている。


『キャスに貰ったこの薬…これを使えば…!』


アルカナンでキャスに渡された薬、“ゲルダの涙“。それを使えばアキラの意識は戻る、そう言われて渡された薬だ。だが持っているのは2本だけ。失敗は許されない。


『アキラが氷を砕いた瞬間、その一瞬を狙う…!』


ミルがそう考えて構えていると、氷の壁にヒビが入る。この人間場馴れした力にミルは冷や汗をかくが、息を整えて集中する。


「────今…!」


砕かれた瞬間、アキラがミルに向かって拳を振り上げた瞬間を狙って薬を投げようとした。

だが、


「うっ…───グっ…!」


振り上げられた拳はブラフ。アキラは薬が握られた手を掴み、そのまま一本背負いのように地面に叩きつけた。そのままミルに被さり、左手でミルの首を押さえる。


「同、じ…事は受けた…くな、い……だか、ら…()()()覚えて、た…」


アキラはミルの手に握られた薬を見ながらそう呟くと、右拳を振り上げた。

太陽の光によって光輝く手甲の仕込み刃がミルの顔目掛けて振り下ろされた。


「っ…!!───────………?」


「フゥ…!フゥ…!ぁ、ああ…!」


息を荒くして、何かに抗うようにアキラの拳はすぐ側まで迫った所で停止した。刃と鼻が触れるまで5cmも無い。


「あ、れ…?何、で動ける…の…?」


困惑の表情で首を傾げるアキラ。まばたきをすると蒼く輝いていた両面は、片方の眼だけが黒く染まった。


「ミ、ル…だけ、は…!絶対、に殺ら、せ…ない…!──分から、ない……君はこの、女…を羨望してい───だ、まれ…!!」


手を震わせながら、1人で会話しているアキラ。蒼い片目は困惑の眼。黒色片目は葛藤の眼。

そしてミルの首を押さえていた左手は、痙攣のように震わせながらミルの手に握られた薬を奪う。


「何、を…して、るの…?それ、はよくない…物……捨て、て───お前、は黙って……中にいろ…!“嫉妬“!!」


そう叫ぶと、アキラは左手に握った薬を胸に叩き付けると、液体がアキラに付着した。すると蒼く輝いていた片目は光を失い、黒色へと戻る。


「ごめんな………ミ………ル…」


「アキラっ!!」


最後に泣き出しそうな顔をして小さくそう言ったアキラは、まるで糸が切れたように意識を失ってミルに倒れてくる。

それを受け止めたミルは、アキラを抱き締めて涙を流した。


「ごめん………ごめんね…アキラ…」

ミルは悪くないだろが(半ギレ)


[天賦](てんぶ)

極稀に、このスキルを持って生まれる者がいる。

見ただけで大体の内容を把握し、すぐに身に付けられるスキル。

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